ワンルームエンジェル

何事にも投げやりで、惰性で毎日を送っていた幸紀は、アルバイト中に発生したトラブルをきっかけに、チンピラに腹を刺されて瀕死の状態となる。大量の血が流れる中、突然目の前に現れた美しい天使の幻覚を見たことでその場で死を覚悟するが、1か月の入院を経て無事退院する。しかしアルバイトはクビになり、入院費も支払わなければならないと途方に暮れて帰宅すると、そこには幻覚で見た天使の姿があった。天使の厚かましい態度に戸惑いつつも、記憶を失って飛ぶ方法すら忘れてしまった天使を不憫に思った幸紀は、天使をしばらく家に置くことにする。こうして、幸紀と天使の風変わりな共同生活が幕を開ける。

当初、幸紀は天使と生活しているからには、なんらかの恩恵が得られるのではないかと、ひそかな下心を抱いていた。しかし、そんなうまい話はなく、食費がかさんで生活費が余分にかかってしまうが、やや生意気で俗っぽい性格ながら相手を思いやることをためらわない天使に、幸紀は救われることとなる。天使もまた、貧乏でありながら自分の面倒を見てくれる幸紀に恩義を感じ、やがて心から本音を言い合える仲となる。友人とも恋人とも言い切れない二人の交流は、幸紀の投げやりだった人生観を大きく変える契機となり、天使にとっても、記憶を失った不安を和らげてくれるものとなり、幸紀と天使は互いにかけがえのない存在となっていく。

幸紀が人生に希望を持てず投げやりになっている理由は、家族との確執が深くかかわっている。幸紀は7年ほど前に半グレ集団に所属しており、売人としての仕事に手を染めていた。だが、その仕事で被害に遭ったヤクザによって、弟の友紀と共に捕らわれ、見せしめのために暴行を受ける。のちに友紀がそのヤクザの一員となったことを知った幸紀は、友紀や母親に顔向けできないと考え、自らへの嫌悪感から現在の性格が形成されている。この話を聞いた天使は、過ちを背負って罰を欲する幸紀は優しい人であると諭す。幸紀はこの言葉を鵜呑みにすることはできなかったが、自分の勝手な判断で自暴自棄になっていると反省し、やがて家族や自分の過去と改めて向き合う決意をする。