過去のトラウマと「仮面」の少女
高校生の千歳は、実家が多国籍料理店を営んでいることから幼い頃から周囲に珍しがられ、いじめを受けていた。その経験から、嫌われないように相手に合わせた表情や態度を作り、「仮面」をかぶって生きてきた。ある日、盗撮被害に遭った千歳は、偶然居合わせた少年、樹
に助けられる。樹に興味を持った千歳は彼のあとを追い、美術予備校にたどり着く。もともとものづくりが趣味だった千歳は、その場所の楽しげな雰囲気に惹(ひ)かれ、つい素のまま樹に接してしまう。そのささいな出来事をきっかけに「自分を変えたい」と強く思うようになった千歳は、自らも美術予備校に通い始め、美術や新たな友人との出会いを通じて、少しずつ素の自分を表現しながら成長していく。
恋愛と成長を描いた青春群像劇
本作は、千歳と樹がそれぞれ抱える事情に向き合いながら、互いに惹かれ合い恋に落ちていく様子を情感豊かに描いた青春ラブストーリー。千歳はものづくりを通じて少しずつ過去のトラウマを乗り越え、樹だけでなく気の合う仲間たちとも交流を深める中で、徐々に仮面を外して本音で語り合えるようになる。一方、自由奔放に見える樹も家庭に複雑な事情を抱えており、芸術の才能に恵まれない自分と真摯に向き合う姿が描かれている。時には衝突し、すれ違いながらも互いに刺激を受け合い、それぞれが本当にやりたいことを見つけていく「青春群像劇」としての側面も、本作の大きな魅力となっている。
美術予備校での二人の成長物語
千歳と樹は、それぞれ別の高校に通いながら、美術大学進学を目指す生徒が集まる「美術予備校」に通っている。作中に描かれるデッサンや課題制作といった創作活動は、登場人物の個性や内面を映し出すだけでなく、生徒同士が互いを理解し、切磋琢磨(せっさたくま)しながら関係を深めるきっかけにもなっている。個性豊かな予備校の仲間たちに圧倒されつつも、千歳は素の自分をさらけ出せる仲間と接する中で、少しずつ仮面を脱ぎ、心を解放していく。美術を通して自らの将来と向き合い、悩みながらも友情や恋愛を育み、人間として成長していく千歳の姿が、本作の大きな見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
南条 千歳 (なんじょう ちとせ)
高校2年生の女子。茶色のセミロングヘアにしている。学校では明るく愛想よく振る舞っているが、実際は人に嫌われることを恐れ、「いい人」の仮面をかぶって生活している。実家は多国籍料理と雑貨を扱うお店を営んでおり、自作の小物を販売してもらうほど「ものづくり」に生きがいを感じている。しかし、小学生の頃、実家の珍しさが原因でいじめを受けた経験があり、それ以来、目立つ個性を隠すようになった。ある日、痴漢に盗撮されているところを樹に助けられ、彼と知り合う。その後、彼が通う美術予備校を訪れ、活気あふれる生徒たちの姿を目の当たりにして、自分も美術予備校に通う決意を固める。予備校で過ごすうちに、ふだんの仮面をかぶった姿が観察力のある人には「うさんくさい」と思われていることを知り、仮面を捨てて自然体で接するようになる。自分とは正反対の自由で力強い樹に惹かれ、彼との距離を少しずつ縮めながら、人間としても成長していく。
樹 喜之介 (いつき きのすけ)
エリート私立高校に通う2年生の男子。黒髪で長身かつ痩身の体型をしており、整った顔立ちで独特の雰囲気を漂わせている。自由奔放な性格で、他人に遠慮せず自分の考えを率直に口にするため、周囲の顔色をうかがいながら生きてきた千歳にとっては、その生き方がまぶしく映っている。千歳とは盗撮被害に遭っていた彼女を助けたことをきっかけに知り合った。美術予備校に通っており、絵をはじめさまざまなことを器用にこなすが、本人は突出した強みのない器用貧乏だと考えている。観察力に優れているため、千歳の愛想笑いにもすぐに気づいたが、彼女の雑貨づくりの腕を見て意気投合した。仮面をかぶって「いい子」でいようとする千歳を叱咤(しった)しつつ、自らが通う美術予備校で共に学ぶ関係となる。








