植物病理学者が活躍するクライムサスペンス
本作はタイトル通り、農作物に被害を及ぼす植物病について研究する「植物病理学」をテーマにしている。かつて農作物を襲った植物病が人類の飢餓につながり、多くの人の命を奪ってきた歴史がある。また、現代も農作物を病原菌で枯死に追いやる農業テロの脅威にさらされており、植物病理学者は研究や分析を通してその脅威に科学で抗(あらが)い、植物だけでなく人類の未来を飢餓から守るという重大な役割を担っている。そんな植物病理学の分野で活躍する叶木と、彼の秘書である久磨子が遭遇するさまざまな植物病事件の謎が、クライムサスペンスやヒューマンドラマを交えて解決へと導かれていく。エピソードごとに毎回異なる植物と植物病が登場し、植物に関するさまざまな豆知識や解説も盛り込まれている。
植物を愛する准教授と若き女性秘書が主人公
主人公の叶木は、名門大学の植物病理学研究室に所属する准教授。ふだんは大学の研究室にこもって研究を続けているが、農家から植物診断の依頼を受けると、すぐに現地に駆けつけて調査や分析を開始する。ふだんの叶木はダンディなスーツを身にまとって紳士的に振る舞っているが、植物調査の時は作業着に身を包み、泥臭い地道な作業や労力を厭(いと)わず、植物病が引き起こす深刻な事件を解決に導いている。一方、もう一人の主人公である久磨子は、叶木の新米秘書として彼に振り回されながらも、植物病の被害者たちと真摯に向き合いながら奔走する、明るく素直な女性。しかし、自由奔放に見える久磨子の笑顔の裏には、かつて家族を植物病が原因で亡くし、生き残った双子の妹も行方不明になっているという悲しい過去がある。
事件の裏に潜む巨大な陰謀
農家や植物園などで発生した植物にまつわる事件を、植物病理学者の叶木と秘書の久磨子が解明していくストーリー展開ながら、事件の中には自然発生したものだけでなく、人為的に起こされた農業テロも存在する。叶木のもとに舞い込む一部の事件の裏には、「人類を半減させる」と公言する謎の人物、イライジャ・カンの悪意が見え隠れしていた。やがてイライジャは、久磨子の妹、斗良子を人質に取って叶木の研究データの搾取(さくしゅ)を画策するが、その情報を得た叶木たちが研究室のメンバーや警察と協力し、科学の力で抗いながらイライジャの陰謀に立ち向かっていく姿も見どころとなっている。
登場人物・キャラクター
叶木 (かのうぎ)
帝央大学の准教授で、植物病理学者の男性。濃い茶髪をロングヘアにした、中性的な風貌の美男子。悪気はないものの誰に対しても慇懃(いんぎん)無礼な態度で接する。ふだんはスーツを身につけ、懐中時計を愛用している。植物の病と戦うために日夜研究を続ける「植物のお医者さん」で、植物や科学に関しての造詣が深く、植物に対する愛情と熱意も人一倍強い。家族はおらず、人付き合いも得意ではない。口癖は「2秒で車を出したまえ」。
千両 久磨子 (せんりょう くまこ)
叶木の新しい秘書となった若い女性。かつて裕福な家庭で育ったが、所有していた山が植物病の被害に遭い、追い詰められた父親が自殺した悲しい過去を持つ。斗良子という双子の妹がおり、植物病理学者を目指して海外に渡ったが、行方不明になっている。父親の亡くなったあとに病気になった母親を介護していたが、その母親は斗良子が行方不明になったあとに亡くなっている。実は、斗良子はイライジャ・カンに人質にされたうえに、叶木の研究データを盗むよう脅迫されている。
書誌情報
植物病理学は明日の君を願う 4巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2023-03-30発行、 978-4098615964)
第2巻
(2023-08-30発行、 978-4098625475)
第3巻
(2024-02-29発行、 978-4098627103)
第4巻
(2024-08-30発行、 978-4098630219)