線場のひと

線場のひと

小宮りさ麻吏奈のデビュー作。終戦直後の日本とアメリカを舞台に、愛を誓い合いながらも時代に翻弄され、離れ離れになった二人の女性と、それぞれの運命を共にする二人のアメリカ人兵士が出会う。四人の若者たちが織り成す激しくも切ない恋愛模様を描いた、戦後史ラブストーリー。リイド社「トーチweb」で2023年4月20日から2025年1月30日まで連載。2024年12月に、宝島社「このマンガがすごい!2025」オンナ編第9位を獲得している。

正式名称
線場のひと
ふりがな
せんじょうのひと
作者
ジャンル
第二次世界大戦
 
その他歴史・時代
レーベル
トーチコミックス(リイド社)
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戦後の若者たちの激動を描く

本作は、第二次世界大戦後の日本とアメリカを舞台に、異なる生い立ちやセクシャリティを持つ四人の男女の若者たちが、国家や家族、時代に翻弄されながらも青春や将来に向き合い、葛藤する様子を描いたヒューマンドラマ。物語は、ヒロインの一人である村田頼子の視点から始まり、その後は頼子の帰りを待つ須藤ハル、日系アメリカ人のアーサー・ジロウ・ハシモト、アメリカ人のスコット・チャールズ・オコナーと、それぞれの視点へと切り替わりながら進行していく。作中には、暴力や性描写をはじめとする凄惨で生々しい描写が見られるものの、それらは静かな筆致と淡々とした雰囲気で表現されている。

離れ離れになった二人の少女

戦火が激しさを増した東京。頼子は空襲から逃れるため、東京を離れて疎開することが決まる。頼子にとって愛を誓い合ったハルと離れ離れになることは、耐えがたい苦しみだった。それでも、ハルへの募る思いを胸に、頼子は不安を抱えて疎開先へと向かう。長い年月が流れ、ついに終戦を迎える。だが、疎開先から東京に戻った頼子の目に映ったのは、焼け野原と化した変わり果てた故郷の姿だった。街は徐々に復興していくものの、頼子とハルの再会は叶わず、帰京してから4年間彼女を待ち続けていた。しかし、ハルの行方は依然として不明のままで、希望と絶望の狭間で揺れ動く日々の中、頼子はついにハルからの手紙を受け取る。だが、その手紙にはハルがアメリカ兵と結婚するという、衝撃的な内容が綴られていた。

焼け野原の東京で、愛と絶望を生き抜く

終戦後、ハルは疎開先から戻って来ない頼子の身を案じていた。そんな中、頼子への手紙が父親に見つかったハルは、厳しい折檻を受ける。その夜、父親から見知らぬ男性との縁談を強要されたハルは、怒りと悲しみのあまり家を飛び出してしまう。ハルは、焼け野原となった東京をさまよい続けるが、若い女性には行くあても働く場所もなかった。身を売るしかない現実に絶望したハルは川に身を投げるが、そこを偶然居合わせたアーサー・ジロウ・ハシモトに救われる。一方の頼子もまた疎開先から戻ったものの、ハルと再会できずにいた。路頭に迷い、娼婦として生きるしかなかった頼子は、スコット・チャールズ・オコナーと出会い、それぞれの思いと人生が戦後の混乱の中で交錯していく。絶望に抗うために、時には何かをあきらめ、時には誰かを頼りながら、限られた選択肢の中で生き抜いていく二人の姿が、物語の大きな見どころとなっている。本作では、戦時中や戦後におけるセクシャルマイノリティも重要なテーマとなっており、現代以上に立場の弱い同性愛者やクィアを取り巻く現実と、彼らの切実な思いが繊細に描かれている。

登場人物・キャラクター

村田 頼子 (むらた よりこ)

東京に住む少女で、須藤ハルの親友。疎開先ではハルと深い絆で結ばれており、友情以上の感情を抱いていた。家族は両親のほかに兄と弟がいた。黒のロングヘアを二つのおさげにした、そばかすのある顔立ちが特徴。終戦直後、空襲で家族全員を失い、天涯孤独の身となってしまう。疎開先から東京へ帰郷し、ハルとの再会を切望するものの叶わず、焼け野原となった街をさまよい続けている。誕生日は1928年12月25日。好きな食べ物はきんとんで、趣味は読書。

須藤 ハル (すどう はる)

東京に住む少女で、村田頼子の親友。疎開先では頼子と深い絆で結ばれており、友情以上の感情を抱いていた。黒のセミロングヘアが特徴。家族は両親のほかに弟と妹がいる。終戦後、頼子との再会を切望するものの叶わず、厳しい現実に直面していた。そんな戦後の混乱の中、厳格で横暴な父親に耐えられず家を飛び出し、身投げした際に日系アメリカ兵のアーサー・ジロウ・ハシモトに救われる。誕生日は1928年4月20日。好きな食べ物はコロッケとエビフライで、趣味は押し花集め。

アーサー・ジロウ・ハシモト

ワシントン州シアトル出身の日系アメリカ人の青年。黒髪に眼鏡をかけている。家族は両親のほかに兄と妹がいる。戦場で命を落とした兄を深く尊敬しており、兄の無念を晴らすために自らアメリカ軍に志願した。終戦後、駐屯兵として日本に派遣される。焼け野原となった東京で、川に身を投げた須藤ハルを助けたことがきっかけで親しくなる。誕生日は1926年7月12日。好きな食べ物はブルーベリーマフィンとレモンメレンゲパイで、趣味は野球観戦。

スコット・チャールズ・オコナー

ジョージア州アトランタ出身のアメリカ人の青年。家族は両親のほかに兄が一人いる。終戦後、駐屯兵として日本に派遣される。ある日、仲間に無理やり連れて行かれた娼館で村田頼子と出会う。日本語はあまり得意ではないが、つねに持ち歩いているメモ帳に単語を書き留めて勉強している。花や野草が好きで、訪れた場所で見つけた植物をスケッチしている。誕生日は1929年8月7日。好きな食べ物はミートパイと日本で食べたすき焼きで、趣味は植物観察。

書誌情報

線場のひと リイド社〈トーチコミックス〉

上巻

(2024-04-17発行、 978-4845866205)

下巻

(2025-04-21発行、 978-4845867912)

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