白いトロイカ

白いトロイカ

皇帝に逆らった貴族の娘ロザリンダ・フョードルは、寒いクリスマスの夜、両親と逃げ延びてきた村で、百姓夫婦に託される。反逆者の娘ロザリンダは歌手への道を歩むが、その周囲の人々には皇帝への不満がくすぶり、革命の日が近づきつつあった。帝政ロシア皇帝バーヴェル一世の治世下を描いた、少女漫画で初めての本格歴史ロマンとされる。

正式名称
白いトロイカ
ふりがな
しろいとろいか
作者
ジャンル
歌手
 
その他歴史・時代
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概要・あらすじ

貴族の娘であったロザリンダは、父がロシア皇帝に叛旗を翻そうとした際、難を逃れるため、辺境のザルトウ村の百姓であるバジョーフ夫妻に託される。彼女は、夫婦のもとでロタと呼ばれ愛されて育ったが、音楽と出会い歌手になることを夢見るようになった。ペテルブルグで念願の歌手となったロタだが、皇帝の圧政を正そうとする人々の蜂起に巻き込まれていく。

登場人物・キャラクター

ロザリンダ・フョードル (ろざりんだふょーどる)

金髪の少女。父は貴族のレフ・フョードル公爵で、母は王立歌劇場にも立った歌手のアンナ・フョードル。生後間もなく辺境のザルトウ村の農家に預けられた。このとき、母から首飾りを渡された。農家のロタ・バジョーワとして育てられ、評判の歌好き娘となる。12年後、コザックのアドリアンと知り合い、読み書きを教わる。 地主の娘マリア・グリョーノワに音楽を教えに来たロストフに素質を見いだされる。山火事でグリョーノフが死んだ後の混乱の最中ペテルブルグを目指して家を出る。髪を切って男装して旅を始めたものの路銀も馬も奪われ、たどり着いた村でレオ・コンスタンチン伯爵に救われる。レオの援助でペテルブルグについたが、頼りのロストフは不在で路頭に迷いかける。 なんとか働き始めた酒場の熊は、レオたち反乱分子の拠点だった。再会したレオを窮地から救って歌劇場行きを願うと、レオの家で貴婦人教育を受ける。偶然、令嬢としてロザリンダ・バジョーワと呼ばれることになった。レオのエスコートで舞踏会に出席し、マリーニンの前で歌を披露したことから王立音楽院に入学。 だがレオと百姓娘の醜聞が広がっていると知って姿を隠す。戻ってきたロストフに連れられターニャ・ペトローヴナに会うと、ほどなくロザリンダ・フョードルであると判明。皇帝の晩餐会に招かれた帰途、盗賊の黒い鷹となっていたアドリアンと再会する。 歌劇場で歌う姿を見せるため、王立音楽院に復学。その後レオとアドリアンの連絡役を買って出る。レオから革命成功後に結婚しようと申し込まれる。反逆が露顕して捕縛されたレオの救出に向かったアドリアンを助けるため、蜂起が始まった中で皇帝の暗殺も考えたが果たせなかった。 刑場に送られたアドリアンを助けたレオは命を落とす。皇帝が死んだことを確認してターニャも逝く。事件後、ザルトウ村に帰り、新しい皇帝アレクサンドルから一家の農奴放免書をもらったアドリアンと結ばれる。1858年、75歳でこの世を去る。

レオ・コンスタンチン (れおこんすたんちん)

将来を嘱望される青年伯爵。皇帝の悪政を改めさせようと考えている。皇帝の任務で旅行中、ペテルブルグを目指していたロタ・バジョーワが、たどりついた村の地主に歌を強要されて疲労で倒れたところを保護。服や馬車を用立てた。ペテルブルグ帰還後、酒場の熊でロタと再会。 捕まった同志を助けに向かい、負傷した窮地をロタに助けられる。歌劇場に行きたいというロタに、自分の邸宅でロザリンダとして貴婦人教育を施す。ロザリンダと懇意にしている様子を、婚約者のナタリア・バゾワに見咎められる。ロザリンダを歌劇場の支配人マリーニンに紹介し、王立音楽院入学をサポート。 百姓娘と親密だという噂に責任を感じたロザリンダが家出したことで、自分の気持ちを確認し、ナタリアとの婚約を破棄した。皇帝からロザリンダがターニャ・ペトローヴナのところにいることを知らされ、晩餐会への招待の使者に。その晩餐会で盗賊、黒い鷹の討伐隊の指揮官に任命される。黒い鷹ことアドリアンを一度は取り逃がすが、劇場で歌うロザリンダを見るために現れたところを捕縛。 その功績で公爵となる。アドリアンを逃亡させて協力を取り付け、皇帝に意見をし始めた。ナタリアの懺悔から革命指導者と発覚して捕らえられたが、バゾフ公に逃がされる。仲間たちと蜂起し、処刑寸前のアドリアンを救出したものの、兵士の銃剣に胸を貫かれロザリンダに見取られて死亡。

アドリアン

黒髪のコザックの青年。ザルトウ村から山を越えたところに住んでいた。出会ったロタ・バジョーワが別れ際に落とした首飾りを拾う。首飾りを探すロタと再会し、首飾りに「愛するアンナへ レフ・フョードル」の文字があると知らせる。それを切っ掛けにロタに読み書きを教えた。 ロタの村の祭りで、酔ったグリボフに侮辱されてナイフで刺してしまう。さらに、因縁をつけるグリボフを撃退した。グリボフの放った火が村に延焼して地主のグリョーノフが死亡。新地主を嫌ったロタの逃亡に協力する。このときロタから、農夫の両親への首飾りを託される。ロタの放免状を新地主に書かせようとして揉み合いになり殺害。 農夫の両親が受取らなかった首飾りを返却するためペテルブルグへ向かう。途中、貴族だけを襲う盗賊、黒い鷹を名乗る。ペテルブルグでロタに首飾りを渡し、劇場で歌う姿が見たいと伝える。アンドレイ・ユージンという地方貴族を騙る。ロタに気を取られ、レオ・コンスタンチンに捕まってしまう。 だが、レオに牢から出され、平等な世ではロタが自由になると聞いて協力を承諾。ペテルブルグで貴族をからかい、貧民に施しを与えた。皇帝に捕まったレオを処刑前日まで救出できなかったため、レオの自由と引き換えにと出頭。だがレオは逃亡後で、むだに処刑されそうになり、死刑台でレオに救出された。 挙兵した皇帝の息子、アレクサンドルは故郷での親友アリョーシャで、大臣就任を打診されたが辞退。ロタ一家の農奴放免書をもらってザルトウ村に帰る。ロタと結ばれ、1858年にこの世を去る。

ロストフ

白髪で口髭の紳士。音楽家。ザルトウ村に、地主の娘マリア・グリョーノワの音楽教師としてやってきた。音楽好きなロタ・バジョーワに歌を教えて、その音楽の才能に惹かれ、ペテルブルグで歌手になれると伝える。一方、ロタの首飾りの「愛するアンナへ レフ・フョードル」の文字を見て、ロタの出自に興味を持つ。 もともとアンナ・フョードルの師で、フョードル一家と親交があった。そのためロタがフョードル家に伝わる子守歌を知っていたことからロザリンダ・フョードルだと確信。だが、反逆者の娘であるため、このまま村で暮らすべきかどうか迷う。グリョーノフの死でペテルブルグ行きを望むロタを連れて行こうとするが、新地主に拒絶される。 ロタが逃亡したため、彼女が行くであろうペテルブルグへと向かう。途中、馬車の事故で大怪我をしてペテルブルグ着が遅れてしまい、ロタが邸宅を訪れたときは不在だった。王立音楽院に入学したロザリンダと再会し、貴婦人のようになったロザリンダに、ひがみがある限り百姓娘だと説く。 ロザリンダをターニャ・ペトローヴナと引き合わせ、ほどなくターニャに引き取られて喜ぶ。皇帝の死後、故郷に帰ることにしたロザリンダを、いつでも歌劇場は待っていると伝えて見送る。

ナタリア・バゾワ (なたりあばぞわ)

黒髪の令嬢。バゾフ公爵の娘でレオ・コンスタンチンの子供の頃からの婚約者。レオを深く慕っていて、ロザリンダ・バジョーワにひどく嫉妬する。バゾフ家の舞踏会でロザリンダに歌わせて恥をかかせようとしたが、歌劇場の支配人マリーニンに認められてしまう。親友で王立音楽院の生徒のイレーネ・サモイロワに苦しい胸の内を相談。 ロザリンダが百姓娘かも知れないと伝える。レオに婚約破棄を伝えられ、レオを奪い返すことを誓う。アラビアからの客アル・カーンとの縁談が進められるが興味を持てなかった。レオにロザリンダが黒い鷹と会っていたことを告げるなど、自己嫌悪しながらも嫉妬に囚われた行動が止められない。 町の暴徒に馬車が襲われて負傷し、行き会わせたアドリアンらに熊へ運ばれる。ロザリンダの看病を受けて改心。教会で懺悔する。ところが、その懺悔が皇帝に伝えられ、レオは謀反人として捕縛される。救出に向かうアドリアンに協力し、レオが入っているはずの牢に飛び込んだが罠。 牢内に配置された兵士たちの銃撃を受けて絶命した。

バジョーフ夫妻 (ばじょーふふさい)

ザルトウ村で暮らす農奴の夫妻。子供がなかったが、謀叛の疑いをかけられたフョードル夫妻にロザリンダ・フョードルを預けられた。百姓の娘ならロザリンダはもったいない、とロタ・バジョーワとして育てた。歌ばかり歌っているロタを仕方ないと言いながら可愛がっている。ロタに理解があり、アドリアンとの関係もひどく責めたりせず、アドリアンのことも認めていた。 出自がわかる首飾りを大切にするように言いつけているが、ロタが苦しむのだけは避けたいと考えている。村を逃げ出したロタから首飾りが届けられたが、身元を明かすものだと受け取りを拒否。また、コザックになれと誘われたが、こちらもロタが帰ってくる場所を守るために拒否した。 皇帝の死後、帰ってきたロタを温かく迎えた。

マリア・グリョーノワ (まりあぐりょーのわ)

ザルトウ村の地主の娘。ロタ・バジョーワと歳が近く、いい友達として親密な仲。ロストフがピアノと歌の先生として招かれ、ロタと一緒に勉強するようになる。ロストフがロタに夢中になってしまい、間に入れなくなることもあった。父の死後、ペテルブルグの親類をたよることになり、ロタを一緒に連れて行くことを提案。 だが、新しい地主に認められず、母と二人で出発した。

グリボフ

鷲鼻でくせっ毛のヒゲを蓄えた太めの男。ザルトウ村でも酒癖の悪さは評判で、あまりよく思われてはいない。祭りの夜、アドリアンに絡んで侮辱したため、ナイフで刺される。それを恨んでロタ・バジョーワをさらい、アドリアンをおびき出すが、ロタに逃げられて一騎討ちとなり、逆襲されて右目を潰される。 逆恨みからコザックを困らせようと林に火を放ったものの、村の林に燃え広がってしまう。その後、取り入ろうとした新しい地主はアドリアンに殺されてしまった。

イレーネ・サモイロワ (いれーねさもいろわ)

つり目の令嬢。苦労して入学した王立音楽院の学生。ナタリア・バゾワの親友で、レオ・コンスタンチンがロザリンダ・バジョーワに取られたと聞いてナタリアの味方をする。なんの苦労もなく入学してきたロザリンダを快く思えないこともあり、意地悪をする。課題として渡された楽譜を風に飛ばさせたり、寄宿舎での食事中に農家がする占いをしているところに嫌味を言ったりなど。 さらに、ナタリアからロザリンダの出自が怪しいことを聞くと、王立音楽院内で噂を広げた。

ターニャ・ペトローヴナ (たーにゃぺとろーゔな)

ちょっと太めの老婦人。アンナ・フョードルの母。社交界からもご無沙汰している。ロストフからロザリンダ・バジョーワを紹介され、死んだはずの孫と同じ名前で同じ年頃のロザリンダの姿に動搖する。ロザリンダがペトローヴナ邸の間取りを知っていたことから、孫ではないかという思いを強くし、養女に迎えることとした。 そのお披露目の会でロザリンダがペトローヴナ家に伝わる古い子守歌を歌ったことから、ロザリンダ・フョードルだということが確実となった。皇帝に捕らえられたレオの処刑が近づき、苦悩するロザリンダに父のレフ・フョードルの短剣を渡し、皇帝暗殺を唆す。ロザリンダができなければ自分がするとまで決意を語る。 皇帝が死んだ翌朝、ロザリンダへの祝福を唱えながら絶命。

マリーニン

黒髪に口髭と顎鬚をきれいに整えた紳士。王立歌劇場の支配人。バゾフ公爵の舞踏会で、レオ・コンスタンチンがエスコートしてきたロザリンダ・バジョーワの歌を聞いて感動。勉強らしいものをしたことがないと聞いて王立音楽院入学を勧め、手続きもした。一時は姿を消したロザリンダが復帰すると、翌月に一幕の出演予定を組み込む。

レフ・フョードル (れふふょーどる)

口髭を蓄えた公爵。皇帝に農奴たちへの圧政を改めるように具申したが、農奴の蜂起を準備したことが発覚して追われる身となった。妻のアンナ・フョードルは王立歌劇場の舞台にたったことのある高名な歌姫。一家で辺境のザルトウ村まで逃げたところで観念し、幼いロザリンダ・フョードルをバジョーフ夫妻に預けた。 このときアンナがロザリンダに首飾りを遺した。さらに逃亡を続けようとしたが兵士に見つかり、その場で射殺された。1783年のクリスマスの夜のことだった。

皇帝 (こうてい)

鷲鼻で外ハネした顎鬚が個性的。かつてアンナ・ペトローヴナに恋をしたが、レフ・フョードル伯爵に嫁がれた過去がある。その後、他人を信じなくなり妻子も追放。12年前、圧政を改めるように具申したレフ・フョードルに死刑を言い渡した。お気に入りのレオ・コンスタンチン伯爵のところにいるロザリンダ・バジョーワの歌の評判を聞き、晩餐会を開催して招待。 レオを黒い鷹討伐隊の指揮官に任命したが、一度取り逃がしたため1カ月の猶予を与える。黒い鷹逮捕に成功したことでレオを公爵に取り立てた。黒い鷹が脱獄したため、関係者を処分。レオがその処分に反対したことで疑い始める。ナタリアの懺悔でレオが反逆者だと明かされたため、レオを捕縛し死刑と決める。 バゾフ公に逃がされたレオの仲間たちと、追放した息子アレクサンドルの兵が王宮に突入。自ら毒をあおって死ぬ。作中で名前は呼ばれないが、モデルは実在のロシア皇帝パーヴェル一世。

場所

ザルトウ村 (ざるとうむら)

ペテルブルグから遠く離れた南の村。地主のグリョーノフは農奴たちを苦しませることがなく、幸せな村だった。グリョーノフが山火事の倒木で命を落とし、ボリス・グルジンスキーが着任。ボリスは農奴から搾り取ることばかりを考える男で、村人たちは反感を抱いていた。ボリスはロタの放免状を求めたアドリアンの手にかかり、混乱の中で多くの農奴が逃亡したという。 ロタが帰ったとき、バジョーフ夫妻は以前と変わらぬ暮らしをしていた。

(みーしか)

ペテルブルグにある酒場。人のいい夫婦が営んでいる。路頭に迷っていたロザリンダを、歌がうまいので看板娘として働かせることにした。レオ・コンスタンチンたち、若い貴族たちのたまり場で、皇帝にたてつく一味の拠点でもあった。

王立音楽院 (おうりつおんがくいん)

ペテルブルグにある名門音楽学校。入学のためには厳しい試験があり、毎年多くの少女がしのぎを削っている。土曜日と日曜日には帰宅できる寄宿制。

その他キーワード

首飾り (くびかざり)

アンナ・フョードルがロザリンダをバジョーフ夫妻に預けたときに遺した唯一の品。白銀の鎖に大きなルビーが付き、裏には「愛するアンナへ レフ・フョードル」と彫られている。ロザリンダは大事にするように言いつけられて育った。出自を証明する唯一の品だが、ペトローヴナ邸の間取りと代々伝わる子守歌を知っていたことで、ロザリンダ・フョードルだと確認されてしまった。

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