かすりっひ

本作は、人気配信者と熱心なファンとの特別な関係を描いた異色のボーイズラブ。配信者「ちゅーりっひ」(理人)と、大学生ファンの帝を中心に、歪んだ日常が繰り広げられる。単なる配信者とリスナーの枠を超えた二人の関係は、やがて互いを蝕む「共依存」へと発展していく。過度な偏愛がすれ違いを生み出し、その切なくも狂おしい愛情や葛藤を、ヤンデレ的な要素を含むダークな雰囲気の中で繊細に描いている点が、本作の最大の魅力となっている。

オタクの大学生、帝は、人気配信者「ちゅーりっひ」に強いあこがれを抱き、依存的に心酔していた。自分こそがちゅーりっひを最も理解できる存在だと信じ、独占欲を募らせていた。一方、「ちゅーりっひ」の正体である理人も、満たされない承認欲求を埋めるために配信を始めていた。そんな中、理人は熱心にコメントを送り続ける最古参ファンの帝のSNSを密かにチェックし、ほかのリスナーにはない特別な感情を抱くようになる。現実世界の理人は、他人からの評価こそが自分の価値だという偏った考えに囚われ、帝への依存を一層深めていくのだった。

これまで動画配信やSNSを通じてしかつながりのなかった帝と理人。しかし、配信者とファンが集うリアルイベントへの参加をきっかけに、二人の運命は大きく動き出す。現実での出会いを経て、互いへの執着と依存は一層激しさを増していく。そんな中、入水自殺を図ろうとした帝に思わず声をかけた理人は、彼をホテルに連れ込み、二人きりで過ごすことになる。理人から「いっしょに動画を撮ろう」と誘われた帝は、戸惑いながらも心を躍らせ、自らも配信者になることを宣言する。しかし翌朝、理人の前から忽然と姿を消した帝は、SNSのアカウントを削除し、理人の配信にも二度と現れることはなかった。二人が他者からの評価や推し活に依存する背景には、それぞれが抱えるコンプレックスやトラウマが深くかかわっており、それらが承認欲求や独占欲を歪めている。二人の価値観を通して、現代の若者が抱える孤独や問題が鋭く映し出されている。