あらすじ
第1巻
荒魂を祓う刀使を目指す剣術少女の衛藤可奈美は、親友の柳瀬舞衣と共に、全国の刀使が腕を競う剣術大会「折神家御前試合」に向けて腕を日々磨いていた。迎えた選抜戦で優勝と準優勝に輝いた二人は、全国大会参加の切符を手にする。その後、全国大会の舞台となる鎌倉に到着した可奈美は、そこで同じく参加選手である十条姫和と出会い、彼女に強い関心を抱く。そして迎えた大会当日、可奈美と姫和は順調に勝ち進み、当代最強の刀使、折神紫立会いのもと決勝戦に臨む事となった。迎えた決勝戦、試合開始と同時に、姫和は可奈美を無視して紫を強襲するが簡単に一蹴され、危機に陥る。可奈美はそんな姫和に加勢し、二人は辛うじて決勝大会の場から逃げ出すのだった。こうして可奈美は、姫和と共に逃亡生活を開始する。
第2巻
折神紫を襲った事で指名手配犯となってしまった衛藤可奈美と十条姫和は、警察から逃げ回っていた。可奈美を心配する柳瀬舞衣も捜索に加わるが、姫和に力を貸す事を決めた可奈美は逃亡生活を続ける道を選ぶ。逃亡中、荒魂に遭遇した二人は人々を助けるため戦うが、そこを捜索していた舞衣に見つかってしまう。可奈美と姫和は舞衣に対し、紫と戦った際に彼女に荒魂が取り憑いていたのを見たと語る。こうして二人の決心を理解した舞衣は、彼女達を見逃すのだった。その後、二人は舞衣から密かに渡されたメモを使い、恩田累と舞草に接触。可奈美達は追っ手として現れた糸見沙耶香を退け、舞草の指示に従い、石廊崎(いろうざき)へと向かう事を決める。道中、舞草に所属する益子薫、古波蔵エレンも合流し、可奈美と姫和は協力して追っ手と戦いながら石廊崎を目指す。そんな中、追っ手の一人である皐月夜見が、エレン達に対抗するため大量のノロを取り込み、荒魂化してしまう。可奈美達は激闘の果てに力を使い果たした夜見を人間に戻す事に成功。その後、一行はエレンの呼び出した潜水艦に乗って舞草の本拠地を目指す。
第3巻
舞草の本拠地にたどり着いた衛藤可奈美と十条姫和を迎えたのは、柳瀬舞衣と糸見沙耶香だった。可奈美との戦いに敗れた沙耶香は、高津雪那によって敗残の責任を取らされ、ノロを注入されて荒魂化されそうになったが、舞衣に助けられたのちに羽島江麻の計らいで舞草に合流したのだった。そして可奈美達は、折神紫の妹の折神朱音から20年前に起きた相模湾岸大災厄の真実を聞く。母親がその事件にかかわっていた事を知って驚く可奈美だったが、母親達から続く因縁に終止符を打つべく、紫に取り憑いた大荒魂のタギツヒメと戦う覚悟を決める。しかしほどなく、舞草の本拠地は紫の襲撃を受けて壊滅する。邪魔者がいなくなった事で、タギツヒメは本性を現し、大量のノロを使って完全復活を遂げる。再び起きた大災厄を鎮めるべく、可奈美達はすべてを賭して最後の戦いに挑む。
登場人物・キャラクター
衛藤 可奈美 (えとう かなみ)
美濃関学院中等部に通う2年生の女子。勉学は苦手だが、剣術が好きで好きでたまらない「剣術オタク」。御刀を見ただけで目を輝かせるほどで、剣術関連の事に目がない。ライトブラウンの髪をミディアムカットにした、元気潑剌でまっすぐな性格をしている。また人懐っこく、初対面の人にもぐいぐい距離を縮めるタイプ。柳瀬舞衣とはお互いを親友だと思っており、いつもいっしょにいる。刀使としては優秀で、技量は同学年では飛び抜けている。剣術に関しては天賦の才を持ち、特に観察眼がずば抜けており、技の本質を理解する能力に長ける。その観察眼で十条姫和が折神紫を襲撃した際、紫の正体を見抜いて姫和に力を貸す事を決める。持っている御刀は母親と同じ「千鳥」。実は夢の中で、無意識のうちに隠世にいる衛藤美奈都と交信し、彼女から手ほどきを受けている。夢の内容は忘れているが、訓練した内容は体が覚えているらしく、衛藤可奈美の剣の技能は美奈都の訓練の賜物だった。可奈美自身は自覚していないが、観察眼で理解した剣を無意識のうちに真似る「憑依芸」と呼ばれる技を持つ。紫との最終決戦では無我夢中の中、美奈都の戦い方を模倣して紫の動揺を誘った。
十条 姫和 (じゅうじょう ひより)
平城学館中等部に通う3年生の女子。流れるような黒い髪を長く伸ばし、凛とした雰囲気を漂わせている。自他共に厳しく、刀使の使命感にあふれている。1年前、母親である十条篝と死別。その後、折神朱音が篝に当てた手紙を発見した事で、折神紫の正体と相模湾岸大災厄の真実を知る。そして刀使としての使命感から紫の暗殺を決意し、彼女が人前に姿を現す全国剣術大会の決勝戦を利用しようと目論む。決勝で紫を奇襲するが失敗し、決勝相手である衛藤可奈美に救われる形で、彼女と逃避行をする事となる。当初は自分の行動が危険な事だと考え、すべてを一人で背負い込もうとしていたが、可奈美と行動を共にするようになって次第に心を開いていく。持っている御刀は母親と同じ「小烏丸」。全国剣術大会で決勝まで勝ち残る確かな実力を持ち、特に迅移に超加速の突き技「一つの太刀(ひとつのたち)」は必殺の威力を誇る。実は、迅移に関しては特異な才能を母親から受け継いでおり、極限まで迅移を加速する事で敵を自らごと隠世の深遠に叩き込む「真のひとつの太刀」が使える。チョコミントのフレーバーが好物で、アイスもチョコミントをよく食べている。
柳瀬 舞衣 (やなせ まい)
美濃関学院中等部に通う2年生の女子。衛藤可奈美のクラスメイトで親友。艶やかな黒髪を結ってまとめ、お淑やかな雰囲気を漂わせている。年齢の割に発育がよく、周囲からはその巨乳をからかわれている。妹が二人いるため面倒見がよく、可奈美からも甘えられる事が多い。折神紫襲撃事件のあと、彼女の事を心配して捜索隊に加わる。可奈美の事を信頼しており、襲撃事件に関する事情を聞いたあとは、可奈美達を見逃した。その後、可奈美と戦った糸見沙耶香から可奈美の近況を聞いたのをきっかけに、沙耶香と交友を育む。元来の面倒見のよさを発揮して沙耶香ともすぐなかよくなり、彼女が荒魂にされそうになった際に彼女を助け、共に舞草に合流する。趣味はお菓子作りで、よくクッキーを焼いている。刀使としては美濃関学院中等部で可奈美に次ぐ実力を誇る。所持している御刀は「孫六兼元」。柳瀬舞衣自身の足りない部分を試行錯誤して補っており、攻撃のバリエーションが非常に多彩。また「明眼」「透覚」と呼ばれる索敵能力に長け、その精度は機械をも超える。視野が広く、頭の回転が速いため指揮官としての適正が高く、可奈美達と合流したあとは彼女達の指揮官を担当した。
糸見 沙耶香 (いとみ さやか)
鎌府女学院中等部に通う1年生の女子。「天才」と評される剣の腕前を持つ刀使で、任務の達成率は100パーセントを誇る。涼しげな雰囲気を持つ、無口で無表情な少女で、雪のような真っ白な髪をショートボブにしている。高津雪那に期待を掛けられているが、幼い頃から道具のように扱われて来たため情緒が育っておらず、雪那に言われるまま行動していた。折神紫襲撃事件のあと、追っ手として衛藤可奈美と戦う。この時、可奈美との戦いに敗れ、初めて任務を失敗する。雪那にも叱責されたが、その際に柳瀬舞衣に慰められた事をきっかけに、次第に感情を表に出すようになる。その後、度重なる敗退に業を煮やした雪那に荒魂化させられそうになるが、拒絶して逃亡。失意の中、舞衣を頼って彼女と共に舞草に合流する。舞衣にクッキーをプレゼントされてからは甘い物が好きになり、特に舞衣の手作りクッキーが好物。持っている御刀は「妙法村正」。迅移を主体とした高速戦闘が得意で、天才的な剣技も合わさってその実力は同年代でも屈指。また無心になる事で技の消耗を大きく抑える「無念無想(むねんむそう)」の使い手で、高段位の迅移も長時間連続で使用する事ができる。ただし無念無想は無心になるゆえに、行動が単調になるという欠点も存在する。
益子 薫 (ましこ かおる)
長船女学園高等部に通う1年生の女子。長いピンクブロンドの髪をツインテールにし、非常に小柄な体型をしている。一人称は「オレ」。面倒くさがりで、つねに気だるげな雰囲気を漂わせており、よく仕事の愚痴を吐いている。一方、刀使としては優秀で、身長を遥かに超える御刀「祢々切丸」を振って戦う。見た目に反して高い段位の「八幡力」を使いこなすパワーファイターで、戦闘では一太刀で何体もの荒魂をまとめて屠る。また守護獣のねねとのコンビネーションで、祢々切丸を投げて攻撃し、それをねねが空中で投げ返すなどトリッキーな戦法を取る事もできる。舞草に所属しており、逃亡中の衛藤可奈美と十条姫和に接触して彼女達を保護した。その後はタギツヒメの復活を阻止するため、可奈美達と行動を共にする。ねねの事は、ふだんはペット呼ばわりしているが、実際は大切に思っており、周囲が荒魂への偏見でねねをぞんざいに扱うと機嫌が悪くなる。
ねね
益子薫の守護獣。大きな耳と顔の付いた長い尻尾を生やした小動物のような姿をしており、「ねー」と鳴く。その正体は極めて特異な性質を持った荒魂で、人類に害意を持たず、荒魂の穢れを感知するスペクトラム計にも一切反応しない。益子家に代々伝わる御刀「祢々切丸」と共に継承者を守護する存在として伝わっており、刀使達からは特例としてその存在を認められている。食いしん坊で助平な性格と、自分の欲望に忠実。守護者である薫とも気安く接し、薫からはペット扱いされている。また胸の大きな女性が好きで、小動物らしい外見を活かして、気に入った女性にセクハラする事もしばしば。また薫によれば、将来的に女性の胸が大きくなるかどうかの可能性をかぎ分ける能力を持っているという。十条姫和の胸を見て残念そうな表情をしていた事があり、彼女からは嫌われている。戦闘では飛行能力を活かして薫のサポートを行い、息のあったコンビネーションを見せる。
古波蔵 エレン (こはぐら えれん)
長船女学園高等部に通う1年生の女子。アメリカ人の母親を持つハーフで、リチャード・フリードマンの孫。金色の髪をストレートに長く伸ばしており、年齢の割にスタイル抜群で長身。祖父譲りの陽気な性格で、初対面の人にも物怖じせず話す事ができる。また、独特なあだ名を付けて人を呼ぶ癖を持つ。祖父と共に舞草に所属しており、逃亡中の衛藤可奈美と十条姫和に接触し、彼女達を保護した。持っている御刀は「越前康継」で、戦いでは御刀だけに頼らず、手足を使った格闘戦を交えて戦う。また優秀な「金剛身」の使い手で、敵の攻撃を防御しながら反撃を狙う戦法を得意とする。
岩倉 早苗 (いわくら さなえ)
平城学館中等部に通う女子。髪をショートカットに切りそろえ、おとなし気な風貌をしている。平城学館の代表選手で、十条姫和と共に全国大会に参加する。姫和となかよくなりたいと思っているが、姫和が心に壁を作り、岩倉早苗自身もおとなしい性格なため関係に踏み込めずにいた。決勝戦で姫和が折神紫を襲った事で取り調べを受ける。その後、ただただ戸惑う事ばかりで、姫和となかよくなりたかった心境を柳瀬舞衣に吐露した。
羽島 江麻 (はしま えま)
美濃関学院の学長を務める女性。気立てがよく、年齢の割に若々しい容姿をしている。相模湾岸大災厄で活躍した六人の特務隊の一人で、当時は旧姓の「鏡島」を名乗っていた。十条姫和が折神紫を襲った際、衛藤可奈美が姫和を援護したため紫に呼び出しを受ける事となった。実は紫に疑念を抱いており、密かに舞草と接触していた。柳瀬舞衣が捜索隊に加わった際に、恩田累の連絡先を書いたメモを渡しており、可奈美の逃亡を手助けする。高津雪那の凶行を警戒しており、糸見沙耶香が荒魂化されかかった際には彼女の危機に駆けつけ、舞衣と共に沙耶香を舞草の本拠地へと逃がした。
五條 いろは (ごじょう いろは)
平城学館の学長を務める女性。柔和な顔立ちで、いつも和服を着ている。相模湾岸大災厄で活躍した六人の特務隊の一人で、当時は旧姓の「吉野」を名乗っていた。肝が据わっており、十条姫和が折神紫を襲った事で呼び出しを受けた際も慌てず、姫和と衛藤可奈美の身を案じていた。
高津 雪那 (たかつ ゆきな)
鎌府女学院の学長を務める女性。髪を夜会巻きにし、右の目元に泣きボクロがある。相模湾岸大災厄で活躍した六人の特務隊の一人で、当時は旧姓の「相模」を名乗っていた。10代の頃から折神紫を先輩として慕い、付き従っていたが、その積年の思いは現在では崇拝の域にまで達しており、その様は病的ともいえるもの。紫を「様」付けして呼び、紫のかかわる事ではヒステリックな言動が目立つ。紫が十条姫和に襲撃された際には、鬼気迫る表情で追跡の指揮を執った。学院の生徒達も紫の役に立つための道具にしか考えておらず、彼女達に過酷な任務や人体実験を課し、思い通りの結果にならなければ体罰まがいの事も行う。紫への妄信で目が曇るあまり、皮肉にも紫がとっくの昔に別の存在になって利用されていたという事実に、最後まで気づかなかった。その後、完全復活したタギツヒメに用済みとして見捨てられ、荒魂に襲われるが皐月夜見に救われ、九死に一生を得る。
相楽 結月 (そうらく ゆづき)
綾小路武芸学舎の学長を務める女性。目つきが鋭く、怜悧な佇(たたず)まいをしている。相模湾岸大災厄で活躍した六人の特務隊の一人で、当時は旧姓の「伏見」を名乗っていた。良識を持った優秀な人物で、折神紫の命令に従いつつも、学院の生徒を使い潰す所業には疑問を抱いていた。そのため、紫を妄信するあまり暴走しがちな高津雪那を制止したり、燕結芽の事を気にかけていた。舞草襲撃の際にはその疑念が遂に限界を迎え、相楽結月自らは結芽の最期を看取りつつ、衛藤可奈美を紫との戦いへ送り出した。
獅童 真希 (しどう まき)
折神家親衛隊の第一席の刀使の女性。精悍な顔立ちをしている。平城学館出身で、折神家御前試合で二連覇を成し遂げた実績を持つため、多くの刀使のあこがれを一心に集めている。一人称が「ボク」で、男性的な言動を取り、荒魂から人を守るため常在戦場の覚悟を持つ。かつては使命感に燃え、最前線で荒魂と戦い続けたが、突出した強さを持つため周囲と馴染めなかった。また荒魂が次から次へと現れるため、たった一人で戦い続けた結果、心身が磨耗して力に固執するようになる。その後、折神紫にノロを与えられ、自らを荒魂化するのを受け入れる。紫の正体は知らず、力を与えてくれた存在として彼女を信頼し、彼女の理想を叶えようと邁進していた。紫を守るため衛藤可奈美達の前に立ち塞がったが、タギツヒメの復活によって自分達が騙されていた事を知る。これにより一度は心が折れるものの、此花寿々花の叱咤で刀使の使命を思い出し、人々を荒魂から守るため再び立ち上がった。本来は仲間思いな性格で、皐月夜見を心配して救援に向かう。
此花 寿々花 (このはな すずか)
折神家親衛隊の第二席の刀使の女性。上品な物腰を身につけている。綾小路武芸学舎出身で、かつて獅童真希と折神家御前試合で覇を競い、好成績を残した。真希とは違う学校ながら好敵手兼親友という間柄で、強さに固執するあまり変貌していく彼女を放っておけず、自らもノロを受け入れて荒魂化した。冷静沈着な性格で、自分達が折神紫に騙されていたと知った際も、いち早く立ち直り、真希を叱咤するなど芯の強さを見せる。
皐月 夜見 (さつき よみ)
折神家親衛隊の第三席の刀使の女性。無口なうえ無表情で、雰囲気に陰がある。鎌府女学院出身で、高津雪那に忠誠を誓っている。実は雪那が行った、人を荒魂化する実験の試作品で、大量のノロを肉体に注入した結果、ノロの過剰摂取状態となっている。体を傷つけ血を出す事で、荒魂を生み出す事も可能になるほどノロに体が侵食されており、手にはリストカットのような自傷跡がいくつも残っている。衛藤可奈美と十条姫和の追っ手として彼女達と戦うが、力を使いすぎた結果、荒魂化が進行する。その際には左目から角が生え、鬼女のような姿となった。荒魂化した際には絶大な力を発揮するが、最終的に力を使い果たし、辛うじて人間の姿に戻る。その後、任務失敗で雪那に責められるものの、それでも彼女を慕い、最終決戦では重症の身を顧みず、荒魂に襲われる雪那のもとへと駆けつけ、彼女を救っている。実は何の取り柄もなく、コンプレックスを抱いていたところ、雪那に声を掛けてもらった事で救われた過去を持つ。最終決戦では瀕死の重傷を負うが、すんでのところで獅童真希と此花寿々花に救われ、命を取り留める。
燕 結芽 (つばくろ ゆめ)
折神家親衛隊の第四席の刀使の少女。親衛隊の最年少で、天真爛漫な性格をしており、薄桃色の髪を腰まで長く伸ばしている。綾小路武芸学舎出身で、幼くして御刀に認められ、複数の刀使を一度に相手取る尋常ならざる技量を身につけた。そのため「神童」として一時はもてはやされたが、程なくして大病を患い、余命幾ばくもない状態となる。家族からも見捨てられ、孤独な死を迎えつつあった時、折神紫にノロを手渡され、それを受け入れた。ただしノロを受け入れたのはあくまで延命のためで、荒魂の力を嫌い、自ら封じている。荒魂の力を封じてもその戦闘能力は驚異的の一言で、衛藤可奈美にすら匹敵する技量を持つ。限られた時間の中で、荒魂の力に頼らず、周囲に自分の姿を焼き付けさせたいと考えている。舞草の本拠地で、可奈美と戦闘する。待ち望んでいた最強との戦いに身を焦がしつつ、戦いの中で可奈美と気持ちを通じ合わせる。最期は可奈美との戦いに命を燃やし尽くし、敗北しつつも満足げな笑みを浮かべて死亡した。可奈美も燕結芽とは、出会いの形が違えば友達になれただろうと語っている。
折神 朱音 (おりがみ あかね)
折神紫の妹。黒い髪を長く伸ばし、落ち着いた雰囲気を漂わせている。衛藤美奈都の死で過去を悔やんだ十条篝の言葉を聞き、独自に相模湾岸大災厄を調査し、その真実にたどり着いた。その後、2年前に紫に取り憑いたタギツヒメの存在を見て、相模湾岸大災厄の大荒魂が現在も生きている事を悟る。その事実を手紙にしたためて篝に送ったが、その時すでに篝は病に伏して余命幾ばくもない状態だったため、手紙は娘の十条姫和の手に渡る事となった。姫和が紫に襲い掛かったのを知ったあとは、舞草を通じて姫和達に接触して彼女達に真実を伝えた。
真庭 紗南 (まにわ さな)
長船女学園の学長を務める女性。日焼けした小麦色の肌に、銀色の髪を長く伸ばしている。相模湾岸大災厄で活躍した六人の特務隊の一人で、当時は旧姓の「新見」を名乗っていた。折神紫と高津雪那が不穏な動きをしているのを察し、折神朱音に協力して舞草を結成。学園の生徒や設備を使って舞草を支援する。彼らの不正の証拠を探しており、古波蔵エレンが皐月夜見からノロのアンプルを奪った事で、決定的な証拠を手にしたと思われたが、それは紫の罠で、逆に舞草の本拠地を暴かれてしまう。
リチャード・フリードマン
舞草に所属する科学者の男性。眼鏡をかけた陽気な白人の老爺で、古波蔵エレンの祖父。S装備の開発に携わった優秀な科学者で、20年前、当初開発に行き詰っていたS装備が突如完成した事に疑問を抱く。その後、完成したS装備に使われている技術が荒魂由来のものだと気づき、その技術をもたらした折神紫に疑念を抱いた。同じく紫を危険視していた折神朱音に合流し、彼女達と舞草を結成した。舞草ではS装備の開発を担当しており、これによって舞草では、紫にも把握できていない最新装備が提供されている。
恩田 累 (おんだ るい)
元刀使の女性。現在は引退し、一般人として暮らしている。眼鏡をかけた気さく性格で、八幡電子に勤めている。美濃関学院の出身なため、学長の羽島江麻には世話になっていた。江麻に頼まれ、折神紫襲撃事件を起こした衛藤可奈美と十条姫和を匿った。実は「グラディ」という名で舞草と接触しており、可奈美と姫和に彼らへの伝を紹介した。
折神 紫 (おりがみ ゆかり)
御刀の管理を国から任されている折神家当主の女性。黒のロングヘアで、怜悧な雰囲気を漂わせている。20年前の相模湾岸大災厄を戦い抜いた英雄で、現刀使の中で最強と謳われる人物。実は20年前の戦いの折、目の前で仲間が失われるのに耐え切れず、タギツヒメと仲間の命を救う取引を交わし、その代償としてタギツヒメに取り憑かれた。戦いで傷ついたタギツヒメは折神紫の中で休眠状態となっていたが、徐々に彼女の意識を蝕み、10数年経ったあとには紫の意識は完全に乗っ取られる事となった。事件後、意識の残っているうちにタギツヒメを通じて得た知識を利用してS装備を完成させたり、刀使の所属する刀剣類管理局の局長に就任して、組織を統制・強化していた。しかし意識を乗っ取られたあとは、タギツヒメにそれらを利用されてしまう。紫が局長就任後、荒魂の被害は格段に少なくなったといわれているが、これはタギツヒメが支配下にあるノロを抑えていただけに過ぎない。のちに刀使達が大量に集めたノロを利用し、タギツヒメの完全復活を許す事となる。
タギツヒメ
相模湾岸大災厄で発生した大荒魂。いくつもの目が浮かび上がった黒い影のような姿をしている。大量のノロが結合した結果、知性が生まれ、本能のまま人類を襲えば必ず逆襲に遭い、最終的に滅びるという考えに至った。そのため、相模湾岸大災厄で対峙した折神紫の弱みを突いて彼女と取引。紫の仲間である衛藤美奈都と十条篝の命を助けるのと引き換えに、紫に取り憑いて生き延びていた。その後は戦いで負った傷を回復すべく浅い隠世に潜み、休眠状態となっていたが、数年前から活動を再開。紫の意識を乗っ取り、人間の組織を利用して自らの完全復活を目論む。舞草壊滅後、20年間、刀使達が集めたノロを使い、完全復活を遂げる。完全復活後の姿は紫の体をベースに、黒い影が腕のように無数に生え、それぞれの腕が刀を持つ異様なもの。紫の剣技と極短時間ながら未来を垣間見る「龍眼」を併せる事で、強大な力を振るう。
衛藤 美奈都 (えとう みなと)
衛藤可奈美の母親。現在は故人。旧姓は「藤原」。相模湾岸大災厄で折神紫と共にタギツヒメと戦った一人。当時、紫すら超える剣技を持つ凄腕の刀使で、命と引き換えにタギツヒメを倒そうとする十条篝に同行し、二人がかりでタギツヒメに痛手を負わせる。その後、辛うじて生還するが、戦いの中で刀使の力を使い果たしたため、その後は一般人として暮らしている。結婚して可奈美という娘にも恵まれたが、力を失った反動か7年前に早逝した。相模湾岸大災厄で実質的にタギツヒメを倒した英雄だが、力を失った二人を再び危険にさらさない配慮から名前は伏せられており、実の娘の可奈美にすらその偉業は知らされていなかった。実は死後、可奈美の夢に17歳の「藤原美奈都」の姿でたびたび現れている。明るく前向きな性格をしており、夢の中で可奈美に稽古をつけたり、彼女の相談に乗ったりしている。記憶も17歳で止まっているため、可奈美の事は知らず、当初は友人のように付き合っていた。夢の中の美奈都は、実はタギツヒメとの戦いで分かたれた隠世に残された魂の半身ともいうべき存在で、同じく分かたれた現世と隠世の「千鳥」を使って無意識のうちに可奈美と交信していた。
十条 篝 (じゅうじょう かがり)
十条姫和の母親。現在は故人。旧姓は「柊」。相模湾岸大災厄で折神紫と共にタギツヒメと戦った一人。折神家に伝わる鎮めの儀をお役目として担っており、相模湾岸大災厄の際、自らの命と引き換えに大災厄を鎮める決心を固める。タギツヒメとの戦いで、同行した衛藤美奈都と共にタギツヒメに痛手を負わせる。その後、辛うじて生還するが、戦いの中で刀使の力を使い果たしたため、その後は一般人として暮らしている。結婚し、姫和という娘にも恵まれたが、美奈都が早逝した際には責任を感じ、強く悔やんだ。その後、程なくして自らも若くして亡くなった。相模湾岸大災厄で実質的にタギツヒメを倒した英雄だが、力を失った二人を再び危険にさらさない配慮から名前は伏せられている。実は美奈都と同じくタギツヒメとの戦いの際、魂が二つに分かたれ、隠世に魂の半身ともいうべき存在が残っている。姫和がタギツヒメとの戦いで隠世に行った際、同じく二つに分かたれた御刀「小烏丸」を通じて出会う。その際には17歳の「柊篝」の姿だった。
集団・組織
舞草 (もくさ)
折神紫の率いる特別刀剣類管理局に反抗する組織。長船女学園の学園長の真庭紗南と紫の妹の折神朱音が中心になって活動しており、同学園の生徒が多数所属している。相模湾岸大災厄の真実と紫の正体に気づいており、タギツヒメを鎮め、刀使を本来あるべき姿に戻す事を目的として活動している。アメリカ軍も秘密裏に協力しており、舞草ではアメリカ所属の潜水艦が使われている。
その他キーワード
相模湾岸大災厄 (さがみわんがんだいさいやく)
20年前に江ノ島で起きた事件。観測史上最大にして史上最悪と称される大荒魂のタギツヒメが現れ、さらにそれに引き付けられるように多くの荒魂が現れて暴れまわった。その被害は甚大で、最寄の町は壊滅、死者行方不明者は莫大な数にのぼり、現世は滅亡寸前とまでいわれたほど。折神紫を含む六人の特務隊の活躍によって大荒魂は祓われ、事件は終結したとされている。事件の原因は秘匿されているが、真実はノロの軍事研究をしていたアメリカが引き起こした人災。取り扱いが危険と知りつつもアメリカはノロの大量輸送を行い、事故を引き起こして大量のノロを大荒魂へと変貌させてしまったのが事件の真相だった。大荒魂は紫に成りすまして現在も生き延びており、人間の姿を使って静かに現世を侵略していた。
写シ (うつし)
刀使が御刀を使う事で扱える特殊能力。御刀の神力によって一時的に肉体を霊体へと変換する技術で、霊体は通常の肉体と同じように動かす事が可能。また霊体のあいだに受けたダメージはわずかな痛みのみで、写シを解いたあとはそのあいだに負った傷はすべて消え去る。このため、刀使の訓練や荒魂との戦いでは必須の基本技術となっている。写シは非常に優秀な防御術だが、集中力が必要なため消耗が激しく、不慣れな者は短時間で強制的に解除されてしまう。熟練者であっても長時間の使用は難しく、2~3回連続で使うのが限界となっている。
迅移 (じんい)
刀使が御刀を使う事で扱える特殊能力。時間の流れの違う隠世にアクセスして自身の体感時間を加速させ、高速移動を可能とする戦闘術。1段階、2段階と段位を上げる事で、加速性能を強化する事が可能となるが、段位を上げると消耗が激しくなる。また迅移を極め、より深い隠世に潜れば一瞬が永遠へと加速し、超加速で対象を刺し貫いて自身諸共、対象を隠世の深遠へと葬り去る心中技として使用する事が可能となっている。
御刀 (おかたな)
荒魂に唯一対抗できる武器。神性を帯びた金属「珠鋼(たまはがね)」を精錬して作り出された神器で、刀使が使う事で強い神力を発揮する。御刀の神力は、制御する事で攻撃力を引き上げる「八幡力(はちまんりき)」、防御力を引き上げる「金剛身(こんごうしん)」、自身の時間を加速させる「迅移」などさまざまな力を振るう事ができる。また振るう神力は力の強さによって段階分けされており、上位の段位になればなるほど威力を増すが、消耗が大きくなるデメリットも存在する。
スペクトラム計 (すぺくとらむけい)
荒魂を発見するための道具。ノロが埋め込まれた方位磁石のような形をしており、ノロが結合する「スペクトラム現象」を利用して、荒魂を感知する仕組みとなっている。現在はデジタル化した「スペクトラムファインダー」が主流となり、特別刀剣類管理局のノロの一点管理という方針も相まってほとんどが姿を消している。十条姫和は母親の形見として、アナログのスペクトラム計を今も大事に所持しており、のちに姫和を助けて思わぬ活躍を果たす。
S装備 (すとーむあーまー)
特別刀剣類管理局が管理する刀使用の強襲用装備。要所要所を覆う軽装鎧に、バイザーの付いたヘルメットがセットとなった形をしている。装備する事で刀使の各種能力を大幅に増幅する事ができるが、予備電池を含めても30分しか活動時間がないという欠点が存在する。そのため長時間の稼動は不可能で、その使用には高度な判断が求められる。稼働時間の関係から最初から着用する訳にもいかないため、使用の際には専用のコンテナに収容し、現地に打ち込むという形で運用される事が多い。最新の装備で現在存在するS装備はすべて特別刀剣類管理局の管理下に存在する。S装備の開発には他国が深くかかわっており、リチャード・フリードマンも開発者の一人。20年前から開発が続けられていたが、当初は完成の目処がまったく立たなかった。しかし相模湾岸大災厄後、折神家当主となった折神紫が技術供与を行い、急遽完成した。その際供与された技術があまりに突飛な超技術だったため、リチャードが紫を不審に思うきっかけとなる。その後、リチャードが行方をくらまして舞草に合流したため、舞草も最新のS装備を密かに開発、配備している。
伍箇伝 (ごかでん)
刀使を養成する学園の総称。「美濃関学院」「平城学館」「長船女学園」「鎌府女学院」「綾小路武芸学舎」の五つで構成されるため、「伍箇伝」と呼ばれる。五つの学校は刀使の養成だけではなく、現役の刀使も多く所属しており、荒魂が出現した際には率先して戦う。また刀使達は他校の刀使達と腕を競う剣術大会などで交友を育み、有事の際には力を合わせて荒魂と戦う。
刀使 (とじ)
魑魅魍魎である荒魂を討伐するお役目を持つ者達の総称。「特別刀剣類管理局」と呼ばれる国家組織に所属する国家公務員で、公的な正式名称は「特別祭祀機動隊」だが、専ら通称の「刀使」の名で呼ばれる。荒魂は霊験あらたかな御刀を用いて鎮められる。ただし御刀から力を引き出す素質を持つ者は女性に限り、特にうら若い乙女ほど強い適性を持つとされ、年を取ると適性が失われるケースも多い。このため、刀使は特別な訓練を積んだ年若い少女達がほとんどを占める。持っている御刀も一つ一つ個性と相性があり、基本的に刀使は全員が専用の御刀を持ち、他人の御刀を使う事はない。その起源は神を祀る巫女で、本来の役割は荒魂を鎮めるのと同時に、人の身勝手で生み出された彼らを慰め、安らかな眠りを与えるという物。そのため折神朱音は荒魂討伐に効率化しすぎたあまり、本来の意義が失われた刀使を元の形に戻したいと考えている。
荒魂 (あらだま)
人に仇(あだ)なす魑魅魍魎。ノロが結合する「スペクトラム現象」で生まれ、本能のままに人を襲い、町を破壊する。神性を帯びた存在であるため、同じく神性を帯びた御刀を用いるしか対応策はなく、その討伐には刀使が専門に当たる事となっている。荒魂は知性はないとされるが、実は大量のノロが結合する事で知性が生まれ、自我が芽生える。20年前の相模湾岸大災厄の折には人と対話できるレベルの大荒魂が現れたが、荒魂が「人以上の知性を持つ可能性」を恐れた国の上層部によって、その事実は隠蔽された。またタギツヒメによると、荒魂が人を襲うのは、人間が自分達から純粋な部分である「珠鋼」を奪い、暗い場所に閉じ込める、という身勝手な所業に対する「喪失感」と「復讐心」から来ていると語った。また荒魂の中にはねねのように人に寄り添う荒魂も存在する。
ノロ
「珠鋼」を精錬した際に生まれる不純物。負の神性を帯びた物質で、放置しておくとノロはひとりでに結合する「スペクトラム現象」を引き起こし、一定以上のノロが集まると荒魂へと変貌する。また神性を帯びたノロは、いかなる手段をもっても完全に無害化、消滅させる事は不可能なため、「特別刀剣類管理局」が一箇所に集めて厳重に管理されている。特別刀剣類管理局は集めたノロに特殊な電流を流し続ける事でスペクトラム現象を抑制する事ができると公言していたが、これは折神紫に扮したタギツヒメのウソで、タギツヒメが自らの支配下にあるノロの動きを抑制しているだけだった。また高津雪那はノロを刀使に取り込ませる事で、人を荒魂化する研究をしている。
クレジット
- 原作
-
伍箇伝計画
- キャラクター原案
-
しずま よしのり