アラタプライマル

アラタプライマル

近寄るだけで電気製品を壊してしまう特殊な体質の少年、皆素新太が卓越したサバイバル術を活かして原始時代を冒険し、人類存亡の危機に挑む姿を描いたSFサバイバルミステリー。コミックス各巻には作中に登場したさまざまなサバイバル術をイラスト付きで解説するコラム「サバイバル術補足知識」も収録されている。「少年ジャンプ+」2019年10号から2019年49号にかけて掲載された作品。

正式名称
アラタプライマル
ふりがな
あらたぷらいまる
原作者
及川 大輔
漫画
ジャンル
サバイバル
 
タイムトラベル
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

突然のタイムスリップ

2027年4月、電気の使用が不可能になる世界停電が発生する。3か月が過ぎても復旧の目処(めど)は立たず、人類は不便な生活を強いられていた。電気製品を狂わせる特殊な体質の少年、皆素新太は特に不便を感じていなかったが、持ち前のサバイバル術を活かして支援活動をすることを思いつき、避難所である桜北大学へと向かう。しかし、対人経験に乏しい新太は手助けをしたにもかかわらず、原田大和をリーダーとする若者グループを怒らせてしまい、強い疎外感を味わうのだった。一方、新太の父親である皆素辰雄は亡き妻の皆素蓮実が遺した手紙を読み返していた。曰(いわ)く、世界停電は人類滅亡の序曲に過ぎず、近いうちに人類はさらなる危機に見舞われるという。また、蓮実のパソコンには人類の危機を回避するための鍵が入っているという。同日、記者仲間の男、堀口に襲われた辰雄は命からがら桜北大学へと逃亡し、新太と合流する。やがて、自衛隊が駆けつけ、辰雄は一命を取り留めたが、パソコンは堀口によってあえなく破壊されてしまう。さらに、突如として発生した「闇」に飲まれ、新太たちは原始時代へとタイムスリップしてしまうのだった。

原始時代の生物との戦い

原始時代へと転移した現代人たちに原始時代の生物が次々と襲いかかる。傷心の皆素新太は人間の感情を読み取れる少女、伊藤美空の呼び掛けに応えて立ち上がり、手頃な樹木に火を放つ。すると、現代人を襲っていた虫の大群は燃え上がる大樹に次々と身を投じて焼死し、現代人は最初の危機を乗り越えることができた。次いで新太は外部に取り残された現代人を救出するべく奔走し、武装した自衛官すら敵(かな)わなかったスミロドン(サーベルタイガー)に立ち向かう。原田大和との共闘により要救助者を救出した新太は現代人から賞賛され、気まずい関係だった大和とのあいだにも友情が芽生えた。さらに新太の優れた着火技術が原始の民の目に止まり、新太は彼らから原始の手帳を託される。そこには、この時代が紀元前4万年であること、2032年に人類が滅亡することなど、驚愕(きょうがく)の情報が記されていた。また、皆素辰雄はタイムトラベルの謎を追っているという外国人記者のジョン・コールマンと出会い、皆素蓮実が17年前にアメリカの大統領をはじめとする複数の要人と接触していたことを知るのだった。

原始時代の冒険

皆素新太伊藤美空原田大和、自衛官のは絶望の未来を回避する手段を求め、原始の手帳に記されていた未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指すことになった。鳥類の襲撃により、一行は早くも食糧を失ってしまうが、新太のサバイバル術によって原始の生物を仕留めるなどして、歩みを進めることができていた。やがて一行は原始の民の協力を得て川越えに成功するが、湿地帯で天候が急変し、絶体絶命の窮地に陥ってしまう。一行は辛くも死地を切り抜けたが、新太は仲間の顔色を窺(うかが)うことを優先して安全地帯まで誘導できなかったことを猛省し、仲間を力強く先導するリーダーに成長することを誓うのだった。やがて一行は原始人たちの縄張りを踏破し、ついにトゥバ・カへと到着する。一方、自衛隊の小隊長に不審な点を見出していたジョン・コールマン皆素辰雄と共に尾行を実施するも、彼らの隠れ家に監禁されてしまう。そこには現代で辰雄を襲撃した堀口の姿もあり、彼の口から2020年に失踪した稀代の天才少年、桜庭ミクルが関与していたという真人類移住計画の一端が語られた。

桜庭ミクルとの邂逅

未知の文明の集落「トゥバ・カ」へと到達した皆素新太たちを待ち受けていたのは、新太の旧友でもある桜庭ミクルだった。ミクルは選ばれた人間だけを原始時代に退避させる真人類移住計画の全貌を語った上で、現代に残された人類を救済する方法はあるが、それを実行に移すつもりはないと宣言する。そして、自分が世界を救いたくないのは、かつて新太に裏切られたことで人間に絶望したからだと、一方的に捲(まく)し立てるのだった。新太は誤解だと主張するが、ミクルは聞く耳を持たず、人間の数倍はあろうかという巨大ネズミをあやつって新太の仲間を次々と傷つけていく。こうして、人類の未来を賭けた最後の戦いが始まった。

登場人物・キャラクター

皆素 新太 (みなもと あらた)

とある高校に通う2年生の少年。ボサボサ頭に団子鼻で、トーテムポールのイラストが入った青いトレーナーを着て、つねに袖捲りしている。生まれつき電気製品を狂わせる特殊な体質の持ち主で、施設で暮らしていたことがある。電気のない環境での生活に慣れており、16歳ながら高いサバイバル技術を持つ。特にファイヤースターターでの火起こしが得意で、ロープワークやナイフ捌(さば)きも巧みにこなす。植物や衣服を素材に即席の担架や添え木を作ったり、野生の生物を捕獲して調理したりと、有事への対応力も高い。困っている人を放っておけないお人好しだが、体質と対人経験の少なさが災いして、人を不愉快にさせてしまうことが多い。いまだ見ぬ仲間との集団行動にあこがれているが、周囲からは「電磁パルス原人」と揶揄(やゆ)され、煙たがられている。しかし、原始時代に転移してからは危険生物の撃退、ケガ人の救出などの八面六臂(ろっぴ)の活躍により、徐々に信頼されるようになる。やがて未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す冒険に出発し、さまざまな困難を乗り越え、仲間を導くリーダーとして成長を遂げることになる。なお、感情の昂(たかぶ)りと共に放つ雄叫(おたけ)びには獣を怯(おび)えさせる力があり、仲間の窮地を幾度も救っている。

原田 大和 (はらだ やまと)

ボルダリングジムに通う青年。整った顔立ちで、目つきが鋭い。同じジムに通う若者グループのリーダー的な存在で、キリコからは優しくて格好いい、カンナからは正義感が強く頼もしいと評価されている。和を乱す人間が許せず、電車で騒いでいるチンピラに注意するなど行動力も高い。しかし、現状が夢でないか確かめるために大真面目に自分の頰を抓(つね)るなど、やや天然ボケなところがある。また、重度の方向音痴であり、GPSを使っても迷うレベルだと告白している。原始時代に転移してからは松明(たいまつ)を武器に巨大な双翅目(そうしもく)の昆虫を撃退したり、武装した自衛官すら敵わなかったスミロドン(サーベルタイガー)にデッキブラシで立ち向かったりと活躍している。当初は空気の読めない皆素新太を遠ざけていたが、スミロドンとの死闘を経て新太のことを見直し、仲間として認めるようになった。未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す冒険にも同行しており、予定外の同行者である伊藤美空をフォローするなどして、冒険に貢献した。

伊藤 美空 (いとう みそら)

原田大和と同じボルダリングジムに通う少女。ボブヘアで、白と緑の縞模様のポロシャツを着て、タイツの上から赤いショートパンツをはいている。また、肩に猿のマヨミチを乗せている。食べることが大好きで、お腹が減ると周囲を騒がせるほどの腹鳴を響かせてしまう。人の感情や運命をオーラとして視認する能力が生まれつき備わっており、その色を頼りに敵意の有無を判断したり、対象に死期がせまっていることを察知することができる。ただし、運命は絶対ではなく、行動によって覆すことも可能である。使いようによっては便利な能力だが、仲間にも能力のことを公表していない。これは過去に「内面を盗み見られているようで不快」という旨の言葉を投げかけられ、深く傷ついたことに起因している。マヨミチが懐いたことをきっかけに皆素新太と交流するようになり、彼のオーラを強く優しい色と評価し、いずれ仲間ができると予言した。のちにマヨミチを追うかたちで未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す冒険に手ぶらで同行することになってしまう。湿地帯では迂闊(うかつ)にも足を挫(くじ)き、一行の足を引っ張ってしまったが、その後は負傷することもなく、過酷な道程を踏破している。

マヨミチ

伊藤美空が飼育している小型の猿。肩に乗るほどの大きさで、体毛は白く、モヒカンのような毛並みをしている。また目は赤く、耳が尖(とが)っている。ふだんは美空の肩や頭にしがみついていることが多い。気難しい性格で、美空にはよく懐いているが、他人が触れようとすると牙を剥(む)いて威嚇する。美空のジム仲間である忠信にもまるで懐く気配を見せなかったが、皆素新太にはすぐに懐き、これが新太と美空がなかよくなるきっかけとなった。原始時代にタイムスリップしてからも、事あるごとに新太にじゃれついている。新太を追うようにして未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す冒険にも参加することになった。なお、原始人(人)がマヨミチの姿を見て新太たちに対する攻撃を中断する場面が存在するが、その理由が明かされることはなかった。

(いぬい)

若き自衛官の男性。GIカットの髪型で、迷彩服と鉄帽を身につけ、自動小銃で武装している。新人でレンジャー課程も経ていないが、先輩からはサバイバル術に長(た)けた隊員と評価されている。小隊長の命令で未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す皆素新太に同行するも、食糧を満載した荷物を怪鳥に持ち去られるという致命的なミスを犯し、冒険を中止して即時帰還するべきだと主張した。しかし、新太の優れた生存自活能力を目の当たりにして考えを改め、冒険の続行を認めた。この際、新太の成長をうながすためにあえて失態を演じたという苦しい言い訳をしており、その後も事あるごとに見栄っ張りでお調子者な本性を垣間(かいま)見せている。出発からしばらくは民間人でありながら、自衛官よりも一行に貢献している新太に嫉妬していたが、原始人(猿)との戦いにて窮地に陥った仲間を守り抜き、自信を取り戻した。これをきっかけに、少年たちを外敵から守ることが自分の役割だと意識するようになった。なお、戦闘以外にも、メンバーの体力を考慮して的確なタイミングで休憩を提案するなど、集団行動に不慣れな新太の弱点を補うような働きでチームに貢献している。

皆素 辰雄 (みなもと たつお)

皆素新太の父親。ボサボサ頭で唇が厚く、眼鏡をかけており、フィッシングベストを着ている。サムズアップを多用する癖があり、この癖は新太にも受け継がれている。記者としてアジアを取材した際に悪食になってしまい、食用目的でタガメを持ち帰るなどして新太を驚かせている。いざとなれば仲間のために全力を尽くすと豪語する熱血漢だが、特に身体を鍛えているわけではないため、新太からは頼りないと評されている。血を見るのも苦手で、自分の血であれば気絶するとまで語っている。また、親友の堀口からも人の言うことを無視して動くなどの欠点を指摘されており、他者からの評価は総じて低い。しかし、堀口に襲撃された際には、銃を向けられても彼を仲間と呼ぶことを止めなかった。そればかりか、ナイフを構えた新太から堀口をかばうなど、身体を張った行動で有言実行の人物であることを証明している。原始時代では新太が未知の文明の集落「トゥバ・カ」を目指す冒険に旅立てるよう、現場を管理していた自衛隊の小隊長を説得した。また、小隊長に疑惑が持ち上がった際には、ジョン・コールマンと協力して尾行するなど、新太と違った面から騒動の原因にせまろうとした。

皆素 蓮実 (みなもと はすみ)

皆素新太の母親で、故人。博士号を持つ隕石(いんせき)研究者で、14年前の段階で2027年に世界停電が発生すること、のちに人類がさらなる危機に見舞われることを予言していた。また、皆素辰雄に蓮実のパソコンを預け、自分の本当の誕生日を知る人物にパソコンを渡して欲しいと依頼していた。ほかにも蓮実のお守り、原始生物の研究データなど、いずれ必要になるであろうアイテムを事前に用意して辰雄に手渡していた。ジョン・コールマンの調査により、アメリカ合衆国の元大統領オバナ、世界を牛耳っていると噂の巨大財閥の長であるジョージ・ロックミラー、天才物理学者のボーキング博士をはじめとする各国の要人と接触していたことが明らかになっている。しかし、皆素蓮実と彼らにどんな関係があったのか、夫である辰雄すら把握していない。なお、新太の思い出話によれば、自分の名前に入っている蓮の実が苦手で、目にすると鳥肌が立って動けなくなってしまう人だったという。

ジョン・コールマン

タイムトラベルの謎を追うジャーナリストの男性。明るい色の長髪で、前髪を垂らして顔の左半分を覆い隠している。薄く無精髭(ひげ)を生やしており、マスクと手袋を着用している。かつて情報を追っている最中、現代に存在するはずのないスミロドン(サーベルタイガー)に襲われたことがある。この際、右手人差し指の先端、中指、薬指、左目、顔の左側の皮膚の一部を失ってしまった。第一言語である英語のほかに日本語も話すことができるが、左の口角が抉(えぐ)れて口内が露出しているため滑舌が悪く、ま行や一部の濁音などの発音を苦手としている。タイムスリップ後の桜北大学にて皆素辰雄に接触し、皆素蓮実の情報を聞き出そうとした。この際、17年前に撮影したという写真を提示し、蓮実が各国の要人とコネクションを持っていたことを示唆している。皆素新太が原始の手帳を手に入れた際には、英文の翻訳を買って出た。のちに自衛隊の小隊長の動向にきな臭いものを感じ、人類の希望を背負って冒険に出発した新太を殺すことが目的なのではないかと問い詰めるも、躱(かわ)されてしまう。また、辰雄と共に尾行にも及んでいるが、発覚して身柄を拘束されてしまった。

ダニエル・スズキ

原始時代の調査を行っていた男性で、故人。未知の猛獣の襲撃によって調査隊から逸(そ)れて遭難してしまうが、遭難から5日後に未知の文明の集落「トゥバ・カ」を発見するに至った。しかし、発見から間もなく崖から滑落し、右脚の大腿骨(だいたいこつ)が飛び出るほどの大ケガを負ってしまった。その冒険の一部始終を記録した原始の手帳は原始の民を経由し、皆素新太へと託されることになった。遭難から40日以上も単独で生存していたことが手帳の内容から判明しており、その生存自活能力はサバイバルの達人である新太からも賞賛されている。なお、ジョン・コールマンの予想によれば、英語を使用できるが、第一言語は日本語である。また、手帳の内容から、妻と息子が存在したことも明らかになっている。

忠信 (ただのぶ)

原田大和と同じボルダリングジムに通う青年。面長でチェック柄のシャツを着ている。直情的な性格で、「マジ」「うぜぇ」などの若者言葉を多用する。SNSを利用して女性と交流するのが趣味だったが、世界停電によってつながりを失ってしまい、落ち込んでいた。対人関係に不器用な一面があり、見ていると無性に苛(いら)つくという理由で皆素新太を遠ざけていた。タイムスリップの前後には新太の行動に苛立ち、新太を突き飛ばしたうえで暴力的な言葉で威嚇している。その態度はあまりに辛辣で、大和にやり過ぎだと窘(たしな)められてしまった。しかし、仲間のことは大切に思っており、大和がスミロドン(サーベルタイガー)に襲われた負傷者の救出に向かおうとした際には、彼の身を案じて考えを改めるように訴えている。

(よう)

原田大和と同じボルダリングジムに通う青年。明るい髪色と柔和な顔立ちで、パーカーを着ている。好奇心旺盛な性格で、オカルトや都市伝説に興味を持っている。忠信とは軽口を叩(たた)き合う親しい関係で、彼がネットで知り合った複数の女性に思いを馳(は)せていた際には、全員ネカマと決めつけて冷水を浴びせている。困惑する仲間をよそにタイムスリップを楽しんでいた節があり、ロシアの極秘計画、あるいは陰謀論と妄想を膨らませて興奮していた。仲間と同様に皆素新太との交流を避けていたが、彼がスミロドン(サーベルタイガー)から身体を張って負傷者を助け出したことをきっかけに評価を改めている。新太が原始の手帳を手に入れた際には、その内容に興味を示し、意味を読み解こうと真剣に耳を傾けていた。

カンナ

原田大和と同じボルダリングジムに通う少女。明るい髪色のポニーテールの髪型で、額にヘアバンドを付けている。アンニュイな雰囲気を漂わせ、仲間たちと同じ空間にいながら、上の空で話を聞いていないこともある。原始時代にタイムスリップしてもペースを崩すことはなく、ほかの女性陣が家に帰りたいと口々に漏らす中、ただ一人ジムに行きたいと発言してキリコを驚愕(きょうがく)させていた。また、海外遠征の経験者であり、劣悪な環境での生活にもある程度の耐性が備わっている。そのため、キリコが困惑していた簡易トイレの使用にもまるで動じていなかった。トイレに向かう途中で話しかけてきた皆素新太に対しては、顔面に前蹴りを浴びせるという辛辣な対応をしていたが、彼がスミロドン(サーベルタイガー)の跋扈(ばっこ)する外部から負傷者を助け出したことをきっかけに評価を改めている。なお、大和の人格を高く評価する一方で、タイプではないと言い切っている。

キリコ

原田大和と同じボルダリングジムに通う少女。前髪を切りそろえたロングヘアにしている。語尾を伸ばしてしゃべる癖があり、「だけど」「ってゆーか」などの若者口調で話す。非常におしゃべりで、会話のきっかけを作るムードメーカー的な役割を担っている。ガールズトークの流れで容姿や性格はもちろん、少し天然ボケな一面も含めて大和を好ましく思っていることを明かしているが、当人には気持ちを伝えていない。皆素新太と同じ学校に通っていることが明言されている唯一の人物であり、新太が学校で「電磁パルス原人」と呼ばれ、迷惑がられていることをジム仲間と共有した。原始時代にタイムスリップしてからもデリカシーがないという理由で新太を嫌っていた。新太と大和がスミロドン(サーベルタイガー)からケガ人を救い出して生還した際には、新太ではなく大和に駆け寄って肩に上着を掛けているが、すぐに返却されて残念そうな素振りを見せていた。

桜庭 ミクル (さくらば みくる)

未知の文明の集落「トゥバ・カ」に君臨する少年。切れ長の目にロングヘアで、両頰に2本ずつ赤い線が引かれている。服装は原始的で、赤朽葉色のケープや石の装飾品を身につけている。先天的な超帯電体質だが、出力を制御しており、パソコンなどの電子機器も扱える。高圧放電も可能で、触れるだけで樹木を発火させることもできる。チップを埋め込んだ動物をBMI(ブレインマシンインターフェース)であやつることも可能で、人間の数倍もあるネズミなどを支配下に置いている。10歳にして地球物理学を修めた神童として有名だったが、2020年に失踪し、現代においては実在すら疑われていた。これは真人類移住計画への貢献により原始時代への移住を許され、滅びに向かう世界から退去したからである。地位や名誉を求めない原始人を純粋と評価する一方で、現代人を嫌っている。これは、厄介な体質の孤児として施設をたらい回しにされたことや、施設で友情を育んだ皆素新太の行動に失望したことに起因している。のちに新太をトゥバ・カへと迎え、2032年にせまった人類滅亡を防ぐ方法を明かしたうえで、仲間割れを誘発する目的で巨大ネズミによる攻撃を実施した。

堀口 (ほりぐち)

皆素辰雄の記者仲間だった壮年の男性。縮毛の髪にニット帽をかぶり、フィッシングベストを着ている。また拳銃で武装し、軍用犬を2頭従えている。2027年7月に蓮実のパソコンを奪い取るべく辰雄を襲撃した。この際、皆素新太の叫びにより軍用犬を無力化され、止むを得ず辰雄に向けて発砲しているが、仕留めるには至らなかった。また、自衛隊の介入を受けてパソコンの奪取をあきらめて破壊しているが、結果として持ち去ることに成功している。タイムスリップ後は自衛隊の小隊長を洗脳し、桜北大学に潜んで暗躍していた。やがて隠れ家を辰雄とジョン・コールマンに嗅ぎつかれてしまうが、部下に二人を拘束させることに成功し、冥土の土産とばかりに人類の滅亡がせまっていること、真人類移住計画の存在、桜庭ミクルの関与について説明した。のちに堀口による辰雄襲撃が、原始時代へのタイムスリップを発生させた遠因になっていたことが示唆されている。なお、軍用犬は断耳と断尾を済ませたドーベルマンのような外見で、主人の命令であれば殺人も厭わないと説明されていた。うち一頭はタイムスリップ直後に巨大なワニに捕食されて死亡している。

小隊長 (しょうたいちょう)

原始時代にタイムスリップした自衛隊を束ねる壮年の男性。迷彩服と鉄帽を身につけ、自動小銃で武装している。規律を重んじる厳格な性格で、熊のような猛獣を一発で仕留めるほどの高い射撃能力を有しており、部下からの信頼も厚い。避難所に指定されていた桜北大学にて支援活動に従事していたが、タイムスリップに巻き込まれて20人に満たない隊員と共に原始時代へと転移し、100人以上の民間人の命を預かる立場となった。原始の手帳により未知の文明「トゥバ・カ」の存在が明らかになった際には、拠点の安全確保や食糧の調達を優先するべきだと主張して、冒険に人員を割くことに難色を示していた。しかし、最終的には皆素辰雄の提案を受け入れて皆素新太の出発を容認し、乾を同行させている。以降は桜北大学に残った隊員への指示のみならず、自ら見張りに立ったり、食糧の調達を行ったりと精力的に働いていた。だが、行動に不審な点があるとしてジョン・コールマンに疑われるようになり、堀口と結託して暗躍していたことが判明した。のちに自らの意思ではなく、堀口に洗脳されていたことが明らかになる。

集団・組織

権威者達 (おーそりてぃたち)

真人類移住計画を主導した秘密結社。各国の政治指導者、財界の大物、高名な科学者などが名を連ねている地球代表チームとでも表現すべき集団であり、名称は便宜上のものに過ぎない。のちに異常気象の研究に貢献していた桜庭ミクルを施設から連れ出していたこと、既に原始時代への移住を完了していたこと、洗脳映像によって堀口や小隊長を手先として利用していたことが判明する。

場所

桜北大学

世界停電の発生を受けて、避難所として利用されていた大学。自衛官、医師、看護師などが支援活動に従事していた。堀口が皆素辰雄を襲撃した直後に発生したタイムスリップに巻き込まれ、建物と敷地の一部、さらに桜北大学に避難していた100人以上の民間人、20人に満たない自衛官までもが原始時代へと転移することになった。転移した民間人の中には原始時代の生物に詳しい教授職の人間も存在し、マンモスと誤認されていた生物の死骸をマストドンと断定している。

トゥバ・カ

原始時代に存在する未知の文明の集落。原始の手帳にて、ダニエル・スズキは唯一の希望と表現していた。隕石Aが放つ未知のエネルギーの影響で巨大化を遂げたブナの樹の根元に位置しており、一帯は原始人(人)の縄張りになっている。現代から移住した桜庭ミクルが拠点として活用しており、深部には隕石Aの未知のエネルギーを利用して動く特殊な機械がある。この機械には電気が使用されていないので、皆素新太が近づいても動作に影響が出ることはない。なお、「トゥバ・カ」という名称は原始の民のリーダー格の男が原始の手帳に記された集落の絵を指差して言ったものであり、彼らの言葉で何を意味しているのかは不明である。

施設 (がーでん)

皆素新太と桜庭ミクルが幼少期を過ごした施設。その実態は特殊な体質を持つ子供を対象とする検査機関である。施設の裏には二股に別れた大樹が存在し、新太とミクルの恰好(かっこう)の遊び場となっていた。ミクルが秘密結社「権威者達」に引き取られることを知った新太は、施設からの逃亡を持ちかけているが、結果として計画は失敗に終わっている。そればかりか、ある誤解から二人の友情にも亀裂が入ることになってしまったが、施設で過ごした日々は彼らのよい思い出になっている。

その他キーワード

蓮実のパソコン (はすみのぱそこん)

皆素蓮実が皆素辰雄に託したラップトップパソコン。付属の手紙によれば、世界停電のあとに発生する人類の危機を解決するための「鍵」が保存されている。また、手紙には蓮実の本当の誕生日を知る人物に渡して欲しいとも記述されていた。堀口は蓮実のパソコンを手に入れるべく、親友であるはずの辰雄を襲撃している。この際、堀口によって銃弾を撃ち込まれ、物理的に破壊された上で持ち去られてしまった。のちにもともとの持ち主が蓮実ではなく、歴史の表舞台から姿を消した天才少年、桜庭ミクルであることが明らかになった。

蓮実のお守り (はすみのおまもり)

皆素蓮実が皆素辰雄に託したお守り。多くの神社で授与されている標準的なデザインで、平時は辰雄が着ているフィッシングベストの胸ポケットに仕舞われている。辰雄が堀口に銃撃された際、蓮実のお守りが銃弾を食い止め、辰雄の命を救うことになった。なお、辰雄はお守りを受け取る際に危機がせまったら、皆素新太といっしょに開封するように言い含められていたが、失念していたという理由で、命の危険に晒(さら)されても中身が取り出されることはなかった。のちに現代と原始時代をつなぐキーアイテムとなっていたことが判明する。

原始生物の研究データ (げんしせいぶつのけんきゅうでーた)

皆素蓮実が皆素辰雄に託したメモ帳。原始時代でのサバイバルを見越して用意されたもので、スミロドン(サーベルタイガー)などの原始時代に生息していた危険な生物の生態や対処法が記載されている。将来的に原始生物の研究データを皆素新太が読むことも考慮されており、知識のない人間でも理解できるように気を遣って書かれている。そこには現代には生息していないはずの生物に対して、弱点の検証実験を行ったという驚愕の情報も記されていたが、辰雄は軽く目を通した段階で新太にゆずってしまったので、内容を把握していなかった。なお、内容を熟読していた新太は記憶だけを頼りにスミロドンの弱点を突き、怯(ひる)ませることに成功している。

原始の手帳 (げんしのてちょう)

原始の民が皆素新太に託した手帳。ダニエル・スズキという現代人が記した原始時代の調査日記で、精神的に余裕のある時期に書かれたであろう前半は英語で、追い込まれてから書かれたと思しき後半は日本語で記されている。内容は2032年にせまった人類の滅亡、原始時代にある現代人キャンプの存在、未知の文明の集落「トゥバ・カ」の遠景を描いたスケッチ、トゥバ・カへの道筋など多岐にわたり、タイムスリップによりパニックに陥っていた現代人たちに大いなる絶望と一縷(いちる)の希望を与えることになった。なお、原始の民は「天の火槍の速さで火を呼ぶ者」「天の火の子」に該当する人物が現れたら原始の手帳を渡す約束をしていたと発言しているが、誰と約束したのか、それが何を意味するのかは明かされていない。また、現代人キャンプも未登場である。

隕石A (いんせきえー)

1億年前に飛来した隕石の片割れ。もともとは隕石Mと同一の隕石だったが、衝突時の衝撃で割れてしまい、アメリカのアリゾナ州に該当する地域に落下した。未知のエネルギーを帯びており、その力で地磁気を安定させていたが、時間経過によってエネルギーが減衰し、現代においては完全に力を失っている。結果として地球の磁場のバランスが崩れ、地球の環境が著しく乱れることになってしまった。なお、名称は桜庭ミクルが便宜上、名づけたものに過ぎない。

隕石M (いんせきえむ)

1億年前に飛来した隕石の片割れ。もともとは隕石Aと同一の隕石だったが、衝突時の衝撃で割れてしまい、メキシコのチワワ州に該当する地域に落下した。隕石Aと同様のエネルギーを帯びていたが、異なる環境に何万年も存在したことで変質し、隕石Aとは異なるエネルギーを持つに至った。隕石Aと近づけることで膨大なエネルギーが質量に変換され、現代と原始時代を接続するタイムホールが発生することが明らかになっている。しかし、隕石Mのエネルギーは真人類移住計画により使いはたされ、タイムトラベルの手段は現代において失われたものとして扱われている。なお、名称は桜庭ミクルが便宜上、名づけたものに過ぎない。

原始の民 (げんしのたみ)

原始時代にタイムスリップした皆素新太たちが出会った原始人。姿形は現生人類と大差ないが、牙や皮を加工した軽装を身につけ、史上最大級の陸生肉食獣アンドリューサルクスに連なる猛獣を従えている。石槍(いしやり)でスミロドン(サーベルタイガー)を仕留めるなど卓越した狩猟技術を有しており、特にアトラトル(投槍器)を用いた攻撃は10メートルを超える巨大ワニすら軽々と仕留めるほど強力である。突如として原始時代に出現した桜北大学に興味を抱いて遠巻きに観察していたが、新太が上げた火柱を見て現代人との接触を決断した。そして、新太の着火技術を間近に見て「天の火槍の速さで火を呼ぶ者」「天の火の子」と認め、約束に従うと称して原始の手帳を託した。その後も乾に襲い掛かった巨大ワニを仕留めたり、巨大ワニの棲息(せいそく)する川を迂回(うかい)する山越えルートの存在を示したり、アトラトルの使い方を教えたり、村の護身符を与えたりと、新太たちの冒険を手厚く支援した。なお、右目に傷のあるリーダー格の男は不思議な雰囲気を有しており、その存在感は新太から時には命を生み出し、時には命を奪い去る川に例えられた。彼の正体は明らかになっていない。

原始人(猿) (げんしじん)

原始時代にタイムスリップした皆素新太たちが出会った原始人。姿形は現生人類とはほど遠く、類人猿のような見た目をしている。悪臭を放っており、感情が昂ると尿を垂れ流す個体も存在する。また、興奮すると「ボエエ」と鳴く。外見に反して知能は高く、集団行動が得意。鳴き声でコミュニケーションする様子もあり、現代人の持ち込んだ滑車や網などの道具も使いこなせる。また、多くの個体は全裸で火を恐れるが、一部の個体は蓑や仮面を身につけており、火を使いこなす。植物が齎す幻覚の中に見出した「何か」に生贄を捧げることだけが彼らの目的であり、そのためなら命を捨てることにも躊躇いがない。桜庭ミクルからは「人だけど人ではない」と評されており、個を持たない蜂のような生物とも説明されている。初めは縄張りに踏み入った新太たちに果物を手渡すなど友好的な態度を見せていたが、新太たちが隘路に差し掛かると態度を豹変させて牙を剥いた。この際、自分たちの子供を崖から投げ、助けに走った新太たち罠に嵌めて捕縛するという悪辣な手段を用いている。新太たちが脱出を試みた際には石などを武器に逃走を阻もうとしたが、乾の猛攻に怯んで追撃を断念した。

原始人(人) (げんしじん)

原始時代にタイムスリップした皆素新太たちが出会った原始人。現生人類よりも彫りの深い顔立ちで、屈強な身体つきをしている。桜庭ミクルからは逞しさと純粋さを高く評価されている。多くは半裸で蓑(みの)や革を腰に巻いているだけだが、フード付きのケープのような衣類をまとった者も存在する。彼ら独自の言語に加えて、片言ながら日本語を話すことも可能で、ミクルに指示を仰ぐ場面もある。縄張り意識が強く、彼らがテリトリーとする集落「トゥバ・カ」の近辺に現れた新太たちを問答無用で襲撃した。この際、アトラトル(投槍器)に頼らない素手による投槍をしたり、現代人の皮膚を容易に切り裂く茨をものともせずに荒地を駆けたり、根付いた茨を素手で引き抜いて投擲(とうてき)したりと、現代人とは比べものにならない身体能力を発揮して一行を追い詰めた。しかし、マヨミチを見た途端に攻撃を取り止め、崖から落下しそうな仲間が新太に救出されたことで敵対の意思を完全に喪失した。その後、ミクルの意向を汲(く)んでトゥバ・カへの案内役を買って出ている。なお、新太をトゥバ・カに誘おうとした際にも日本語を発していたが、乾に日本語で話しかけられた際には無視を決め込んでいた。

世界停電 (せかいていでん)

2027年4月に発生すると予測されていた世界規模の大停電。それは太陽嵐が地球に到達し、電気の使用が不可能になり、水道やガスの使用も制限されるというものである。到来のタイミングが正確に予測されていたため、日本では半年前から備蓄の呼び掛けが行われていた。そのお陰で、実際に世界停電が発生しても、停電直後を除いて大きな混乱が起こることはなかった。しかし、真実は公にされていた情報とは異なっており、そもそもの原因は1億年前に地球に飛来して地磁気を安定させていた隕石Aが力を失ってしまったことにある。また、皆素蓮実は少なくとも14年前の段階で世界停電の発生を知っており、その後に訪れる人類滅亡の危機にも警鐘を鳴らしていた。なお、2027年7月に皆素新太たちが原始時代にタイムスリップしたあと、イタリアでは火山の噴火、アメリカではハリケーンの同時出現、エジプトでは猛吹雪など、滅亡の序曲としての異常気象が多発している。日本も7月にして都市が凍りつくほどの寒波に襲われるという危機的状況に陥っていた。

タイムホール

「観察不可能な時間」という本来の意味ではなく、現代と原始時代をつなぐ時空の穴という意味でタイムホールという言葉が使用されている。タイムホールは隕石Aと隕石Mを近づけることで発生し、足元から無数に隆起する円錐(えんすい)状の「闇」に飲み込まれるとタイムトラベルが成立する。これは研究機関の人間が偶然に発見したもので、その研究には桜庭ミクルも関与していた。なお、タイムホールを利用したタイムトラベルは入り口から出口に向かう一方通行のものではなく、双方向のものである。物語の序盤で皆素新太が取り込まれたタイムホールは「2027年の桜北大学の一部」と「紀元前4万年のアリゾナ州に該当する地域の密林の一部」を入れ替え、2027年には原始の密林、紀元前4万年には現代の大学が出現する事態となってしまった。

真人類移住計画 (しんじんるいいじゅうけいかく)

地磁気の乱れに端を発する2032年の人類滅亡に抗(あらが)うべく、秘密結社「権威者達」が秘密裏に進めていたプロジェクト。タイムホールを利用して紀元前4万年に生活基盤を打ち立て、そこに人類を移住させるという大規模なものである。「T・T計画」とも呼ばれていたが、すべての人類が移住することは不可能と結論づけられ、権威者達が生きる価値ありと判断した者だけが移住を許される「真人類移住計画」として進められ、選ばれなかった者は現代に取り残されることが決定してしまった。のちに皆素新太が原始時代にタイムスリップした時点で、既に移住が完了していた事実が明らかになる。なお、計画には桜庭ミクルが深くかかわっていた。

クレジット

原作

及川 大輔

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