白妖の娘

白妖の娘

時は平安時代末期。邪妖である白妖と契約してその器となり、宮廷貴族への復讐を果たそうとするおどろ髪の美少女、中津十鴇。そして、白妖と浅からぬ因縁があり、十鴇と白妖を結び付けてしまった葛城直。玉藻の前の伝説を下敷きに華やかな宮廷社会で繰り広げられる、十鴇と直のままならぬ恋を描いたジャパネスクロマン。「プリンセスGOLD」で2015年4月より隔月で連載の作品。

正式名称
白妖の娘
ふりがな
びゃくようのむすめ
作者
ジャンル
和風ファンタジー
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あらすじ

第1巻

役人だった葛城直は、故郷の信濃国・逸奈里で藻のようなうねった黒髪の美少女、中津十鴇と出会う。平安時代の基準では、まっすぐな黒髪が美人の条件であるため、十鴇はその髪にコンプレックスを持っていたが、直はその髪を美しいと告げ、二人はなかよくなった。しかし、十鴇の姉の中津さゆりが都の殿上人、雲井小路内麿に捨てられて自殺してしまう。父親の中津秀友も悲しみのあまり亡くなる。身分を笠に着た貴族の非道を呪い、生きる気力を失った十鴇を立ち直らせるために、直は白妖の言い伝えを十鴇に教えてしまう。これにより、十鴇は帝の寵姫になって貴族に復讐するという願いを叶える代わりに、強大な妖力を持つが、身体のない白妖の器となる。そして十鴇は白妖と共に都に上がり、高貴な姫君に化けて摂政の藤原忠通の甥である貴公子、五葉織草を誘惑して彼の恋人となった。一方、直は十鴇と白妖を結び付けてしまった事を後悔し、白妖を倒すために行者のもとで修行したあと、陰陽師の阿部奏親に弟子入りするために都に上がる。そこで直は、美貌の貴公子、藤原玄雪とその遠縁の娘、大江椋と出会う。

第2巻

葛城直は、内大臣の藤原頼長に泥棒と疑われてしまった大江椋を、陰陽師の技を使って助けた。それをきっかけに直は、椋に思いを寄せられるようになる。一方、中津十鴇は恋人である五葉織草を介して摂政の藤原忠通に取り入り、殿上人の地位を得て宮廷に出仕できるよう取り計らってもらう。しかも、それまでは十鴇の正体を知らずに利用されていた織草は、白妖の姿が見えるようになっており、自ら進んで十鴇の復讐を助ける事を申し出る。やがて姉の中津さゆりを自殺に追いやった敵の雲井小路内麿に近づく事に成功した十鴇と白妖は、復讐を果たそうと動き出す。

第3巻

中津十鴇白妖の器となって1年が経過した。ますます白妖の力は強くなっているが、十鴇自身の人格は消えていない。しかし、葛城直と会うわけにはいかず、二人の距離は離れるばかりだった。そんな折、摂政の藤原忠通邸で忠通派の貴族が集められ、音楽会が開かれる事になった。そこで十鴇は滋能勢子と共に琵琶を演奏するが、勢子の父親である滋能是典が十鴇はニセ姫であり、身分の低い女であると、みなの前で責め立てる。しかし、十鴇は意に介した様子はなく、余裕の態度を見せ、そこに怪しいほどの美貌の貴公子が現れ、十鴇は自分の妹であると言い出す。

登場人物・キャラクター

葛城 直 (かつらぎ あたえ)

200年以上昔に白妖を封じた葛城常木の子孫の青年。常木の生まれ変わりで、非常に強い霊力を持つ。涼やかな美貌の持ち主で、心優しい。故郷の信濃国・逸奈里で中津十鴇と出会い、彼女のうねる髪を美しいと励まし、気に掛けるようになった。身分の高い貴族の非道によって姉と父親を失い、復讐心を燃やす十鴇に、森の中の塚に封じられている白妖の事を教えてしまい、十鴇を白妖の器にしてしまう。 その後、十鴇と白妖を引き離すために、霊力に磨きをかけるべく行者として修行し、のちに都へ上がって陰陽師の阿部奏親に弟子入りする。行き倒れになったところを藤原玄雪に助けられ、それが縁で後見人になってもらい、大江椋とも出会う。

中津 十鴇 (なかつ ととき)

白妖の器となり、その力で貴族達への復讐を目論む美少女。元は信濃国・逸奈里に住んでいた娘で、元大領であった中津家の当主である父親の中津秀友と、姉のさゆりと暮らしていた。勝気だが、本来は純粋で、情愛が深い性格。色白で藻のようにうねる豊かな黒髪の美少女だが、その髪のために「鬼っ子」と呼ばれて侮辱されて育っており、その事にコンプレックスを抱いている。 のちに葛城直と出会い、自分の美しさを認めてくれた彼に好意をもつようになる。姉が貴族に捨てられて自殺し、父親も亡くなると、自ら白妖と器となって復讐を果たそうと都に上がった。白妖の指示とその力により、手始めに名門貴族の跡継ぎ五葉織草を誘惑して、それを足掛かりに内裏への出仕も果たし、出世の階段をのぼっていく。 都では名門の姫君を装い、「玉藻姫」と名乗っている。

葛城 常木 (かつらぎ つねき)

葛城直の200年近く昔の先祖で、強力な霊力を持つ男性。少年時代に、傷つき弱って大国より逃れて来た狐の姿の白妖を助けてしまい、その礼として一つだけ願いを叶えると約束された。その後、白妖が災厄を起こして人々に害をなしたため、助けた事を悔やみ、行者となって修行して白妖に挑んだ。死闘の末、願いを一つ叶えるという約束を行使して白妖の身体を砕き、森の中の塚にその邪念を封じた。

白妖 (びゃくよう)

強力な霊力を持ち、多くの大国を支配しては滅ぼしてきた邪妖。塚に封じこめられていたため、葛城一族、中津十鴇からは「お塚様」と呼ばれている。普段は一人称が「妾」で女性の衣装を着ているが、美貌の貴公子に化ける事もあり、気分次第で性別は自由に変えられる。大国にいた際に人間の反乱に遭い、傷つき弱って逃れて来たところを、葛城直の先祖である葛城常木に助けられた。 その礼として、一つだけ常木の望みを叶えると約束した。ところが、その後白妖による災いが次々に起こったため、行者となって霊力を磨いた常木によって森の中の塚に邪念となって封じられた。直を介し、貴族達への復讐を願う十鴇を器として、200年の時を経て自由を得て、都の宮廷で残酷に人々を弄ぶ。 十鴇の願いを叶えて、その契約からも自由になった時、邪妖として本性を現して国にさらなる災厄を振りまく。

中津 さゆり (なかつ さゆり)

信濃国・逸奈里に住む元大領であった中津家の娘。中津十鴇の腹違いの姉。まっすぐな豊かな黒髪の美女で、心優しく純粋でもあり、妹の十鴇をかわいがっていた。宮廷貴族の雲井小路内麿に見初められて京に上がり、しばらく熱愛されて幸せに暮らすが、田舎女は飽きたと捨てられ、首をくくって自殺してしまう。遺体は都の外れの荒れ寺に寂しく葬られた。 行き倒れになっていた妹と同じ年頃の蛍を、放っておけないと助けた。

中津 秀友 (なかつ ひでとも)

現在はすっかり落ちぶれているが、元大領であった中津家の当主。中津十鴇と中津さゆりの父親。さゆりが宮廷貴族の雲井小路内麿に見初められ、京に上がったあと、しばらくして便りがなくなったのを心配していたが、国府より、さゆりが捨てられて自殺し、遺体は野ざらしにされたと聞き、悲しみのあまり病気を悪化させて亡くなる。

雲井小路 内麿 (くもいこうじ うちまろ)

右中弁の殿上人。亡き父親は先の大納言。美しい外見と生まれのよさを利用して、偽の涙で多感な貴公子を装い、周囲をだます卑怯で冷酷な男。中津さゆりを見初めて京へ連れ帰るが、彼女を捨てて自殺に追い込む。白妖の器となったさゆりの妹、中津十鴇の策略により、涙が偽物である事を摂政の藤原忠通の前でばらされて失脚。 さゆりと同じように首をくくって死ぬが、その時に自分の涙を純粋に信じたからこそ、さゆりの事が負担になって捨てたと告白している。

(ほたる)

都で行き倒れになっていたところを中津さゆりに救われ、彼女に仕えていた少女。さゆりの死後は、さゆりの女房だった塩手の面倒をみていたが、その死後は中津十鴇に仕え、さゆりを自殺に追いやった雲井小路内麿への復讐を手助けする。塩手の面倒をみていた時に葛城直とも知り合い、彼から薬やお金をもらって親切にしてもらっている。

塩手 (しおて)

中津さゆりが都に上がる際、故郷の信濃国・逸奈里より同行した忠誠心の厚い女房。さゆりが自殺に追いやられたあとも、さゆりの無残な死を思って故郷に帰れずに都に留まり、別のお屋敷で働いていて病気になってしまった。困窮して薬も買えない状態で、同じくさゆりに仕えていた蛍が面倒をみていた。蛍を介して葛城直に出会って、優しい言葉を掛けられて癒され、安らかに亡くなった。

五葉 織草 (ごよう おりくさ)

従五位上の左衛門佐の殿上人。中津十鴇の恋人。名門五葉家の跡継ぎであり、摂政の藤原忠通の甥。まじめで顔立ちもよく、心優しい。名門の姫である滋能勢子という婚約者がいるが、十鴇に恋をして、彼女を正妻に望むようになる。十鴇を通じて妖力の影響を受け、白妖の姿が見えるようになった。子供の時、最愛の母親が物怪が憑いたとされて調伏され、傷心のあまり亡くなった過去があったため、十鴇の目的が貴族への復讐だと知っても、それに協力した。

滋能 勢子 (しげのう せいこ)

滋能家の娘。父親は太政官の判官という名門の姫君で、五葉織草の婚約者。美人で気位が高く、高慢な性格。織草が中津十鴇に夢中なってしまったため、自分から婚約破棄を申し出た。

滋能 是典 (しげのう これのり)

太政官の判官という身分の高い名門貴族の男性。滋能勢子の父親。家系や系図について宮廷一詳しい。

藤原 忠通 (ふじわらの ただみち)

藤原家の長男。関白の経験もあり、皇族方を除き朝廷最高位の摂政を務める人物。平凡であるため、老父の藤原忠実に顧みられず、年の離れた異母弟である秀才の内大臣、藤原頼長と権力を二分しており、反目し合っている。五葉織草に白妖が目をつけたのは、彼が忠通の甥であったためであり、中津十鴇の出世や雲井小路内麿の失脚に利用された。

近衛 基実 (このえ もとざね)

摂政の藤原忠通の息子。14歳の少年。中津十鴇に命を助けられ、彼女に好意を抱いている。

阿部 奏親 (あべの やすちか)

陰陽寮の大黒柱で、当代一の陰陽師の男性。浄獄上人の紹介で葛城直を弟子にした。穏やかな理知的な人柄で、直を静かに見守っている。当初、直は白妖と中津十鴇の事を隠していたが、大江椋の家族を死なせたあと、すべての事情を打ち明けた。

阿部 広賢 (あべの ひろたか)

陰陽寮の天文博士を務める男性。中津十鴇の出仕を遅らせる奏上をしたため白妖に殺され、遺体を枯杉に吊るされる。

藤原 玄雪 (ふじわらの はるゆき)

従四位下の近衛中将の殿上人。葛城直の後見人。美貌の貴公子で、男色の趣味のある藤原頼長にも迫れらた事がある。飄々とした性格で、変わり者だが、心優しい。宮中で中津十鴇と会い、その際、彼女が物怪憑きである事を知るが、その記憶は白妖によって消されている。直が亡くなった異母弟の純雪に似ている事もあって気に入っており、後見人として彼の助けとなる。 大江椋とは遠縁であり、白妖と十鴇によって家を焼かれて家族を殺された彼女を引き取った。直より白妖と十鴇に関するすべての事情を打ち明けられる。

大江 椋 (おおえ むく)

藤原玄雪の遠縁にあたる大江家の娘。容姿は愛らしく純粋で、素直な性格の少女で、玄雪にかわいがられている。玄雪の屋敷で葛城直と出会い、女房として働いている有力の貴族の屋敷で泥棒と疑われた際に、彼に助けられてほのかな恋心を抱く。実は昔大江家の娘が阿保親王の息子を産んでおり、椋はその血を引いている。その証拠となるのが比翼の鏡を奪うために白妖によって家は焼かれ、家族は殺されてしまう。 この時、中津十鴇に殺されてかけており、彼女に憎しみを抱いた。

大江 征目 (おおえ まさめ)

大江家の当主で、大江椋の祖父。大江家は落ちぶれしまっているが親王の末裔であり、その証拠である葛城直に比翼の鏡を見せる。その鏡が原因で、白妖によって殺されてしまう。生前は気のいい老人だった。

夕奈 (ゆうな)

藤原玄雪の乳母の娘で、彼の侍女。玄雪にとって姉のように存在で、すべての弱みを握っており、玄雪も彼女には頭が上がらない。

藤原 頼長 (ふじわらの よりなが)

内大臣で、宮廷の権力者。異母兄である藤原忠通と宮中の権力を二分し、反目し合っている男性。忠通よりかなり年下だが秀才で、陰陽術の心得もあり、藤原家の実験を握っている老父の藤原忠実の覚えがいい。男色の趣味があって、小姓の千寿丸と関係を持っており、美男の藤原玄雪に迫った事もある。

藤原 忠実 (ふじわらの ただざね)

藤原忠通、藤原頼長の父親。宮廷一の権力を誇る藤原家の実権を握る人物。長男の忠通よりも秀才の頼長をかわいがっており、贔屓にしている。

千寿丸 (せんじゅまる)

男色の趣味がある藤原頼長が寵愛している小姓。冷静で賢い少年。

場所

信濃国・逸奈里 (しなののくにいつなのさと)

葛城直と中津十鴇の故郷であり、出会いの場でもある。ここに白妖を封じている塚もあった。

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