憂国のモリアーティ―The Remains―

三好輝の『憂国のモリアーティ』の「最後の事件」からしばらく経ったある日、ウィリアム･ジェームズ･モリアーティたちはイギリスにある自らの館に舞い戻った。館はすっかり荒れ果てていたが、ウィリアムは隠していた日記を捜し出し、過去に思いを馳せる。本作は小説版『憂国のモリアーティ』のコミカライズ作品で、本編に収録しきれなかったさまざまなエピソードを、ウィリアムが日記を読み返す形で語られる。ウィリアムが主人公ながらも、時系列や登場人物はエピソードごとに異なり、オムニバス形式に近い形でストーリーが展開される。

本作にはイカサマ賭博でトラブルに巻き込まれたセバスチャン･モランや、幼き日のウィリアム･ジェームズ･モリアーティたちが「切り裂きジャック」に教えを受けるなど、本編で語られなかったエピソードが収録されている。いかにして犯罪卿「ウィリアム･ジェームズ･モリアーティ」が生まれ、彼が何を考えて行動していたのか、本編で描ききれなかったその軌跡を辿る。

「犯罪卿」として暗躍し始めたウィリアム･ジェームズ･モリアーティは、偶然にもデパートで強盗騒ぎに巻き込まれる。たまたまヘレナ･カーティスという少女と行動を共にすることになったウィリアムだったが、ヘレナには音を色で感じるという不思議な能力を持つことに気づく。また、強盗騒ぎも実は金目当てではなく、ヘレナの命を奪うことが目的だったと判明。悪党たちの子供の命を狙う非道な行為に憤ったウィリアムは、犯罪卿として彼らを断罪することを決める。そしてヘレナの肝の据わった言動を目の当たりにして、ウィリアムは年を超えた友情のようなものを感じるようになる。一人の少女との出会いと彼女にまつわる事件は、ウィリアムにとってもひときわ思い入れのあるものだったと、のちに語っている。