BORDER66

地球温暖化による災害が頻発する中、南極の氷が融解すると、世界中の陸地が海に浸食され、数百万人が住処を失うと予測されている。また、海は地球の水循環の重要な役割を果たしており、南極海には世界で最も冷たい水が流れる海流が存在する。この海域で異変が起こると、海水温の上昇だけでなく、気候にも大きな影響を及ぼし、世界的な異常気象を引き起こすと考えられている。本作『BORDER66』は、温暖化によって未曽有の災害に見舞われた架空の日本を舞台にしている。作品タイトルにもなっている「BORDER66」は、南極の氷がすべて融解した場合、海面が現在よりも66メートルも上昇することを意味し、作中でも重要なキーワードとして登場する。

気候工学の権威である月村豊は、妻と双子の子供たちに囲まれ、順風満帆な日々を送っていた。しかし、環境破壊による温暖化は着実に進行しており、豊は子供たちの未来を守るため、温暖化対策の研究に没頭していた。そんな中、世界中から選ばれた気候工学者たちが南極に集結し、温暖化対策を目的とした「CCS計画」が始動する。豊は娘の幾を伴い、計画に参加するが、計画開始後に南極で大地震が発生する。その地震は、結果的に世界中の温暖化を加速させてしまう。幾は大災害の中で奇跡的に生き延びるものの、南極で計画に参加した科学者たちは世界中から非難を浴びることとなる。それでも幾は、父親の名誉を回復し、人類を救うために科学者になることを決意する。

一方、幾の双子の兄である諒は、父親と幾を見送って間もなく、大規模な災害に巻き込まれる。記録的な豪雨による洪水で、母親と生まれるはずの弟を失ってしまう。生き残った諒も、幾と同様に世界中から非難を浴びるが、周囲の励ましを受けて再び前に進むことを決意する。諒は母親の遺体を探すため、水難事故の救助を行う自警団に参加し、人命救助に対する強い使命感を抱くようになる。そして、海上保安庁に入庁し、レスキュー隊員としての道を歩み始める。本作は双子の諒と幾を主人公に据え、「現場」と「科学者」それぞれの視点から物語が展開される。また、作中に登場する気候や災害に関する知識は、現実に基づいたものや科学者が実際に予測した内容が多く、現実の環境についても考えさせられる内容となっている。