実体験をもとにした父と子の物語
主人公の孝志は、都内で共働きをしている既婚男性である。父、久志の危篤を知らされた孝志が、高校卒業以来15年ぶりに故郷の北海道に帰るところから物語は始まる。生まれた直後に母を亡くした孝志は、父と二人暮らしだったが、父が酒浸りとなり7歳頃から児童養護施設を行き来していた。上京して父と距離を取ることで、自分なりの安定を手に入れたと考える孝志にとって、父は関わりたくない存在である。憎しみさえ抱き「このまま死んでくれたほうがいい気がする」という孝志だったが、アルコール性肝炎で倒れ意識を取り戻さない父の無惨な姿に、心を揺さぶられることになる。タイトルにある「こっこ」は、北海道の方言で「子供」を意味する。本作は、「親子の関係」という普遍的なテーマを、作者の実体験を交えて描いた人間ドラマである。
蘇(よみがえ)る父との思い出
「父のことでもう煩わしい思いをしたくない」と考える孝志は、父とは絶縁状態であった。故郷に帰れば思い出すのは嫌なことばかりと思っていたが、不思議と幼い頃の良い思い出ばかりが蘇ってくる。父とのキャッチボールやドライブ、「ありがとう」という言葉の大切さや正しい箸の使い方を教わったことなど。もう10年以上考えないようにしていたが、幼い頃は母がいない分まで父のことが好きだったのだと気づく。また、父の上着には祖母らしき人物からのハガキがあり、祖父が最近亡くなったことを知る。子供の頃に祖父母は死んでいていないと聞かされていた孝志は、父のことを知っておきたいと考えるようになり、祖母の家を訪ねる。孝志は、父が抱えていた事情を知り、自身の感情や父との向き合い方を少しずつ変化させていくことになる。
可愛い絵柄と重い人間ドラマ
本作は、癌(がん)との闘病を描いたエッセイ漫画『さよならタマちゃん』でデビューした武田一義の第2作である。作者のSNSによれば、エッセイでデビューしたために、次作の方向性に迷った後に「半自伝的なストーリー漫画」に決定したという。また本作は、『さよならタマちゃん』を描くためだけに作った3頭身の愛らしい絵柄で、ストーリー漫画が描けるかという実験作でもあった。そのために「各話完結ではなくひとつの続きもの」「コメディではなくシリアス路線」「大人と子供を描き分ける」といったテーマを自分に課した。そして、本作を描き終えた後、やっと新たな絵柄で、漫画を描き続ける自信を得たという。可愛い絵柄で重い人間ドラマを描いた本作は、次作『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』の重要な土台となり、橋渡しの役割を果たすことになった。
登場人物・キャラクター
井上 孝志 (いのうえ たかし)
北海道出身の30代半ばの既婚男性。共働きの妻と二人暮らしをしている。警備会社の社員で、仕事内容は新規開拓の営業や警備計画の立案。生まれてすぐに母を亡くし、父親の久志に育てられるが、父が酒に溺れたため、児童養護施設と家を行き来していた。父に拒絶感を抱くようになり、高校卒業後に上京。約15年間、父との連絡を絶っていた。
井上 久志 (いのうえ ひさし)
孝志の父親で北海道在住の男性。長い白髪と無精ひげが特徴。ある日、アルコール性肝炎で肝硬変を患い危篤状態となるが、数日後に意識を取り戻す。産後すぐに妻が亡くなったため、男手一つで孝志を育てた。建造物の設計や工事現場の監督の仕事をしていたが、孝志が7歳の頃から酒に溺れ自堕落な生活を送るようになった。








