あやしや

本作の舞台となっているのは、江戸時代の京をベースにしたアジア圏の架空都市「都」。人を喰らう「悪鬼」が跋扈（ばっこ）する世界で、彼らは真夜中の丑三（うしみ）つ時、突如として現れる「鬼門」から人の世にやってくる。出現する悪鬼の数や容姿、能力などは様々で、実際に対峙するまで誰にもわからない。これら危険な鬼を退治するための組織が「鬼導隊」である。鬼導隊は全部で10隊あり、都に5か所ある「鬼導寮」を拠点とする。鬼導隊の隊員は「鬼導術」を用いて鬼を滅ぼすことができ、その武器は、自らの血を混ぜた墨で呪文を記した術符や術具などである。また、鬼導術は術師の体力を非常に消耗するため、日々の鍛錬が重要になってくる。

物語の元凶であり、多くの謎に包まれた未解決事件が「綺糸屋事件」である。半年前の夜、呉服商の大店、綺糸屋に、巨大な「顔の無い鬼」が出現。たった1匹の鬼により、一家が惨殺され約50名の死者を出した。12歳の若旦那、仁も致命傷を負うが、気がつくと「だまり」という鬼喰いの鬼と一心同体となり、唯一の生き残りとなる。二人は共生状態にあり、だまりの魂を仁が、仁の体をだまりが維持している。また、鬼を喰らうことで力と記憶を取り戻そうとするだまりと、「顔の無い鬼」への復讐を果たそうとする仁は、目的が一致しており、夜な夜な鬼狩りをすることになる。ストーリーが進むにつれ、少しずつ綺糸屋事件にまつわる事実が明らかになっていくミステリー的な展開も本作の大きな特徴である。

ある日、自分の死を願う鬼、花が仁を訪れ、自身に宿る危険な力を封印してほしいという。彼女は悪鬼と異なり、人を襲わない「鬼神族」の一人だった。約400年前、鬼神族と鬼導術を操る鬼導師の戦いがあり、決着がつかないまま姿を消した鬼神族は、それ以来人知れぬ地で隠れ住んでいるという。花を追ってきた鬼神族の鬼は、鬼導隊一番隊隊長「白陽」に倒され、花はそのまま仁と行動をともにすることになる。このほか、亡くなった鬼導隊前六番隊隊長の妹で、兄の意志を受け継ぐ鬼導隊見習いの咲、数年前に命を救ってくれた女性の鬼と出会うため、鬼になろうとしていた赤毛の楽など、ユニークなキャラクターが登場。仁以外にも、様々な事情を抱えた彼らのドラマが展開していく。