私とこわれた吸血鬼

私とこわれた吸血鬼

厘のミキ(凜野ミキ)の代表作の一つ。幼い頃の思い出が詰まった山奥の洋館を舞台に、女子大学生の山景樹は、吸血鬼となった幼なじみの雨森夜毎と再会する。二人は、夜毎を取り巻く謎や陰謀に立ち向かいながらも、純粋な愛を育んでいく。吸血鬼という存在を通して、愛と孤独という相反する感情を表現したヴァンパイアロマンス。講談社「Palcy」で2020年8月26日から2024年12月4日まで連載。

正式名称
私とこわれた吸血鬼
ふりがな
わたしとこわれたきゅうけつき
作者
ジャンル
恋愛
 
サスペンス
レーベル
KCデラックス(講談社)
巻数
既刊10巻
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傷ついた吸血鬼と幼なじみの純愛サイコホラー

吸血鬼である夜毎は、長年にわたる人体実験まがいの拷問によって心に深い傷を負っていた。幼なじみの樹は、久しぶりに再会した夜毎の、かつての面影を失った痛ましい姿に言葉を失う。異常な状況に直面した樹は、一度は夜毎を見捨てて穏やかな日常へ戻ろうとするが、色あせることのない幼い日の思い出が脳裏から離れなかった。覚悟を決めた樹は再び夜毎のもとを訪れるが、そこは愛憎と陰謀が渦巻く吸血鬼たちの伏魔殿だった。こうして樹は抗(あらが)えぬまま、後戻りできない深い闇の世界へと足を踏み入れていく。

満たされない思いが織りなす危うい絆

樹は幼い頃から両親に育児放棄同然の環境で育てられ、中学生の時に幼い双子の弟妹を残して両親が姿を消してしまう。それ以来、樹は一人で弟妹を守るため、懸命に働くことを決意した。その過剰なまでの献身の根底には、「再び家族を失う」ことへの強い恐怖があった。いくつものアルバイトを掛け持ちし、心身をすり減らしながらも、弟妹を守り抜く覚悟は揺るがない。一方の夜毎は、日々血を奪われ続ける地獄のような生活を送っており、ついに心を壊してしまう。しかし、すべてが壊れたはずの心に、ただ一つだけ残ったものがあった。それは、幼なじみの樹への異常なまでの執着心だった。本作の根底には「満たされない思い」というテーマがある。心に大きな空洞を抱えた二人は、その隙間を埋め合うかのように互いを求め、やがて危うい依存関係へと陥っていく。

雨森家は吸血鬼を食い物にする

夜毎の実家である雨森家は、吸血鬼の血を受け継ぐ一族である。その血筋からは、稀(まれ)に「先祖返り」と呼ばれる純粋な吸血鬼が生まれることがあった。吸血鬼の血は不老不死の妙薬として裏社会で高値で取引され、その莫大な利益によって、雨森家は表向きには大手医療企業としての地位を築いていた。一族の繁栄のため、先祖返りした子供は地下に監禁され、血を搾り取られ続けたあと、廃棄されるのが決まりとなっていた。夜毎もまたその運命を辿るはずだったが、廃棄される直前に一族の方針が転換され、雨森家の正当な後継者となる。しかし、長年の虐待で心を壊してしまった夜毎には、後継者の役割を果たすことができるはずもなく、樹は彼を安定させるための「部品」として、雨森家に利用されることになる。このように、二人の関係には雨森家を取り巻く陰謀が深くかかわっており、サスペンス的な要素が絡み合って複雑に展開していく。

登場人物・キャラクター

山景 樹 (やまかげ いつき)

とある大学に通う女子。肩まで伸ばしたベージュ色の髪を二つに結んでいる。自由奔放すぎる両親からネグレクトを受けて育ち、10年前の夏、家に置き去りにされて餓死寸前だったところを夜毎に救われた。彼と過ごした日々は、樹にとってかけがえのない宝物となり、「お姫様になる」という約束を夜毎と交わした。しかし、家の事情で二人は離れ離れになり、そのまま音信不通となってしまう。そして中学生の頃、両親が借金を残して蒸発。それ以来、双子の弟妹を養うため、家政婦のアルバイトで一家の生計を支えているが、弟妹たちからは腫れ物扱いされ、家庭内で孤立している。そんなある日、弟が起こしたトラブルに巻き込まれ、不良グループから報復を受ける。山奥に連れ去られ、暴行されそうになったところを逃げ出すが、崖から転落。死を覚悟した彼女を救ったのは、奇(く)しくもその地下に監禁されていた夜毎だった。長年、再会を夢見ていた樹だったが、目の前の彼は長年の幽閉生活で心を壊し、廃人同然の姿だった。大きな衝撃を受ける彼女に対し、雨森家は多額の報酬と引き換えに夜毎の「教育係」になることを依頼する。この異様な状況に一度は逃げ出そうとするも、かつて自分を救ってくれた夜毎を見捨てることができず、彼の世話をする決意を固める。しかし、「決して血を与えてはならない」という忠告にもかかわらず、衰弱した彼を前にして再び自らの血を与えてしまう。その行為が、二人の運命を歪んだ共依存関係へと変えていくのだった。

雨森 夜毎 (あめもり よごと)

製薬会社「雨森薬品工業株式会社」を経営する雨森家の御曹司(おんぞうし)。年齢は20歳。淡いアッシュブロンドの髪と赤みを帯びた瞳を持つ。吸血鬼の末裔(まつえい)でありながら、一族の中でも稀な「先祖返り」として生まれた突然変異体である。幼い頃に出会った幼なじみの樹には「ようちゃん」と呼ばれるほど仲がよかったが、彼女の血を吸ってしまったことをきっかけに吸血鬼の力が完全に覚醒した。それ以来、10年間にわたり雨森家の地下に監禁され続けてきた。家業は300年の歴史を持つ同族経営の製薬会社で、業界トップクラスの業績を誇る。しかし、その繁栄は一族の吸血鬼の血から作られる「妙薬」によって支えられていた。特に若返り効果を持つ妙薬は裏社会で高値で取引され、一族に莫大な富をもたらしている。そのため、「先祖返り」となった者は生きたまま血液を搾取され続ける運命にあった。夜毎も例外ではなく、10年ものあいだ、血液を抜かれ続け、まともな教育も受けられないまま半死半生の状態で放置されていた。しかし、会社の方針転換により、夜毎が雨森家の後継者として正式に迎えられることが決定。後継者教育とリハビリのため、幼なじみの樹が教育係に任命された。長年の過酷な環境により、夜毎の精神は半ば壊れ、見た目は青年でありながら心は幼いまま時が止まっている。そのため、無邪気さと無分別な執着心が垣間見える。特に、唯一の心の拠り所である樹に対しては異常なほどの執着を見せ、自らの理性と吸血鬼としての本能とのあいだで激しい葛藤を抱えている。

山景 桃 (やまかげ もも)

とある高校に通う男子。黒髪のショートヘアで、精悍な顔立ちをしている。樹の弟であり、桜という双子の妹がいる。ふだんから素行が悪く、不良仲間とケンカに明け暮れる日々を送っている。ある日、自分が引き起こしたトラブルが原因で姉の樹が報復を受けてしまうが、皮肉にもその事件がきっかけで樹と夜毎が再会することになる。桃自身はその夜の出来事を断片的にしか知らないものの、あの日を境に何かが変わったと確信しており、樹と夜毎の事情に深くかかわることになる。自分たちを養うために身を削って働く樹に対し、罪悪感を抱きつつもどう接すればよいかわからず、素直になれずにいる。頑なにぶっきらぼうな態度を取り、決して「姉さん」とは呼ばない。双子の妹である桜も同じ思いを抱えているが、表面上はうまく樹と付き合おうとしている。やがて樹と夜毎の関係に巻き込まれていく中で、これまで家族として見ていた樹を初めて一人の異性として意識し始め、姉と弟という越えられない関係に葛藤を抱くようになる。

書誌情報

私とこわれた吸血鬼 10巻 講談社〈KCデラックス〉

第1巻

(2020-12-11発行、978-4065216125)

第2巻

(2021-05-13発行、978-4065233580)

第3巻

(2021-10-13発行、978-4065251072)

第4巻

(2022-04-13発行、978-4065274279)

第5巻

(2022-09-13発行、978-4065291672)

第6巻

(2023-03-13発行、978-4065310311)

第7巻

(2023-09-13発行、978-4065330456)

第8巻

(2024-03-13発行、978-4065346433)

第9巻

(2024-09-12発行、978-4065368602)

第10巻

(2025-02-13発行、978-4065384985)

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