家族や幸せを問う人間ドラマ
三人兄弟の末っ子である道雄は、東京でほのぼのとしたエッセイ漫画を描いている漫画家である。すでに他界した両親や、妻子のこと、真ん中の兄のことを描いているが、岐阜の実家で一人暮らしをしている長男、信雄を漫画に登場させたことはない。ゴミ屋敷と化した実家で、30年もの間引きこもり続ける信雄の存在を、世間から隠すようにしてきたのだ。そんな道雄は、2年ぶりに帰省することになり、関わりを避けてきた信雄と再会する。本作は、両親の死後も延々と続く兄弟の関係をドキュメンタリータッチで生々しく描き、「家族とはなにか?」「幸せとはなにか?」を考える人間ドラマである。
兄が引きこもることになった原因
道雄はできれば信雄と会いたくなかったが、荒れ果てた一軒家に肉親を置き去りにしている罪悪感と、信雄を引きこもりにした直接の原因が、他ならぬ自分にあることから、帰省の際、実家を素通りすることができなかった。発達障害グレーゾーンの信雄は、なにかというと包丁を持ち出し、自分や他人に向けることが多かった。ある日、高校生だった道雄が帰宅すると、うつ伏せに倒れた母親に対し、怒鳴りながら包丁を振りかざす信雄の姿を発見する。ブチキレた道雄は包丁を取り上げ、馬乗りになって信雄を殴り続け、最終的に大怪我を負わせてしまう。工場勤務をしていた信雄は、その時のケガが原因で仕事を辞め、そこから30年以上も続く引きこもり生活が始まることになった。
制作経緯
本作で描かれているのは、作者の宮川サトシの実体験を基にした出来事である。代表作である『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』の執筆以降、宮川は『闘病「後」日記』、『そのオムツ、俺が換えます』など、病気や育児を題材にしたエッセイ漫画を発表してきた。ある日、担当編集と別のエッセイ漫画の企画の打ち合わせをしていた際、「スペリオールドキュメントコミック大賞」のことを教えてもらい、今まで意識的に避け、漫画にも登場させたことがない15歳年上の兄のことを描くことを決意して応募したという。そして本作は見事に大賞を受賞し、「ビッグコミックスペリオール」で連載することになった。
登場人物・キャラクター
高山 道雄 (たかやま みちお)
岐阜県出身、東京在住の漫画家の男性。年齢は40歳。三人兄弟の末っ子で、15歳上の長男、信雄、7歳上の次男、康二がいる。親兄弟や妻子のことをほのぼのとしたエッセイ漫画にして暮らしている。実家に30年もの間引きこもっている信雄に関わりたくないが、荒れ果てた一軒家に肉親を置き去りにしている罪悪感に苛(さいな)まれる。
高山 信雄 (たかやま のぶお)
高山家の三人兄弟の長男。年齢は55歳。子どもの頃から、意味不明のことを言う、すぐに怒る、なにかといえば包丁を持ち出して脅すなどの問題行動が多い。両親の死後は、ゴミ屋敷と化した実家で一人で暮らし、30年間も引きこもり生活をしている。
書誌情報
名前のない病気 3巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2025-02-28発行、978-4098631728)
第2巻
(2025-07-30発行、978-4098635207)
第3巻
(2026-02-27発行、978-4098637881)







