オケラのつばさ

第1巻

桶川翼は、3年前に亡くなった父親から、遺産としてマンション一棟を譲り受けて以来、金に不自由しない生活を送っていた。しかしある日の夜、バイクを飲酒運転して事故を起こし、命を落とす。そこへ全裸の神様、貧乏神が現れ、翼の命を助ける代わりに、翼にとって一番大切なものを捧げるという契約を交わす。実は貧乏神は、偉い神様である大神様から命令されて、天界から地球を救うためにやって来たのだった。その第一歩として、翼から金を取り上げて、地球や愛のために人生を捧げてもらうことを目的としていた。かくして翼は命の次に大切な金を捧げ、死ぬまで一生金を使えないというルールに従うはめになる。 その後、知人宅を転々として貧乏のつらさを知った翼は、自分がイケメンであり、マンションを持っていることを活用し、複数の女性を無料で住まわせる代わりに、彼女達の世話になろうと画策していた。しかし、それでは意味がないと判断した貧乏神は、翼をマンションから連れ出そうと決意する。翼が寝ているあいだに南アルプスの森に移動させるが、そこで翼はイノシシに襲われ、再び命を落としてしまう。貧乏神はもう一度翼を生き返らせたものの、魔法の使い過ぎによって魔力を失い、普通の人間と同然の存在となってしまうのだった。

第2巻

桶川翼と貧乏神は無一文で、バスにも乗れずにいた。そこを土砂崩れに襲われ、翼はなんとか生き延びるものの、貧乏神は死んでしまう。だが、現れた大神様により貧乏神は復活し、同時に彼の失った魔力も回復する。貧乏神の魔力が戻ったと知った翼は、魔法でもとのマンションに帰してほしいと希望するが、それでは地球を救う目的が前進しないと気づいた貧乏神は、彼にこのまま試練を与えようと決める。そして協力者として、翼の幼なじみの中村大作を連れて来る。彼は自宅で自慰行為の途中に死んでしまい、命と引き換えに翼と同じ条件で連れて来られたのだった。 翼と中村はどうにかマンションまで帰り着くが、そこに中村を新たに住まわせたため、翼を世話してくれていた女性達は次々と彼を見限り、マンションを出て行ってしまう。さらに、最後に残った清美によって、翼は有り金すべてとマンションの権利書も盗まれてしまう。 完全に無一文でマンションを追い出されてしまった翼と中村は、残された唯一の財産である車で、自給自足をするために海の近くに移動するが、その途中でガス欠に見舞われてしまう。だが、途方に暮れる翼達の前にヒカルという女性が通りがかる。ヒカルは翼と中村が置かれている境遇についての説明を信じ、金を使えない彼らのために、現金ではなくガソリンを運んで来てくれるのだった。下心のない他人の善意に初めて触れた翼は、衝撃を受ける。

第3巻

ヒカルの善意によって、桶川翼と中村大作はヒカルの祖父が経営する海辺の民宿「BEACHボーイズム」を訪れた。おおらかな性格のヒカルの祖父は、民宿を手伝ってくれたら二人を無料で泊まらせてくれるというが、民宿はまったく流行っておらず、客もいないので実際にはやることも特になかった。 そんなある日、翼の差し歯が取れてしまう。唯一翼に残された価値ともいえる「イケメン」すら失われてしまい、翼は何度目かの絶望を覚える。一方の中村は、翼がイケメンでなくなったので、自分と翼が同等になったかのように勘違いし、そのままヒカルに告白するものの玉砕。気まずさから中村と翼は民宿を出て行こうとするが、その際に翼の車が崖から海に転落してしまい、二人は完全にすべてを失った。ここに至って翼は、金だけに頼ってきた自分の人生を見つめ直し、金への未練をすべて捨て去ろうと決意。吹っ切れた翼は、恥じらいを捨ててビーチで民宿の客引きをして、客を「BEACHボーイズム」に連れて来ることに成功する。だが、恩人のために役に立てたと思ったのもつかの間、捨て猫を2匹も連続で拾って来てしまい、またしてもヒカルとヒカルの祖父に迷惑をかけてしまう。

第4巻

桶川翼と中村大作は、近所に住むちょっとエッチな少年、ケンちゃんに、民宿「BEACHボーイズム」の宣伝のためのホームページ作成を依頼する。ヒカルのおっぱいにかかわる騒動を起こしつつも、ケンちゃんは無料でホームページを作ってくれるのだった。このホームページのおかげで、「BEACHボーイズム」は大盛況。収入が増えたヒカルの祖父の厚意で、ケンちゃんの母の経営するスナック「アイリーン」に翼と共に遊びに行った中村は、そこで働く苦労人のガガへの恋心を芽生えさせる。 一方その頃、地球を救う計画を進めずに遊んでいた貧乏神は大神様の怒りに触れる。その結果、罰として完全に人間にさせられたあげく、金を一切使わずに子供を生んで、成人にするまで育てなくては天界に戻れない、という条件を課されてしまう。こうして翼と中村は、成人女性の姿でありながら、人間としては生まれたばかりの赤ちゃんのような、まったく常識のない貧乏神に、何かと苦労させられるのだった。

第5巻

人間の女性として、初めての生理を体験した貧乏神は、その件でケンちゃんの母の世話を受けるようになった。シングルマザーとして、働きながら子育てをするケンちゃんの母に感心した貧乏神は、彼女が経営するスナック「アイリーン」で働くようになる。まだ自分の肉体に慣れていない貧乏神は酒にも弱く、飲むとすぐに神だった頃のように全裸になってしまうが、そのせいで男性客が急増し、店は大繁盛していた。子供を生んで育てるのが目的の貧乏神は、その男性の中から父親となる人物を選ぼうとするが、やはり若い男性がいいだろうという理由から、桶川翼にターゲットを絞る。しかし、いくら美しい女性の姿をしていても、本当は貧乏神であると知っている翼は、とうていそんな気持ちになれずにいた。そんな中、ガガと中村大作は結ばれる。最初は性欲にまかせて勢いで結んだ関係だったが、二人のあいだには順調に恋心が芽生えていく。 一方、排卵日のたびに翼を追いかけ回す貧乏神の姿を、天界から見ていた大神様は、もはや完全に呆れていた。そして貧乏神の役目を解任し、翼と中村には慰謝料代わりの現金を渡し、もとの生活に戻るようにと伝える。だが、これにより25億円もの金を手にした翼は複雑な想いを抱えていた。金から解放されたこれまでの生活の方が気に入っていた翼は、ほとんどの金を寄付し、お世話になった人達に別れを告げ、身一つで世界一周旅行へと旅立つのだった。