戦争体験がテーマのヒューマンドラマ
本作は、広島への原爆投下を題材にしつつも、実際の広島ではなく、令和時代の日本をモデルにした架空の都市を舞台にしている。そのため、戦時中や戦後の広島とは異なり、登場人物たちは日常的にAIスピーカーやSNSを利用するなど、現代的な要素が多く取り入れられている。物語の中心テーマは「もし現代の日本に新型爆弾が投下されていたら」という仮定に基づいている。作中では、新型爆弾が投下された日を「あの日」と呼んでいる。「あの日」から奇跡的に生還したカメとクレインが成長し、さまざまな出会いを通じて苦悩や葛藤に直面しながらも、「あの日」が世界に与えた影響や厳しい現実と向き合っていく姿が、丁寧なヒューマンドラマとして描かれる。
「あの日」を生き延びたカメとクレインの物語
都市が壊滅した「あの日」を生き延びたカメとクレイン。両親を失った二人は児童養護施設「こどもの家」に引き取られ、まるで実の姉妹のように育った。「あの日」の記憶を失いながらも、二人は決して離れることなく日々を共に過ごしていた。しかし、小学校卒業を間近に控えたある日、クレインは体調を崩し、入院を余儀なくされる。一方、カメはクレインの様子をSNSで発信し、奇跡の子として注目を集める二人はやがて平和の象徴として周囲から称賛されるようになる。カメにとってその賞賛は、心の空洞を埋めるように感じられ、次第に愉悦を覚えるようになっていく。そして翌春、クレインは退院できぬまま命を落とす。中学生となったカメは、やがて「あの日」の真実と、自分自身にかかわる新たな事実を知ることになる。
戦争の記憶と未来への問い
本作は架空の都市を舞台にしつつも、かつて日本に原爆が投下されたという重い歴史的事実をリアルに描写している。被爆したカメとクレインは過去から逃れられず、孤独や葛藤を抱えながら、被爆者特有の病に苦しんでいる。一方で、カメは「奇跡の子」として称賛されることに喜びを感じ、その承認欲求が次第に強まっていく危うい側面も描かれている。物語は彼女たちにとどまらず、多様な被爆者の視点から群像劇が展開される。それぞれの人生を通じて、「戦争の悲惨さを伝えることの難しさ」「SNSを通じた承認欲求」「被爆者たちの未来」といった、戦争と平和にかかわるさまざまな問題を現代に問いかける作品となっている。
登場人物・キャラクター
カメ
「あの日」の爆心地で生き残った女子小学生。クレインの親友で、黒いロングヘアを二つのおさげにしている。誰かに認められたり褒められたりすることが大好きで、何事においても一番になりたがる、目立ちたがり屋な一面を持っている。クレインと共に児童養護施設で育ち、「あの日」を生き抜いた「奇跡の子」として周囲から特別扱いを受けるようになる。当初はそうしたもてはやされ方に戸惑いを感じていたものの、クレインの死後は自ら募金活動に奔走し、彼女を象(かたど)った平和の像を建立した。
クレイン
「あの日」の爆心地で生き残った女子小学生。カメの親友。灰色のボブヘアで、おとなしく控えめな性格をしている。カメと共に児童養護施設で育ち、「あの日」を生き抜いた「奇跡の子」として周囲から特別扱いを受けるようになる。しかし本人は、そのもてはやされ方に対して、どこかずるをしているような罪悪感や疑問を抱き続けている。小学校卒業を控える頃から体調を崩すことが増え、やがて入院生活を送ることになる。
書誌情報
おりずる 上 秋田書店〈書籍扱いコミックス〉
上
(2025-08-07発行、978-4253106689)
おりずる 下 秋田書店〈書籍扱いコミックス〉
下
(2025-08-07発行、978-4253106696)








