ドラゴン養ってください

本作は大学生の村上とドラゴンのイルセラとのゆるい日常生活を描いたファンタジーコメディで、「人外が人に変身すること」への是非を論じている。イルセラは他種族に歩み寄るために変身魔法で、その種族に変身することを是としているのに対し、村上はかっこいいドラゴンの姿が台無しになると否定的な意見を持っており、「安易な人外の人間化」に対して一石を投じている。作中でもイルセラは訳あって変身魔法の習得に試行錯誤しているが、人間への変身がなかなか上手くいかず、その様子が面白おかしく描写されている。

異世界において「ドラゴン」とは魔法を使える「魔竜」と、精霊をあやつる「精霊竜」と呼ばれる種族のみで、彼らはほかの種族とは隔絶した力を持つため上位種族として扱われていた。しかし上位種族ゆえに、彼らは自らに「世界の調停者」としての役割を課し、厳しく律していた。大きな力は無用な争いを生むため、時に他種族と接する際にはドラゴンは変身魔法を使い、その種族に変身するようにしていた。また、ドラゴンは世界の調停者足り得る存在となることで一人前となるが、それには厳しい試験を受けることが必須で、魔法や知恵の研鑽（けんさん）を重ねる必要があった。しかしイルセラは、この試験に失敗した落ちこぼれドラゴンであり、再び試験を受ける時に備えて、魔法を修行するためにこの世界にやってきたのだ。

ある日、大学生の村上は街中を歩いていると、「養なってください」との送り仮名が間違ったカンペを持ったドラゴンと出会う。事情を聞くとドラゴンの名前は「イルセラ」と言い、イルセラは魔法の修行のためこの世界にやってきたが、行く当てもなく途方に暮れていたのだった。大問題に発展しそうな予感がした村上はイルセラをスルーしようとするが、紆余（うよ）曲折の末、イルセラを家に連れ帰ることになる。しかし、イルセラは予想以上のポンコツドラゴンで、村上がイルセラの起こす騒動に巻き込まれる日々をコメディタッチに描いている。また、村上はイルセラのことを周囲に秘密にしているが、イルセラのうっかりでバレたり、ほかのドラゴンが現れたりと心休まるヒマもない。