あらすじ
第1巻
28歳のハウスアドバイザー、日向和平は、念願の新築マンションで一人暮らしを始める。長いあいだいっしょに暮らしていた絵本作家の父親、日向翔平が、絵を描くといって放浪の旅に出てしまったため、古い実家を更地にし、コインパーキングにした。自分の城での晩酌を心の拠り所にした新生活を楽しんでいた和平だが、ある日突然、翔平の娘だという腹違いの三姉妹が転がり込んで来る。高校生の長女、国前穂高と小学生の双子、国前千世と国前千苗は、翔平とかつて内縁関係にあった自分達の母親が、現在交際している男性と結婚する事になり、居場所がなくなったのでしばらく置いてほしいと申し出る。穂高経由で彼女らの母親から生活費を預かった和平は、金だけ出して面倒をみない母親を持った三姉妹を不憫に思い、保護者として正式に三姉妹との同居を決意。初めこそ、整理整頓出来ずに部屋を散らかす千世と千苗に苛立ちを隠せなかった和平だが、嫌われたくない一心で部屋をきれいにする事を覚えていく双子に、歩み寄る姿勢をみせる。仕事柄、色々な事情を抱えた家族の改築・建て直しに立ち会う和平は、家とは、家族とは、そこに住む人達が作っていくものなのではないかと考えるようになる。そして、帰宅するたびに言われる三姉妹の「おかえりなさい」の言葉に、「ただいま」と返す事に安らぎを感じるようになった和平は、この一風変わった家族の在り方を受け入れる。
第2巻
日向和平と国前穂高ら三姉妹の同居が始まって1か月が経過した。子供の頃、自らも両親の離婚により家族とにぎやかに過ごした経験のない和平は、三姉妹にとっていい思い出として記憶に残るような家庭を作るために奔走する。天真爛漫な国前千世と国前千苗はともかく、不遇な環境で育ったため、どこか頑なで一線引いたままの穂高に、自分の居場所では好きにくつろいでいいんだよと伝えたい和平。同僚の蓮見や加東つかさの協力を得て、穂高に自由な休日をプレゼントした和平は、それ以来、家族で過ごす休日が楽しみになる。ある日、和平のもとにやって来た叔母の結子は、三姉妹との同居解消を勧め、10年後の事を考えてみるよう促す。新しい出会いや環境の変化があり、いつか別れの日が来て、この家族の形が崩れるのだろうと思うと、和平は言いようのない寂さを覚えるのだった。そして和平は、もともと順風満帆で始めた共同生活ではないのだから、多少の不安があっても、今はこの家族の在り方が一番幸せだと訴える。そんな彼の姿に、結子は納得して引き下がる。
第3巻
国前穂高ら三姉妹を自分の家族だと改めて認識した日向和平は、彼女達と団らんする時間が増えるにつれ、行方の知れない父親の日向翔平との思い出を頻繁に振り返るようになる。翔平がどんな人物だったのかを知るために、彼の描いた絵本を読んでいると、国前千世と国前千苗が翔平といっしょに遊んだ思い出を楽しそうに語り出す。穂高も、父親は優しくていい人だったと言い、それを受けて和平は、翔平との思い出が悪いものばかりではない事に気づき、戸惑う。そんなある日、翔平から連絡が入る。絵本執筆や講演会等で多忙な日々を送る翔平は、実家の跡地を見たいと、和平を付き合わせる。翔平は、コインパーキングへと姿を変えた元実家を見て、家族に甘えて好き勝手に生きてしまった日々を嘆き、和平にこれまでの傍若無人ぶりを謝る。翔平と真正面から向き合った事で和平は、翔平の気持ちを知り、彼のいいところも悪いところも、すべてひっくるめて自分の父親なのだと受けとめる。翔平との親子関係を修復できた事で欲の出た和平は、穂高にも彼女の母親と向き合ってみる事を勧める。母親ときちんと話し合えば、閉ざしがちな穂高の心も開かれるのではないかと期待しての事だったが、穂高はまだ自分を捨てた母親と顔を合わせる気にはなれなかった。意に沿えない事を詫びる穂高を、和平は優しく受けとめる。ありのままに感情を表現する事を許してくれる和平に、穂高は徐々に心を開いていく。和平と三姉妹の距離がまた少し縮まったある日、和平は、片山翠という女性と知り合う。家に招かれた和平は、穏やかな翠の作る古きよき家の居心地に心惹かれる。
第4巻
片山翠との出会いで、家は住む人が作るのだという事を再認識した日向和平は、今の家をよりよいものにしようと、国前穂高ら三姉妹と過ごす時間に、より重きを置くようになる。そんなある日、四人の前に三姉妹の母親が姿を現す。彼女は、結婚相手が子供嫌いだからという理由で、穂高ら三姉妹を日向翔平に押しつけた。根無し草の翔平が三姉妹を和平に託して今の家族の形があるのだが、三姉妹の母親は、今度はそれを解消し、三姉妹を自分のもとへ返してほしいと告げる。子供達なしでは生きられない、と泣き崩れる母親から穂高は逃げ出す。同居を始めたばかりの頃の、母親に捨てられて絶望した穂高達の姿を思い出した和平は、三姉妹の母親の身勝手な言い分に怒りを覚える。ふさぎ込む穂高の怒りと悲しみに寄り添う和平だが、母親のもとに戻るかこれまで通り和平と暮らすかの判断は、穂高に委ねられている。これまで何度も母親の気まぐれに振り回されてきた国前千世と国前千苗は、幼いながらも達観しており、一番大事な家族である穂高の出した答えに従う事を決意。自身と千世と千苗の人生を左右する決断をくださねばならない事に胃を痛める穂高だが、今はもう独りじゃない。心を許せる家族の和平や親友の江藤桜に支えられて、自分の進む道を自分の意思で決めようとしていた。
第5巻
国前穂高は日向和平に、国前千世と国前千苗のため、母親のもとに戻る事を決めたと話す。幼い二人にはまだ母親が必要なのだという穂高に、一度は納得した和平だが、穂高の寂しそうな顔を見て、三姉妹が不幸になるとわかっているのに送り出す事はできないと伝える。和平と穂高の話を盗み聞いていた千世と千苗も、穂高が居れば母親はいらないと胸のうちを明かし、三姉妹は和平と同居を続ける事になった。これまで通りに和平と暮らす事を母親に納得させた穂高は、千世と千苗と共に、居場所をくれた和平に感謝を伝えるパーティーを開く事を計画。蓮見や加東つかさ、江藤桜に手伝ってもらい、三姉妹がパーティーの準備をするあいだ、珍しく家に一人ぼっちにされた和平は、静かな時間を寂しく感じるようになっている自身の変化に驚く。三姉妹のいない日常には戻りたくないと心から思った和平は、三姉妹に「和平くんが私達のお兄ちゃんでよかった」と言われ、喜びを覚えるのだった。
登場人物・キャラクター
日向 和平 (ひなた わへい)
アイダハウス勤務の28歳の男性。国前穂高、国前千世、国前千苗の腹違いの兄でもある。7歳の時に両親が離婚し、父親である日向翔平に引き取られた。翔平と長く二人暮らしをしていたが、絵本作家を生業とする翔平が、残りの人生は放浪しながら好きなだけ絵を描いて生きていくと決めたため、新築マンションを購入し、一人暮らしを始める事にした。 新築マンションの間取りは2LDKSと豪華。テレビやラックの配置、スリッパの柄に至るまでこだわりがある。古くて住みにくかった実家は、一人暮らしを機にコインパーキングにする事にしたが、実家を取り壊す事を話した際に、蓮見に冷血漢と言われてしまう。その後、更地になった実家跡を見て足元が崩れるような衝撃を受け、新しいものばかりが必ずしもいいのだとは限らないと、身をもって知る事となった。 最終的に、家はその場所に住む人が作っていくものなのだという事に気づく。
国前 千世 (くにまえ ちせ)
国前穂高の双子の妹の一人。国前千苗といつもいっしょにいる、7歳の少女。誕生日は11月27日。髪型も顔も背丈も千苗と同じだが、まゆ毛は国前千世の方が凛々しい。自分の事を「ちい」と呼んでいる。その理由は、小さい頃に千苗が「ちせ」と発音するのが難しかったためで、この呼び方が今も定着している。幼い頃から母親に振り回される環境に身を置かれたが、穂高に守られて育てられた。 そのため、母親よりも穂高を身近に感じている。穂高の作る料理の中で、一番好きなのはゆで卵入りハンバーグ。日向和平と穂高の前では非常にわんぱくだが、店の店員などには人見知りをして話しかけられない内弁慶な性格である。アニメに出てくる猫のむちゃこ先生がお気に入り。 千苗を除く一番の友達は、同級生のゆめちゃんだが、昼休みは千苗と二人きりで過ごすのが通例。
国前 千苗 (くにまえ ちな)
国前穂高の双子の妹の一人。国前千世といつもいっしょにいる、7歳の少女。誕生日は11月27日。髪型も顔も背丈も千世と同じだが、まゆ毛は千世の方が凛々しい。幼い頃から母親に振り回される環境に身を置かれたが、穂高に守られて育てられた。そのため、母親よりも穂高を身近に感じている。穂高の作る料理の中で、一番好きなのはゆで卵入りハンバーグである。 日向和平と穂高の前では非常にわんぱくだが、店の店員などには人見知りをして話しかけられない内弁慶な性格である。アニメに出てくる猫のむちゃこ先生がお気に入り。千世を除く一番の友達は、同級生のゆめちゃんだが、お昼休みは千世と二人きりで過ごすのが通例。
国前 穂高 (くにまえ ほたか)
国前千世と国前千苗の姉で、日向和平の腹違いの妹。2月22日生まれで、妹二人には「ほたちゃん」と呼ばれている。16歳の高校生で、育った環境が複雑だったせいもあり、非常にしっかりした性格をしている。料理上手で、朝から一汁三菜の完璧な朝食を作るが、その理由は、自分が子供の頃に母親に食事を作ってもらえなかったから。 毎朝食卓に置かれていた食パンを見て寂しさを覚えていたため、妹達には同じような思いをさせたくないと考えている。妹二人の世話を最優先にしてきたため、甘え下手なところがある。居候させてもらっているからと、家事のすべてを引き受け、一日中忙しく働いているが、そんな事しかできない自分を責めるストイックな性格で、小遣いも自由に使わずに家計に回している。 寝る前に、高層ビルから眺めおろすたくさんの家々の灯りを見て、自分は一人ではないのだと確認するのが至福の時間である。
蓮見 (はすみ)
アイダハウス勤務の28歳の男性。日向和平とは新卒入社した同期同士で、飲み友達である。国前穂高ら三姉妹が家出した際、伝を駆使して彼女らが宿泊しているビジネスホテルを探し当てた。非常に情にもろい性格で、和平から三姉妹の不遇さを聞くたびに親身になり、心配している。加東つかさの計らいで三姉妹との対面を果たしたのち、肩車をしてあげたりアイスを買ってあげたりして、人見知りの国前千世と国前千苗をいち早く懐かせた。 子供っぽい素直な性格で、和平が穂高ら三姉妹を引き取った当初、和平が三姉妹に取られてしまいそうでやきもちを焼いた。ただし、和平に構いすぎて嫌われないよう自制し、和平ではなく加東に寂しさをぶちまけ、何とか気持ちを落ち着かせた。 以後は、積極的に和平と三姉妹の新生活がうまく回るようサポートする、よき相談役となった。
加東 つかさ (かとう つかさ)
アイダハウスに勤務している、日向和平の同僚の女性。蓮見と共に、和平が引き取った三姉妹の話を聞くたび、その不遇さを気にかけている。特に双子の世話役の国前穂高を気にかけ、和平が穂高のストイックさを気にしていた時に、穂高の事を見てもいないのにシンプルな服装をしていないかと指摘。その後、同じ女性同士という事で、ショッピングセンターで穂高を連れ回し、かわいい恰好をする喜びを教えた。 穂高の気に入った服を一式プレゼントするなど、非常に優しい性格。酒豪で、飲酒は大人になってもコントロールできない自分の感情をなだめるためだという持論を持つ。祭りでナンパしてきた男性と交際中。
大森 (おおもり)
日向和平の住むマンションの住人の中年女性。和平の部屋と同じフロアの角部屋に住んでいる。好奇心旺盛で、国前穂高ら三姉妹が和平宅に越して来た当初、家族らしく見えない和平との関係性をいぶかしんでいた。だが、買い物帰りの穂高を捕まえ、一対一で会話した際、和平は家族であるときっぱりと告げられてからは、和平達の関係を詮索しなくなった。
江藤 桜 (えとう さくら)
国前穂高のクラスメイトの16歳の女子。年の離れたやんちゃな弟が一人いる。クラスで本ばかり読んでいる穂高と友達になりたくて、色々話しかけるが、緊張で顔がこわばってしまうため、穂高に怒っていると勘違いされた。穂高を、白くてまっすぐに立っている白木蓮のような孤高な存在だとあこがれていたが、いっしょにスーパーに行った際、穂高が想像と違って所帯じみている事を知り、落胆と共に安堵もした。 ガーデニングが趣味で、穂高に多肉種サボテンの世話の仕方を教える。家族との生活を成り立たせる事を第一と考えて他人とのかかわりが希薄だった穂高にとって、最初にできた友達である。穂高とは名前で呼び合う仲で、江藤桜経由の友達、ゆずちゃんを含め、三人で行動する事が多い。
結子 (ゆうこ)
日向和平の叔母。和平には「ゆうこちゃん」と呼ばれている。和平の両親の離婚後、和平がよく世話になっていた。ショートカットの髪型で声の大きい、元気いっぱいな中年女性。子供の頃から面倒を見ていた和平を心底心配し、三姉妹との同居に反対したが、家族を得た和平の充足した様子を見て、共に三姉妹を見守っていく事を約束した。
日向 翔平 (ひなた しょうへい)
放浪中の男性絵本作家。日向和平や国前穂高、国前千世、国前千苗の父親。和平が7歳の時に離婚し、和平を引き取ったものの、ろくに面倒も見ずにフィールドワークや自由な創作活動に明け暮れていた。その後も腹違いの娘である穂高、千世、千苗を和平に託すなど、自由奔放に生きてきた。だが、のちにコインパーキングになった実家跡地を見て、戻れる場所がある事に安心して家族に甘え過ぎていた、と反省の言葉を口にする。 その所業から和平には嫌われていたが、のちに好き嫌いを超越してただ「しょうがないやつ」だと認識され、和解する事となった。
片山 翠 (かたやま みどり)
みやざわ書店に勤務する女性。年齢は23歳。勤務中は眼鏡をかけており、左目の下に泣きぼくろがある。よく書店に来ていた日向和平に一目ぼれし、同じ駅を利用している事を知って声をかけようとしたが勇気が出ず、結果何故かあとを追い、ストーキングしてしまった。おっちょこちょいで、ヒールの高い靴を履いてはよく転んでいる。母子家庭で育ち、小さな頃から家事が得意な子供だった。 偶然利用する肉屋が同じだった縁で、和平を介さず国前千世と国前千苗となかよくなる。