舞台は竜がふつうに存在する世界
本作は、竜が棲(す)む江戸時代のような世界を舞台としたファンタジー作品で、登場人物の多くは日本刀を主な武器としている。この世界における竜は一匹だけではなく、都では年に二、三回現れ、豊穣から災厄まで司る存在で、民間のみならず国からも畏敬の念を抱かれている。その一方で、竜はいまわの際に大地へ墜落すると、周囲に甚大な被害をもたらすことでも知られており、300年前には当時の都に落ち、町が壊滅状態になるほどの被害をもたらした。なお、地名は竜の部位に由来しており、「頸州」の「喉仏半島」といった名称となっている。
竜殺しの大いなる旅路が始まる
首打人である櫛灘イサギは、斬首した相手の記憶を一瞬見ることのできる「サトリ」という異能の力を持っている。その力により、父親のように慕っていた英雄にして罪人の須佐タツナミの首打役を務めた際、タツナミが巨大な竜を斬った姿を垣間見る。そんな中、タツナミの息子であるチエナミから、タツナミが「100年以内にすべての竜が落ちる」と予言していたことを知ったイサギは、チエナミに導かれるように陵獄島を飛び出す。そして、タツナミの真意を探すべく旅に出るが、この旅が竜殺しの旅路となることを予感していた。
壮絶な異能交じりの剣術バトル
イサギは卓越した剣術の名手で、本土では「斬聖」と呼ばれて恐れられている。また、国の英雄と称えられた最強の将軍・タツナミの薫陶を受け、実戦経験は乏しいものの今は首打ちの腕も上がり、斬首した刃に血すら残らないほど。タツナミの息子であるチエナミは、父親によく似た容姿をした好奇心旺盛な剣術の達人で、相手の間合いに一瞬で踏み込む歩法「秘踏」や、岩すらも一刀両断する奥義「瀧割り」など、人間離れした技を使いこなす。また、イサギたちと敵対する人物たちも、死んだ竜の尾から出てきた刀の使い手や、大地を割るほどの力を秘めた試斬人など、異能と剣術の相まったバトルシーンが繰り広げられる。
登場人物・キャラクター
櫛灘 イサギ (くしなだ いさぎ)
処刑場で首打役を務める少年。古くからの流刑地である「陵獄島」で生まれ育った。年齢は14歳。両親が罪人という素性を持つ。生まれ育った環境から常識に疎い部分があり、特に陵獄島には姿を現すことのない竜にあこがれを抱いている。本土の人間から「斬聖」と畏怖される剣術の名手で、難しいとされる罪人の首打ちを、骨を断つ音すら出さずにやり遂げる。また、首を切った人間の記憶を垣間見る異能の力「サトリ」の持ち主でもある。そのため、首打役という仕事を嫌悪しており、自らの首にはストレスからくる自傷によってできた傷跡が残されているため、つねに包帯を巻いている。流刑地に罪人として送られてきた「国の英雄」として知られる須佐タツナミに気に入られ、彼から武芸の修行を受け、父親のように慕うようになる。しかし処刑日が決まり、イサギが首打役を担当することとなり、嫌々ながらも彼の首を刎(は)ねた。その際「サトリ」の力によって、タツナミが竜殺しを成し遂げた瞬間を垣間見る。のちに、タツナミの息子である須佐チエナミが、父親の竜殺しの真相を探るために現れると、彼に誘われる形で陵獄島を旅立つ。
ツバキ
試斬人である八雲蒼緋の娘。父親と二人暮らしをしている。年齢は13歳。死んだ竜の尾から出てきた刀に魅入られた父親に斬られたことで、その体に刀を納める「鞘」となった。寡黙な父親とは幼い頃から満足に会話を交わしたことがなく、挨拶のみの生活を送ってきた。母親の記憶はなく、残された着物だけが唯一の母親とのつながりとなっている。辻斬りに堕した父親の凶行を止めるべく、櫛灘イサギの前に現れ、人知れず彼の手によって父親が殺されるように画策した。
書誌情報
竜送りのイサギ 3巻 小学館〈サンデーうぇぶりコミックス〉
第1巻
(2024-01-12発行、 978-4098530816)
第2巻
(2024-05-10発行、 978-4098533084)
第3巻
(2024-09-11発行、 978-4098535651)