怪異にまつわる奇怪な事件が次々と発生
本作の奇妙な事件の数々は、当初は怪異が起こしたものと考えられている。しかし、幽霊や妖怪といった不思議な存在が引き起こしたように見える事件だったが、栞奈が情報を聞き出し、中禅寺が調査を進めることで新たな事実が判明していく。中禅寺は、自らの「この世には不思議なことなどなにもないのだよ」という言葉そのままに、図書室の幽霊、青い紙と赤い紙、青マント偽札事件などの不可解な事件を、現実の人間が起こしたものと見抜いて解決へと導いていく。
仏頂面の新任教師×好奇心旺盛な女子高校生
栞奈と中禅寺の出会いは、路線バスの中で起こった出来事が発端になっている。女性ものの大きな財布を拾った栞奈が、持ち主を名乗る三人の人物に囲まれて困惑していたところ、わずかな手がかりをもとに中禅寺が持ち主を特定したことで、栞奈は中禅寺の洞察力の高さに注目する。その後、中禅寺が東京都立美戸川高校の臨時国語教師として赴任したこと、さらに中禅寺が図書室の幽霊と間違われた事件をきっかけに、栞奈は不思議な出来事が起こるたびに中禅寺に相談を持ち掛けるようになる。当初は無愛想で目つきの鋭い中禅寺を苦手に思っていた栞奈だったが、次第に中禅寺なりの不器用な優しさや人となりを理解し、中禅寺の友人たちとの交流を通して彼と信頼関係を育んでいく。
中禅寺はのちに陰陽師となる
京極夏彦の小説「百鬼夜行」シリーズの主人公、京極堂こと中禅寺は、数々の難怪事件を解決に導いた男。本作は拝み屋の京極堂がまだ古本屋を開く前の物語で、いわゆる前日譚となっている。国語教師の中禅寺がやけに怪異に詳しい背景もスピンオフのシリーズに起因しており、百鬼夜行シリーズの中禅寺は武蔵晴明神社の宮司(ぐうじ)にして陰陽師(おんみょうじ)でもある。憑(つ)き物落としを生業とする陰陽師ならではの豊富な知識が、本作の魅力をより一層引き立たせている。
登場人物・キャラクター
日下部 栞奈 (くさかべ かんな)
東京都立美戸川高校に通う2年生の女子高校生。中禅寺の教え子。外ハネした黒髪をショートカットにしている。読書家で、小説家の宇多川崇の作品を愛読している。天真爛漫な性格で、運動神経抜群。中禅寺との初対面は路線バスの中で、財布の持ち主を巡る騒動を解決した彼の洞察力の高さに感服。その後も、中禅寺の博識さと聡明さを目の当たりにしたことで、周囲で不思議な出来事が起こるたびに、中禅寺に相談に乗ってもらっている。実は事件は中禅寺が解決しているのだが、面倒ごとを嫌う彼から口外無用を言い渡されており、クラスメイトたちは栞奈が事件を解決したとカンちがいしている。そのため「心霊探偵」と呼ばれるようになるが、事件に必要以上にかかわろうとすることについては、中禅寺からたびたび叱責を受けている。
中禅寺 秋彦 (ちゅうぜんじ あきひこ)
東京都立美戸川高校の臨時国語講師として赴任した男性。オールバックの髪に切れ長の目が特徴。学校ではスーツを身につけているが、ふだんは着物を着ている。無愛想ながら、生徒たちからは芥川龍之介に似ていると評されている。放課後は、旧校舎にある図書準備室に入り浸っており、ほとんどの生徒にはその部屋の存在すら知られていない。栞奈が事件の相談を持ち掛ける時に、この部屋に駆け込むのがお決まりのパターンになっている。「この世には不思議なことなどなにもないのだよ」が口グセ。中禅寺自身が栞奈の持ち込む事件を解決に導いているが、面倒を嫌ってその功績を栞奈に譲っており、事後の説明なども任せきりにしている。警察官の木場修太郎や作家の関口巽、ジャズバーでギターを弾いている榎津礼次郎とは戦友で学友でもあり、人脈が非常に広い。
クレジット
- 原案
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京極 夏彦
- 脚本
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田村 半蔵
書誌情報
中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。 10巻 講談社〈マガジンエッジKC〉
第1巻
(2020-07-17発行、 978-4065202470)
第2巻
(2020-08-17発行、 978-4065205143)
第3巻
(2021-03-17発行、 978-4065226681)
第4巻
(2021-07-15発行、 978-4065241608)
第5巻
(2022-02-17発行、 978-4065268483)
第6巻
(2022-08-17発行、 978-4065289587)
第7巻
(2023-04-17発行、 978-4065313671)
第8巻
(2023-10-17発行、 978-4065333594)
第9巻
(2024-05-09発行、 978-4065355763)
第10巻
(2024-10-08発行、 978-4065372128)