あらすじ
かつて人気バンド「ザウルス」のギタリストだったケーゴは、時代の波に取り残されて落ち目となり、フリーのギタリストとして細々と生計を立てる日々を送っていた。そんなある日、ザウルスの元マネージャーで、芸能事務所を経営している山路が現れ、地下アイドルのきよみんへの楽曲提供と、バックバンドのギタリストになることをケーゴに依頼する。山路とライブ会場へ出向いたケーゴは、そこで地下アイドルのくろうさと出会う。極度のあがり症で満足にアイドル活動ができず、山路からもお荷物扱いされているくろうさが気になったケーゴは、心を残しつつもきよみんとの仕事の打ち合せに参加。しかし、本格派のロックンローラーとして活動してきたケーゴは、地下アイドルの仕事を引き受けることの葛藤に苦しみ、自らの才能の枯渇にも絶望してしまう。そんな中、スタジオで苦悩していたケーゴの耳に飛び込んできたのは、自主練習に励んでいたくろうさの澄み切った歌声だった。隠されていたくろうさの実力に触発され、失った情熱と才能を取り戻したケーゴは、くろうさと組んで世界を目指すことを決意する。ロックンロールアイドルとして活動を始めたくろうさとケーゴだったが、山路の妨害によってライブハウスでの活動が制限されたため、地方公演で知名度を上げる戦略に出る。そこでかつてのバンド仲間である桐谷と出会ったケーゴは、もう一度自分と組んで世界を目指そうと桐谷を誘う。仕事と家庭を持っている桐谷は、一度はケーゴからの申し出を断るも、妻に背中を押されて再びケーゴと組み、音楽業界へと舞い戻るのだった。桐谷の高いプロデュース力を得たケーゴとくろうさは、意気揚々とアイドル活動に邁進(まいしん)するが、その活動中に地下アイドル界の圧倒的なカリスマ、みゆちーと出会う。地下アイドルの枠を遥かに超えた彼女の実力を目の当たりにしたことで、くろうさは再び自信を喪失してしまう。その後、みゆちーから同じ事務所に誘われ、心が揺らぐくろうさだったが、悩んだ末に自らの「音」はケーゴの「音」であると結論付けたくろうさは、ケーゴとロックンロールアイドルの道を進む決意を新たにするのだった。
登場人物・キャラクター
ケーゴ
細身の鋭い目つきをした茶髪の男性。年齢は28歳。フリーギタリストで、本格派のロックンローラーとして強い自負心と、旺盛な反骨精神を持つ。もともとはロックバンド「ザウルス」の才能豊かなギタリストで、多くの観客から喝さいを浴びていた時期もあったが、時代の波に押されて3年前にザウルスは解散。現在はフリーのギタリストとして細々と生計を立てている。ギタリストとしての才能は誰もが認めるところで、その力強い演奏は「轟天グルーヴ」と呼ばれ、各方面から賞賛を得ていた。しかし、ここ最近はかつての輝きを失っており、ケーゴ自身もそれを自覚して焦燥感に苛(さいな)まれている。また、バックミュージシャンを務めていながら、自分勝手なギターソロを披露してしまうなど、持ち前の頑固な気質が災いしてトラブルが絶えず、厄介者として周囲から認知されている。ザウルスの元マネージャーである山路から地下アイドルのきよみんのサポートをする仕事を任されるが、その際に出会った極度のあがり症の地下アイドル、くろうさの才能に惚(ほ)れ込み、彼女と組んで世界的なロックンロールアイドルを目指すことになった。目標に向かって猪突(ちょとつ)猛進で突き進めるが、あらゆる面で融通が利かないロックバカであるため、プロデューサーとしての資質に欠けていることも自覚している。そのため、かつてのバンド仲間である桐谷をメンバーに引き入れ、自分とくろうさに足りないプロデュースのセンスを補おうとした。
くろうさ
黒髪をツインテールにしている美少女。本名は「黒瀬ヒトミ」。まだ芽が出ていない地下アイドルだが、歌唱力が非常に高い。アイドル活動に対しても人一倍強い思いを抱いているが、極度のあがり症なため、大勢の人前だと歌うことはおろか、満足にしゃべることすらできない。そのためファンからもそっぽを向かれ、所属事務所の社長、山路からもお荷物扱いされている。深夜のスタジオで歌の自主練をしていた姿を見たケーゴが並外れた歌唱力に惚れ込み、ケーゴと組んで世界的なロックンロールアイドルを目指すことになった。かなりの恥ずかしがり屋でコミュ障ながら芯は非常に強く、自分を見出してくれたケーゴのことを心から信頼している。泣いた時に魂から絞り出すようなシャウトが、多くの人を感動させていた。
山路 (やまじ)
芸能事務所の社長を務める業界人然とした風貌の男性。黒髪をロン毛にしている。ロックバンド「ザウルス」の元マネージャーを務めていた。かつてのバンド仲間であるケーゴのギタリストとしての才能を認めており、食い詰めているケーゴに自らがプロデュースする地下アイドル、きよみんへの楽曲提供と、バックバンドのギタリストなる仕事を斡旋(あっせん)した。経営者のみならずプロデューサーとしても有能で、業務に対する姿勢は非常にシビア。ロックバンドに対する強いこだわりを持ち、何年にもわたってくすぶっているケーゴを負け犬と罵るなど、辛辣かつ非情な一面も併せ持つ。山路の依頼を無視してくろうさと組んだケーゴに対し、徹底的な活動妨害を宣言する。
桐谷 (きりたに)
桐谷酒店の店主を務める青年。眼鏡をかけている。ロックバンド「ザウルス」の元メンバーで、現在は親から引き継いだ小さな酒屋を切り盛りしている。凄腕(すごうで)のベーシストで、ケーゴとは互いに認め合うライバル関係でもあり、日々技量を高めていた。コミュニケーション能力に長(た)けており、現役中は飲み会や打ち合わせなど、各方面に積極的に顔を出して円滑なバンド活動を実現させていた功労者。地道な活動の重要性が理解できなかったケーゴと衝突し、最終的にザウルスを辞めることになった。ゲーゴがくろうさと地方公演に来た際に再会し、バンド仲間になることを依頼される。一度はその申し出を固辞するが、妻に背中を押されて再び音楽業界へと舞い戻る。その後は、イベントの立案やスケジュール管理において、持ち前の才能を大いに発揮する。
みゆちー
アイドル事務所「ジュエルキャンディ」に所属する地下アイドルの女性。凛(りん)とした雰囲気を漂わせたスタイル抜群の美少女。地下アイドルの枠を遥(はる)かに超越したアイドル性とカリスマ性を持ち、急速に人気を拡大している。その並外れた実力と存在感は、イベントの共演相手となったくろうさに劣等感を抱かせ、完全に自信を喪失させるほどだった。のちにくろうさをライバルとして認め、ジュエルキャンディの一員としてスカウトする。
小林 大吾 (こばやし だいご)
アイドル事務所「ジュエルキャンディ」を運営している巨漢の男性。若きコンポーザーで、超がつくほどの音楽マニア。自らの手で生み出すセンスあふれた音楽と優れたプロデュースの手腕で、みゆちーを地下アイドルの枠を超える人気アイドルに育て上げた。15歳の時に「ザウルス」の音楽に感銘を受け、音楽への道を志した過去を持つ。しかし、音楽家としてすっかり錆(さ)びついてしまった現在のケーゴのことは歯牙にもかけておらず、ケーゴと桐谷に対して不適で不遜な言動を繰り返していた。内心ではケーゴの才能を誰よりも認めている。
滑川 毅 (なめかわ つよし)
ニヤつく笑顔を張り付かせた中年男性。超大物のプロデューサーで、各種業界に大きな影響力を持つ人物。テレビや映画をはじめ、ヒットさせた企画は数知れない。やり手として知られているが、人目を引くためならどんな下衆(げす)な手段でも厭(いと)わない。泣くと実力を発揮するくろうさに目をつけ、もっと辛い目に遭わせようと画策する。
きよみん
売り出し中の地下アイドルの女性。Fカップの豊満なバストが自慢の明るい性格の美少女。きよみんのソロデビューに伴い、事務所の社長である山路は、ケーゴに楽曲提供を依頼する。臆面もなく自らの胸を武器にするきよみんに対し、ケーゴはロックンローラーとしての反骨心を抑えられなくなってしまう。