ソーマが召喚されたエルフリーデン王国は、魔王領の拡大による財政難に苦しんでいた。というのも、同国は魔王領に対抗する国家連合の一員であり、魔王領攻略を主導するグラン・ケイオス帝国から国の年間予算に匹敵する戦争支援金を支払うか、王国に伝わる儀式で召喚された勇者を引き渡すか、どちらかを選べとせまられていたからだ。そんな事情を聞かされたソーマは、帝国に自分の身柄を引き渡されるのを阻止するため、まず戦争支援金を捻出する財政改革に着手する。
彼が最初に手を付けたのが宝物庫にある資産の売却。前国王アルベルトの娘で、ソーマの婚約者となったリーシアは、貴重な国宝を売却したと聞いて仰天するが、ソーマは歴史的、または文化的な価値があるものは美術館や博物館で資産運用するために残し、宝石類や装飾品のみを売りに出すというきめ細かい方策でリーシアを驚かせた。さらに、王国の改革資金を確保するため、国内の領地貴族から提出された概算要求書と収支報告書を照らし合わせ、投資を偽装した架空請求をチェック。貴族が行っていた不正が生み出した損失分を徴収し、横領には返済義務を課すことで資金の確保に成功する。だが、この改革によって着服金の返済から逃れようと不正を働く貴族が結託し、のちに反旗を翻すことになる。
エルフリーデン王国が戦争支援金と並んで抱える喫緊の課題が、深刻な食糧不足だった。魔王領と隣接しているわけでもなく、耕作地に困らないはずの肥沃な土地を有している王国が、なぜ食糧難に陥ったのか? その原因は意外な市場のメカニズムにあった。魔王領との戦争で生活必需品である衣類関係の需要が増えたため、綿花の買取価格が上昇。その結果、それまで食用作物を栽培していた農家が一斉に綿花畑に手を出し、国内の食糧自給率が低下していた。
このカラクリに気づいたソーマは、大豆や芋の生産農家に対する補助金政策で、農業の構造改革を実施する。加えて、「食い意地の張ったデブ」とさげすまれていたポンチョ・パナコッタを家臣に登用。食の探求のために世界各地を旅していた彼は、一般的には知られていない豊富な食の知識を持っていた。そのポンチョから提案された食材が、スライム状の軟体動物「ゼルリン」。脆弱なボディを持つゼルリンは弱い打撃でもすぐに崩れてしまうため、食糧になるという発想がそもそもなかった。しかし、ポンチョはある小さな部族から教わった「ゼルリンの活き〆」の方法を用いて「ゼルリンうどん」なる料理を創作。これが王国の定番料理となり、食糧不足の解消に役立つこととなる。
異世界から飛ばされてきたソーマは、王様の地位に就いたものの、信頼できる有能な部下がいなかった。そこで内政改革のための人材不足を解消するため、テレビ放送の活用を思いつく。この世界には、風の精霊エルフと水の精霊ウンディーネの魔力が込められた宝珠があり、これを通じて全国民に情報発信できる「玉音放送」の仕組みが整っていた。それまで新憲法公布や宣戦布告といった国家の根幹に関係する情報発信にしか用いられてこなかった玉音放送を、ソーマはよりカジュアルで日常的な情報発信の場として使い始める。最初の玉音放送では、新しい家臣となる有能な人材を募集。さらに「王様のブリンチ」というエンタメ仕立ての料理番組を放映し、食糧難を解決する新食材の啓蒙を行った。
その後、玉音放送を娯楽番組として放映する仕掛けは、エルフリーデン王国に侵攻して敗れたアミドニア公国首都であるヴァンの占領時にも有効活用され、「NEWSエルフリーデン」という報道番組、そしてソーマが司会役を務める歌番組を放映し、公国民の人心を一挙に掌握する。マスメディアによる大衆統治の方法を持ち込んだソーマの手腕を、アミドニア公国第一公女のロロアは「えげつないことするわ」と眉をひそめながらも称賛の声を漏らした。
ソーマが行政改革の目玉として準備してきたのが、「プロジェクト・ヴェネティノヴァ」だった。領土の半分が海に面しているエルフリーデン王国は、本来であれば豊富な海産物の収穫が見込める海洋国家の一面を持っていた。しかし、湾岸地域の不整備と流通網の未発達が原因で、そのポテンシャルを十分に引き出すことができていなかった。そこでソーマは、財政改革で財源の目処をつけ、新たな湾岸都市を建設する「プロジェクト・ヴェネティノヴァ」に国家予算を集中投資することを決める。
しかし、この新事業は思わぬ障害にぶつかることになる。地元で漁師をしているウルップが「海神様の怒りに触れる」と言い立てて、新都市建設に強硬に反対したからだ。困り果てる交渉担当者だったが、ソーマがよく話を聞いてみると、この土地には約100年周期で海神様が暴れる伝承が伝わっているという。これにソーマは「わかった」と言って都市計画の大幅変更を宣言。驚くリーシアだったが、現代日本に生まれたソーマは、この伝承が津波被害を警告する教訓であるとすぐさま察した。地元の声に耳を傾け、万全の防災対策まで整備するソーマの手腕は、まさに現実主義者の面目躍如といえるだろう。
上下水道の整備、ゴミ処理の公営化、商店街の歩行者天国の創設など順調に内政改革を進めていたソーマだったが、前国王アルベルトに忠誠を誓っていた陸海空軍を統率する三公がソーマの新国王就任を認めず、改革の協力要請に従わないという異例の事態が生じていた。王宮に内偵を放ち、ソーマが信頼に足る王であると確信していた海軍大将のエクセル・ウォルターは早々にソーマの指揮下に入った。しかし、陸軍大将のゲオルグ・カーマインは、かつての戦争でエルフリーデン王国に奪われた領土を奪還せんとするアミドニア公国の王ガイウス八世と秘密裏に手を結んで、ソーマと敵対する意志を見せる。そこに空軍大将のカストール・バルガスも同調したことで、エルフリーデン王国は内戦状態に突入した。
カーマイン陸軍4万とアミドニア公国軍の3万、計7万の軍勢に対して、国王直属の禁軍1万という圧倒的な戦力差で戦わなければならなくなったソーマ。しかし、カーマインの裏の意図をつかんだソーマは、空軍と陸軍の拠点をほぼ無傷で陥落し、国境付近で攻めあぐねていたアミドニア公国軍に対して宣戦布告。一気呵成にアミドニア公国の首都ヴァンへと攻め入り、占領に成功した。マキャベッリの『君主論』に学んだソーマの卓越した軍事戦略は、圧巻の一言である。