新米オッサン冒険者、最強パーティに死ぬほど鍛えられて無敵になる。

主人公のリック・グラディアートルは、ギルドの事務員として14年も働いてから冒険者になった異色の経歴の持ち主。思い切った転職の理由は、幼少期に読んだ伝記「英雄ヤマト伝説」の影響によるもので、同書に記されていたカイザー・アルサピエトというモンスターを倒し、あらゆる願いを叶える「アカシックレコード」を手に入れることを夢見ている。「三十路を過ぎてデビューした出遅れオッサン冒険者」と揶揄されながらも、持ち前の勇気とたゆまぬ努力を武器に邁進するリックの姿からは作品のテーマである「新しいことを始めるのは何歳からでもよい」という前向きなメッセージが滲み出ている。努力型のリックが天才型の強敵に立ち向かう熱血バトルを描写する一方で、駆け出し冒険者のリックがSランク相当の実力を秘めていることで生じる戦力差ギャグが随所に盛り込まれており、「手加減八奥義」を駆使して相手を殺さないように戦うリックの姿が読者の笑いを誘う。

冒険者の実力の指標となるランクは、FからSの七段階に分かれている。多くの冒険者は10代でFランク冒険者としてデビューするが、Fランクのうちはモンスター討伐などの危険を伴うクエストは受注できず、任される仕事はギルド施設の清掃のような安全なものに限られる。昇級試験に合格してランクが上がると、より困難なクエストを受注できるようになる。また、冒険者に求められる体力、身体操作、魔力操作、魔力量を総称して「四大基礎」と呼ぶ。それぞれF-からS+の21段階で評価されるが、リックの体力など、計測不能の意味でEXの評価が与えられている例外も存在する。なお、四大基礎のうち魔力量は20歳を過ぎると成長が望めなくなってしまう。そのため、三十路で冒険者デビューしたリックは完全な出遅れである。

リックは大陸最強と謳われる、伝説のパーティ「オリハルコン・フィスト」に所属している。その構成員は怪力と知性を併せ持つオークの賢鬼ブロストン・アッシュオーク、規格外の魔力を有する吸血鬼の壊滅魔童アリスレート・ドラクル、ドワーフとエルフの混血で世界最高の武器職人と評される千年工房ミゼット・エルドワーフなど、Sランクの実力者ばかり。彼らはリックを最強パーティの一員として恥じないレベルまで育てた師匠でもあるが、その修行は死者すらよみがえらせるブロストンの回復魔法を前提とした過酷なもので、およそ常人に耐えられる内容ではなかった。2年間の修行中にリックが不慮の死を遂げた回数は一度や二度ではなく、修行の日々を思い出すだけでリックは精神の均衡を失ってしまう。先輩たちが口にする「軽めにしておこう」「もうしないよ」「真面目にやるて」は「オリハルコン・フィスト三大絶対信じちゃいけない言葉」として恐れられている。