自分を異星人と思い込んでいるアメリカ人
アメリカ人のアリスとエルは、月面にある宇宙関連の基地でコールドスリープに入っていたが、ほかの研究員に忘れられたまま放置され、目覚めた時には基地に自分たち二人しか残っていなかった。幸いにも物資が豊富だったため、基地内での生活に困ることはなかった。そして数少ない娯楽用品だったビデオテープには、「自分たちはオービタル星人と呼ばれる宇宙人で、地球人は野蛮な生物である」という設定のSFドラマが収録されていた。アリスたちは、これをフィクションだと知らないまま繰り返して見続けるうちに、自分たちはオービタル星人で、地球の偵察こそが任務だと思い込むようになっていた。そして、月面に残されていた帰還用のロケットで日本に降り立ち、月島の寮で生活することになる。
人類の常識は宇宙の非常識
10代後半までほかの人間を見たことがなかったアリスとエルは、自分たちがオービタル星人だとカンちがいしていることもあり、日本社会の常識がまったく通用しない。そのため、予想外の質問や行動を起こしては、寮に住む人々やその周辺の人々を意図しないまま混乱に陥れる。特に深刻な被害を被っているのが、子供との触れ合いを何より大切にしている女子大学生の垣瀬みる。彼女は本の読み聞かせや電話相談室など、さまざまな子供にかかわるアルバイトをしていたが、毎回、エルが空気の読めない行動や発言をするたびに失職していた。やがてエルに敵意を向けるようになったみるは、彼を懲らしめようとするもののことごとく失敗してしまう。
「スイッチ」を巡る騒動
アリスとエルが住んでいた月面実験基地には、SFドラマを収録したビデオテープのほかに謎のスイッチが置かれていた。SFドラマでは「スイッチを押すと兵器が起動して地球が滅ぶ」というシーンがありがちで、それを真に受けたアリスは、スイッチを基地内で厳重に保管していた。だが、エルが勝手にスイッチを地球に持ち込んでしまったため、アリスはつねにスイッチを見張らなければならない状況に陥る。さらに、旧ソビエト連邦が月面実験基地を監視するために送り込んだ工作員のベルカ・オブイェ-クトが、ビデオテープを確認したことで二人と同じカンちがいをして、このスイッチを持ち帰ればアメリカに勝てると意気込む。
登場人物・キャラクター
アリス
自分を宇宙人だと思い込んでいるアメリカ人の青年。地球で初めて出会った女子高校生・楓の紹介で、月島の寮で暮らしている。見た目は10代後半だが、実年齢はアリス自身も知らない。気が強く、素直になれない性格だが心根は優しい。幼い頃からNASA の月面実験基地でコールドスリープに入っていたが、ほかの研究員に忘れられたまま放置されていた。コールドスリープから目覚めてからは、数年間はエルと共に月面実験基地で生活していた。しかし、残されていたビデオテープの影響で、自分たちが「オービタル星人」と呼ばれる宇宙人で、地球を監視しなければならないと思い込み、スパイ活動のために日本の月島に潜入した。潜入後は活動のためには働く必要があると考え、自分たちが宇宙人であることを隠しながらさまざまなアルバイトに励んでいる。アメリカ人なのに日本語を話せるのは、二人が滞在していた月面実験基地に日本の電波を受信できるラジオが設置されていたためである。今一番大切なのは「生活」。
エル
自分を宇宙人だと思い込んでいるアメリカ人の青年。地球で初めて出会った女子高生の楓の紹介で、月島の寮で暮らしている。アリスとよく似た容姿で、穏やかでマイペースな性格の持ち主。アリスと同様に自分がオービタル星人だと思い込んでいる。地球に対して友好的で、好奇心旺盛なため、情報収集のためによく出歩いている。アリスと同様に一般常識に欠けており、気になったことがあれば空気を読まずに質問攻めにする。また、興味がないことはすぐ忘れる悪癖があり、それが原因で余計なトラブルを招くことも少なくない。今一番大切なのは「パチンコ」。
書誌情報
ありそうでNASA荘 全4巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2015-04-06発行、 978-4063825886)
第4巻
(2017-07-20発行、 978-4063829846)