戦時中の日本にタイムスリップした女子中学生
学校や大人たちに苛立ちを募らせる中学2年生の加納百合は、学校の授業にも身が入らず、家庭でも唯一の家族である母親との折り合いが悪い。そのため、どこにも自分の居場所を見出せず、鬱屈した日々を過ごしていた。そんなある日、百合は母親と大ゲンカとなり、勢い余って家を飛び出してしまう。頼る当てもなくさまよう中、雨宿りのために防空壕跡で一夜を過ごすが、目が覚めると1945年6月、戦時下の日本にタイムスリップしていた。偶然その場に通りかかった佐久間彰に助けられた百合は、彰が懇意にしているツルさんの鶴屋食堂で働けることになり、太平洋戦争末期の日本の生活を体験することになる。
特異な環境で惹(ひ)かれ合う二人
戦時下の日本にタイムスリップした加納百合は、暑さと疲労で倒れたところを佐久間彰に助けられる。彰は百合がかつて暮らしていた現代の大人たちには感じることのなかった優しさや誠実さに救われ、交流を重ねるうちに百合は彰に惹かれていく。一方の彰も、当初は百合と妹のように接していたが、彼女の相手を思いやる姿勢や自分の気持ちに正直なところに勇気をもらい、やがて唯一無二の特別な存在となる。こうして、百合は異郷の地で初恋を経験するが、彰は特攻隊員に志願しており、間もなく戦地で命を散らすことが決まっていた。
戦時下の人々との触れ合い
加納百合が戦時中の日本で出会った人々は、劣悪な環境で貧しい生活を強いられていながらも、身を寄せ合って逞(たくま)しく暮らしていた。また佐久間彰をはじめとした特攻隊員たちも、死を前提とした無謀な作戦を控えながらも、絶望することなく明るく振る舞い、周囲の人々に勇気を与えていた。そんな明日をも知れない環境下で、百合は人々が精一杯生きていることを実感し、かつて嫌悪していた現代での生活が、戦争で苦しむ人々の尽力によって成り立っていることを認識する。彼らとの出会いと別離は、やがて百合自身の生き方や戦争の不条理さを考え直すきっかけになる。
登場人物・キャラクター
加納 百合 (かのう ゆり)
現代日本の中学2年生の女子。年齢は14歳。聡明ながら協調性に欠けており、クラスメイトからも快く思われていないが、実際は感情豊かで心優しい。母子家庭で母親と衝突することも多いが、本心から嫌っているわけではない。反抗期真っ只中で人間関係のジレンマに陥り、家庭にも学校にも居場所がないと考えている。そんな中、母親とケンカして近所の防空壕跡で一夜を過ごすこととなる。翌朝、目を覚ますと太平洋戦争末期の日本にタイムスリップしており、特攻隊員の佐久間彰に助けられるが、地獄のような生活を余儀なくされる。不自由かつ劣悪な環境に置かれたことで、かつての生活を懐かしく思いつつも、彰や鶴屋食堂の女将(おかみ)のツルさんをはじめ戦時下の人々の優しさと強さに触れ、自分の考えが甘かったことを思い知らされる。やがて彰に思いを寄せるようになり、彼が特攻で命を落とす運命を変えるため、加納百合自身が未来からやって来たことを明かす。
佐久間 彰 (さくま あきら)
1945年、戦時下の日本で加納百合が出会った青年。年齢は20歳。北国出身で、百合と同い年の妹がいる。礼節を重んじる生真面目な性格で、自分を犠牲にすることをいとわず他者を守ろうとする。大学進学のために東京で暮らしていたが、召集令状が届き入隊を果たす。日本を心から愛しており、日本が無謀な戦争に突き進んでいることを憂いつつも、戦争を終わらせることが人々の幸せにつながると信じ、特攻隊員に志願する。ある日、酷暑と疲労で倒れていた百合を介抱し、鶴屋食堂に運び込んだ。その後も妹に似ている百合を何かと気にかけ、やがて彼女から思いを寄せられるようになる。
クレジット
- 原作
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汐見 夏衛
書誌情報
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 上 1巻 KADOKAWA〈電撃コミックスNEXT〉
第1巻
(2022-07-08発行、 978-4049144222)
あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。 下 全2巻 KADOKAWA〈電撃コミックスNEXT〉
第2巻
(2022-09-26発行、 978-4049146905)