概要・あらすじ
両親不在の仲、仲睦まじくふたりで暮らす兄・現と妹・夢。ある日夢は「赤い蝶」を見たことがきっかけで、人を食べずにいられない怪物へと変身。現の必死の説得により自我を取り戻しかけた夢だったが、あと一歩のところで現を食い殺してしまう。兄を食したことで人間の姿には戻れた夢は怪物化した事実を否定しようとするが、再び食人の欲求が湧き上がってしまう。
その欲求が限界に達したとき死んだと思っていた現が現れ、再び夢を説得する。現は夢に食されたことで、どんな傷も再生する体質が芽生えたのだ。公園で兄妹の変異振りを観察していた研究者マリアによって、すべてはpupaと呼ばれる未知のウイルスに感染したことによるものだと知る現。夢の怪物化を抑えるためにはマリアの持つ抗pupa薬を使うしかないが、その薬は単体では効果がなく、生きた人間の細胞と組み合わせないと効かない開発段階のものだった。
現は妹を救うため抗pupa薬を自分に打ち、夢が食人の欲求に襲われるたびに自らの体を食べさせ続けることを決意する。
登場人物・キャラクター
長谷川 現 (はせがわ うつつ)
左前髪に四葉のクローバー型のヘアピンをつけた男子高校生。幼いころから父・四郎に虐待を受けて育ち、顔の左半分の大きな傷をはじめ体のあちこちに傷跡がある。両親離婚ののち、妹・夢とふたりきりで生活していたため、妹への保護欲が強く同級生から「シスコン」からかわれることもしばしばある。父親の暴力的気質を毛嫌いしているが、自分も同じ気質を持っているのではないかと恐れている。 夢に捕食された際にpupaウイルスに感染。しかし怪物化や食人欲求は現れず、驚異的な回復能力を身につけてしまう。
長谷川 夢 (はせがわ ゆめ)
現と同じ高校に通う1歳違いの妹。左前髪に花状の髪飾りをつけている女子高生。暴力的なことを嫌うやさしい性格の持ち主で、自分を守ってくれる兄・現を非常に慕っている。そのため怪物化してしまうことや食人に対して嫌悪感を持ち、怪物化を抑えるためとはいえ、実の兄を食べなければいけない事に葛藤する。守ってもらうだけでなく自分も現を助けたいという気持ちが強く、時に自己犠牲的な行動をとることもかまわないと思うようになってゆく。
鬼島 四郎 (おにじま しろう)
現の父親。幼い現や妻・幸子に対し数々の暴行を加え、現の心身両方に強い傷跡をつけた非常に暴力的な性格。現が生まれた直後に仕事の都合で5年間日本にいなかったが、帰国したときに身に覚えのない娘・夢がいたため離婚。以後夢の正体を調べているうちにpupaウイルスの存在に関わってくるようになる。
長谷川 幸子 (はせがわ さちこ)
現の母親。四郎から暴力を振るわれ、現の幼いときに離婚した後、若い男といなくなったと思われていたが、四郎不在の時に授かった身に覚えのない娘・夢を育てるうちに精神に変調をきたして長らく入院していた。四郎と再会したことで回復に向かい始める。
マリア
夢が怪物化したとき、現の前にpupaウイルスの研究者を名乗って現れた全身黒装束の女性。他人への感情移入に乏しく夢を助ける方法を現に教えたのも研究への興味優先であり、そのためなら無情とも思える手段をとることも。
仏木 (ほとき)
マリアの部下として登場。つねにサングラスを着用し、マリアに対しても軽口や冗談を言う飄々とした性格の男性。マリアの出す要求には意見も出さずに従うが、逆に意見しても無駄だと達観している部分もある。
ユウ
「赤い蝶」を操り、ランタン状のアイテムで夢の怪物化を抑えるなど、夢と現をたびたび助けに現れる謎の青年。pupaウイルスについて詳しく、夢を怪物化させたのは自分であり、またpupaの一部だと自称。混乱する現に対して自分の最終目的とpupaの真実を教える。
備前 千春
幸子の入院先である伊万里総合病院総括院長。サンダル履きにラジオで競馬中継を聞いているなど威厳はあまりないが、殴りこみ同然で来院した四郎に対して動じずに対応するなど豪胆な性格の男性。若いころから様々な病気や生物の研究をしており、幸子の入院理由やpupaについての真相を四郎に語る。
伊万里 幻十郎
画家であり、マリアの祖父。前衛的な感性の持ち主であり、虐待した少年をモチーフに作品を制作するなど特殊な性癖をもつ。身寄りのなかった幼い四郎を引き取って芸術創作に利用していた。
集団・組織
伊万里医神会 (いまりいしんかい)
現と夢を拉致監禁し、現を解剖してpupaの秘密を探ろうとする非正規の医療研究組織。本来は伊万里幻十郎がマリアのために作った組織であるが、現在マリアは除名され備前千春が代表となっている。
場所
名もなき島 (なもなきしま)
本土から船で1日の距離にあるとされる島。伊万里幻十郎がアトリエ用に買い込み、極秘の私有地のため地図に記載されてないとされる架空の島。オーナーのアトリエ兼別荘の旧伊万里邸が山の中にあり、物語後半の舞台となる。地元の漁師からは「鬼ヶ島」とも呼ばれていた。
その他キーワード
pupaウイルス (ぴゅーぱういるす)
マリアが研究していた未知のウイルス。宿主に驚異的な回復力と耐えがたい空腹感をあたえ、やがて宿主の細胞を変質させ「羽化」と呼ばれる段階を経て怪物化させてしまう。人間の場合はほとんどが感染段階で死亡してしまう危険なもの。感染したのに死亡も羽化もしない現は非常に珍しい例としてマリアに注目される。
pupa (ぴゅーぱ)
名もなき島に生息し、幼いマリアが発見した2匹の未知の生物。時には細胞単位で他の生物に擬態し成長と再生を繰り返すとされるが、興味を抱いたマリアにより数十年にわたって解剖と実験を繰り返される。その細胞からマリアが人為的に作り出したのがpupaウイルスである。