愛のように幻想りなさい

愛のように幻想りなさい

昭和初期の日本を舞台に、記憶喪失の少女が女優としての才能に目覚め、失った自分を見つけるために、波乱に満ちた人生を生きる姿を描く。「プチコミック」1989年4月号から掲載された作品。

正式名称
愛のように幻想りなさい
ふりがな
あいのようにおどりなさい
作者
ジャンル
俳優・女優
関連商品
Amazon 楽天

概要・あらすじ

時は昭和初期。記憶喪失の少女・柏木万葉は育ての親のもと、柏木蛍とともに、貧しいながらも平穏な日々を送っていた。そんなある日、万葉は成り行きにより、代役として映画に出演することになる。そこで万葉は女優としての優れた才能を見せ、出会った祖父江修理安芸梓、麻生玲子を虜にする。一方で、借金返済に苦しむ育ての親のためにと、万葉は借金を帳消しにするという条件を受け入れ、金貸し業を営む山田との結婚を決めていた。

周囲の反対を受けながらも、結婚を押し通そうとする万葉だったが、出会ってからずっと修理のことが頭から離れず、心惹かれる何かがあることを感じていた。そして迎えた挙式当日。山田への嫌悪感をつのらせた万葉は、結局修理とともに結婚式場から逃亡を図る。

だがその後、万葉の自宅は何者かによって放火されて全焼し、その火事によって育ての父親をも失うことになる。すべてに責任を感じた万葉は、残された蛍を守るため、映画製作会社「C・C・L」で女優になることを決意し、失った自分自身を取り戻していく。

登場人物・キャラクター

柏木 万葉 (かしわぎ まよう)

記憶喪失の17歳の少女。2年前、軽井沢で雪の中倒れていたところを、偶然通りかかったお父さんに助けられた。当時身に着けていた指輪から、生年月日と年齢だけは判明したが、それまでの一切の記憶を失っている。返済に苦しむお父さんの借金を帳消しにする代わりに、金貸しを営む男性との結婚が決まっていた。しかし、結婚式当日に逃げ出して婚約を破棄し、これが結果的に大きな問題を引き起こすこととなった。 女優としての優れた才能を持ち、たまたま代役として映画の撮影に参加したことがきっかけとなり、その名を知らしめていく。女優業を続けるなかで祖父江修理と触れ合っていくうちに、修理が自分の失った過去となにか関わりがあるのではないか、と疑念を持つようになり、同時に心惹かれていく。 のちに自分の本名が「羽澄雪生」であることを知る。

柏木 蛍 (かしわぎ ほたる)

柏木万葉の育ての親であるお父さんの娘。高等女学校4年生。万葉にとっては血が繋がっていない妹だが、年齢が半年違いの万葉を姉として慕っている。お父さんに内緒で映画製作会社「C・C・L」に出入りし、エキストラとして芸能活動を行っている。安芸梓に憧れを抱いており、長期間にわたって片想いを続けることとなる。 のちに麻生洲比古と出会い、次第に惹かれていく。しかし、華族である彼の気持ちを信じることができず、自分の気持ちの変化を認めることができない。

安芸 梓 (あき あずさ)

映画製作会社「C・C・L」で助監督を務める22歳の男性。実家は沼津で大きな紙問屋を営んでいるが、勘当されている。いつも笑顔で優しい人柄。偶然出会った柏木万葉を一目見て気に入り、骨折で撮影できなくなった主演女優の代役として採用した。万葉を女優として見出した最初の人物であり、その後は万葉に想いを寄せるようになっていく。 ちなみに入社以来、数えきれないほどたくさんの脚本を書いてきたが、すべて没になっている。

麻生 礼子 (あそう れいこ)

映画製作会社「C・C・L」に所属する21歳の幹部女優。子爵家の娘であり、貴族院議員の祖父を持つ華族。気品があり、気位が高いが、思ったことは口に出すサバサバした性格。祖父江修理の愛人であり、彼を愛している。女優として頭角を現した柏木万葉を気に入っている。

祖父江 修理 (そふえ しゅり)

映画監督を務める男性。ブロマイドが1日で5000枚も売れるというほどの大人気俳優でもある。12歳で映画デビューを果たし、その後は有名大学を卒業したエリート。映画製作会社「C・C・L」の創立当初からの幹部を務めている。表向きは大正12(1923)年に起こった関東大震災によって家族と死に別れ、脚本・演出を手掛ける乾清村という人物のもとに身を置いていたとされている。 しかし、実際の生い立ちは誰にも知られていない。左肩に大きな傷があり、右側の耳は聞こえない。自信家だが、人を人とも思わない冷徹な性格で、非情な策を講じて「C・C・L」の拡大を図る。記憶を失う前の柏木万葉である「羽澄雪生」を知る人物。

お父さん (おとうさん)

柏木蛍の父親で、柏木万葉を軽井沢で助けた育ての親。独立して映画の製作会社「柏木プロ」を創り、映画製作・上映団体「プロレタリア映画同盟」に関わった。その結果、思想弾圧によって半年間にわたって投獄されていた。その後、持病の心臓病が悪化し、働けない体となったため、自社を創った際の借金の返済に苦しんでいる。映画製作会社「C・C・L」には、自社の看板女優を引き抜かれたことがあり、良い印象を持っていない。

山田 (やまだ)

金貸しを営む40代の男性。離婚歴が2度あり、芸者との間に隠し子ももうけている。お父さんに貸している多額の借金を帳消しにする代わりに、美しい柏崎万葉を嫁にもらうことを提案する。世間的には、お金に困っている貧しい女性を救った心優しい人物として振る舞っている。

村田 (むらた)

祖父江修理の家の執事を務める男性。柏木万葉が「羽澄雪生」であることを一目で見抜くが、修理から口止めされて知らないふりをしている。実は修理のところに来るまでは、脚本・演出家として知られる乾清村の家で執事を務めていた。万葉が生まれた時から世話をしていた人物。

川田 純子 (かわだ じゅんこ)

他の会社から映画製作会社「C・C・L」に幹部女優として移籍してきた女性。当初は新人ながらいきなり幹部女優となった柏木万葉に対して思うところがあったが、彼女の演技に対する情熱を目のあたりにし、幹部女優としてふさわしいと認めるようになる。

大部屋の女優 (おおべやのじょゆう)

「柏木プロ」の看板女優だった、気の強い女性。現在は映画製作会社「C・C・L」に引き抜かれ、大部屋女優として格落ちした状態で在籍している。柏木万葉が新人でありながら幹部女優として迎えられ、映画の主役に抜擢されたことに対して不満を持っている。川田純子を慕っている。

大貫 千代子 (おおぬき ちよこ)

祖父江修理の許嫁の19歳の女性。結核を患っていたため、人目から隠すように、両親から諏訪の療養所へ入れられ、入院生活を送っていた。現在は病気も治り、実家に戻って修理との結婚のタイミングを待っている。修理は大貫千代子に別の女性を重ねて見ているが、千代子自身もそのことには気づいている。

羽澄 夏生 (はすみ なつお)

「妖婦」「毒婦」「男を食い物にする」などと評される舞台女優。大正15(1926)年、愛人だった演出家の乾清村が病死した後、後を追って服毒自殺したことで有名になった。愛人との間に子供を1人もうけた。これは子供を産めない本妻への当てつけであり、産んだ後は子供を横浜の本妻に預けたまま、羽澄夏生自身は乾清村と東京で暮らしていたと言われている。

渡部 (わたべ)

雑誌「映画くらぶ」の記者を務める男性。突如人気に火が付いた柏木万葉の顔だちに違和感を覚え、彼女の過去について独自に調査を進める。そのなかで万葉の過去に関する核心に迫るが、軍とつながりを持つ祖父江修理の手により、戦争の最前線に送られることになる。もうすぐ出産予定の妻を持つ。

(もり)

映画製作会社「C・C・L」に在籍している監督の1人。女優としての柏木万葉に惚れ込み、彼女で映画を撮りたいと考えているが、それを許そうとしない祖父江修理を疎ましく思っている。そのため、修理を陥れようと画策する。

麻生 洲比古 (あそう くにひこ)

麻生玲子の兄。子爵家の跡取り息子であり、海軍中尉。上海勤務から横須賀勤務に変更になり、3年ぶりに帰国した。偶然出会った柏木蛍に一目惚れし、軽い気持ちから強引にして情熱的なアプローチを試みる。だが、次第に蛍に本気で惹かれていき、頑なな彼女に対して真剣になっていく。

轟 夕美 (とどろき ゆうみ)

映画製作会社「ゴウドプロ」に所属する女優。神戸玲二の恋人で、玲二とは生活をともにしている。昨年の女優人気投票では7位の実績を誇り、映画製作会社「C・C・L」から引き抜きの勧誘も受けた。しかし、愛する玲二と運命をともにすることに意義を見出しているため、なびかなかった。

神戸 玲二 (ごうど れいじ)

映画製作会社「ゴウドプロ」の代表を務める男性。主に脚本・監督を手掛けている。自社に所属している女優の轟夕美とは恋人同士。大金をちらつかせて女優を引き抜く映画製作会社「C・C・L」の煽りを食っており、そのやり方を心の底から嫌っている。

冴木 (さえき)

映画製作会社「C・C・L」の所長を務める男性。所長は名義上だけで、すべてにおいて、決定権を持つ祖父江修理の言いなりになっている。一応は自分の意見を持ってはいるものの、気が弱く、最終的にはいつも修理に決断を下されている。

雨海 (あまかい)

敏腕カメラマンの男性。ニュース製作部のカメラマンとして、戦地に赴いていた。安芸梓とは同期の友人。祖父江修理が映画製作のために呼び戻し、映画製作会社「C・C・L」で手掛ける予定の戦争映画に抜擢しようとしている。妻を早くに亡くし、幸太という5歳の息子がいる。

場所

C・C・L

祖父江修理が実権握る大手の映画製作会社。砧にある撮影所は、日本国内で最も大きく、近代的な撮影所であると言われている。役者や監督が多数在籍しており、なかでも一番の商品である女優には「幹部」「準幹部」「大部屋」とランクが付けられ、待遇に差がある。昭和7(1932)年の創立当初には、他の会社から大量に人材を引き抜いたため、「C・C・L」を恨んでいる会社も多い。 大手となった現在でも、会社のさらなる拡大を狙って引き続き引き抜き工作が行われており、その非道な方法のため多くの敵を作っている。

SHARE
EC
Amazon
logo