亜獣譚

「害獣病」とは、「シュペイ」という国家が散布した病原菌によって引き起こされる病気で、発症すると身体が徐々に別の生物へと変異してしまう。主な感染経路は、性交渉および妊娠による母子感染であることが確認されている。治療法は確立されていないものの、発症の進行を抑制する薬が開発されており、その服用によって害獣化を防ぐことができる。この進行抑制薬は、「ヴィエドゴニャ」と呼ばれる人々の血液から生成されている。ヴィエドゴニャは、生まれつき害獣病の病原菌を保有しているにもかかわらず、人間の姿で誕生する。彼らは生存中は害獣化しないが、死亡後には必ず害獣化することが判明している。ただし、妊婦が害獣病に感染した場合、その子供は重度の害獣状態で生まれる。現在、害獣病の陽性判定を受けた者には生殖器の切除が義務付けられており、そのため陽性であることを隠して生活する人も存在する。害獣病は不治の病ではあるが、死に至る病ではない。

ヴィエドゴニャの肉片には、死後に害獣化する性質に加えて、特殊な能力が秘められている。生きたヴィエドゴニャから切り離された肉片は、その瞬間から害獣化を始めるが、元の体に戻して押しつけることで、再び元の形に復元される。この独特な再生能力のため、ヴィエドゴニャを処分する際は、体組織の再結合を防ぐ目的で全身を粉砕するなど、死体を厳重に取り扱わなければならない。また、ヴィエドゴニャの肉片は治療にも応用されており、致命傷を負った人間にその肉片を押しつければ、害獣病の感染リスクはあるものの、手術器具を使わずに傷口を完璧に塞ぐことができる。

ツキヒコはある日、近隣国「エ・ドゥル・ララルトゥ・ル」に拉致される。その国は、首を切り落とされた人間さえも蘇生させる驚異的な技術を有していた。そこでツキヒコは、かつて自分の関与によって命を落としたと思い込んでいた女性、シュンカと再会を果たす。この思いがけない再会は、ツキヒコがソウに抱いていた恋愛感情に決定的な変化をもたらし、物語全体を大きく動かす重要な転機となる。