OLからタクシードライバーに転身した女性が、恋に仕事に奮闘する物語。主人公・日々野香(ひびのかおり)は車が大好きな25歳のOLだ。亡き祖父に憧れタクシードライバーを夢見ていたが、親の猛反対に遭い「トヨハツ自動車」に渋々就職し、お茶汲みの毎日である。そんな折、タクシー仕様車を開発するプロジェクトが立ち上がり、香が抜擢される。憧れの羽賀(はが)課長と共に仕事に邁進し、恋の行方もうまくいきそうな矢先、思いもよらぬ出来事が起こる。
香がプロジェクト研究のために乗車したタクシーのドライバーこそが、運命の相手・高倉健志(たかくらけんし)こと「健さん」だ。若手だが、仕事にプライドを持つ高倉の姿に香は心打たれ、諦めかけていたタクシードライバーへの夢が再燃。海外転勤が既に決定している羽賀課長との恋が進展する中、自分の夢と恋を天秤にかける香に、高倉は発破をかける。恋を諦め夢を追う決心をした香は、高倉の勤務する「有川タクシー」に転職し、タクシードライバーとして働くことになった。有川タクシーは、運転手同士がペアを組み「相方」となって1日交替で同じ車両を使用する仕組みであり、奇しくも香と高倉は相方となる。一緒に仕事をしていくうちに距離が縮まっていく二人の恋模様にも注目だ。
訳あってタクシードライバーとなった美女と、乗客が織りなすハートフルコメディ。関東近郊のZ県蛇ヶ原(おろちがはら)市にある「児見山(こみやま)タクシー」は、いわく付きのタクシー会社だ。運転手は傷アリの札付きばかりで、客に暴言を吐くなど日常茶飯事である。ある日、児見山タクシーに超絶美人が颯爽と現れる。ざわつく運転手たちを尻目に、矢野陽芽(やのひめ)と名乗る美女は新人ドライバーとしてタクシーに乗り込むのであった。
児見山タクシーは、「ゴミ山タクシー」と呼ばれ地元民に忌み嫌われるほどの存在だったが、それを憂えた社長が会社を立て直すべく招いたのが陽芽だった。陽芽はさっそく運転手たちの洗礼を浴びるも、持ち前の美貌とポジティブさでタクシードライバーとして経験を積んでいく。実は、陽芽もまた訳アリドライバーであり、レーサーという過去を持っていた。陽芽が乗せる乗客もまた様々な事情を抱えており、移植用の臓器を運ぶドクターや援助交際をする女子高生、塾長に性的嫌がらせを受けている小学生など、現代が持つ闇やそれに翻弄される人々の様子がリアルに描かれている。乗客との出会いは一期一会だが、陽芽と乗客とのふれあいや人間模様にほっこりさせられたり、考えさせられたりする作品だ。
とある町のタクシー会社に勤める中年ドライバーたちのハチャメチャコメディ。とある北の町・木端町(こっぱちょう)にある「楽園タクシー」は従業員45人の小さなタクシー会社だ。配車係を務める主人公・中谷をはじめとした従業員は全員「おっさん」で、しかもアクが強い。そのうえ社長は独裁者であるなど、まさにクセ者の巣窟だ。今日も中谷は、いさかいの絶えない超個性的なおっさんたちを束ね、時には料理を振る舞い、時にはサボりながら、仕事に奔走する。
本作の特徴は、登場人物のほとんどが「おっさん」で構成されていることである。ドライバーもクセがあり、借金癖のある短気な荒井、「さしすせそ」の発音がうまく言えないが三橋美智也を歌わせれば天下一品の横川、元自衛隊員でサボりの常習犯である滝山田など一筋縄ではいかない者ばかり。一番まともそうに見える中谷だったが、料理をする際は、どんな食材も突っ込んで「五目化」してしまう。時にはケンカやいさかいも起こるが、冬の間はみんなで漬物を作ったり、認知症の妻を持つドライバーが社長の独断で仕事を休めないことにみんなで反旗を翻し、シフト変更を認めさせたりと一致団結する面もある。おっさんたちが織りなす一風変わった日常が味わい深い。
ペットと飼い主を運ぶ「ペットタクシー」の世界を描いたハートフルストーリー。主人公・ジローは動物好きの20歳のフリーターだ。近所の「ばあちゃん」の飼い犬・サブローの世話をすることで、小遣いをもらって生活していた。ある日、サブローを獣医に連れて行こうと普通のタクシーを利用しようとするも乗車拒否されてしまい、ジローはペット専用のタクシーを初めて利用することに。経営者の寧々(ねね)に一目惚れしたジローは、なりゆきでそのタクシー会社で働くことになる。
ペット専用のタクシー会社は動物愛好家には知られているが、一般的にはまだなじみの薄い業界ともいえる。ジローは当初寧々への下心もあったが、動物好きであることと明るい性格も手伝ってペットタクシーの仕事になじんでいく。ペットタクシーを利用する客にも様々な事情があり、病気や問題を抱えた犬などに対し、飼い主がどう向き合っていくべきか考えさせられるシーンが多々ある。また、ペットロスに苦しむ老人や、一般のタクシーが利用可能であるにもかかわらず乗車拒否されてしまう盲導犬とその飼い主など、現代社会でまだ認知が進んでいない問題を垣間見ることができる。もちろん本作で描かれる動物たちは愛らしく、ペット業界の知見を深めながら癒やされること請け合いだ。
現役タクシードライバーの実体験を基にしたコミックエッセイ。主人公・並木道夫は元サラリーマンだが、紆余曲折を経て、現在はタクシー運転手をしている。横浜周辺を営業区域にしているが、乗客は一癖も二癖もある人ばかりだ。高級料亭から出てきたと思いきや、行き先への道順を尋ねた瞬間激高するコワモテ系や、何もしていないのに常に文句ばかりつける横浜マダムなど、様々な乗客との出会いに翻弄されながら、並木は今日もタクシーを走らせる。
本作は、作者の並木道夫本人がタクシードライバーとして接してきた人や出来事を、自ら筆を執って漫画化した作品である。もちろん乗客はクセのある者ばかりではなく、子供の頃に父親の運転するタクシーの助手席に乗った思い出話をする酔っ払いだったり、小料理屋の女将が半生を語ったりと人情味に溢れている。たった一度の出会いで運転手に身の上話ができてしまうのは「タクシー」という特殊な空間のなせる業だ。また、乗客の数だけ「人生」があることを思い起こさせてくれる意味でも、タクシードライバーという職業の奥深さを感じることができる。作者は今も現役ドライバーであるためか、乗客の無茶ぶりや行動に心の中で毒づいたりと、どこか醒めた視点で描かれているのもリアルさを増している。