信金マンとロードバイクの出会い
28歳の更科二郎は、男手ひとつで娘・ふくのを育てる信金マン。ある日、40メートルの大木にふくのが登ってしまったという連絡を受け、箕輪章博が経営する自転車店にあったロードバイクを持ち出して幼稚園に向かう。初めて乗ったロードバイクになんとも言えない高揚感を感じた更科だったが、まだ仮組みだったため、途中で転倒して壊してしまう。更科は弁償しようとするが、そのロードバイクは、日本に4台しかない140万円の高級バイクだった。とても払える金額ではなかったが、ロードバイクの持ち主、半田物産の半田勇吉は、金銭の代わりにある提案をする。それは、1か月後に行われる自転車イベント「乗鞍ヒルクライムレース」で半田勇吉名義で出場し、完走タイム1分30秒を切って銅バッジを獲得することだった。さらに、うまくいけば半田グループ食品部門のメインバンクを、更科の信金に移すという。乗鞍ヒルクライムレースへの参加を決めた更科は、元競輪選手の箕輪とその娘・晶の特訓を受けることになった。
作者の実体験を基に本作が誕生
本作で描かれているのは、自転車競技のロードレース。一介のサラリーマンが、ひょんなことからロードバイクに魅了される姿を描く。日本少額短期保険株式会社の公式サイトに掲載された作者インタビューによれば、作者がロードバイクと出会ったのは、ダイエットがきっかけだという。アシスタントと一緒に2日間かけて房総半島を走った際、マウンテンバイクで走っていた自分と、クロスバイクのアシスタントとの差を実感し、帰宅後にロードバイクを購入。そしてロードバイクにハマりかけた頃、本作を描こうと決意したと語っている。主人公・更科が初めてロードバイクに乗った時の高揚感は、作者自身が体験したものだという。また、「乗鞍ヒルクライムレース」「全日本実業団東日本ロードレース大会」など、登場するレースは実在のものであり、ビンディングシューズの着用、目標心拍数の計算、ギヤを変えるタイミングといった、初心者である更科のトレーニングもリアルに描かれている。
主人公の自己再生ストーリー
前述の作者インタビューによれば、連載開始当時は、娘が生まれた時でもあり、「父と娘」をテーマにしたいと考えていたという。「となりのトトロに出てくるお父さんのような人が自転車に乗って、ほのぼのした生活を変えていく」という構想が、主人公・更科と娘・ふくのの関係となった。更科は大学在学中に妻と結婚してふくのを儲けるが、その後妻は失踪。妻子を養うために畑違いの信金マンになった更科は、自分を殺し、偽りながら日々を送ることになる。しかし、ロードバイクとの出会いが自分を変えるきっかけになった。ストーリーが進むにつれ、スポーツ漫画色が濃くなるが、本作の根底にあるのは、更科の自己再生ストーリーである。
登場人物・キャラクター
更科 二郎 (さらしな じろう)
「潮崎信用金庫」に勤めるサラリーマン。初登場時は28歳。子どもができたために大学在学中に結婚し、一人娘・更科ふくのを儲ける。入社1年目でマイホームを購入するが、ふくのが3歳の時に妻が失踪し、それ以来一人で娘を育てている。家のローンに追われ、生活のために自分を殺して生きてきたが、ロードバイクに魅了されて人生が変わっていく。大学在籍時に山岳スキーにハマっていたことから、ダウンヒル(急斜面のコースを高速で下るマウンテンバイク競技の一種)の才能がある。
更科 ふくの (さらしな ふくの)
「坂の上幼稚園」に通う、更科二郎の一人娘。自由奔放な性格で、朝のあいさつをしながら、幼稚園の先生の腹に頭突きをしたり、音楽の時間に一人で笑い転げたりする。また、舌足らずの早口と語尾に「~ぞ」とつけるのが特徴。『かもめのジョナサン』に由来する「パパはかもめぞ」という言葉で父の背中を押す。愛称は「ふく」。