器物が変化した霊的存在「付喪神(つくもがみ)」と、それを取り締まる組織「塞眼(さえのめ)」
本作『もののがたり』では、現世のほかに「常世」と呼ばれる異世界が存在し、時おり霊的な存在が常世から現世に迷い込むことがある。彼らは人の目に見えず、干渉することもできないが、現世にある古い器物に憑依(ひょうい)することで人間に似た形を取ることが可能で、この形態を「付喪神」と呼ぶ。付喪神は、基本的に人間によく似たメンタリティを持っているが、中には現代社会に悪影響を及ぼすものもいる。これらの付喪神を説得し、あるいは戦って常世に戻す役割を担う人間が「塞眼」である。塞眼は日本各地に組織を形成しており、所属する家系ごとに異なる霊的技能を持つ。中でも、岐家、八衢家、辻家の三家の塞眼たちは強大な力を行使できる。
付喪神を憎む青年と愛する少女
本作の主役である岐兵馬と長月ぼたんは、兵馬の祖父である岐造兵の計らいから、京都で共同生活を送っている。兵馬は、幼い頃に兄の岐隼人と姉の岐鼓吹を付喪神に殺害された経緯から、付喪神すべてに憎悪と不信感を抱いている。一方、ぼたんは「婚礼調度」と呼ばれる嫁入り道具をもとにした付喪神たちと家族のように接しているため、兵馬とは対称的に彼らを信頼している。この差異は、共同生活を始めたばかりの二人の関係がぎこちない原因になっていたが、やがて兵馬と婚礼調度が歩み寄ることで改善されていく。また婚礼調度は、その全員がぼたんの夫となる人間が現れることを望んでおり、やがて兵馬をその候補として見定めるようになる。兵馬とぼたんの関係は、本作の根幹の一つに位置付けられ、その発展も大きな見どころとなっている。
悪しき付喪神「藁座廻」
物語が進むにつれて、岐兵馬の家族を殺害した付喪神の正体が判明する。彼らは、常世の霊が唐傘に宿ることで誕生した「藁座廻(わらざまわし)」と呼ばれる集団だった。ぼたんの中に存在する超常的存在「現人神」を崇拝しており、彼女をぼたんから解放することを目論んでいるため、必然的にぼたんや婚礼調度たちからも警戒されている。さらに、藁座廻は現世と常世をつなげて自由に行き来できる状態にすることを望んでおり、これが実現すると二つの世界に大きな混乱が生じることから、やがて塞眼たちから最重要討伐対象に認定される。なお、兵馬は当初藁座廻を復讐相手としか認識していなかったが、彼らが長月ぼたんを狙っていることを知ると、復讐よりぼたんを守るために戦うことを優先するようになる。
登場人物・キャラクター
岐 兵馬 (くなと ひょうま)
塞眼を輩出する一族「岐家」の次期当主にあたる青年。年齢は21歳。生真面目な性格で、古風な振る舞いや筋を通すことを信条としている。一方で頑固なところがあり、自らの考えを変えることを苦手としている。厳(いか)つい見た目に反して家事が得意で、実家では料理から庭の管理まで一人でこなしていた。慕っていた兄と姉を「唐傘の付喪神」と呼ばれる存在に殺害され、それ以来付喪神に強い憎しみを抱いている。塞眼としての実力は高いが、その憎しみゆえに任務中に問答無用で付喪神を始末しようとする傾向がある。このことを危険視した祖父の岐造兵の計らいで長月家に預けられ、当主である長月ぼたんや、彼女に従う「婚礼調度」と呼ばれる6体の付喪神との交流を余儀なくされる。当初は婚礼調度をまったく信用しておらず、それをぼたんに打ち明けたところ、彼女に涙ながらに激昂(げきこう)されてしまう。自分の不用意な言動から彼女を傷つけてしまったと認識し、歩み寄る意思を示すため、3日以内に婚礼調度の六人から支持を得られなければ長月家を出ていくという条件を自らに課す。そして無事に条件を達成したことで、改めて長月家の居候として暮らすことになる。だが、その矢先に岐兵馬自身が長月ぼたんの未来の結婚相手候補に選ばれていたことを知り、大きく動揺する。
長月 ぼたん (ながつき ぼたん)
長月家の当主にあたる女子大学生。年齢は20歳。明るい性格で気遣いに長(た)け、共に暮らしている6体の付喪神「婚礼調度」のことを実の家族のように愛している。ただし、彼らが長月ぼたん自身の結婚相手を探していることには辟易(へきえき)しており、岐兵馬もその候補になったことを知った際は、呆(あき)れると共に兵馬に対する申し訳なさを感じていた。人間でありながら「マレビト」と呼ばれる付喪神の命の源を宿しており、やがてすべての付喪神を統べる「現人神」と呼ばれる存在に成り得ることが示唆されている。幼い頃からその力を利用しようとする人間や付喪神に狙われることが多く、そのことに怯(おび)えながらも、守ってくれる婚礼調度たちに感謝している。
書誌情報
もののがたり 16巻 集英社〈ヤングジャンプコミックス〉
第1巻
(2015-03-19発行、 978-4088901077)
第14巻
(2022-05-18発行、 978-4088922805)
第15巻
(2023-01-19発行、 978-4088925790)
第16巻
(2023-08-18発行、 978-4088927664)