概要・あらすじ
価値のある絵画だけを見極めて盗む、「神の手」と称される名うての絵画泥棒・速馬彰人は、各地の美術館で、6年前に失踪して行方知れずとなった母親が描いたパスティッシュの絵画を集めていた。そんな折、突如として住まいの神社に侵入して来た賊により、彰人は謎のアトリエへと連行されてしまう。そこで彰人は、美術品の悪徳ブローカーである榊原から、脅迫を受けて贋作を描かされていた母親の速馬春栄が、すでにこの世を去ったことを知らされる。
さらに母親の代わりとして、アトリエで贋作を描くことを強要されるのだった。しかし、要求を拒絶して銃で脅され、絶体絶命のピンチに陥った彰人の右手の甲に、謎の紋様が出現。触れた対象にリアルな幻覚を見せる神撫手の能力に目覚めた彰人は、その能力を使って榊原たちをこらしめることに成功する。
春栄の遺したピアスから彼女の「残留思念」を読み取った彰人は、神撫手の宿命を知るために、春栄の絵画を集めることを決意するのだった。
登場人物・キャラクター
速馬 彰人 (はやま あきと)
絵画泥棒の少年。厳重な警備をかいくぐって絵画を鮮やかに盗み出す手口により、「神の手」と称される。世間的には価値の高い絵画だけを狙う怪盗扱いをされているが、実は6年前に失踪した母親の速馬春栄が描いたパスティッシュの絵画のみをターゲットにしている。春栄の絵画が贋作として流通する現状を許せず、発見次第に盗み出していた。 単なる泥棒ではなく、数ある名画の中から春栄の作品だけを百発百中で見つけ出すことができるほど、審美眼に優れている。春栄の失踪後に彰人を引き取った鴨川文によって、泥棒として技術を厳しく仕込まれており、身体能力や判断力は一流。榊原のアトリエに連行されて危機に陥った際に、神撫手の能力が覚醒。右手に触れた相手にリアルな幻覚を見せることができるようになる。 その後は神撫手としての自身の運命を知るため、春栄が絵画に込めた残留思念をたどることになった。絵画泥棒としては誰もが認める凄腕だが、稼業を離れればごく普通の多感な少年。なお、絵を描くのは好きだが、それほど得意ではない。
鴨川 文 (かもがわ ふみ)
背がとても低い老婆。6年目に母親が失踪して天涯孤独の身となった速馬彰人を神社に引き取り、絵画泥棒としての基本的な技術を叩き込んだ女性。美男子に目がないホスト狂いで、いろいろなホストクラブに通い詰めては方々に借金を作っている、という困った人物。反面、ブ男に対しては非常に厳しい。神撫手についても詳しく、能力に目覚めた彰人に対し、その詳細について教えている。 彰人からは親しみと呆れの感情を込めて「鴨婆」と呼ばれていた。神撫手としての運命に苦しむ彰人を、厳しくも優しい態度で励ましていた。
五十嵐 楓花 (いがらし ふうか)
五十嵐興産の前社長の娘。まだ幼いがコンピューターの達人。ネットを介してあらゆる組織のデータベースにアクセスし、情報を盗み取ったり、改ざんすることができる才女。4年前に事故死した両親が遺した財産や美術館を、当時の会社の専務だった横戸に奪われている。自身をモデルに速馬春栄が描いてくれた「ドガの少女」という絵画を、横戸から取り戻すため、速馬彰人に盗みを依頼していた。 過酷な経験をし続けたため、態度や言動が大人びているが、本来は心優しく明るい普通の少女。
速馬 春栄 (はやま はるえ)
6年前に失踪した速馬彰人の母親。神撫手の持ち主。触れた対象の所有者の想いや技術を取り込んで、その人物になりきれるという特殊な能力の使い手だった。その異能に目をつけたブローカーの榊原に脅迫され、贋作を描き続けることを強要されてしまう。鴨川文に彰人を預けた後は、榊原のアトリエに軟禁され、ひたすら贋作を描き続けていたが、3年前に病死。 成長した彰人が、春栄の想いを読み取って「神撫手の宿命」を知ることができるように、描いた絵の多くに残留思念を残していた。
蒼眼 (そうま)
中国風の服装をした神撫手の持ち主。端正な顔立ちとクールな性格をした長髪の少年で、触れた水を自在に操れる能力を持ち、凄腕の用心棒として要人の警護などをしている。速馬彰人との戦いでは、水を青龍刀に変化させるといったトリッキーな技と優れた体術を駆使して彰人を圧倒していた。幼少の頃の記憶を失っており、自分が何者なのかがよくわかっていない。 記憶を取り戻すため、占い師に導かれて絵画「マネの剣士」を奪おうとしていた。
勝川 春花 (かつかわ はるか)
儚げな雰囲気を漂わせた未亡人。絵画を趣味とし、難病にかかった息子の巨額の治療費を捻出するために、高い技量を活かして贋作を描いていた。実は速馬春栄の姉で、自身も神撫手の持ち主。触れた対象の脳幹を麻痺させ、生命維持に必要な働きをすべて停止させられる。速馬彰人に対し、神撫手は自分はおろか周りの人間も不幸にするとつぶやいていた。 神撫手の秘密結社「天与の御手」に所属している。
榊原 (さかきばら)
6年前から速馬春栄をアトリエに軟禁して、速馬彰人の命と引き換えに精巧な贋作を描かせていた中年男性。3年前に春栄が病死したため、息子の彰人が同じ能力を持っていると考え、彼を探し出してアトリエまで連行し、贋作を描かせようとする。
黒メガネ (くろめがね)
神撫手の秘密結社「天与の御手」に所属する神撫手の持ち主。薄い色のサングラスをかけた男性。傀儡の神撫手の使い手で、ほかの神撫手を遠隔操作することができる。速馬彰人を殺しきれなかった勝川春花を処分しようとするが、彰人によって倒された。「天与の御手」に対する忠誠心は強い。
占い師 (うらないし)
ブルカで顔を隠した性別不詳の占い師。すべてを見透かすような不思議な瞳をしており、世界征服を狙う秘密結社「天与の御手」の脅威を感じ取っている。神撫手の能力に目覚めた速馬彰人に対し、神撫手としての運命に従って「天与の御手」と闘うかどうかを問いただしていた。
渡辺 真奈 (わたなべ まな)
集英女子高に通う女子高生。日々身の周りで起こる奇妙な現象の数々に不安を覚え、「霊感商法」を始めた速馬彰人を頼ってやって来た。学校のスクールカウンセラーである高橋新一と不倫関係にあるが、彼の家庭を壊すつもりはない。
高橋 新一 (たかはし しんいち)
眼鏡をかけた知的な雰囲気の男性。集英女子高でスクールカウンセラーをしている。妻子がいる身だが、生徒の渡辺真奈と不倫関係にある。催眠術の使い手で、邪魔になった真奈を催眠術によって自殺に追い込もうと画策していた。
狩野 (かのう)
ハンチング帽を被った背の低い男性刑事。役職は警部で、速馬彰人を追っている。彰人を捕まえようと人一倍意気込んでおり、彰人が盗みそうな絵画に対する見立てや勘も優れているものの、詰めが甘く、いつも彰人を取り逃がしている。
大泉 清一郎 (おおいずみ せいいちろう)
次期首相との呼び声も高い国会議員の男性。政界では有名な美術コレクターで、速馬彰人や蒼眼が欲していた絵画「マネの剣士」を所有していた。インターネットの発達によるスキャンダルの拡散を恐れている。
横戸 (よこど)
かつて五十嵐興産の専務を務めていた中年男性。社長夫婦が事故で亡くなったのを好機と捉え、五十嵐家の財産を乗っ取ったうえで、五十嵐興産の社長に就任した。所有する絵画「ドガの少女」を取り戻しに来た五十嵐楓花を疎ましく思い、殺害しようとする。
取立て屋 (とりたてや)
チンピラの男性。鴨川文がホスト通いで作った借金を取立てに来た。文が金を払えないのであれば、速馬彰人を歌舞伎町に売り飛ばすと嘯(うそぶ)いていた。速馬春栄の絵画を売り払おうとしたために彰人の怒りを買い、神撫手で頭髪が燃える幻覚を見せられる。
集団・組織
天与の御手 (へぶんせんと)
神撫手による神撫手のための組織。世界征服を唯一にして最大の目的としている。組織の実態は不明だが、世界が電気信号に頼る「電脳文明」と化したため活動の幅が広がり、各国に根を張るほど巨大化した。
その他キーワード
神撫手 (かんなで)
「神の撫づる御手」と呼ばれる、甲に特殊な紋様が浮かび上がった手、またはその手の持ち主を指した言葉。生物の脳や神経などに流れている微弱な電流を増幅させて、触れた対象物に超常的変化をもたらす。神撫手の能力は個人によって異なり、対象に幻覚を見せたり、触れた水を自在に操ることができるなど、そのバリエーションは多種多様。使用には精神的体力を必要とし、未熟な使い手では1日1回の使用が限度となる。
パスティッシュ
ある作家の同じ時代の顔料や素材・タッチを駆使して、その作家が存命であれば必ず描いていたであろう作品を作り上げる技法。贋作とは異なり、れっきとした絵画扱いになる。速馬春栄が得意としていた。