宇宙人から見た人間の不可思議さを描く
ある日、東京の大学に通う田中冬ノ介の前に、スライムのような地球外生物が現れる。しかし冬ノ介はさほど驚いた様子も見せず、その生物を「兄さん」と呼んだ。じつは、冬ノ介は「地球移住計画」の先発隊であり、兄は本部への報告を怠っている、弟の査定と見張りのためにやって来たのだ。「人間は未知であり、移住計画の発動にはまだ早い」という冬ノ介の言葉に従い、兄は、人間の姿に変身し、田中夏太郎として様子を見ることにする。夏太郎にとって、「ペットを飼う」「遊園地でわざわざ恐怖を体験する」など、人間の世界は無駄なものばかりである。また、触れることで相手の思考が読める夏太郎は、本音と建前が違いすぎる人間に恐怖することもあった。本作は宇宙人から見た、社会の矛盾や違和感、人間の不可思議さをコミカルに描いている点が大きな魅力である。
夏太郎が派遣された本当の目的
夏太郎は、弟を監視するためにやって来たと思っているが、母星本部の真意は別にあり、冬ノ介だけに本当の目的が告げられる。それは、どん臭くて仕事ができず、母星でも最も劣等な部類だった夏太郎が、地球に順応できるかどうかをテストすることであった。つまり、夏太郎は「地球移住計画」の物差しなのだ。順応できたと判定される条件は二つ。一つは「地球の仕事に就き、一人前になること」、もう一つは「人間の恋人をつくること」であった。それを聞いた冬ノ介は絶望的な気持ちになるが、ひょんなことから夏太郎は駄菓子屋で働くことになった。その後、本部の真意を知ることになった夏太郎は、母星の命運が自分にかかっているプレッシャーを背負い、彼女づくりに励み始めた。
対照的な宇宙人兄弟と、弟に起きた心の変化
冬ノ介はイケメンで頭がよく、ちょっと天然なところがかわいいリア充の青年。一見完璧だが、人間の感情を理解できないドライな性格である。それと対照的に、母星でも地球でも失敗ばかりのダメ男の夏太郎は、同じ境遇の人間の気持ちを理解する心がある。ある日のたこ焼きパーティーで、夏太郎の熱く優しいふるまいを見たりつ子は、彼に好意を抱くようになった。りつ子はもともと冬ノ介の女友達である。自分に好意を寄せていたりつ子が、兄を好きになる様子を見て、冬ノ介に経験したことがない感情が芽生える。それはおそらく「嫉妬」であった。人間の世界で暮らすうち、いつの間にか宇宙人の心にも変化が起きていたのだ。
登場人物・キャラクター
田中 冬ノ介 (たなか ふゆのすけ)
ある星から「地球移住計画」の先発隊として地球にやって来た宇宙人。田中夏太郎の弟。冷淡で合理的な性格をしている。スライムのような不定形生物で「自由に姿形を変える」「超人的な身体能力を持つ」「人間の記憶を消す」「触れることで他者の思考・感情を読む」といった特殊能力を持つ。また、一定以上の塩分を浴びると体が溶ける。地球での名前は「田中冬ノ介」。悠盟大学に通う大学生で「裏テニスサークル」に所属している。金髪のボサボサ頭とメガネが特徴。頭がよくスポーツもでき、明るい雰囲気で、男女かかわらず人気がある。人間についてはまだ理解不十分で、未知なところが面白いと感じている。「資料」として、柴犬と猫を飼っている。
田中 夏太郎 (たなか なつたろう)
田中冬ノ介の兄。「地球移住計画」の先発隊である冬ノ介の様子を見るために地球にやって来た宇宙人。不器用でドジだが心優しい性格をしている。スライムのような不定形生物で「自由に姿形を変える」「超人的な身体能力を持つ」「人間の記憶を消す」「触れることで他者の思考・感情を読む」といった特殊能力を持つ。また、一定以上の塩分を浴びると体が溶ける。冬ノ介に「田中夏太郎」と名付けられ、人間の姿で一緒に東京で暮らすようになる。黒の短髪と大きな虎の顔が描かれたTシャツが特徴。縁があり、老婆が一人で経営する駄菓子屋で働くことになる。
書誌情報
トーキョーエイリアンブラザーズ 3巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2016-02-12発行、 978-4091874504)
第2巻
(2016-07-07発行、 978-4091876676)
第3巻
(2017-03-10発行、 978-4091893901)