言解きの魔法使い

言解きの魔法使い

結月さくらの代表作の一つ。時は昭和24年(1949年)。魔女に左腕を奪われ、摩訶不思議な図書館に閉じ込められた青年・藤堂ナツメが、己の体を取り戻すべく文字の怪異たちと戦う姿を描いた、昭和魔法奇譚。ただ怪異たちと戦うだけではなく、さまざまな謎を解くミステリー要素とファンタジーの要素も楽しめて、昭和前期という独特の時代観も相まってノスタルジックな雰囲気を醸し出している。小学館「月刊サンデーGX」2015年7月号から2019年1月号にかけて連載された作品。

正式名称
言解きの魔法使い
ふりがな
ことときのまほうつかい
作者
ジャンル
魔法使い・魔法少女
 
サスペンス
レーベル
サンデーGXコミックス(小学館)
巻数
全6巻完結
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行方不明の親友との再会

本作は、時計修理店で働く矢萩真が仕事の傍ら、失踪した親友の藤堂ナツメを捜すところから物語が始まる。真は4年の歳月を経て、藤堂家の所有する私蔵図書館でナツメと再会するも、その図書館は怪異が住まう摩訶不思議な場所で、ナツメは「言葉」と「文字」をあやつる魔法使いへと変貌していた。ナツメと真の二人が「言解き」というタイトルどおり、漢字の持つ意味を解きながらストーリーが展開される。ナツメは自らの左腕を取り戻すために怪異を追い求め、真はそんなナツメをサポートしている。

「言葉」と「文字」をあやつる魔法使い

4年前に忽然と姿を消したナツメは、実家が所有する私蔵図書館を訪れていた。その図書館は遠い宇宙とつながり、古い神が通る場所とされており、古い神は知識欲に飢えていることから、代々藤堂家は図書館に本を収めるのと引き換えに繁栄を手にしてきた。しかし時は移ろい、昭和になった頃にはその教えを守る者もおらず、ナツメは古い神が宿る場所であることを知りながら教えを破り、図書館に入ってしまう。本好きのナツメは貴重な本がある図書館に狂喜するが、そこで一人の魔女と出会う。そして、魔女の呪いでナツメの左腕は文字となって四散し、左腕を取り戻さなければ図書館から出られなくなってしまう。腕の文字はそれぞれ物の怪と化し、ナツメは魔法使いとなって物の怪を倒しながら、自らの左腕を取り戻すために奔走する。文字の物の怪はそれぞれの文字の正体を見極めなければ倒すことができないため、本作は文字の正体を探るミステリー的な要素も内包している。

摩訶不思議な図書館が舞台

本作の舞台となる藤堂家の私蔵図書館は、魔法使いと魔女が訪れる摩訶不思議な場所で、文字の物の怪以外にも、魔法使いや魔女が物語に深くかかわってくる。主人公の一人である真は、忽然と姿を消した親友のナツメを捜すためにたまたま図書館を訪れたが、その過去には魔法使いの影が見え隠れしていた。ナツメと真を取り巻く謎は、一つの謎が解けたと思ったら新たな謎が現れ、ストーリーが複雑に絡み合って事態は次第に混迷化していく。このように、ナツメがただ文字の物の怪と戦うだけではなく、謎が謎を呼ぶ展開が見どころになっている。

登場人物・キャラクター

藤堂 ナツメ (とうどう なつめ)

名家として知られる藤堂家の長男。色素の薄い髪を長く伸ばし、後ろで一つ結びにしている。「書痴」と呼ばれるほどの本マニアで、4年前に実家の所有する私蔵図書館に足を踏み入れた際、魔女に出会って左腕を奪われた。その後は「文字」となった左腕を取り戻すべく、「文字と言葉の魔法使い」へと成り果てる。魔女の呪いのせいで、魔法使いや魔女以外からは姿が見えず、図書館から外にも出ることができないため、世間では失踪者扱いになっている。左腕は金属製の骨格のような異形の義手を使っているため、ふだんは厚手のコートを羽織って隠している。魔法使いとしての能力は、言葉や文字を力にかえて、それを強制することができる。針をひとりでに浮かして矢として使ったり、「破壊」の言葉で対象を壊したりと、汎用性の高い能力となっている。使い方によっては相手に言葉で強制的に命令することもできるが、その場合は「名前」を呼ぶことが必須であるため、名前を知らない人間や偽名を名乗る人間には使えない。また「聞く耳を持たない」人間にも効果が薄い。特に魔女や魔法使いは自己完結した人間が多く、ほとんど相手の言葉に耳を傾けないため、魔女や魔法使いに対しては名前を知ったうえで不意打ちをしなければ、ほとんど意味がない魔法となっている。このため、魔法使いとの戦いでは刀を使うことも多い。

矢萩 真 (やはぎ まこと)

時計修理店で働く青年。4年前に失踪した親友の藤堂ナツメを捜し続けており、そのせいで身なりに気を使っておらず、当初は髪が伸び放題だった。藤堂の行方を追って藤堂家の所有する私蔵図書館を訪れ、ナツメと再会する。ナツメに帰るように説得されるも、図書館に強情に居座り、ナツメの左腕を取り戻す手伝いを申し出る。神に供物を捧げるという意味を持つ「示」の文字と相対した際に、人身御供の身代わりとして矢萩真自身の髪を差し出したため、以降は髪を短く切りそろえ、精悍な雰囲気を漂わせている。実は4年前、ナツメの失踪直前に婚約者の市川美鈴に刺されて一度死んでいる。その後、何者かが助けてくれて安全な場所で息を吹き返したが、まともに動けるようになったのは1年以上経過したあとで、社会的には死んだ者扱いされている。当初はこの「何者」かがナツメだと思っていたが、彼と再会した際の反応からそうではないと確信する。「何者」かは魔法使いであると推測しているが、その思惑に疑問を抱いてもいる。また、美鈴になぜ刺されたのか、その動機はいっさい不明で、突如凶行に及んだ彼女に対しても疑問が残っている。

魔女 (まじょ)

藤堂家の私蔵図書館にとらわれている魔女。長く伸ばした髪に大きなリボンをつけた幼い少女で、裾の短い着物を羽織っている。この魔女や魔法使いは本来、藤堂ナツメの「文字と言葉の魔法使い」のように、自らの力を象徴として名乗るが、魔女自身が何の力を持っているのかは不明。本名も不明なため、ただ単に「魔女」と呼ばれている。ほかの魔女がいる場合は区別するため、その魔女は「〇〇の魔女」と呼ばれる。4年前、ナツメが図書館を訪れたことで、彼の前に姿を現す。幼い子供のように振る舞っており、自らを図書館で生まれ育った存在と認識している。幽霊のような存在で、魂だけの状態でつねに浮いている。本体は図書館地下の最下層に存在するらしいが、図書館の深部は神の通り道として使われているため、まともな人間は入ったら二度と出られない魔境と化しており、最下層の状態も不明。藤堂家の教えで誰も図書館を訪れなかったために人恋しくて、図書館を訪れたナツメに懐く。だが、ナツメが図書館から出て行こうとしたため、感情のままにそれを拒絶して彼に呪いを掛けてしまう。言動は幼い子供のそれで善悪の観念すらなく、本人も自分の力を把握しておらず、ナツメに掛けた呪いを解くこともできない。情緒が育っていないが、矢萩真に「友達」の在り方を教わり、「悪いことをしたら謝罪する」と教わったことで、ナツメに謝罪して和解した。ただ依然としてその正体には不明点が多く、図書館を巡る謎の中心人物となっている。

書誌情報

言解きの魔法使い 全6巻 小学館〈サンデーGXコミックス〉

第1巻

(2015-12-18発行、 978-4091574367)

第6巻

(2019-02-19発行、 978-4091575586)

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