あらすじ
第1巻
大学で文学を学んでいた阿仁屋恋は、学部でも評判の美人、丹沢二奈から、相談したいことがあるので心理学講師の眞山玄を紹介して欲しいと頼まれる。玄は「相談に行くと99人は人間性を芯まで否定されるが、一人だけは必ず助けてくれる」という、校内でもとびきりの偏屈講師であった。二奈のためならと勇気をふり絞って玄の研究室を訪れた恋は、彼の予想以上の変人ぶりに困惑しながらも、二奈の相談に乗ってもらう約束を取り付ける。母親から虐待を受けているという二奈の相談を受けた玄は、彼女が無意識のうちに童話の「白雪姫」に取り憑かれていることを看破。母親への復讐という、原作と同じ最悪の結末を回避するため、丹沢二奈の母親が入院する病院へと乗り込んだ玄と恋は、白雪姫と融合した二奈の精神世界へと引きずり込まれてしまう。そして恋は、その世界で二奈の隠された苦しみを知る。(case.1「白雪姫」。ほか、3エピソード収録)
登場人物・キャラクター
眞山 玄 (まやま しずか)
美しい黒髪の青年。赤学園大学文学部の心理学講師を務めている。偏屈かつ横暴な性格で、いつも偉そうにしている俺様男。学生のあいだでは、「相談に行くと99人は人間性を芯まで否定されるが、一人だけは必ず助けてくれる」という奇妙な噂が流れている。丹沢二奈の頼みを受けて研究室を訪れた阿仁屋恋と個人的な知り合いとなり、以後彼を助手として便利にこき使うようになる。校内の生徒の個人情報を完全に把握しており、それをネタに恋を強引に従わせている。人間の心に普遍的に存在するイメージ「アーキタイプ」が世界に伝わる童話や昔話と非常に近いことに着目しており、童話こそが人間の精神の縮図であると考えている。そのため、童話に取り憑かれた人間を見ただけで看破でき、取り憑かれた人間の苦しみや本当の望みを即座に推察できる。他者の精神世界に入れる特殊能力の持ち主で、眞山玄自身も「幸福の王子」という童話に取り憑かれている。
阿仁屋 恋 (あにや れん)
茶髪の大学生の男性。赤学園大学文学部史学科に在籍している。柔和な性格で、本人は自覚していないが、純粋な自己犠牲と献身の精神を持つ好青年。頭脳明晰だが、それをひけらかすことはない。同じ文学部の丹沢二奈に、偏屈な心理学講師として有名な眞山玄を紹介してくれるように頼まれたことがきっかけとなり、玄と知り合いとなる。それ以来、何故か玄にこき使われる身となり、童話に心を支配された人間を救う手伝いをすることになる。一見すると頼りない風貌をした優男だが、彼が持つ純粋な優しさと包容力が、童話に取り憑かれた人間の救いとなり、各種事件を解決するためのキーマンとなることも多かった。
眞山 嵐 (まやま あらし)
中性的な容姿の非常に美しい青年。眞山玄の従兄弟で、両親を失った玄を精神的に支え続けてきた。天使のような笑顔と優しい心を持ち、多くの人々に愛されていた。しかし、それでもなお自分を愛さない人々がいるという現実に気づき、玄の「神様にならないと無理」という言葉を真に受け、すべての人々から愛されるために神様になろうとする。玄と眞山嵐自身を童話「幸福の王子」に登場する王子様とツバメになぞらえており、玄に童話に取り憑かれた人々を救わせて、最終的に自分が神様になろうとしていた。
丹沢 二奈 (たんざわ にな)
眉目秀麗な女性。赤学園大学文学部史学科に在籍している。母親から虐待を受けており、それを眞山玄に相談するため、阿仁屋恋に紹介をお願いしていた。自らが美しいことを強く自覚しており、あらゆる局面で武器として最大限活用している。彼氏が七人おり、校内でもその全員を引き連れているという異様な行動を取っていた。相談を受けた玄からは、童話の「白雪姫」に取り憑かれていることを瞬時に見抜かれる。丹沢二奈自身を虐待した母親への復讐を計画していたが、心の奥底では母親の愛を望んでいる。
丹沢二奈の母親 (たんざわになのははおや)
丹沢二奈の母親。容姿端麗な主婦。自分より美しい二奈に激しく嫉妬し、彼女を小さい頃から虐待してきた。二奈と喧嘩した際に極度に錯乱したため、そのまま入院を強いられる。
本城 紗綾 (ほんじょう さあや)
緋扇学院に通っている女子中学生。内向的な性格で、ロマンチスト。読書が好きで、図書館に通いつめていた。数日前に校内で倒れて以来、睡眠時間が増えていき、3日前からまったく目覚めなくなったため、解決のため眞山玄が彼女のもとを訪れることになる。教師の近藤にひそかに恋をしていたが、彼がほかの女生徒と付き合っているのを知って大きなショックを受け、そのまま「眠り姫」となってしまった。
近藤 (こんどう)
緋扇学院で国語教師を務める男性。眼鏡をかけている。本城紗綾の初恋の相手だが、近藤本人は彼女のことを特になんとも思っておらず、ほかの女生徒と付き合っていた。
仲嶋 早 (なかじま さき)
赤学園大学文学部に在籍している女性。校内でいじめに遭っており、それを見かねた阿仁屋恋に眞山玄を紹介される。しかし、当の仲嶋早は、あくまで自分の問題だとして、玄たちが関わることをきっぱりと拒絶していた。実は裏で周囲の人間を脅迫し、自分をいじめるように仕向けるという、倒錯した行動に走っている。心を童話の「シンデレラ」に支配されており、特別な人間である自分が有象無象の存在からいじめられるのは当然であると考えていた。
その他キーワード
アーキタイプ
心理学の概念で、すべての人間の普遍的無意識領域の中に共通して存在している基本的なイメージ。眞山玄は、このアーキタイプが、世界中に伝わる童話や昔話に近いものであるとし、童話とは人間の精神の縮図であると結論づけていた。
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