悩める青年が出会った秘密基地のような車
機械部品の卸会社に勤務する入社2年目の営業部員・望月雲平は、会社の古い体質に慣れないでいた。そんなある日、働くことの意味がわからなくなった雲平は、無断欠勤をしてあてもなく社用車を走らせる。とある道の駅の駐車場で、渚つぐみという女性と出会った雲平は、彼女の車に招かれる。それは後部シートがすべて改造されていて、車の中で洗い物や料理までできる、秘密基地のような商用バンであった。つぐみは愛車・アルビレオ号で旅をしながら仕事をする絵本作家だったのだ。その後、雲平はとりあえず長い有給休暇を取ることになった。つぐみの生き方に憧れを抱いた雲平は、実家の商用車を借りて彼女と合流。つぐみを師匠と仰ぎ、車中泊をしながら自由気ままな旅に出た。本作は人生に行き詰まった雲平が、旅の途中でさまざまな人と出会い、成長していく物語である。
人との出会いで成長するストーリー
「Carstay」掲載の作者インタビュー(2023年7月31日)によれば、本作執筆のきっかけは、ワニブックスの編集者から、車中泊を題材にした漫画の提案を受けたことだという。幼少期に家族でクルマ旅をした経験を持つ作者は、車中泊に懐かしい印象を持っていたが、編集者に教えてもらった本格的な車中泊は、全く違ったものだった。寝泊まりするだけではなく「自分の好きなものを詰め込んだ大人の秘密基地で生活をするもの」だと知った作者は二つ返事で連載を承諾した。また、長い社会人生活を経て漫画家になった作者は、「雲平を社会人だった自分と重ね合わせて描いている部分もある」という。「自分で決断をして、人生の楽しみを見つけることで変化」したという作者の姿が、雲平に投影されている本作は「人との出会いで成長すること」がテーマになっている。
リアルに描かれた旅先の情景やバンライフ
本作に登場するつぐみの愛車「アルビレオ号」や、世界を旅した老夫婦の「パピー号」といったバンライフ用の車は、細部にわたってリアルに描かれており、車中泊スペースであるRVパークでの電源の取り方といった実用的な描写も多い。また、主人公たちが訪れる旅先の風景や名所、店舗などが生き生きと描かれている点も本作の大きな魅力である。これらは、「漫画を描きながら旅に出て、時にはバンライフをして、取材をして、また漫画を描く。行き詰まるとまた旅に出る生活を繰り返していました」という、実際の体験・取材の成果である。
登場人物・キャラクター
望月 雲平 (もちづき うんぺい)
埼玉県出身の一人っ子の男性。実家は元和菓子屋。機械部品の卸会社に入社し、1年半が経過した営業部員。自分のミスをきっかけに、働くことの意味がわからなくなり、会社から逃げていたところで渚つぐみと出会う。自由気ままな車中泊の旅をしながら、夢中になれる仕事をしているつぐみに憧れ、自分もバンライフを始めた。コミュ障気味だが、犬と子どもには懐かれる。
渚 つぐみ (なぎさ つぐみ)
うめまよという犬と一緒に、愛車・アルビレオ号で、車中泊の旅をしている絵本作家。長い黒髪と丸いメガネが特徴で、小柄ながらグラマーな年齢不詳の女性。面倒見がよい姉御肌で、会社生活に行き詰まっていた望月雲平と一緒に旅をし、いろいろとアドバイスを送る。絵を描くことが大好きで、執筆中は周囲の声が聞こえないほど夢中になる。