きみはアイドル

第1巻

商社勤務の篠田青衣は、仕事のできるクールビューティーとして、社内では男女共にあこがれられ、尊敬される存在だった。そんな彼女には、実にメジャーデビュー以来10年にわたり、大人気の男性アイドルユニット「SE2NA」を追いかけ、そのメンバーの一人である瀬戸翔羽を推し続けてきたアイドルオタクという、誰にも言えない秘密があった。しかしある日、青衣に衝撃的なニュースが飛び込んでくる。それは、SE2NAが目標にしていたドーム公演を数日後に控えたタイミングでの、翔羽の突然の芸能界引退発表だった。社内では平静を装いながらも、帰り際に寄ったレストランで改めてニュースを確認しつつ、青衣が酒を飲んで打ちひしがれていると、その様子を同じ会社の後輩の瀬戸深月に見られ、アイドルオタクであることがばれてしまう。当初はそんな青衣に対して否定的な言葉を発した深月だったが、秘密がオープンになった青衣といろいろと話し、過ごすうちに彼女の一生懸命さに惹かれ始める。そんな中、青衣は深月から休日デートの誘いを受ける。戸惑いつつもその申し出を承諾し、向かった先は水族館。ここは以前、SE2NAがミュージックビデオを撮影した場所だった。青衣はにわかにテンションが上がり、オタクとしての発言が数多く飛び出しつつも、深月と二人の時間を楽しむ。しかし青衣は、時々深月から発される甘い言葉に、どう反応を返していいのかわからず困惑してしまう。それからしばらくして、輝き始めた夕日をバックに、青衣は深月から告白される。一瞬混乱する青衣だったが、深月の真剣さを感じ取り、向き合うことを決意。二人は交際をスタートさせる。

第2巻

瀬戸深月と交際を始めた篠田青衣は、生まれて初めて彼氏ができたこの状況に、動じないふりをして仕事をこなしていたが、心の中は地に足がつかない状態で、落ち着かない毎日を過ごしていた。そんなある日、幸せを感じることが多すぎてすっかりゆるみっぱなしの青衣は、何か大切なことを忘れている気がしていた。その理由がわからないまま、週末を深月と過ごしていた時、青衣はふと今日が10年間推していたアイドルの瀬戸翔羽の誕生日だったことを思い出す。取り乱す青衣の様子を見て、深月はこれまで青衣が続けてきた方法で、ケーキを買ってお祝いしようと提案し、公園で翔羽の誕生日を祝う。それをきっかけに、青衣は深月の誕生日がいつなのかが気になり始める。彼に直接誕生日を聞き出せないまま、数日が過ぎたある日、青衣は後輩の佐野玲奈が深月に誕生日プレゼントを渡している場面を目撃し、その日が深月の誕生日だったことを知る。さらにその後、会社のみんなと飲み会でお祝いする流れになってしまい、青衣は深月の誕生日プレゼントも用意できないまま、彼女としてお祝いもしてあげられないという状況に、もやもやした思いを抱える。そして、今まで頑(かたく)なに社内では交際を秘密にすることを望んできた青衣は、これを機に深月を独り占めしたいと考えるようになっていく。そんな中、青衣と深月の関係を怪しんでいた玲奈は、二人が付き合っているのかどうか、直接青衣に確認しようとする。動揺しつつも青衣がそれを改めて否定すると、玲奈から、これからは深月を狙って行動すると、宣戦布告されてしまう。

第3巻

社内一のイケメンの瀬戸深月を巡り、完璧女子の佐野玲奈から宣戦布告を受けた篠田青衣は、表面上は平静を保ちつつも、心の中はとても冷静ではいられない状態だった。そもそもアイドルオタクだったため、こういう状況に馴れていない青衣は、この状況を、同じ人を推すファンを嫌う「同担拒否」の感情と重ねるようになる。心中複雑な日々を送る中で、深月は玲奈と同じ仕事を担当することになり、自然と玲奈といっしょに過ごす時間が増えていく。深月のあまりの忙しさに、二人だけの時間を取ることができず、悶々としていた青衣は、日曜日にようやく取れた二人の時間に、深月を癒やしてあげようと奔走する。なんだかがんばりすぎな青衣の様子を見て却って心配になった深月は、青衣を人気のない会議室に呼び出し、初めてのキスを交わす。そんな中、玲奈からとうとう思いを告白された深月は、丁寧に断ると同時に、今青衣と交際していることを玲奈に明かす。正式に断られた玲奈は、なぜか青衣のもとへと向かっていた。飲みに行きたいと誘われた青衣は、玲奈と居酒屋へ行くと、そこで玲奈は改めて、自分の気持ちを伝えたこと、深月から断られたことを話し、自分の生い立ちについて語り始める。そして、青衣がすっかり酔いつぶれてしまった玲奈を自宅に連れて行き、翌日吹っ切れた二人には新たな絆が芽生えるのだった。