マッシュ

マッシュ

絵を愛し、ひたむきに表現の可能性を追い求める少年が、出会う人たちの心を揺さぶり変えていく姿を描いたヒューマンドラマ。「週刊少年サンデー」1989年50号から1992年9号にかけて連載された作品。

正式名称
マッシュ
ふりがな
まっしゅ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
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あらすじ

第1巻

マッシュ・ロヴェールはマルセイユの港町で、飲んだくれで暴力的、さらに無職という父親のヴォス・ロヴェールと暮らしていた。マッシュには画家になるという夢があるが、ヴォスにはそれを反対されており、生活費のための似顔絵だけ描くよう命じられていた。そんな中、マッシュの友人、ソフィは、辛い環境にも負けず、優しいタッチの絵を描く彼の才能を信じて応援していた。ある日、マッシュとソフィは賞金のある公募展の案内を見かける。父親に反対されるからと消極的なマッシュに、ソフィは画材を買い与えて後押しする。その資金は、実はソフィが遠方の伯爵のもとに、メイドとして入る交換条件として手に入れたものだった。そうとは知らないマッシュは、生まれて初めて油絵の作品を描き、完成目前のその絵を見たソフィは、一生忘れないと称賛を送る。しかしその後、マッシュの絵はヴォスに見つかり、破かれてしまう。絵具も筆もヴォスに潰されてしまったうえに酷い暴力を振るわれたマッシュは、ソフィのもとに詫びに向かう。そこで彼女の養母から、ソフィが画材と引き換えにメイドとして遠くに働きに出たことを告げられるのだった。真実を知ったマッシュは、ソフィとの約束を守るため、自身の血を使って絵画を完成させる。この作品が公募展の審査員の心を強く揺さぶり、マッシュはパリの美術学校への紹介状を手にする。公募展で得た賞金を置手紙とともにすべてヴォスのもとに残し、マッシュは単身パリに向かう。しかしパリでスリに遭い、紹介状を失ったマッシュは、名家の子息ばかりが通うモンマルトル美術学院で門前払いを受けてしまう。だが、マッシュは学校のそばにあった料理店の主人、テオのもとに住み込みで雇ってもらう。やがて、そこの客であったモンマルトル美術学院の講師たちに実力を認められ、学ぶことを許される。そしてマッシュは、モンマルトル美術学院を牛耳るドランにさまざまな嫌がらせを受けながらも、実力で周囲の生徒に一目置かれる存在になっていく。

第2巻

市を挙げての芸術祭を控えて、モンマルトル美術学院の校内で出品選考が行われることとなり、マッシュ・ロヴェールたちは、モデルのサラを描く課題を与えられる。ドランは、ほとんど表情を変えない彼女の内面を掘り下げることが審査の重要なポイントと考え、怒りの感情を引き出してそれをテーマに据える。冷たい怒りの表情を描いた、巨大で独創的なドランの作品は、審査員たちの目を奪う。対してマッシュの描いたものは、単色で仕上げられた平凡な肖像画。だがそれは、凹凸を利用して光線の加減で彼女の表情が変化するように技巧を凝らしたものであり、最終的に現れたサラの表情は、美術学院の皆が見たこともない柔らかな笑顔だった。サラは10年前に自分たち母子を捨てて出て行った画家の父親を憎んでいたが、それは誤解だとマッシュは訴え続け、マッシュの描いた微笑むサラの肖像は、父親と娘の気持ちを素直にさせる橋渡しの役割を果たす。 後日、サラと親しくなったマッシュはサロンの展示会に連れ立って出かけ、そこでサロン会員のヴァドー伯爵の絵のモデルが、故郷で仲の良かったソフィと似ていることに気付く。気になって仕方ないマッシュはヴァドー伯爵の屋敷を訪ねるが、彼は妹と似たソフィを絵のモデルとして必要としていた。マッシュに会ってソフィに里心がついてしまうことを恐れたヴァドー伯爵はソフィを幽閉し、マッシュには、彼女は出て行ってしまったと噓をつく。そしてマッシュとヴァドー伯爵は互いに絵に関する見識を語り合う。ヴァドー伯爵は、絵とは見る者との駆け引きの世界であり、偽りのものだと主張するが、一方のマッシュは、絵は描いた人の真実を映し出すものだと否定する。その頃、幽閉されていたソフィは自力で逃げ出すことに成功。屋敷を立ち去る間際のマッシュに追いつき、2人は鉄柵越しながら久々の再会を果たすのだった。ソフィに画材の礼を述べるマッシュに、彼女はかつて港町マルセイユで描いて貰った似顔絵をお守りにしていることを話す。つたない昔の絵を恥ずかしがり、描き直しを申し出るマッシュ。新しい似顔絵を受け取ったソフィは、マッシュの絵をこれからも応援することを誓う。

第3巻

ソフィから、泊まる場所として勧められた東のはずれの教会にたどり着いたマッシュ・ロヴェールは、そこのシスターと孤児たちが、村から疎まれていることを知る。特にウラノス・ローゼンベルグは村の男たちから目の敵にされており、暴力を振るわれることもあるという。孤児たちは畑から作物を盗んでいると疑いをかけられており、村人は彼らを追い出そうとシスターを責める。しかし実はそれは濡れ衣で、寄付金を独占しようと目論んだ村長が、新しくできた南の教会と結託し、清貧を守っていまだに信者の多い東のはずれの教会を取り壊そうと企てたものだった。立ち退きを断固拒否するシスターに、村長は2週間後の村のワイン祭りの時に、それぞれの教会に壁画を描いて、集まった客にお披露目し、人気投票で村に相応しい教会を決めてもらうことを提案する。これを受け、マッシュはウラノスら孤児たちとともに野山で石や植物を採取し、絵具を作ることを考える。さらにマッシュは、ピカピカに磨かれた教会内の柱に、床に描いた絵を映し出す方法を考案。こうして、村人たちとシスターの笑顔溢れる作品を完成させた。この作品は南の教会の豪奢な作品よりも村人の心を揺さぶり、孤児たちと村人は和解するのだった。 3週間もシスターのもとに寄宿させてもらったマッシュは、新たに連れとなったウラノスを伴い、テオの店へと戻る。そんな彼の目に飛び込んできたのは、荒らされた店内の様子だった。マッシュのいない間に、テオの息子、ニコが、かつての悪い仲間にそそのかされ、店は多額の借金を背負わされて人手に渡る寸前となっていた。マッシュはニコの店の借金を返すため、画商、メリルが持ちかけてきた仕事を受けることを決意。だがこれは、メリルがマッシュを意のままにするために仕組んだ罠であった。

第4巻

マッシュ・ロヴェールの父親であるヴォス・ロヴェールは、画商、メリルと旧知の仲で、マッシュを贋作師にして欲しいと依頼していた。マッシュを騙し、仕事を受けざるを得ない状態にしたうえで、メリルは画家の業、すなわち心に潜む悪魔を引きだそうとするが、マッシュの絵はメリルの目論見とは裏腹に、ますます独特の輝きを放つようになる。激しくも優しい光を放ち続けるマッシュの作風に、ついにメリルは彼の才能を認め、贋作師にすることを諦める。そして、ヴォスにもどうかマッシュに思い通りの絵を描かせてやってくれと、諭すのだった。ヴォスはそんなメリルを見限り、姿を消してしまう。メリルはマッシュに、これまでの経緯をすべて打ち明け、マッシュを解放。一方のマッシュはメリルに対し、これまで指導してもらったことへの感謝を述べるのだった。以降、マッシュは絵だけで食べて行くことを決心し、ウラノス・ローセンベルグとともに街で似顔絵描きをしながら暮らし始める。 そんなある日、マッシュは街で暴力を振るわれていた黒人の少年、ジャンを助ける。そして、彼が雇い主の農園の主の息子、ラエルと、近く行われるパリ陸上で一緒に走る約束をしていることを知る。ラエルはジャンの幼なじみで、陸上競技のためロンドンに留学していたが、この大会のために帰って来るのだという。しかし、ラエルの父親、アレジは黒人を差別しており、息子とジャンが一緒に走れないように妨害を続けていた。度重なる妨害にもめげずに出場しようとするジャンの姿に、パリ陸上のシンボル画公募の主題としての相応しさを見出したマッシュは、黒人を描くのは選考に不利益だとのジャンの忠告も聞かず、見る者を感動させる絵を描き上げる。そしてジャンへの悪質な妨害を知ったラエルは、同じだけのハンデを負うために自身の足を傷付け、ジャンとともに大会を走りきり、差別のくだらなさを訴える。

第5巻

パリではブロスト伯爵のもと、金持ちや貴族のための新サロン派が台頭し、画商や画家は新サロンに認められない限り、絵を売買する権利をはく奪された。同時に、画家たちも自由に絵を描くことを禁じられてしまう。そんな中でも絵を描こうとするマッシュ・ロヴェールのもとに、旧サロンの実力者であったヴァドー伯爵の死亡の報せが届く。そしてこの時、屋敷が全焼し、ヴァドー伯爵に仕える者も全員が火事で亡くなってしまう。ウラノス・ローゼンベルグは事実を確かめるために現地へ行くよう勧めるが、マッシュは画家になるまではソフィと会わないという約束を守り、動揺を隠して1人キャンバスに向かう。そんな中、ソフィを案じたウラノスは、単身ヴァドー伯爵の屋敷へと向かい、焼け落ちた建物を確認する。ソフィの気を惹くために絵を描いていたウラノスは、目的を失って養い親のシスターのもとへ帰ろうとする。しかし、ウラノスが何かをやり遂げることをシスターは信じていることを知り、ソフィの愛した絵をパリに取り戻すことを決意。マッシュのもとへと引き返し、自分が絵を描いてなければソフィがヴァドー伯爵の屋敷に行くこともなく、死なずに済んだのだと、自責にかられるマッシュに、絵を捨てるなと、喝を入れるのだった。こうしてマッシュはより強い信念を抱き、再び絵に向き合う。 新サロンのコンクールに合わせて、マッシュたちは街中で展覧会を開く計画を立て、作品制作に取り組んでいた。だが、ブロスト伯爵の妨害により作品はすべて破壊されてしまう。策の尽きたマッシュに、メリルは1つの提案をする。それは、迫害された画商たちからの出資を元手に、新サロンのコンクール会場の前の公園に、白い板キャンバスを用意し、自由に絵を描くイベントを開催するというものだった。一方ブロスト伯爵は、新サロンの権威を示す意味も兼ね、コンクールに自作を出展していた。ブロスト伯爵は賄賂を贈って自身の作品に票が集まるように画策していたが、そこに、身を潜めていたヴァドー伯爵が作品を携えて姿を現す。会場の人気はヴァドー伯爵に集中し、ブロスト伯爵の横暴に耐えかねた新サロン派の幹部たちも次々に離反。権威を失ったブロスト伯爵は、金と権力の亡者と化していた己を反省し、初心を取り戻すのだった。一方、マッシュはソフィとの再会を果たすものの、彼女は火事から逃げる際に負傷し、視力を失っていた。マッシュの絵を描く妨げになりたくない一心で、ソフィは失明していることを隠し続けるが、ウラノスにはその事実を知られてしまう。

第6巻

マッシュ・ロヴェールの落書きを見て才能を感じた大画商、アジュールは、彼を自身の屋敷へと招いた。屋敷では多くの画家や彫刻家の卵が生活しており、アジュールは彼らを養いながら、才能のある者を世に送り出すことに従事をしていた。こうしてマッシュはアジュールの屋敷の一員となるが、そんな彼にデュガ・ダヴィデは、ここは実績がすべての「地獄の館」であると忠告する。 ある日マッシュは、アジュールの屋敷の敷地内に粗末な小屋を見つけ、そこで犬と暮らす老婆、ランスが、黙々と重い薪運びに従事しているのを目にする。そんなランスは、死んだ夫が描き残した自身の肖像画を、心の支えとしていることをマッシュに語るのだった。ランスは黙々と働くため、サボってばかりの他のメイドたちから疎まれ、いじめられていた。ニコラからランスを見習うよう注意されたメイドたちは、妬みからランスの小屋に火を放ってしまう。これによりランスの肖像画は焼け落ち、ランス自身も生きる気力を失ってしまう。そんな彼女に対し、マッシュは、オークション用の作品を描くよう要求するアジュールの言いつけを無視して、ランスの心の新たな支えになる絵を描く。そしてマッシュは、娘・シンシアの肖像であれば特別に描くことを許す、というアジュールの申し出も固辞。アジュールはその態度に怒り、オークションに参加するすべての画商に、マッシュの作品に値段をつけるなと、通達を出すのだった。結果、マッシュがランスのために描き上げた作品は、誰の目にも素晴らしいものだったが、オークションでは、誰にも入札されなかった。そこへランスが現れ、手持ちのお金をあるだけ差し出し、その絵を買うと声を上げる。それにつられて周囲の画商たちも次々に声を上げ始めたため、アジュールはオークション史上最高値でマッシュの絵を自ら競り落として、場を収めるのだった。 続いてマッシュは、アジュールからサントレノ国際芸術展への出品を命じられる。そのテーマは「生」だった。多くの応募作品から選ばれることは、このうえない名誉であり、アジュールは、この芸術展でマッシュを大々的に世にアピールしようと準備を進めていた。人がより強く生を意識するのは「死」を意識した時だ、というアジュールの価値観から、マッシュはアジュールを恐怖させる絵を描くことを求められる。

第7巻

アジュールの娘、シンシアは、ある時、敷地内で離れて暮らすランスが、実はアジュールの母親であることを知る。そして彼女の小屋を訪ね、父親と仲直りをしてほしいと訴えていた。だがシンシアは屋敷に戻る途中で落馬事故を起こし、頭を強打して瀕死の重傷を負ってしまう。危篤状態であると診断された娘を、アジュールは死のテーマに相応しいと判断し、マッシュ・ロヴェールにシンシアの絵を描くように言い渡す。そんな中、シンシアは一度は意識を取り戻すものの、アジュールが、苦しむ自分をテーマにマッシュに作品を描かせようとしていたことを知り、そのショックから容態を悪化させてしまう。無惨な死の恐怖を表現させようとするアジュールに、マッシュは絵で抗い、要求された禍々(まがまが)しい絵でなく、思いやりと愛に溢れた「生」がテーマの絵を描き上げ、サントレノ国際芸術展の芸術大賞を受賞する。シンシアの気持ちに寄り添い、優しい絵を描いたマッシュに、シンシアは好意を抱くようになる。 それからしばらくして、アジュールは次にヨーロッパ・アート・フェスティバルに出品するようにとマッシュに命じる。テーマは「夢」だが、これは常に人のために絵を描いていたマッシュにとって相性の悪いテーマだった。そんな中、ウラノス・ローゼンベルグがアジュールの屋敷にやって来る。ソフィの眼の手術が行なわれるので、傍で勇気づけてやって欲しいと言うウラノスに、マッシュは一人前の絵描きになるまで会わない、と同行を拒否。そんなウラノスに対し、シンシアはマッシュが心変わりをして自分を選んだから帰れないのだと噓をつき、それを信じたウラノスは、マッシュの裏切りに憎悪を抱く。その気持ちに目を付けたアジュールは、ウラノスをヨーロッパ・アート・フェスティバルに参加させる。アジュールの指導のもと、憎悪をたぎらせたウラノスは、鬼気迫る画風でフェスティバルのグランプリを獲得する。一方、締め切りギリギリに持ち込まれたため、係の手違いで会場の隅に置き忘れられていたマッシュの作品は、ウラノスの受賞発表の場でようやく発見され、その場の人々の心を一瞬で奪う。

第8巻

ウラノス・ローゼンベルグマッシュ・ロヴェールは、ヨーロッパ・アート・フェスティバルで史上初のダブルグランプリを受賞する。マッシュの描いた絵の温かみに触れて、ウラノスは素直に負けを認める。と同時に、マッシュとソフィの深い信頼に満ちた関係を目の当たりにし、長く憧れを抱いていたソフィに相応しいのはマッシュだと潔く身を引く。一方、新人ながらグランプリを受賞したマッシュの活躍に、やる気を失う者が続出すると予想していたアジュールは、次のオークションで一定以上の値の付かなかった者は解雇すると宣言。結果、アジュールのもとに集った画家の卵の多くが屋敷を去ることになるが、そこに新たにグラネル・ゾラという青年がやって来る。彼は絵のために弟を殺したとの噂がある画家であった。第32回ブルゴーニュ・サントレイユ展のテーマである「太陽」を描くと決めたグラネルは、マッシュが部屋に閉じこもって描いていた「太陽」の着想を盗み見して、自分のテーマとしてマッシュよりも先に絵を披露。経緯を知らないマッシュは、盗作したと周囲から責められて孤立してしまう。そんなマッシュに対し、グラネルはこっそりと自分がアイディアを盗んだことを告げ、今後も同様のことを繰り返してやると脅す。そんなグラネルに対し、マッシュは自身が描きたいものをこれからも描くと言い放つ。そこへ、グラネルの父親であるマリウス・ゾラがマッシュを訪ねてやって来る。そして、取り返しのつかないことになる前に、息子グラネルを助けてやって欲しいと相談を持ち掛けられる。そんな彼の言葉に、マッシュはグラネルの心に届くようにと「太陽」を描く決心をする。

第9巻

ヴォス・ロヴェールは、自宅に空き巣に入った青年のレジ・ピエールを、自身の作品の作者として世に送り出す。時の寵児となったレジは、サントレノ国際芸術展にマッシュ・ロヴェールとともに作品を出品。芸術展のテーマは前回と同じく「生」であり、マッシュは老人の周囲に臨終を穏やかに見守る天使たちを描く。それに対し、ヴォスが「レジ・ピエールの作品」として出展したものは、生に執着する瀕死の病人をテーマにした写実的なものだった。ヴォスが過去に病死した妻、ミショーをモチーフとした絵に込められていた、冷酷な美しさを至高のものと求め続けている大画商、アジュールは、作品の類似性から「レジ・ピエールの作品」の真の作者がヴォスであることをいち早く見抜く。一方マッシュは、芸術展の観客たちの反応を含め、「レジ・ピエールの作品」のインパクトの凄まじさに力量の差を痛感。そして、時代の求めるものは、マッシュのように対象への愛を含んだ絵ではなく、冷酷で対象を的確に描き出す絵なのではないか、と激しく動揺する。結局、「レジ・ピエールの作品」は芸術展では受賞を逃したものの、ヴォスは自分の絵の価値を再確認し、オークションで自作を売却して、その収益を費やして誰でも参加できるオークションを開くと宣言する。そのオークションの開催の1か月前、マッシュはオークションには戻って来ると書置きを残し、身を寄せていたアジュールの屋敷から姿を消してしまう。

登場人物・キャラクター

マッシュ・ロヴェール (まっしゅろゔぇーる)

画家を志す少年。働かずに飲んだくれて、暴力を振るう父親のヴォス・ロヴェールと2人で、マルセイユの港町で暮らしている。マッシュ・ロヴェール自身の似顔絵描きの収入だけが暮らしを支えている。母親はマッシュを産んですぐに病死した。人々の心にある「優しさ」を信じており、さまざまな人と出会った経験を自身の糧とし、画家として成長していく。 ひたむきで裏表のない性格のため、ソフィやサラ、シンシアといった女性から次々と好意を寄せられる。しかし、マッシュ本人は目移りすることなく、絵を描くこと、そして絵でソフィを笑顔にすることを、何よりの目標としている。自身の求める絵を常に自問し、悩みながらも努力を続ける姿は、老若男女問わず関わった人々を救い、癒している。

ソフィ

マッシュ・ロヴェールと同じく、マルセイユの港町で暮らしていた少女。曲がったことを嫌い、権力者にもひるまずに立ち向かう勇気と優しさを持つ。ひたむきに絵を描くマッシュの姿勢を好ましく思っており、マッシュの画家になりたいという夢を応援している。ヴァドー伯爵のもとにメイドとして雇われたが、それはヴァドー伯爵の病没した妹と似ていたため、絵のモデルになってほしいと望まれたことによる。

ヴォス・ロヴェール (ゔぉすろゔぇーる)

マッシュ・ロヴェールの父親。ひげを蓄えた中年の男性。かつて賭けに負けて右腕を切断しており、肘から先を失っている。画家としての才能に恵まれていたが、画壇の実力者の不興を買ったために陥れられ、贋作師の烙印を押されて画家生命を絶たれてしまう。息子のマッシュに似顔絵描きで生活費を稼がせ、ヴォス・ロベール自身は酒浸りの生活を送っていたが、のちにレジ・ピエールを自身の影武者に仕立て、パリ画壇に復讐する計画を実行する。

ミショー・ロヴェール (みしょーろゔぇーる)

マッシュ・ロヴェールの母親で、故人。享年22歳。マッシュを出産した後、病に倒れた。結婚生活は短いが、夫のヴォス・ロヴェールとは仲睦まじい夫婦であったと、親交のあったメリルはのちにマッシュに語って聞かせた。ヴォスは、遺体となったミショーの腐敗する様を絵に描き残した作品が、最後の絵となった。ミショーを描いた作品はアジュールの手に渡り、アジュールはそれを最高の絵画として絶賛する。

テオ

レストランのオーナーを務める中年の男性。店はモンマルトル美術学院の近くにあり、ヴィヤベースが美味しい。がっしりした体格で、額に傷があり、口ひげを生やした厳つい風貌をしている。パリについたばかりでスリに遭い、一文無しになっていたマッシュ・ロヴェールを、店の手伝いをすることを条件に雇い入れるなど、見た目に反して心優しい人物。 ひたむきに絵に情熱を注ぐマッシュの姿勢に感心し、その夢を応援している。

ニコ

テオの息子。そばかす顔に糸目の少年。悪ぶっているところはあるが、マッシュ・ロヴェールがモンマルトル美術学院で嫌がらせされ、過酷な雑用を押し付けられて、手を真っ赤に腫らしているのを見て、レストランでの皿洗いの仕事を代わろうとするなど、心根は優しい。

ドラン

モンマルトル美術学院の男子生徒。眉間に目立つほくろがある。先生たちからも生徒からも一目置かれる実力の持ち主。実力を認められて共に学ぶことを許されたマッシュ・ロヴェールに嫌がらせをし、モンマルトル美術学院から追い出そうとする。もともとは孤児であり、養い親の面子を保つために、芸術祭で認められること、学校では常にトップであることを要求されている。 目的のために手段を選ばないところはあるが、モデルを務めたサラに礼を述べようとしたりと、一般的な良識も持ち合わせている。

サラ

モンマルトル美術学院で、雇われモデルを務めている少女。極端に無表情なので、学内の少年たちに「アイスドールのサラ」の名で呼ばれている。10年前、母親と自分を捨てて出て行ってしまった父親を憎んでいたが、マッシュ・ロヴェールの描き上げた自分の自画像に勇気づけられ、わだかまりを捨てて父親と和解することに成功。以降は表情の豊かな、男勝りといえるほどの活発さを見せるようになる。

ヴァドー伯爵 (ゔぁどーはくしゃく)

国選の展覧会である「サロン」の最年少会員の青年。実力者で今後のフランス画壇の流れを作るといわれ、「サロンの顔」とも呼ばれる。病で若くして亡くなった妹、クレアをキャンバスの上に蘇らせたいと、彼女に似たソフィをモデルにするためにメイドの名目で雇用した。かつて危篤状態に陥ったクレアが自身の姿を描いて欲しいと願った時、彼女をモチーフと捉え、絵に夢中になってしまったことを長い間ずっと悔いており、絵に対しても複雑な想いを抱いている。 のちにマッシュ・ロヴェールの描く温かな絵を見て、人のぬくもりを絵に込めることができることを実感し、再び絵を好きになる。

クレア

ヴァドー伯爵の妹。8年前に亡くなった。もともと身体が弱く病気がちで、外に出たこともほとんどない。明るい性格で、外見も含めてソフィにそっくりだった。元気な自分の絵をヴァドー伯爵に描いてほしいと密かに願っていたが、なかなか切り出せず、死の間際になってやっとその望みを伝えた。兄のヴァドー伯爵は絵に取り掛かるが、死にゆくクレアの様子を絵に表すことに没頭してしまう。 やっと描き上げた時はクレアは息絶えており、彼女自身は完成を見ることなく亡くなってしまった。

シスター

東のはずれの教会のシスターを務める中年女性。ふくよかな体型で、ひっつめ髪をお団子にしている。村人たちの生活の支えとなり、困りごとなどに親身になって寄り添ってきた懐の深い優しい人物。ウラノス・ローゼンベルグをはじめ14人もの孤児たちの面倒を見ており、盗みの疑いをかけられている彼らのことを信じている。ウラノスには「ババア」と呼ばれているが、他の孤児たちは「お母さん」と呼んで素直に懐き、慕っている。

ウラノス・ローゼンベルグ (うらのすろーぜんべるぐ)

東のはずれの教会で暮らす孤児。団子鼻にぼさぼさの黒髪の少年。育ちの悪さから、村人たちに盗みの疑いをかけられ、「ドブネズミ」と蔑まれている。暴力を振るわれていたのをソフィに助けられたことがあり、それ以降、ソフィに密かに好意を寄せている。のちにマッシュ・ロヴェールに付いてパリに行き、そこで画家を目指すようになる。 技法などは拙いが、描きたいものをストレートに表現することに長けており、ソフィを描いた絵は、マッシュとメリルにもいい絵だと高く評価された。5歳の時に、野生の獣のうろつく危険な場所に置き去りにされて死にかかった過去があり、自身の根深いところに深い闇を抱えている。

ピサル

宗教画専門の青年画家。東のはずれの教会と対立する、新しい南の教会に肩入れする村長の親戚。かつて大司教を感涙させたほどの、素晴らしい壁画を描いた実績がある。村長の依頼を受け、これから教会に集まるはずの寄付金を当てにして大金を投じ、南の教会に豪奢な壁画を描いた。野心家で、村のためではなく自身の実績を優先したことが、絵の対決での敗因となった、とヴァドー伯爵に指摘される。

メリル

贋作師を育てていた画商の老人。M字に生え際の後退した白髪で、豊かな口ひげと顎ひげを生やしている。かつてうだつの上がらない画商時代に、新進気鋭の作家だったヴォス・ロヴェールと知り合った。ヴォスの将来性を高く買っており、ともにパリで名を上げようと夢を抱いていたが、画壇の長老たちの策略により、ヴォスが画家としての道を閉ざしてからは、絵の可能性を信じられなくなっていた。 その後は絵を復讐の道具としか考えず、一流の贋作師を育てることに従事していた。マッシュ・ロヴェールに出会ってからは絵の素晴らしさを再び思い出し、考えを改める。ウラノス・ローゼンベルグからは「じじい」、サラからは「メリ爺」と呼ばれている。

シモヌ

贋作師を育てる画商、メリルに雇われた少女。マッシュ・ロヴェールに食事を運ぶ仕事を任されていた。兄もメリルのもとで贋作師として仕事をしている。マッシュが業の深さを抱えた画家になるように、メリルの指示した通りの芝居をしていた。だが、彼がシモヌを庇うために画家の命ともいえる右手を投げ出そうとしたため、その真の優しさを知る。

ジャン

アレジの農園に雇われている黒人の少年。黒いベリーショートの髪型をしている。アレジの息子のラエルとは幼なじみでともに足が速く、小さい頃から走りを競い合っていた。偏見にとらわれず対等に付き合ってくれるラエルとは良きライバルだった。しかし、周囲からは、黒人でありながら、白人で名家の息子のラエルと親しく振る舞うことを快く思われておらず、思い上がるなとよく暴力を振るわれていた。 だが走ることは偏見を超えたところにあるとの信念を曲げず、ラエルとの競技場の走りでそれを証明して見せる。

ラエル

アレジの息子の少年。ジャンとは幼なじみで、昔から仲が良かった。黒人の彼に対する差別をくだらないものだと考えており、対等に友人付き合いを続けている。3年間、ロンドンへ陸上留学をしていたが、パリに戻ってジャンとの約束を果たすためパリ陸上に出場する。アレジの根回しで本戦前に怪我を負わされたジャンを見て、彼と同じく自身を傷付けてフィールドに立つ。

アレジ

家柄が良く金持ちの男性。ラエルの父親で、農場を経営している。オールバックにした黒髪を後ろに撫でつけ、八の字の口ひげを生やしている。差別主義者で、ラエルが親友として対等に付き合っている黒人の使用人、ジャンのことを疎んじている。4年に一度開催されるパリ陸上の実行委員長を務めており、ロンドンに陸上留学しているラエルを、その大会で優勝させたいと望んでいる。 息子とジャンがともに走ることが許せず、人を使って暴力で脅したり、マッシュ・ロヴェールが競技会のシンボル画を、ジャンをモデルにして描き上げた、というだけで選考の機会すら奪おうとした。だが、数々の妨害にも負けずに友情を貫く息子とジャンを見て、考えを改める。

ブロスト伯爵 (ぶろすとはくしゃく)

オールバックにした髪に、先を尖らせた濃い顎髭が特徴の中年の男性。よくパイプを咥えている。パリのサロンの頂点に君臨していたヴァドー伯爵を引きずり降ろすため、国内の画廊を襲撃して彼の権威を貶めようとした。しかし、屈することのないヴァドー伯爵に業を煮やし、彼を殺すため屋敷に放火するという凶行に及ぶ。その後はサロンを牛耳り、賄賂を投じて警察も傘下に収めて、家柄のいい貴族の子弟や権力者層しか絵を出展でききないような圧制を敷いた。 だが、パリ市民に再び絵を楽しむ心を呼び起こしたマッシュ・ロヴェールと、実は生きていたヴァドー伯爵の反撃を受けて失脚する。ブロスト伯爵自身の権威と実力を、天空から舞い降りて民衆を導く神になぞらえて絵で表したつもりが、それは野心に憑りつかれた今のブロスト伯爵そのものであり、人を見下す「悪魔」のようだ、と酷評されたことにより、心を持った画家の目を取り戻す。

アジュール

大画商の中年男性。眼鏡をかけている。馬車にひかれて瀕死の画家を前にしても医者を呼ばず、その画家の家に押しかけてすべての作品を安値で買い取り、死後にプレミアを付けて転売する、という手法で大画商となった。他の画商にもその話は知れ渡っており、「死画身(しにがみ)」と呼ばれている。200人ほどの有望な画家を自身の屋敷に集め、競わせて画力を高めさせるという活動をしている。 若い頃、売れない画家だった父親の代わりに売れる絵を追求する余り、モチーフにしようと飼い犬を惨殺したために、父親に右手の指を切り落とされている。アジュール自身が筆を持てなくなったため、見込んだ画家に自分が描きたいテーマを与え、指示して描かせている。母親のランスはアジュールを歪ませてしまったことを悔い、見守りつつも言葉すら交わせないまま、同じ屋敷内に小屋を建てて離れて暮らしいる。 人を寄せ付けない冷酷な美しさこそが至高だと考えており、ヴォス・ロヴェールの絵を最高の美と認めている。

シンシア

アジュールの娘。ショートカットの髪型をした活発な少女。マッシュ・ロヴェールのことを気に入り、最初に彼がアデュチ・ノルウォーターと腕比べをした際に描いてくれた似顔絵でなく、きちんとした肖像画を描いてほしいと願っている。屋敷の画家たちからは、「お嬢さん」と呼ばれている。画家としての腕だけでなく、マッシュのまっすぐで素直な人柄にも惹かれていた。 なにかにつけて彼に付いて回り、ついにはずっと自分のそばにいて欲しいと告白した。それはできないと断られてからは、潔く身を引いた。

デュガ・ダヴィデ (でゅがだゔぃで)

アジュールの屋敷にいる画家の青年。アジュールに目を付けられるほどの才能の持ち主で、彼の右腕となり、指示を受けながら絵を描かされている。デュガ・ダヴィデ自身の画風とは違ったテーマの絵を描かされることに苦痛を覚えており、現在は酒浸りで自堕落な生活を送るようになっている。そんな中、新たにアジュールの屋敷を訪れたマッシュ・ロヴェールに、ここは「地獄の館」だと忠告し、早く出て行くように勧めた。

アデュチ・ノルウォーター (あでゅちのるうぉーたー)

アジュールの屋敷にいる画家の卵の青年。アジュールの屋敷の中では「ノル」と呼ばれている。部屋に沢山の入賞のトロフィーを飾っており、自尊心が強い。また、画家になることを信じて送り出してくれた母親に対して強い責任を感じており、野心の強さを隠そうともしない。大口を叩き、アジュールの屋敷でともに生活している画家の卵たちから反感を買うことも多いが、のちにマッシュ・ロヴェールのアドバイスによって、アデュチ・ノルウォーター自身の絵を格段に完成度の高いものに仕上げ、画商たちに一目置かれる存在となる。 ちなみにアジュールの娘のシンシアに好意を寄せているが、まったく取り合ってもらっていない。

ランス

アジュールの屋敷で、下働きに従事している年配の女性。粗末な服で身に包み、敷地内に小さな小屋を建てて住んでいる。実はアジュールの母親だが、彼が少年の頃に対立したことが原因でともに暮らしておらず、きちんと話したのはもう30年も前のことになる。かつて、売れない画家だった父親から絵を教わっていたアジュールが、認められたい一心で残虐な絵を描き、それをエスカレートさせて飼い犬を惨殺したのを止めてやれなかったことを後悔している。

ドレフィス

アジュールがデュガ・ダヴィデ以前に、自分の右腕代わりに絵を描かせていた画家の青年。病んでいるので痩せこけ、蛆の湧いた死人のような外見をしている。すでに正気を保っておらず、地下に閉じ込められている。こうなった経緯は不明で、デュガはアジュールが陥れたためだと恐怖しているが、アジュール自身はマッシュ・ロヴェールに対し、地下室のドレフィスは自身の弟であり、病気を患っていると説明している。

ニコラ

アジュールの召使いの男性。彼の一番近くに仕え、秘書のような仕事を任されている。大柄で、長い顔に落ちくぼんだ眼をした迫力のある人物。寡黙で、あまり自分の感情を表に出さず、アジュールの命令に忠実に従う。ランスがアジュールの母親であることを知っていたりと、誰よりも屋敷の内情に詳しい。

グラネル・ゾラ (ぐらねるぞら)

新たにアジュールの屋敷にやって来た画家の卵の青年。太い眉に痩せてくぼんだ頬をしている。かつて弟のフランツ・ゾラと湖でボート遊びをしていた際、事故により目の前でフランツを水死させてしまった過去がある。以来、画才に恵まれていた弟の代わりに、コンクールで入賞することに執着するようになった。弟を死なせてしまった罪悪感から、絵が好きな自身の気持ちを封印し、成果を上げることにのみ価値を見出している。

フランツ・ゾラ (ふらんつぞら)

グラネル・ゾラの弟で、幼い少年。5年前、湖でグラネルとボート遊びをしていた時に事故で湖に落ち、水死してしまった。グラネルはその時、自分よりも画才があり周囲に認められていたフランツ・ゾラに嫉妬していた。また、両親もグラネルの過失を酷く責めたため、グラネルは自分がフランツを突き落として湖に沈めた、と思い込むようになる。 のちにマッシュ・ロヴェールの描いた作品の熱気に感化されたグラネルの前に霊となって現れ、兄に好きな絵を楽しく描いて欲しいと訴えた。

マリウス・ゾラ (まりうすぞら)

グラネル・ゾラの父親。オールバックにした髪に、無精ひげを生やした中年の男性。かつてグラネルとボート遊びをしていたフランツ・ゾラが事故で水死した際、取り乱して、まるでグラネルが弟を殺したかのように激しく責めたてた。これにより、グラネルは自分が弟を突き落としたのだと、事実を曲げて記憶することとなる。それを詫びるためにアジュールの屋敷を訪れ、頑なに自身の謝罪を受け付けない息子の心を救って欲しいと、マッシュ・ロヴェールに願い出る。

レジ・ピエール (れじぴえーる)

ヴォス・ロヴェールの代わりに彼の作品の作者として表舞台に立った青年。左右非対称に前髪を分け、眉が繋がっている。当初は盗みに入ったヴォスのアパートの中で大金を見つけ、金になると判断してヴォスに付きまとっていた。天涯孤独で誰も信用せずに生きてきたが、ヴォスのパリの画壇への復讐を手伝う内に、ヴォスを家族として大切に思うようになっていく。 もともとは利害だけで結ばれた関係だったが、最終的にはヴォスが病身に鞭打って絵を描き続けるのを止め、命を大事にするようにと諭す。

ミュリエ

センター分けの黒髪に、一本飛び出た前歯が特徴の男の子。最近、パリに移住して来たため、前から住んでいたルイたちの遊び仲間に入れてもらえず、孤立していた。ルンペンのおじいさんの飼い犬の「ボルドー」と友達になり、一緒に遊んでいたところ、ルイから声をかけられて、仲間に入れてもらえるようになった。ボルドーを虐めるようにけしかけられたりと、嫌な思いばかりさせられており、ルイとの友人付き合いに疑問を抱いている。 ルイが自身のいたずらが原因で怪我をした際、ボルドーに嚙まれたと噓を言ったことも承知していたが、仲間はずれに戻るのが怖くて、真実を言いだせずにいた。だが、マッシュ・ロヴェールが地面に描いたボルドーの絵を見て、それに勇気付けられ、ルイの噓を大人たちの前で暴露する。

ルイ

ショートカットの髪型をした釣り目の少年。パリに以前から住んでいる、ガキ大将的な存在。つるんで遊ぶ友人たちに言いくるめて、引っ越して来たばかりのミュリエのことを仲間はずれにしていた。ルンペンのおじいさんのおとなしい飼い犬のボルドーに石を投げるよう、ミュリエに強要したり、嫌なことをミュリエに押し付けている。 街の中でも緑の残る区画に、昔ながらの生活をしているルンペンのおじいさんを、大人たちが景観を損ねると疎んじているのを知っていた。それに影響され、おじいさんの家にも投石して嫌がらせをした。家を守ろうと吠えたボルドーに驚き、転倒して怪我をする。近隣住人には、ボルドーに嚙まれたと噓を言いふらしたため、ボルドーが翌日に殺処分されることとなってしまう。

ルンペンのおじいさん

豊かなひげに、目を覆うくらいの豊かな眉毛をした老人。昔からパリの街外れで暮らしていたが、近代化する街の暮らしに馴染めず、自然と親しむライフスタイルで生活し続けていた。マッシュ・ロヴェールはルンペンのおじいさんが不調で倒れたのに行き合い、彼の家まで運び、おじいさんの描いていた絵を褒めた。住んでいる小屋は老朽化し、景観を損ねるなどの理由で、近隣の街の住人に疎まれている。 飼い犬の「ボルドー」をわが子のように可愛がっている。ルイが、ルンペンのおじいさんの家に投石したのが原因でボルドーに吠えられ、驚いて転倒して怪我をしたのを、ボルドーに嚙まれたと噓を言いふらしたため、近隣住民にボルドーの殺処分を言い渡された。緑豊かでのどかだった街を愛おしく思って暮らす、善良な人物。

ダラス

名誉画伯で、パリの画壇の重鎮。片方の目許に大きなしみがあり、豊かな口ひげと顎ひげを生やした老人。かつて、自身の地位を脅かしかねない才能を持っていたヴォス・ロヴェールを陥れ、彼の画家としての未来を奪った。ダラス自身の地位を脅かすものは徹底的に排除する傲慢な性格の人物。

場所

モンマルトル美術学院 (もんまるとるびじゅつがくいん)

マッシュ・ロヴェールが、最初に絵を学ぶために通った学校。パリでも名門の美術学校で、講師たちもそれを誇りに思っている。講師たちの思い上がりは激しく、才能ある良家の子息が集うところだと、訪ねて来たマッシュを門前払いしたり、貧しい出自のマッシュを雑用にこき使ったりする。生徒たちも、ろくに教育を受けていないマッシュと机を並べたくないと陰口を叩き、絵の才能とは別に家柄だけを偏重する校風に染まりつつある。 しかしマッシュの情熱に触れるうちに、一部の講師は、美術学院としての本来の姿に戻るべきだと感化されていく。

南の教会 (みなみのきょうかい)

ヴァドー伯爵の屋敷の近くにある村に、1年前にできた新しい教会。周辺の住民を信者として取り込み、寄付を一手に集めたいと目論んでいる。昔からある東のはずれの教会の信者が、未だにそちらに通い続けるのが気に食わず、村長と結託して、東のはずれの教会で暮らす孤児たちに泥棒の濡れ衣を着せて嫌がらせをし、立ち退くように工作を繰り返している。

東のはずれの教会 (ひがしのはずれのきょうかい)

ヴァドー伯爵の屋敷の近くにある村の教会。シスターが14人もの孤児たちを世話し、母親代わりを務めている。マッシュ・ロヴェールが泊まる場所としてソフィに勧められて訪れた場所。マッシュはここで、孤児のウラノス・ローゼンベルグと知り合うこととなった。村人から、ウラノスをはじめとした孤児たちが、畑のものを盗んだと疑いをかけられ、追い出されそうになっていた。 しかし、マッシュが孤児たちと協力して村人の心を揺さぶる壁画を描いたため、和解した。

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