対照的な二人の新人女王様
栗田夏菜は、つまらないことが大嫌いなハイテンションな女の子。自分の「好き」や「楽しい」を譲らず、自由奔放に行動する。水商売で出会ったヤクザがマゾだったことから、SMプレイの楽しさを知り、SMサロン「東京イース」の扉を叩(たた)く。兵頭冬実は「私ごとき」が口癖の内向的な女の子。背が高いことにコンプレックスを持ち、社会に出てからもいろいろなことで傷ついてすべてをブロックしてしまう。そんなある日、いつも偉そうな近所の男性が、外人妻に激しく折檻(せっかん)される現場を目撃した冬実は、SMサロン「東京イース」を訪ねた。同時に「東京イース」に入店した二人は、正反対な性格から激しくぶつかるが、わかりあえないながらもお互いを認め、友情でつながっていく。
個性的な変態客の人生を描く
SMサロン「東京イース」は、切実と滑稽の世界である。そこは、世間に認められない性癖を持つ難民の遊び場所で避難場所。現実やシリアスを持ち込むことは野暮である。そんな「東京イース」には、裸に女性の下着を装着し、「パトロール」と称してパンティを覗き込むパンツマンや、戦時中の疎開先で乳首を引っ張られていじめられていた、乳首神・ちっち、「ベルバラ」に感化され、女王様に忠誠を誓うマゾ騎士のアンドレといった、実に個性的な常連たちがいる。また、往年のカンフースターに似た、M男のサモハンはステージ4のがんに侵され、痩せさらばえた姿で「東京イース」を訪れる。いたぶられながら、「もう悔いはないです」と叫ぶサモハンの姿に、女王様は涙を流しながらプレイを続ける。本作は、SM「ごっこ」を通じて人生を描いたヒューマンドラマである。
リアリティと迫力に満ちた人間讃歌
「参謀」という肩書で本作に参加している鏡ゆみこは、実在するSMサロン「ユリイカ」のオーナーである。セリフやストーリー、ファッション面のアイデアを細かく提案しており、新井英樹は、ときには彼女とケンカをしながら意見をすり合わせて制作しているという。「女子SPA!」(2023年8月9日)掲載の新井英樹インタビューによれば、鏡ゆみことの出会いは、2丁目のお店のオーナーである男の子の紹介。その後、彼女のエピソードに感銘を受け「面白いなあ、人間って!」と感動したことから本作の制作が始まったという。したがって、本作には実話、あるいは実話ベースのフィクションや「女王様あるある」がふんだんに盛り込まれており、圧倒的なリアリティと迫力に満ちた人間讃歌のドラマとなっている。
登場人物・キャラクター
栗田 夏菜 (くりた かな)
小さい頃から「好き」なことを貫いてきた女性。高校生の時、県道の白線上で血まみれの女性と遭遇。「譲るなJK」「どんと行け人生こっからだ」といってトラックに飛び込んだ女性を見て以来、譲らない人生を送る。六本木のクラブで働き、M男であるヤクザの若頭と出会い、SMプレイの楽しさを知る。その後、SMサロン「東京イース」でカンナという源氏名で、女王様として働くことになる。後先考えずに行動するため、やりすぎることも多い。
兵頭 冬実 (ひょうどう ふゆみ)
175センチメートルの長身の女性。宮城県出身。比較的裕福な農家の後妻の娘で、異母姉がいる。初潮を迎えた頃から読書にふけり、周囲から文学少女の称号を得る。短大卒業後、縁故就職するがイジメが原因で半年で退社。異母姉に紹介されたバーに勤めるが、人間関係がうまくいかずに辞める。以来、外界をシャットダウンして引きこもっていたが、ある出来事をきっかけに、SMサロン「東京イース」を訪れ、冬子という源氏名の女王様になる。コンプレックスから出る「私ごとき」が口癖。
書誌情報
SPUNK - スパンク! - 全4巻 KADOKAWA〈ビームコミックス〉
第1巻
(2023-06-12発行、 978-4047375314)
第2巻
(2023-06-12発行、 978-4047375321)
第3巻
(2024-01-12発行、 978-4047377783)
第4巻
(2024-08-09発行、 978-4047380585)