魔獣の王と人間の赤ん坊との出会い
本作の舞台となる五つの種族がひしめく「エドセア」の外側は、凶悪な力を持つ魔獣たちの住処(すみか)で、未知の大地となっている。そのためいつしか人々のあいだでは、魔獣たちの王である4体の魔獣王を討伐すれば、人属はさらに発展するというおとぎ話が語られていた。そんなある日、5種族で最も古く、神秘的な力を持つハイデンの王は13人の勇者に「至宝」の剣を与え、魔獣王の1体である月光のクレバテスの討伐を命じる。しかしその行為がクレバテスの逆鱗に触れ、勇者は全滅してしまう。この一件を受け、クレバテスは欲深き人属の殲滅(せんめつ)を決意し、ハイデンの地を蹂躙(じゅうりん)。ハイデン王を殺したクレバテスだったが、そこで人属の子供から赤子を託される。その子供の「赤子が人属の価値を証明する」という言葉に興味を覚えたクレバテスは、赤子を育てることを決意する。
赤ん坊の育て方を模索
月光のクレバテスは赤子に「ルナ」と名付けるが、人属のことをまったく知らないクレバテスは、早くも赤子の育て方に行き詰まってしまう。そのためクレバテスは勇者の一人、アリシア・グレンフォールを己の眷属(けんぞく)として蘇生し、彼女から人属の育て方を聞き出す。赤子を育てるためには乳母が必要だと知ったクレバテスは、乳母を雇うため人の姿に化けて「クレン」と名乗り、人属の地に足を踏み入れる。そして人里を訪れたクレンは、ルナがハイデン王家の血筋だと知り、彼を王にして人属のことを効率よく見極めようと考え始めるのだった。本作は人間について何も知らない魔獣の王が、王になる運命を持つルナを通じて人間を知り、その答えを導き出すことがテーマとなっている。
隠された真実と世界の謎
当初は人属を知るため、人間とかかわりを持ち始めたクレンだったが、月光のクレバテスによって滅ぼされたハイデン王国は、政治的空白地帯となった。するとハイデン王国を狙う各国の思惑、さらに台頭し始めた魔術師たちとほかの魔獣王たちの思惑が絡み合い、ルナをハイデン王にすると決めたクレンは否応なく、それらと対峙することとなる。そしてクレンは、ルナの父親が王になる前に謎の自殺を遂げたこと、人属に伝わる魔獣王にまつわるおとぎ話に隠された真実があることを突き止める。人属を取るに足らない存在と思っていたクレンは、自分もなんらかの思惑によって踊らされていることを知り、真実を求めて世界の謎を解くため奔走する。
登場人物・キャラクター
クレン
「月光のクレバテス」と呼ばれる、4体の魔獣王のうちの1体。魔獣としての姿は月明かりのように光り輝くたてがみと、巨大な3本の角を持つ黒い狼。ハイデンの住まう南の山脈のさらに奥深くに存在する「月の山」を縄張りとしている。気高く誇り高き存在で、己の縄張りを荒らされなければ人属に対して自発的に攻撃するつもりはない。これは人間を虫けら同然と考え、人属がクレン自身に害を為すことはないという無関心からくるものだった。しかしハイデン王が、勇者に月光のクレバテスの討伐を命じたことで状況は一変。勇者の持つ「至宝」が、己の身に届き得ることに危機感を覚え、ハイデン王国を強襲して滅ぼした。滅ぼす前に人属の本質に疑問を抱き、ハイデン王と対話しようとするも、王に拒絶されたため、人属を欲深く罪深い存在と考えるようになる。しかし、小姓の少年の「赤子が人属の価値を証明する」という言葉に心惹かれ、赤子を「ルナ」と名付けて育てることを決める。当初は赤子は勝手に育つものと楽観的に考えていたが、予想以上に貧弱なことを知り、人属の勇者であるグレンフォールを復活させて己の眷属とした。その後、アリシアの言葉に従ってルナを育てるために乳母としてネルルを眷属とした。人間と接する際には正体を隠すべきというアリシアの助言に従い、ルナを託した小姓の少年の姿に化け、「クレン」と名乗っている。影をあやつる力を持ち、姿を変えるためにその力を応用したが、人間の姿では肉体の強度や力が相応に低下する。
ルナ
ハイデン王国の遺児である男の子で、現ハイデン王の孫。生後6か月の赤ん坊で、ふわっとした浅紅色の髪をしている。ハイデンの種族は人属の中で最も古い歴史と神秘的な力を持つ。特にハイデンの王族は、最古の魔術と言われる「魔鉱石」の精錬技術を有し、魔鉱石を精錬して作る魔法の鋼「マナハイドライト」で作られた剣は「魔剣」と呼ばれる。魔剣は剣としての性能も優れているが、それ以上に特筆すべきは持ち主の力を何倍にも増幅させる特性で、一流の剣士が手にすると一騎当千の力を発揮する。この魔剣を打てるのは、王族の中でも限られた上級鍛冶師のみで、ハイデン王はその中でも最も腕のいい鍛冶師とされる。魔剣の中でもハイデン王が手ずから作り上げた傑作は「至宝」と呼ばれている。ハイデン王が勇者たちに至宝を与え、月光のクレバテスの討伐を命じたため、至宝の存在に危機感を覚えたクレバテスによって王は殺され、王都も破壊の限りを尽くされた。その際、ハイデン王族の赤子は小姓の少年に逃がされたが、飛んできた瓦礫によって少年が瀕死の重傷を負ってしまい、少年はクレバテスに言葉の限りを尽くして赤子を託した。赤子の本来の名前は「ハイデリアス6世」だが、クレバテスはこの名を知らないため、「ルナ」と呼ばれている。ハイデンの王族は言うなれば「魔法の鍛冶師」であるため、その血筋は例外なく最高位の魔術の適正を持つ。ルナも赤子でありながら高い魔術への資質を持ち、さらにハイデン王族の秘した魔鉱石の精錬技術にもつながるため、その身柄は各地の有力者に狙われている。
アリシア・グレンフォール
「月光のクレバテス」討伐に参加した13人の勇者の一人である女性。金髪碧眼の美女で、勇者らしくまじめで誠実な人柄をしている。ソーゴ村で生まれ育ち、幼い頃から勇者を夢見ており、剣の達人であった父親から剣の手ほどきを受け、腕力は男性に敵わないものの、剣術に関しては天賦(てんぷ)の才を持つ。ハイデン王から「至宝」の魔剣を与えられ、クレバテスと戦うが仲間諸共瞬殺された。だが、死ぬ間際にクレバテスに一太刀入れており、クレバテスに人属を脅威と思わせる結果となった。その後、死体はそのまま放置されていたが、クレバテスがルナを育てるのに人属の知識が必要と考えたため、クレバテスに血を与えられ復活する。クレバテスの血によって蘇生したため、クレバテスの命令には絶対服従で、拒絶しても勝手に体が動いてしまう。当初はルナを安全な場所に匿(かくま)おうと考えていたが、ルナがいなくなれば人属を今すぐにでも滅ぼそうとクレバテスが考えているのを知り、クレバテスだけでなく、ルナも守ることを誓う。装備はすべてクレバテスとの戦いで失い、当初は山賊との戦いにも苦戦していたが、その戦いの最中に失われた至宝「滝割り」を手に入れる。クレバテスとの戦いで左目に大きな傷を負ったため、山賊から奪った眼帯を左目に付けている。
書誌情報
クレバテスー魔獣の王と赤子と屍の勇者ー 6巻 LINE Digital Frontier〈LINEコミックス〉
第5巻
(2022-10-14発行、 978-4866972794)
第6巻
(2023-04-14発行、 978-4866972916)
【新装版】クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者 6巻 KADOKAWA
第1巻
(2024-07-26発行、 978-4048112994)
第2巻
(2024-07-26発行、 978-4048113007)
第4巻
(2024-09-28発行、 978-4048113489)
第5巻
(2024-11-28発行、 978-4048113496)
第6巻
(2025-01-28発行、 978-4048113502)
【新装版】クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者 3巻 KADOKAWA〈アライブ+〉
第3巻
(2024-08-28発行、 978-4048113472)