名探偵シドの苦悩
シドは、血なまぐさい事件現場に立つと吐き気を催すほど、殺人事件に対して耐性がない。しかし、彼の身体には両親から叩き込まれた名探偵の鉄則が染みついている。「一度目にした情報は徹底的に観察・記憶すべし」「言葉の矛盾に瞬時に気づくべし」「情報の断片から的確に全体像を見極めるべし」。たとえ気分が悪くても、彼の頭脳は即座に事件の推理を始めてしまうのだ。皮肉なことに、この卓越した推理力がシドの恋愛を妨げている。好意を抱いた女性が事件の犯人だと突き止めてしまい、真実を指摘したがために、その恋は実ることはない。
名探偵、シドと三人の女性たち
シドはラブロマンス小説の熱心な愛読者であり、自身も情熱的な恋愛に強いあこがれを抱いている。しかし、自分に向けられる好意には驚くほど鈍感な一面がある。彼のすぐそばで男装の助手として仕えるエリオ・エヴリンは、実は彼が敬愛してやまない女性恋愛小説家その人である。また、事件現場で火花を散らす女性警部のスフレ・フランベリは、彼の初恋の少女である。さらに、宿敵である「怪盗霧猫」ことルル・シャノワールからの好意にも、彼はまったく気づいていない。これら三人の女性からの明確な好意に気づかない名探偵のシドが、最後に誰を選ぶのかが本作の最大の見どころとなっている。
黒幕、クラフトの宣戦布告とシドの決意
次々と巻き起こる事件の黒幕、ゼロとエクス・クラフトという二人が、シドに宣戦布告する。彼らの手口は、実行犯の愛する者を人質に取り、非道な犯行を強要するというものだった。船爆破事件では、スフレの命が危険にさらされる。さらに、人質の解放を条件にエリオの殺害をせまられたルルから助けを求められたことで、シドは初めて積極的に事件に立ち向かう決意を固める。「クラフト」の名を騙(かた)り、シドの過去を知る謎の二人組の登場により、物語は一気にクライマックスへと加速していく。
登場人物・キャラクター
シド・クラフト
名探偵の家系に生まれた青年。紺色の短髪に、前髪の一部には水色のメッシュが入っている。高名な探偵であった両親から受け継いだ鋭い観察眼と推理力を武器に、次々と難事件を解決へと導いている。しかし、本人は殺人事件や血を見るのが大の苦手。恋愛小説家のレヴィ・オレインのラブロマンス小説を愛読しているが、そのことは助手のエリオにも秘密にしている。甘い恋愛にあこがれを抱きつつも、女性に対しては非常にウブで、自分から積極的に話しかけることができない。さらに、ようやく思いを寄せた女性が事件の犯人だったという不運も重なり、恋が実ったことは一度もない。そんなシドが探偵を続ける理由は、かつて両親を強盗事件で失った日を境に、遠くへ引っ越してしまった初恋の少女を探すためである。彼女からは「シーくん」と呼ばれていた。
エリオ・エヴリン
シドの助手を務める女性。シドの前では長い黒髪をキャスケット帽の中に隠し、男装している。感情が高ぶると、メモに文字を書きなぐって頭を整理する癖があり、つねにメモを持ち歩いている。実は高名な伯爵家の令嬢で、かつて殺人事件の犯人として冤罪をかけられそうになった際にシドに救われた経験から、彼に深い敬愛の念を抱いている。シドの力になりたい一心で、男性限定の助手募集に素性を偽って応募し、働くようになった。シドへのあふれんばかりの思いをひたすらメモに綴り続けた結果、人気恋愛小説家「レヴィ・オレイン」として世に知られるようになった。
スフレ・フランベリ
警部の女性。金髪のショートボブヘアにしている。さまざまな事件を瞬時に解決する探偵、シドに好意を抱きつつも、ライバル視しており、ツンデレな態度を見せることが多い。人一倍努力家で、右手の中指・親指・人差し指には「銃タコ」ができている。幼い頃、「いつか二人で名探偵になろうね」と誓い合ったものの、離ればなれになった少年「シーくん」を今も探している。好物はフィッシュアンドチップスで、張り込みの際には欠かせない必需品となっている。
ルル・シャノワール
長身で抜群のスタイルを誇る女性。7代目「怪盗霧猫」を名乗っている。ピンクの髪をストレートのロングヘアにしている。義賊として悪徳商人から盗んだ宝物を貧しい人々に分け与えている。大の読書家で、特にレヴィのラブロマンス小説を愛読している。レヴィのファンであるシドと意気投合するが、彼が自分の一族にとって仇敵(きゅうてき)であるクラフト家の出身だと知り、大きなショックを受ける。さらに、狙っていた宝物への潜入ルートをことごとくシドに潰されてしまったことから、彼をライバル視するようになる。しかし、反発しつつも、次第に一人の男性として強く惹かれていく。
書誌情報
シド・クラフトの最終推理 4巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2025-04-04発行、978-4088844534)
第2巻
(2025-06-04発行、978-4088845555)
第3巻
(2025-08-04発行、978-4088846095)
第4巻
(2025-09-04発行、978-4088847429)







