海月姫

海月姫

クラゲオタクの倉下月海と女装男子の鯉淵蔵之介が、個性豊かな天水館の住人たちとともに、ファッション業界で奮闘する様子をコメディタッチで描いたストーリー漫画。第34回講談社漫画賞少女部門賞受賞(2010年)。

正式名称
海月姫
ふりがな
くらげひめ
作者
ジャンル
ギャグ・コメディ
 
服飾・ファッション
レーベル
KC KISS(講談社)
巻数
既刊17巻
関連商品
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作品誕生のいきさつ

『ひまわりっ~健一レジェンド~』『ママはテンパリスト』とヒット作を送り出してきた作者・東村アキコが、「初めて本気を出して少女漫画に取り組んだ」と語る作品。それまでは、描きたいものを勢いに任せて描いてきたが、この『海月姫』は、「何が受けるか」をリサーチし、キャラクター表を作るなどの準備をして連載をスタートしたという。オタク女子に女装男子が主人公という、一見するとかなりの変化球のようだが、内容は「ボーイ・ミーツ・ガール」「段階的に登場する恋のライバル」「困難にぶつかりながらも成長する主人公」という少女漫画の王道であり、そこが少女漫画ファンの心をつかんだともいわれている。また、登場するオタク女子の持つリアリティも、「現実の人物の面白エピソードを作品にうまく落とし込むことに定評がある」作者ならではの産物といえよう。

あらすじ

イラストレーターを目指して宮崎から上京してきた倉下月海は、男子禁制のアパート「天水館」で暮らしていた。「尼~ず」と自称する住人たちは、いずれもほぼニート同然のオタクたちであり、月海自身は重度のクラゲオタだった。ある日、ペットショップで死にかけのクラゲを見つけた月海は、店員にそのことを訴えるも、コミュニケーション能力の低さからうまく伝えられず、途方に暮れていた。そこに偶然通りかかった美女のおかげで、クラゲを助けることに成功する。そのまま一緒に天水館に帰った月海は、翌朝、お礼を言おうとするが、実はその美女は、近所に住む政治家の次男坊・鯉淵蔵之介だった。月海に興味を持った蔵之介は、その後も正体を隠して天水館に出入りするようになる。蔵之介はおしゃれに無頓着な月海を服やメイクで変身させていたが、ある時、蔵之介の兄の修が変身後の月海に一目惚れしてしまう。

ちょうどその頃、天水館に再開発による立ち退きの危機が迫っていた。そこで蔵之介は、月海のデザインした服を売り、その金で天水館を買い取ろうと画策。そのために、ファッションブランド「Jellyfish」を立ち上げ、ファッションショーを天水館で行うことを決意する。そして、尼~ずの面々の協力もあって、なんとかファッションショーは開幕。途中のアクシデントを乗り越え、月海デザインの「クラゲのドレス」はついにデビューを果たしたのであった。一夜明けて、ファッションショーの成功により、世間の注目を浴びたJellyfishだが、天水館を買い戻すためには、より多くの注文をさばかなければならない。そこで蔵之介は、インド人の縫製工場の社長およびその妹ニーシャの協力の下、ドレスの生産ラインを確保すべく奮闘する。同時に、より多くの人にJellyfishの服を着てもらうために、新たなカジュアルラインをつくることを考えていた。

その頃、服飾デザイナーとしての才能を発揮し始めた月海に、修がプロポーズする。突然のことに、状況を理解できず、流されるままプロポーズを受け入れてしまう月海。一方、販路を獲得すべく、アパレルの展示会に出品したJellyfishだが、予想以上の反応の無さに落胆する。するとそこに、アジアのアパレルを席捲するブランド「R.Z.P.V」のCEOカイ・フィッシュが現れる。月海のデザインしたドレスを見たカイは、蔵之介にデザイナーごとドレスのデザインを売ってくれないか、と提案してきた。それはできないと断る蔵之介だったが、それは自分が月海を手放したくないためなのかと思い悩む。

そんな折、千絵子が隠していた天水館の権利書が見つかり、ついに天水館の売却が決まってしまう。なんとかしたいと考えた月海は、思い悩んだ末に、カイに助けを乞う。カイが天水館を買ったため、立ち退きは回避されたが、その見返りとして、月海はシンガポールへと連れて行かれてしまう。そして蔵之介も月海を追ってシンガポールへと向かうのであった。

海月姫とクラゲ

単行本第1巻に収録されているおまけマンガによると、『海月姫』のタイトルは、作者・東村アキコが大のクラゲ好きだったことに由来する。中学生の時、鹿児島にあったクラゲの水族館で虜となって以来、主に絵に描くことでクラゲ愛を満たしていたという。凝り性の作者らしく、毎日描くだけでは飽きたらず、高校の美術部では巨大なパネルにエアブラシを使って描くほどの力の入れようだった。また、文化祭においても、クラゲの絵を展示している。ちなみに、病的なほどのクラゲ熱は、その後、別のものに興味が移ったことで沈静化している。

海月姫と腐女子

物語の最初で、「尼~ず」が「腐った女の子(ふじょし)」たちの集まりと表現されているが、ボーイズラブ(BL)を愛する一般的な意味での「腐女子」ではなく、「鉄道」「三国志」「人形」など「好きなものに過度に入れ込むオタク女子」の意味で使われており、作品内にBL要素は出てこない。

スピンオフ

2009年より、本編に登場するキャラクターにスポットをあてた4~8ページの短編『海月姫 英雄列伝☆』が「Kiss PLUS」(講談社刊)誌上にて連載開始。連載後半になると、千絵子の母である千代子の韓流ドラマ追っかけ紀行が中心となる。そして千代子のエピソード部分を単行本化した際に、タイトルが『海月姫外伝 BARAKURA~薔薇のある暮らし~』(講談社刊、全2巻)に改題された。なお、それ以前の作品は、『海月姫』の単行本の巻末に収録されている(単行本第15巻で其の十一まで)。

メディアミックス

TVアニメ

2010年から同年12月まで、フジテレビのアニメーション枠「ノイタミナ」にて、全11回で放送された。監督に『夏目友人帳』や『デュラララ!!』などのヒット作を手がけた大盛貴弘、主役の月海役に人気声優の花澤香菜を起用している。また、DVDおよびBlu-rayの各巻に、映像特典として「海月姫 英雄列伝」が5分ほどのショートアニメとして収録されている。

映画

2014年12月に実写映画が公開。主役の月海役に、テレビドラマ『あまちゃん』で大ブレイクした人気女優・能年玲奈を起用して話題となった。ほかのキャストでは、蔵之介役を菅田将輝、ばんば役を池脇千鶴、ジジ役を篠原ともえが演じている。また、作者の東村アキコも、ファッションショーに招待されたVIP役でカメオ出演している。ストーリー、キャラクター設定は原作準拠であり、主役の能年玲奈をはじめ、ほかのキャストも個性的な登場人物を見事に演じており、「ぴあ」の初日満足度ランキングで1位に輝くなど、ファンの満足度も高かった。

登場人物・キャラクター

倉下 月海 (くらした つきみ)

18歳。イラストレーターを目指して鹿児島から上京し、天水館の住人となる。子どもの頃からクラゲが大好きで、その結果、重度のクラゲオタクとなった。普段は眼鏡で三つ編み、上下とも地味な色のスウェットを着ており、おしゃれとは無縁の生活を送っている。ある日、死にそうなクラゲを助けてもらったことをきっかけに鯉淵蔵之介と知り合う。 その後、再開発による天水館からの立ち退きを阻止するため、蔵之介らとともに資金集めに奔走していたが、その過程で、亡き母との思い出である「クラゲのドレス」をデザイン、服飾デザイナーとしての才能を開花させる。男性が苦手でまともに会話することができない。蔵之介の義兄・鯉淵修に一目惚れされ、紆余曲折を経てお付き合いすることとなる。

鯉淵 蔵之介 (こいぶち くらのすけ)

大学生。元大臣・鯉淵慶一郎と舞台女優リナとの間に生まれた。小さい頃は母と暮らしていたが、のちに慶一郎に引き取られる。鯉淵修は異母兄弟の関係。政界ではなくファッション界で生きていきたいと思っているため、日常的に女装を行い、女装姿で外出したりしている。自他ともに認める美少年で、女装時は本物の女性と見間違うほど美しい。 その女装術を活かし、男子禁制の天水館の住人には、「息子を演じている娘」と思いこませている。また、女装時は「鯉淵蔵子」を名乗る。目的もなく遊び暮らしていたが、自分とまったく価値観の違う倉下月海と知り合い、天水館を買い取るための資金集めの活動をしているうちに、オリジナルのファッションブランド「jelly fish」を立ち上げることとなる。

鯉淵 修 (こいぶち しゅう)

30歳。鯉淵慶一郎の息子で、父の政治秘書を務める。鯉淵蔵之介の異母兄にあたり、蔵之介に対しては実の兄のように親密に接している。堅実で真面目な性格。女性に苦手意識があり、30歳過ぎても童貞。蔵之介によってメイクアップした倉下月海に一目惚れする。当初は普段の姿の月海に会っても本人とは気付かなかったが、のちに同一人物であることを知る。 以降、月海への好意を深め、ついに想いが叶って清い男女交際を始めることとなる。

千絵子 (ちえこ)

天水館の管理人である千世子の娘。母が韓流スターにはまり、家を留守にしている間は、管理人代行を務めている。天水館の住人の中では、社交性がある常識人。着物が好きで、常に着物を着ているほか、和裁にも長けている。趣味で市松人形を集めており、すべての人形に名前をつけてかわいがっている。

まやや

三国志オタクで、事あるごとに三国志の登場人物やエピソードを引用して語り出す癖がある。また、喋る時にはかなりのオーバーアクションになる。170cmという長身と、切れ長の目にコンプレックスがあり、普段は髪で目を覆い隠すようにしていたが、実は抜群のモデル体型。そのために、三国志のガチャポンと引き替えに、倉下月海が作ったクラゲのドレスお披露目のためのモデルをすることになる。

ばんば

天水館の住人で鉄道オタク。うるう年の2月29日生まれのため、まだ8歳だと主張している。実年齢は32〜35歳。天然パーマでアフロヘアのような髪型をしている。まややと特に仲が良く、一緒に買い物に行ったりしている。

ジジ

天水館の住人で、年を経て落ち着いた感じの中高年男性を好む、いわゆる枯れ専。執事カフェや名曲喫茶によく通っている。アクの強い住人の多い天水館の住人の中では、地味で影が薄い存在だったが、パソコンに強く、エクセルなども使いこなせることから、jelly fishの生産管理を担当するようになる。

目白 樹音 (めじろ じゅおん)

天水館の住人で、売れっ子のBL漫画家。対人恐怖症のため、天水館の他の住人とも直接会うことはなく、ドアの隙間からメモをやりとりしている。天水館の住人のリーダー的な存在で、対応に困る問題が発生した時、住人が指示を仰ぐことも多い。締切が近づくと、天水館の住人をアシスタントとして雇うこともある。

ノム

千絵子の友人のドールマニア。ファッションドール用の衣装をネットで販売している。人形のことを人間と呼び、人間のことは虫けらと呼ぶ。天水館の住人ではないが、デザイン画を見るだけで型紙に起こすことができるスキルを買われて、クラゲのドレスの制作にお針子&パタンナーとして参加する。

鯉淵 慶一郎 (こいぶち けいいちろう)

蔵之介と修の父親。大臣経験もある国会議員。蔵之介の女装姿を「一族の恥」として毛嫌いしている。実は大の女好きで、「オカマ以外全部あり」と豪語する、非常に広いストライクゾーンを持つ。

花森 よしお (はなもり よしお)

鯉淵家のお抱え運転手。鯉淵修の幼馴染み。自分の運転するベンツを溺愛しており、たとえ鯉淵家の人間であっても、シートを汚すなどの可能性がある場合は乗車NGにするほど。また、情報通で普段は寡黙だが、ベンツが絡むと何でもペラペラと喋ってしまう。

稲荷 翔子 (いなり しょうこ)

天水地区の再開発を企画している開発会社の現場責任者。派手でグラマーな美人で、プロジェクトの成功のためなら枕営業も厭わない行動派。バブル時代を思わせる恰好や言動が特徴。国会議員・鯉淵慶一郎とのコネクションを作るため鯉淵修に近づき、酔わせて肉体関係を持ったように思わせる工作を行い成功するも、その後、修の童貞ならではの生真面目な態度に戸惑い、知らず知らずのうちに心を動かされていく。

根岸 三郎太 (ねぎし さぶろうた)

現役総理大臣。鯉淵慶一郎の妻の兄で、修と蔵之介にとっては叔父にあたる。失言が多く支持率は一桁台と低迷しているが、周囲の評価は「やればできる男」。プライベートでは、非常にノリが軽く、オヤジギャグを連発したり、修のことを「シュウシュウ」と読んだりもする。

クララ

『海月姫』に登場するクラゲ。種類はタコクラゲ。ペットショップのぞんざいな扱いで死の危機に瀕していたところを倉下月海と鯉淵蔵之介に助けられ、天水館で飼われることとなる。ストーリー上ではただのクラゲでしかないが、しばしば、物語の解説役として登場する。

場所

天水館 (あまみずかん)

『海月姫』に登場するアパート。風呂なし、トイレ共同。レトロな外装が特徴。かつては学生向けのアパートだったが、近所にあった大学が移転したことで学生がいなくなり、入居者を募集していた。その後、目白樹音、まやや、ばんばらが入居してきたが、いずれも女性だったので、結果として女性専用アパートとなる。管理人は千絵子の母・千世子。 入居者内では、目白樹音が実質的なリーダーで、住人たちは事あるごとに彼女にお伺いを立てている。入居資格は「男を必要としない人生」。なお、現入居者たちは自らを「尼〜ず」と自称している。

その他キーワード

jelly fish (ぜりーふぃっしゅ)

『海月姫』に登場するファッションブランド。倉下月海の作ったクラゲのドレスを売るために鯉渕蔵之介によって立ち上げられた。デザイナーは倉下月海、生産管理はジジ、モデルはまやや、パタンナーはノム、裁縫は千絵子とばんばと、基本的に尼〜ずのメンバーで構成されている。ロゴデザインは目白樹音。

アニメ

海月姫

男性が苦手でおしゃれに興味のないクラゲおたくの主人公・倉下月海が、同様に市松人形収集家、三国志おたく、鉄道おたく、枯れ専の女性たちと「尼~ず」を名乗り、レトロな天水館で同居生活を送るが、偶然出会ったお... 関連ページ:海月姫

書誌情報

海月姫 17巻 講談社〈KC KISS〉

第1巻

(2009-03-13発行、 978-4063407440)

第2巻

(2009-07-13発行、 978-4063407624)

第3巻

(2009-11-13発行、 978-4063407754)

第4巻

(2010-03-12発行、 978-4063407907)

第5巻

(2010-08-10発行、 978-4063408126)

第6巻

(2010-11-26発行、 978-4063408249)

第7巻

(2011-04-13発行、 978-4063408416)

第8巻

(2011-09-13発行、 978-4063408553)

第9巻

(2012-03-13発行、 978-4063408744)

第10巻

(2012-09-13発行、 978-4063408874)

第11巻

(2013-03-13発行、 978-4063409031)

第12巻

(2013-07-12発行、 978-4063409123)

第13巻

(2013-12-13発行、 978-4063409215)

第14巻

(2014-09-12発行、 978-4063409345)

第15巻

(2015-01-13発行、 978-4063409413)

第16巻

(2016-05-13発行、 978-4063409871)

第17巻

(2017-11-13発行、 978-4065104521)

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