トラウマを抱える女性の再起ストーリー
本作は、アパートを舞台にした何気ない日常の中で、主人公のスイと隣人の郁が織りなす恋愛模様を描いている。物語は終始ほのぼのとした雰囲気で進むが、一方で周囲の期待に応えようともがき、限界に達してしまったスイの繊細な心理描写が軸となり、どこか不穏なシーンも随所に挿入されているのが特徴。過去の経験で傷つき、罪悪感に苛(さいな)まれながら生きてきたスイが、郁との日常を通じて心の傷を癒し、自身の人生を見つめ直していく過程や、やがて彼と特別な関係へと発展していく様子が丁寧に描かれている。また、二人のあいだで繰り広げられるユニークな会話劇も、本作の大きな魅力となっている。
スイの再出発と隣人との絆
23歳のスイは、仕事を辞めて実家を飛び出し、現在は無職のままアパートで一人暮らしをしていた。ある日、隣人の郁がスイの家を訪れ、スイのベランダに迷い込んだ飼い犬のティノを連れ戻してほしいと頼む。郁は無事にティノを保護し、小さな騒動は一件落着となったが、この何気ない出来事をきっかけに、スイの中で郁の存在が少しずつ大きくなっていく。やがてスイは再就職が決まり、新生活を本格的に始める。まだ出会ったばかりで謎めいた郁だが、彼から料理を分けてもらったり、ティノの散歩に付き合ったりする機会が増えていく。そうした穏やかな時間の中で、孤独だった彼女は少しずつ他者との温かいつながりを取り戻していくのだった。
小さな世界に差し込んだ優しい光
スイは、家族からのプレッシャーに晒されながら必死に努力して就職したものの、うまくいかずに限界を迎えた過去があった。そのトラウマと後悔から、狭く窮屈な世界に閉じこもってきたのだ。自己肯定感が低くなってしまったスイにとって、詮索せず冷たく突き放すこともなく、何気ないやり取りの中で温かい言葉をかけてくれる郁の存在は、次第にかけがえのないものとなっていく。一方、郁は一見人当たりが良さそうに見えるが、どこか人を寄せ付けない冷淡な雰囲気を漂わせている。その背景には複雑な事情や過去の経験があり、個性的な友人たちとの会話や関係を通じて、少しずつ彼の秘密も明かされていく。やがて距離を縮める中で育まれる郁との優しく穏やかな絆は、スイが抱える家族との確執や、それまで目を背けてきた自身の人生と向き合うための大きな力となっていく。本作の魅力は、恋愛やほのぼのとした日常描写にとどまらない。明るく見えるキャラクターたちの裏に潜む重苦しい内面や、丁寧に描かれた複雑な人間模様から生まれる「ヒューマンドラマ」にこそある。周囲に支えられながら今後の人生について考えたスイが出す答えや、家族や郁との関係の行方も、本作の見どころの一つとなっている。
登場人物・キャラクター
小野寺 スイ (おのでら すい)
アパートで一人暮らしをしている女性。年齢は23歳。家族は両親と兄が一人いる。ピンク色のショートヘアにしている。かつて、家族関係や周囲の同調圧力に疲れ果て、勢いで仕事を辞めてしまった経験がある。その際、ほとんど勘当に近い形で実家を飛び出し、現在は一人で生活している。育ちが良く、ふだんは明るく振る舞っているが、やや世間知らずな一面もある。心の奥底には自己肯定感の低さや家族に対する罪悪感、将来への不安など、さまざまな葛藤を抱えている。隣人の郁と偶然出会ったことが転機となり、彼との小さな交流を重ねるうちに、過去の傷が少しずつ癒えていく。
瀬戸 郁 (せと かおる)
スイのとなりに住む青年。年齢は21歳。黒髪のショートヘアで長身のイケメン。基本的には誰に対しても穏やかに接するが、どこか人を寄せつけない冷ややかな雰囲気を漂わせている。明るく素直な姉の湊とは対照的に、意味深な言動が多く、人付き合いはあまり得意ではない。飼い犬のティノがスイのベランダに迷い込んだことをきっかけに、彼女とささやかな交流を持つようになる。不思議とスイには自然と寄り添い、彼女の不安やトラウマに気づくたびに、さりげない言葉で励ましている。ティノは繊細な性格の小型犬で、飼い主の郁にもよく噛んで手を焼かせているが、大切な家族として丁寧に世話をしている。また、時おり近所の花屋でアルバイトをしている。








