概要・あらすじ
時は昭和38(1963)年の北海道・襟裳。現地の猟師たちと狩りの方針で対立したトド・ハンターの魚一生は、アメリカ政府からトド猟の許可を得てアラスカに渡った。それから幾星霜、世界を股にかける猟師兼漁師として、数々のトラブルに巻き込まれながらも複数の事業を成功させ、また多くの女たちとの浮名を流していた一生は、日本へと帰還し、稼いだ大金を元手に平和な暮らしに興じていた。
その暮らしにも飽き始めた頃、一生のもとに、かつてウナラスカ島で世話になった恩人のゲニヤージが、人喰いのグリズリーに殺されたという連絡が入る。こうして一生は、ゲニヤージの仇をその手で討つべく、久しぶりにウナラスカ島の地を踏むことになる。
登場人物・キャラクター
魚 一生 (うお いっせい)
北海道出身の日本人の青年。猟師兼漁師であり、北国の海を渡り歩いて暮らしている。優れた射撃の腕を持ち、愛用のライフルを持ち歩いている。ボクシングの経験があって、格闘にも長けている。女たらしであるが、大自然の恵みに対しては畏敬の念を忘れない。ウナラスカ島に渡ったばかりの頃、一時「トーキョー・エスキモー」と名乗っていた。
咲 (さき)
魚一生が北海道でトド・ハンターをしていた頃、一時付き合っていた若い女性。居酒屋を経営していた。一生がアラスカに渡航することを決めた時には、店を担保にして、そのための資金を用立てしたが、肉親が日本にいるため、咲本人は北海道に残った。
イリーナ
ウナラスカ島で暮らす、アリウト族というエスキモーの少女。現地に許嫁がいたが、魚一生と恋仲になり、結婚することを望んだ。しかし部族の先代の呪術師(シャーマン)が死んだため、その跡継ぎにならなければならなくなり、一生とは短い関係に終わった。その後、一生との子を自分で無理に堕胎したため、身体を壊して死去した。
ゲニヤージ
ウナラスカ島で暮らす、アリウト族というエスキモーの中年男性。イリーナとセルゲイの父親にあたる。アリウト族の中では顔が利き、部族を代表する存在。ウナラスカ島を離れた後の魚一生の前にもしばしば現れ、さまざまなサポートをする。のちに人喰いのグリズリーと戦い、命を落とした。
悪魔 (うおぶりん)
ウナラスカ島で魚一生と出会ったクズリという動物。現地の言葉で悪魔を意味する「ウオブリン」という名で呼ばれる。一生に懐き、ゲニヤージの仇である人喰いのグリズリー狩りに協力したが、グリズリーの爪を頭部に受けて命を落とした。一生からは「ブリン」と呼ばれていた。
セルゲイ
ウナラスカ島出身の無法者で、イリーナの弟。部族の掟を破って島を追放されたが、アメリカ本土でも重罪を犯したために行き場がなくなり、2人の無法者の仲間を連れてウナラスカ島に舞い戻って来た。島民たちに倉庫に閉じ込められ、仲間割れで殺し合いを演じた末に死亡する。
アンソニー・ホワイト (あんそにーほわいと)
アメリカ政府からアラスカに派遣された動物学者の老人。アラスカで遭難していた魚一生を助けた。トナカイを撃った一生の狩りの腕を見て、連邦政府インディアン局を代表し、一生を「レッドミート・アドバイザー」に任命する。
エミリィー・ホワイト (えみりぃーほわいと)
アンソニー・ホワイトの娘。父親とともにアラスカを訪れていた若い女性。魚一生と恋仲になる。一生がウナラスカ島でアラスカ海部刀を打った時は、その手伝いを務めた。一生がユーコン川へと旅立つにあたり、置いていかれそうになったが、強引についていった。その後は一生の妻を名乗っていたが、ユーコン川で小貝武尊の部下の用心棒が故意に起こした事故に巻き込まれて死去する。
小貝 武尊 (こがい たける)
日本人の若い男性。日本の大商店である池田商店のアラスカ特派員。ユーコン川のキングサーモン漁の拠点であるエモナックの街を牛耳っている。魚一生がエモナックで暮らしていけないよう、さまざまな嫌がらせを働く。エミリィー・ホワイトを、事故に見せかけて殺したことが発覚した後、一生に復讐のための一騎打ちを挑まれる。 「則天流猿火拳(そくてんりゅうるりけん)」という拳法を駆使して対抗したが敗れ、最後は自分の用心棒の手で殺害される。
ベロン
ユーコン川に臨むエモナックの街の保護観察官。しかし酒に溺れる無能な男性で、小貝武尊と結託して街の腐敗に一役買っている。エレナ・パーカーがやって来て魚一生を小貝殺しの冤罪で逮捕した時、賄賂を払えば助けてやる、と一生に持ちかけたが、断られた。
エレナ・パーカー (えれなぱーかー)
アメリカの州政府保安官の若い女性。保護観察官も兼務する。ベロンから見ると上司にあたる。「大統領でも頭が上がらない」という意味で、「ファーストレディ・エレナ」と呼ばれる女傑。魚一生と一緒に遭難しかける経験をし、それを経て恋仲になった。過去の怨恨からタップというギャングを殺したが、その報復として自分も殺されることになった。
朝比奈 剛一 (あさひな ごういち)
日本人の青年。朝比奈漁業という企業の副社長の地位にある。ユーコン川の鮭の買い付けのために、大型の輸送機に乗ってエモナックにやって来た。ユーコン川上空は軍事上の理由で無線が禁止されているが、朝比奈剛一は歯に小さな無線機を隠し持っている。
タップ
ニューヨークのハーレムを仕切っているギャングの男性。黒人で、年齢は不詳。麻薬の密売を手がけており、ニューヨークの麻薬取引の10%はタップが仕切っているといわれる。過去の遺恨のためにエレナ・パーカーから恨まれており、命を狙われていた。
丁長成
韓国人の壮年男性。韓国と日本をまたにかける政界フィクサー。ニューヨークにいた魚一生の前に現れ、韓国の北洋漁業に参加するよう誘いをかける。その理由は、北洋漁業はベーリング海で行われるものであるため、現地にコネのある一生の人脈が必要だったからである。
小見山 重蔵 (こみやま じゅうぞう)
日本人の老人。「平和銀行」の会長であり、また「小見山コンツェルン」を率いている。ノルウェーのシシャモ漁に関心を抱いている。北方での漁業に関してさまざまな実績をあげている魚一生を、ノルウェーに派遣しようと考え、娘の草川詩織を使って色仕掛けをさせた。
草川 詩織 (くさかわ しおり)
小見山重蔵の秘書を名乗る日本人の若い女性。当初は隠していたが、実は重蔵の妾の娘である。出戻りの身で、色仕掛け要員として重蔵に利用されている。魚一生に対しても、仕事の依頼のために接近し、関係を持った。
場所
ウナラスカ島
アラスカ・アリューシャン列島の島。アメリカ政府にトド猟についてのレポートを提出し、一万頭のトドを狩猟する許可をもらった魚一生が一時移り住んだ。アメリカ領であるが、現地に暮らすアリウト族と呼ばれるエスキモーたちは、ロシア風の名前を持つ。
ユーコン川 (ゆーこんりばー)
カナダのユーコン準州からアメリカのアラスカ州を経て、ベーリング海峡へと注ぐ大河。全長約4000km、すなわち日本列島の倍の長さを持ち、総水量は日本の全河川の2倍半にも及ぶ。魚一生はウナラスカ島を去った後、キングサーモン漁のため、ユーコン川沿いの街・エモナックを訪れた。
その他キーワード
レッドミート
自然死に近い状態で仕留められた動物や魚の肉。上手に仕留めないと、肉がドス黒くなって味が落ちる一方。しかし、レッドミートはその名の通り赤い肉で、非常に美味である。魚一生がトナカイを撃った時、見事なレッドミートだったため、アンソニー・ホワイトら同行者たちに賞賛された。
アラスカ海部刀 (あらすかかいふとう)
「海部刀」を模した片刃のナイフ。日本の四国・阿波の海部という土地の特産品である、独特の形状をした刀。ウナラスカ島の人々により良いナイフを普及させるために魚一生が自ら打ち、「アラスカ海部刀」と名付けた。