あらすじ
動物看護師の福丸三太は、獣医師の堀川広樹に呼ばれて神楽坂にある坂の上動物病院を訪れた。その病院で出会った高円寺達也は、若くして坂の上動物病院の医院長を務めており、持ち前の情熱と高度な技術で利用者との信頼関係を築いていた。福丸は坂の上動物病院の受付兼動物看護師としてアルバイトをすることになったが、ある日、不注意からパソコン上にあるカルテのデータを消去してしまう。ミスをごまかそうとした福丸に、達也はカルテの大切さと同時にチームワークの重要性を教える。(エピソード「紙カルテ 神カルテ」)
桃江りえがナルタウン動物病院の新たな副医院長に就任し、派手な宣伝活動を展開したことで坂の上動物病院の常連客が激減してしまう。達也は焦りを覚えるが、田代からのアドバイスと激励によって自分のやるべきことを再確認し、気持ちを新たに動物たちと向き合うことを決める。(エピソード「伝言」)
達也の父親で、ナルミ財閥の社長を務める成見会長が倒れた。その場に居合わせた広樹が行った救命処置によって一命は取り留めたものの、危険な状態が続いていた。達也はそれでも頑なに会長との面会を拒否していたが、母親・高円寺貴子の説得や会長が達也にあてた手紙によって心のわだかまりを解き、面会へと向かう。(エピソード「言葉ひとつで」)
坂の上動物病院に以前勤務していた優秀な動物看護師・加瀬トキワの噂を聞いた三太は、偶然パソコンのフォルダ内に残されていたトキワのメモを発見する。そこには動物看護師としての心得や達也に対する高い評価などが書き込まれており、三太は大いに感動する。(エピソード「秘密のフォルダ」)
三太は二度目の獣医師免許の国家試験も不合格となり、家族から叱責されたことで落ち込み、坂の上動物病院で働くことにも自信をなくしていた。そんな三太のもとに桃江が現れ、ナルタウン動物病院へ引き抜こうとするが、三太は達也たちが自分を国家試験合格のためにサポートしてくれていることを知り、坂の上動物病院で勉強をしながら来年の試験に臨むことを決意する。(エピソード「国家試験!」)
学会の臨床セミナーに参加した達也は、会場で桃江と遭遇する。桃江は達也のことを一方的に敵対視しており、セミナーでもその対応は変わらずにいた。その時、偶然一般客の飼い犬がケガをしてしまい、居合わせた二人は協力して処置を行うこととなる。(エピソード「避暑地のふたり」)
坂の上動物病院に新たな事務員として北沢照子が面接に訪れた。照子は北沢ゆき子の妹で、軽率な物言いや派手な見た目が問題視されたが、事務作業の処理能力の高さや人当たりのよさが評価され、正式に採用される。(エピソード「新しいトビラ」)
大学の公開オペに参加した達也と、その見学に訪れていた桃江は、トラブルに巻き込まれてエレベーターの中に閉じ込められてしまう。閉所恐怖症のために動揺する桃江の気を紛らわせようと、達也は口頭で手術のシミュレーションを始める。(エピソード「密室にて」)
名倉雅彦と加藤千鶴が結婚報告のために達也のもとを訪れるが、達也は一抹の寂しさを覚えていた。そこに名倉と以前付き合っていたという女性が現れ、行方不明になった飼い猫を捜してほしいと相談され、二人で捜索を開始する。(エピソード「円満日和」)
犬の体調不良のためにナルタウン動物病院を受診したが、その結果に納得できない夫婦が、坂の上動物病院を訪れた。達也の問診により、犬の不調の原因が判明すると、夫婦はナルタウン動物病院を誤診で訴えると言い始める。達也はずさんな診察を行った桃江に注意をうながしながらも、助け舟を出す。(エピソード「春、噂の向こう側」)
達也は友人のすず芽から、彼女の恋人・真一との関係が悪化していることを打ち明けられた。すず芽は達也のアドバイスによって真一のもとへ向かうが、そこには新しい恋人と過ごす真一がおり、すず芽は真一に別れを告げる。(エピソード「すず芽の恋心」)
登場人物・キャラクター
高円寺 達也 (こうえんじ たつや)
坂の上動物病院の医院長を務める獣医師の青年。周囲からは「コオ先生」と呼ばれて親しまれている。動物のことを第一に考え、時には厳しい指導を行う。坂の上動物病院の前身となる動物病院を徳丸善次郎から譲り受けて開院したが、火事によって建て直すことになり、その工事期間中は研修のためにアメリカに滞在していた。獣医師としての評価が高いだけでなく、基本的に動物とのコミュニケーションを大切にしており、利用客からの信頼が厚い。手書きのカルテに大量の書き込みをしてすべて保管し、それをほかのスタッフにも薦めている。ナルタウン動物病院と比較されることが多いが敵対視はしておらず、動物の状況によって必要とあらばほかの病院も紹介し、セカンドオピニオンを推奨する。ナルタウン動物病院の副医院長が桃江りえになった際は、資金力を見せつけるような広告宣伝費をかけた経営に焦りを見せたが、田代からのアドバイスによって自分らしい経営を見つけ出した。保護動物の譲渡会などにも積極的に協力しており、その中で犬のモ吉と出会い、飼育を始めた。父親である成見会長とは疎遠を貫いていたが、会長が達也のことを応援していることを知り、父親と事実上の和解をした。母親の高円寺貴子が三味線の師匠であるため、高円寺達也自身も三味線を弾くことができ、時折披露している。恋愛に関しては鈍感ながら、加瀬トキワに恋心を抱いていた。そのほかの女性に対しては友人以上の感情を持っていなかったが、無意識に思わせぶりな行動を取ることがある。
堀川 広樹 (ほりかわ ひろき)
坂の上動物病院で獣医師を務める青年。新米獣医師として高円寺達也の助手をしながら技術を磨いている。明るく気さくな性格で、利用客からも支持されている。達也の姪である大沢香子とは恋人関係で、アニマルセラピーの活動を手伝いつつ、堀川広樹自身も団体を立ち上げようとしている。実家は酒造で兄と妹がいる。
滝 佑斗 (たき ゆうと)
坂の上動物病院で獣医師を務める青年。獣医大学を主席で卒業し、獣医師として高円寺達也の助手をしながら、現在は大学で人間心理学を学んでいる。冷静な性格で表情をあまり変えることなく、トラブルが発生しても状況を分析して対処している。料理や家事が趣味で、達也の食事をよく作っている。姉の滝奈々美に対しては、一方的な愛情を注がれていることにうんざりしており、基本的には冷たく接することが多い。
福丸 三太 (ふくまる さんた)
坂の上動物病院で動物看護師を務める青年。獣医師の国家試験に不合格になったため、堀川広樹に誘われて受付業務のアルバイトをするようになった。実家は四国にある動物病院で父親と兄が獣医師として働いている。受付兼動物看護師として働くなか、国家試験は二度目の不合格となるが、高円寺達也の獣医師としての姿勢を間近で見たことで獣医師への思いが一層強くなった。堀川と滝佑斗は獣医大学の先輩であり、あこがれの存在として慕っている。手術時には助手として立ち会うことで知見を深め、緊急時には達也に指示を仰ぎながらも自力で治療することもある。達也の紹介で木島ソノコと知り合い、東洋医学に触れたことで新しい道を発見し、鍼や手技療法を取り入れた獣医学を学び始めた。他人に気遣いのできる性格で、周囲から高い評価を受けている。
北沢 照子 (きたざわ てるこ)
坂の上動物病院で受付事務を務める女性。北沢ゆき子の妹で、実家の材木店が閉業した際にゆき子の紹介で坂の上動物病院の事務の面接を受けた。派手な見た目と軽い口調ながら事務作業の能力は非常に高く、ほかのスタッフから評価されている。当初は姉の言うことに従うことが最重要だと思い込んでいたが、高円寺達也と接していくうちに自立心が芽生えていく。動物病院の業務にはまじめに取り組み、トリマーの勉強も始めている。
桃江 りえ (ももえ りえ)
ナルタウン動物病院の副医院長を務める獣医師の女性。超美人獣医師としてテレビ番組で紹介されるほど容姿端麗で、桃江りえ本人も自負している。前任の田代に変わって副医院長に就任し、高円寺達也へ宣戦布告した。坂の上動物病院から奪った客と同じ数の花束を達也へ毎月贈るという嫌がらせを行っていたが、大元の原因は尊敬する聖堂勇馬が達也を評価していることによる嫉妬であった。しかし達也と接していく中で、達也の獣医師としての姿勢や人間性に興味を持ち始める。
モ吉 (もきち)
高円寺達也が保護犬譲渡会で出会ったビーグル犬。以前の飼い主は高齢の女性で、現在は施設に入居しているために飼育できず、保護犬となった。当初は人間に対して極度に怯えており、以前の飼い主が鳴き声による近所トラブルでやむを得ず、声帯手術を行ったため、声を出して鳴くことができない。達也が引き取ったことで徐々に人間に心を開くようになり、突発的ではあるが声帯も回復の兆しを見せている。堀川広樹と大沢香子にセラピー犬としての訓練を受けながら、坂の上動物病院の看板犬として活躍する。
高円寺 貴子 (こうえんじ たかこ)
高円寺達也の母親。若い頃に成見会長と出会って達也を出産した。現在は三味線の師匠として若い芸妓たちに教えている。成見会長のことは慕い続けており、頑なに関係を持とうとしない達也を説得することもある。達也の結婚相手を案じており、達也の周囲に女性が現れると勘ぐる癖がある。
徳丸 善次郎 (とくまる ぜんじろう)
坂の上動物病院の元医院長を務めていた老齢の男性。高円寺達也に病院を譲ったあとは、老犬をサポートする活動を行っている。時折坂の上動物病院に訪れ、達也やスタッフたちと交流している。地元住民たちとも親交があり、現在でも頼られることが多い。福丸三太に期待を寄せており、福丸の進路について相談に乗っている。
成見 圭俉 (なるみ けいご)
ナルミ財閥の社長を務める男性。高円寺達也とは母親違いの兄。幼い頃から達也や父親の成見会長に対して冷淡に接している。坂の上動物病院がある神楽坂を再開発する計画を発表し、地元住民からの反発を受けながらも着々と準備を進めている。
成見会長 (なるみかいちょう)
ナルミ財閥の会長を務める老人で、高円寺達也と成見圭俉の父親。経営の第一線からは退いているものの、依然として絶大な影響力を持つ。達也の母親・高円寺貴子のことを現在も気にかけており、息子の達也に対しても定期的にナルミ財閥の内情を知らせる手紙を送っている。一度危篤状態に陥ったが、堀川広樹の処置と達也の声掛けによって一命を取り留めた。
大沢 香子 (おおさわ かこ)
成見圭俉の姪で、現在は成見家の敷地内に住んでいる。堀川広樹とは恋人関係で、共にアニマルセラピー活動を行っている。
すず芽 (すずめ)
神楽坂の芸妓の見習いをしている女性。高円寺貴子に三味線の稽古をつけてもらいながら芸妓として活動している。高円寺達也とは以前からの知り合いで、動物以外の相談を持ちかけることも多い。仕立て屋の真一と恋人関係にあったが、遠距離恋愛となった際に真一が別の恋人をつくってしまったことで破局した。
北沢 ゆき子 (きたざわ ゆきこ)
元芸妓のフリーライターの女性。周囲からは「ゆき姐」と呼ばれている。高円寺達也とは小さい頃からの知り合いで、達也の家庭教師をしていた。芸妓を引退したあとはアメリカに渡っていたが、帰国してフリーライターとしてウェブメディアの記事を手掛けるようになる。動物に関する記事を書くことも多く、達也が巻き込まれたトラブルを記事で取り扱うことによって沈静化させた。
滝 奈々美 (たき ななみ)
滝佑斗の姉。スポーツジムでヨガのインストラクターを務めている。「ポンポン」という犬を飼っており、ジムの看板犬となっていたが、愛情過多による肥満で脚部に異常をきたしてしまい、坂の上動物病院へ通うようになった。弟の佑斗を溺愛し、彼に冷たくあしらわれながらも気にすることなく世話を焼き続けている。
聖堂 勇馬 (しょうどう ゆうま)
高円寺達也が以前働いていた動物病院で獣医師を務める男性。獣医師界では一目置かれるスペシャリストで、聖堂勇馬にあこがれる獣医師も多い。
田代 (たしろ)
ナルタウン動物病院でかつて副医院長を務めていた男性。高円寺達也とは以前から確執を持っていたが、実力は認めており、桃江りえが副医院長に就任した際には達也の相談相手になって励ました。
加村 信明 (かむら のぶあき)
高円寺達也の後輩で、獣医師を務める男性。達也と付き合いが長く、お互いが遠慮せずに意見を交わし合える関係となっている。達也のことは内心で尊敬しており、手術や処置を見て参考にしている。
加瀬 トキワ (かせ ときわ)
坂の上動物病院が改装する前まで、受付や動物看護師を務めていた女性。結婚しているが夫が行方不明となり、息子と二人で暮らしていた。その後、夫が帰ってきたことで坂の上動物病院を去った。多方面で活躍する優秀な人材として周知されていた。
名倉 雅彦 (なくら まさひこ)
高円寺達也と幼なじみの男性。和菓子屋の跡継ぎで高円寺貴子とも親交がある。加藤千鶴に出会って彼女に協力したことがきっかけで付き合うようになり、のちに結婚した。
加藤 千鶴 (かとう ちづる)
高円寺達也とお見合いをした女性。お見合いの際には元彼と別れた直後で、達也とは破談になった。お見合い後、飼育している犬を坂の上動物病院に連れて行った際に、名倉雅彦と出会って付き合うようになり、結婚に至る。
木島 ソノコ (きじま そのこ)
聖堂勇馬が働く動物病院の新人獣医を務める女性。獣医としての知見を深めながら、痛みを軽減させる治療法であるペインケアを勉強している。福丸三太とは勉強仲間として親しくしている。
真一 (しんいち)
神楽坂にある仕立て屋の息子。跡を継いで職人になるための修業として染色工房で働きながらすず芽と遠距離恋愛をしていたが、染色工房の同僚と恋人になったためにすず芽と別れた。
八田 修一 (はった しゅういち)
獣医師を目指す男子大学生。坂の上動物病院へは実習生として訪れた。成績優秀であることを自負しており、聖堂勇馬を目標にしている。そのため、当初は高円寺達也たちを見下すような態度を取っていたが、行き過ぎた行動でトラブルを起こす。その際に福丸三太の対応や技術を見て態度を改める。
京子 (きょうこ)
滝佑斗と大学の同期である獣医学研究者の女性。学生時代から佑斗を観察しており、一方的に興味を抱いていた。獣医師になることは考えておらず、研究職にこだわっている。
場所
坂の上動物病院 (さかのうえどうぶつびょういん)
高円寺達也が経営する動物病院。スタッフは獣医師の堀川広樹と滝佑斗、動物看護師の福丸三太、受付事務の北沢照子の四名。個人医院でありながらさまざまな治療機器を備えており、手術を行うこともできる。病院内では達也が飼育していた猫の「オギ」がいたが、犬の「モ吉」も加わった。
ナルタウン動物病院 (なるたうんどうぶつびょういん)
坂の上動物病院と同じ町にある動物病院。ナルミ財閥が出資しており、さまざまな治療機器や設備が整っているため、利用者が多い。もともと副医院長は田代が務めていたが、現在は桃江りえに変わっている。
前作
僕とシッポと神楽坂 (ぼくとしっぽとかぐらざか)
たらさわみちの代表作「動物病院」本編シリーズの第3作目にあたる作品で、『おいでよ動物病院!』の続編。現代の東京・神楽坂にある「坂の上動物病院」を舞台にしている。獣医師の高円寺達也が病院にやって来るさま... 関連ページ:僕とシッポと神楽坂
書誌情報
しっぽ街のコオ先生 17巻 集英社クリエイティブ〈オフィスユーコミックス〉
第1巻
(2017-10-25発行、 978-4420153614)
第13巻
(2022-09-22発行、 978-4420154444)
第14巻
(2023-03-24発行、 978-4420154543)
第15巻
(2023-09-25発行、 978-4420154635)
第16巻
(2024-03-25発行、 978-4420154697)
第17巻
(2024-09-25発行、 978-4420154772)