宗教二世の葛藤
本作の主人公である恵麻と沢渡浩市は、共に仏教系宗教団体「玲瓏教会」の信徒である両親を持つ、いわゆる「宗教二世」である。かつては親と同じ信仰を受け入れていたが、現在は両親と距離を置き、自身の出自を隠しながら一般社会人として平穏な生活を望んでいる。なお、第1巻のあとがきで、著者の志村貴子自身も宗教二世であることが明かされており、恵麻の置かれた状況にはかつての著者の姿が投影されている。
幼なじみたちの人生の岐路
恵麻、浩市、そして工藤沙知子の三人は、玲瓏教会の子供会で出会い、そこで深い友情を育んだ。小学校を卒業しても、その絆は変わることなく続いていた。当時は宗教の是非や人間関係の複雑さについて深く考えることもなく、三人は穏やかな日々を過ごしていた。しかし、高校卒業を機に、恵麻と浩市は玲瓏教会から距離を置き、親元を離れて自立の道を歩み始める。一方、優秀でありながら意志の弱かった沙知子は、流されるままに教会が支援する玲瓏高校へ進学。現在28歳の彼女だけが、いまだに信仰と切り離せない状況にある。
両親との関係に悩む恵麻と浩市
親元を離れた恵麻と浩市は、自分たちが「宗教二世」であることを周囲に隠しながら生活している。職場や友人にはその事実を明かさず、ごくふつうの社会人として振る舞っている。しかし、両親は現在も玲瓏教会の信者であり、恵麻は家族との関係を保つために高額な仏壇を購入せざるを得なかった。一方、浩市もまた窮屈な思いを抱えている。恋人の野上実加との結婚を望んでいるが、それを母親にどう切り出せばよいのか分からず、答えを出せずにいるのだ。親を嫌いになることも、完全に縁を切ることもできない二人は、できるだけ穏やかな関係を保ちつつ、信仰からは距離を置きたいと願っている。
登場人物・キャラクター
有馬 恵麻 (ありま えま)
「エゴマエマ」のペンネームで活動するイラストレーターの女性。幼なじみの浩市や沙知子と同様に、熱心な玲瓏教会の信者である両親のもとで育った「宗教二世」だが、現在は信仰から離れ、両親に対して複雑な感情を抱いている。そんな中、漫画家の大森和彦(ペンネームは「大森上総」)と出会い、やがて交際を始める。当初は彼が宗教を信仰していることを知らなかったが、自宅に招かれた際に、大森もなんらかの信仰を持っていることを知る。しかし彼にとっての信仰は、「あくまでリフレッシュのための精神集中に過ぎず」、他者への強要や狂信的な傾倒はいっさいなかった。そのため、恵麻が自身の家庭の事情を打ち明けたことで、二人の関係はさらに深まっていく。やがてプロポーズを受けた恵麻は、大森と共に、これまで避けてきた実家の両親と向き合う決意を固める。
沢渡 浩市 (さわたり こういち)
恵麻の幼なじみの青年。年齢は28歳。心優しく思いやりがある一方で、やや押しに弱い面があり、交際相手の実加には尻に敷かれている。恵麻や沙知子とは教会の子供会で出会い、共に過ごした楽しい思い出があるため、これまで教団や両親に対して悪い感情は抱いていなかった。しかし、実加との結婚を具体的に考え始めると、「宗教二世」に対する世間の偏見や、両親が実加に入信を強要するのではないかという不安が芽生える。そして実加と共に、これまで直視してこなかった家族の問題に向き合い、悩み葛藤していくことになる。







