あらすじ
心の声
静乃宮学園1年2組に在籍する橘一真は、人の心が読める特殊能力の持ち主だった。しかし、周囲の人間の思考が無機質な声となって強制的に流れ込んできてしまうが、ラジオを受信するようなもので、複数の人間がいる場合、どの思考が誰のものかを判別することはできない。人の心の裏側を知りすぎて臆病になっており、人間関係のトラブルを避けようとするあまり、挙動不審になりがちな一真は、誰のものとも知れない心の声に振り回されながらも、なんとか平穏な学園生活を送ろうとしていた。お昼休みになると、教室の喧騒(けんそう)から逃れ、一番のお気に入りである屋上へ行って静かにランチを済ませるのが日課となっていた。そしてそこにはもう一人、クラスメートの雪本さくらが必ずやって来るのだった。同じ行動班のメンバーでもあるさくらは、寡黙な優等生で、誰ともつるまない孤高の学級委員長として周囲から敬遠される存在だった。そんな彼女は、屋上に来ると決まって地上を見下ろし、地面に落ちて血まみれになった自分自身の死に姿を思い描いていた。そんなさくらの心の声を、一真は音だけでなく映像を含めた五感によって、約1か月にわたり体感し続け、いつの間にか一真はさくらに好意を抱くようになっていた。そんなある日、一真がいつものように屋上へ向かうと、そこには実際に屋上のフェンスから身を乗り出し、自殺しようとするさくらの姿があった。一真は慌ててさくらを呼び止め、自殺を思い留ませることに成功する。だが、さくらは少し考えた末に自分の命を助けたついでだと思ってお願いを聞いて欲しいと一真に言い寄り、セックスして欲しいと懇願。突然のことに困惑する一真だったが、さくらの顔は真剣そのものだった。
さくらの死
雪本さくらの死は、家庭不和を気に病んだ末の発作的な自殺ということで処理されることとなった。その場に居合わせた同じ行動班の橘一真、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩、桃園萌花は、各々複雑な心境を抱いていた。一真は、それまでさくらが脳内に抱いていた自分の死に姿が、実際に亡くなった時とは異なっていたことから、彼女の妄想が汚されてしまった気がして、自殺と結論付けられたことが許せなかったのだ。屋上ではなく教室から転落したことなど、さくらの死には妄想と違い、腑(ふ)に落ちない部分が多くあった。さらには、現場に居合わせた者たちの中から聞こえた「私が殺した」という心の声を無視することは、一真には到底できなかった。そんな中、屋上で悶々としていた一真のもとに、さくらと仲がよかった萌花が姿を現す。さくらの死に違和感を感じていた萌花は、一真も自分と同じ思いを抱いているのではないかと、真実を知りたい気持ちを吐露する。それを聞いた一真は、さくらの死の真相を二人で突き止めようと提案。萌花は涙を流しながら了承し、一真は萌花と共に調査を開始する。そして同時に、一真は人の心が読める自分の特殊能力を使って、行動班の仲間たちの、さくらに対する思いを明らかにしていくことを決める。その後、最初に一真に心の声を聞くチャンスが訪れた相手は夏希だった。
班合宿
雪本さくらの死から3週間が過ぎた。橘一真と桃園萌花だけはさくらの死の真相について秘密裏に調査を続けていたが、あの光景を見た班員の風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩はようやく日常を取り戻しつつあった。そんな中、一行は班合宿のため、名家、園城寺家の洋館、園城寺邸に行くことになった。推理小説に出てきそうな趣きある洋館で一真たちを迎えたのは、園城寺邸の当主である園城寺景子と、その息子の園城寺渉だった。渉と百合子は実は家同士が決めた婚約者だった。名家同士、将来が約束された関係であることを知り、沸き上がる一行だったが、当の本人たちは結婚に前向きではない様子だった。この洋館で、学校側から指定された班合宿のプランは、放っておかれた屋敷の清掃ボランティア。男女に別れ、一日中掃除をするという野球部の練習並みにハードな一日を終えた一行は、念願の風呂タイムとなる。一真と陽一、瞬太の三人は、先に風呂に入った女子たちを覗きに行こうと、浴室の窓ガラスが面した庭の方へと向かい、身を隠す。すると、まさに入浴中の夏希、百合子、沙彩、萌花たちの楽しそうな声が聞こえてきた。その直後、萌花の一言を皮切りにさくらの話題が持ち上がる。覗き見している男子たちにも複雑な空気が流れる中、一真の耳に聞こえてきたのは、さくらの魂がここにいるとしたら、彼女を殺した自分をにらみつけているだろうという誰かの心の声だった。それはまさしく、事件当日に聞こえてきた心の声の持ち主と同じだった。一真は、この声により、班員の中にさくらを殺した犯人がいることを強く確信する。
メディアミックス
ゲーム
本作『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』はPCゲーム『シンソウノイズ ~受信探偵の事件簿~』を原作としている。2016年12月にAzurite/DiGinationより発売されたMicrosoft Windows版の18禁美少女アドベンチャーゲームで、2019年2月28日にはPlayStation4に移植された。
登場人物・キャラクター
橘 一真 (たちばな かずま)
静乃宮学園1年2組に在籍する男子。部活にも委員会にも所属しておらず、現在は祖母と二人暮らし。人の心が読める特殊能力の持ち主。これは一種のテレパスのようなもので、自分ではこの力を「受信能力」と呼んでいる。周囲の人間の思考が、無機質な声となって強制的に流れ込んできてしまうが、複数の人間がいる場合、どの思考が誰のものかの判別はできない。人間関係を構築することに臆病で、対人トラブルを避けようとするあまり、変なことを口走ったり、挙動不審になりがち。行動班での自己紹介では、緊張のあまり自分の名前を「たちばにゃ」と嚙んでしまい、痛い人扱いされた。雪本さくら、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩と同じ三班。昼休みは学校で一番好きな場所である屋上で、簡単に済ませることが多い。また、同じく屋上の常連であるさくらが、1か月ほど前から毎日屋上に来ては地上を見下ろし、自分自身の死に姿を思い描いていることを、声だけでなく映像をも受信して五感で体感している。それを知って以来、さくらの妄想にシンパシーを覚え、依存するようになり、さくら自身に好意を抱くようになる。そんな中、さくらが妄想ではなく実際に屋上から身を投げようとしているところに遭遇し、それを止めることができたが、さくらから私とセックスして欲しいと懇願され、同意の上で行為に及んだ。翌日、さくらの様子がおかしいと感じていた中、教室から転落して亡くなる。その際、橘一真はさくらを探すため萌花と共に校舎内の下駄箱付近におり、大きな悲鳴を聞きつけて現場に到着した。そこでさくらの遺体を発見するが、直後、自分の頭の中に聞こえてきたのはさくらの死に動揺するいくつもの声と、「私が殺した」という何者かの心の声だった。そのため、自分に声が届く範囲にいた行動班のメンバー六人の中に、さくらを殺した犯人がいると確信する。その後、初恋の人を失った悲しみから屋上へ向かうと、さくらの死に疑問を持った萌花と遭遇し、共にさくらに対する思いを持つ者として、彼女の死の真相を解明することを決意する。沙彩からは「タチマ」と呼ばれている。花粉症のため頭痛の持病を持っている。
雪本 さくら (ゆきもと さくら)
静乃宮学園1年2組の学級委員長を務める女子。寡黙な優等生で、誰ともつるまない一匹狼ぶりから、クラスメートからは「孤高の学級委員長」という印象を持たれており、苦手意識を抱かれている。クラスでは、橘一真、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩と同じ行動班で三班。放課後遅くまで一人で校内の図書館にいることが多いため、クラスメートで図書委員の桃園萌花となかよくなる。昼休みはいつも屋上にいるが、見下ろした地上には、自分自身で突き落とした自らの死に姿を思い描いており、殺人者と被害者、同時に二つの顔の自分を脳内に持っている。それは、雪本さくら自身が持つ自殺願望の表れであり、その後実際に屋上から身を投げようとした。だが、運悪く一真に見つかって止められ、実行することはできなかった。その時、一真に自分と同じ何かを感じ、自分とセックスして欲しいと懇願し、同意の上で行為に及んだ。翌日、行動班のミーティングにおいても上の空で、様子がおかしかった。屋上にいたものの、校内のワックスがけの影響で、屋上から出られなくなり、取り残されてしまう。その後教室から落下したと思われる形で、雪本さくらが遺体となって発見される。警察の調べでは、家庭不和を気に病んだ末の発作的な自殺ということで処理された。
風間 夏希 (かざま なつき)
静乃宮学園1年2組に在籍する女子。水泳部に所属している。ポニーテールの髪型をしている。クラスでは、橘一真、雪本さくら、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩と同じ行動班で三班。班の中では何事にも積極的で、一真に対してはなぜか敵意を向けており、時には理不尽な発言をすることもある。勝気な性格だが、満員電車の中で痴漢被害に遭った時には、怖くて声を出すこともできず、偶然居合わせた一真に助けられた。さくらが亡くなった時には、さくらを探すためグラウンドにいて、窓から落ちかける誰かに気づき、百合子に知らせようと彼女に向かって大声で叫んだ。そして、百合子の目の前に落ちてきたさくらを見て悲鳴を上げた。さくらの死後は、一真に対する態度が軟化。水着姿で一真をプールに呼び出し、好きな人を失った心の痛みをどうしたら癒してあげられるかと心の中で考え、不器用ながらも一真に優しい言葉をかけ、キスすることで元気づけようとした。実は一真に対して恋心を抱いていることを自覚していたが、一真がさくらに思いを寄せていたことを知っていたため、太刀打ちできないとあきらめていた。しかしさくらの死後、今ならという思いで一真にせまった。のちに桃園萌花を同じ行動班に入れたいという一真からの提案に理解を示し、受け入れる。沙彩からは「ナッキー」と呼ばれている。
北上 陽一 (きたがみ よういち)
静乃宮学園1年2組に在籍する男子。野球部に所属している。浅黒い肌の筋肉質で、世の中の大抵のことは筋肉と肉を食べることでなんとかなるという単純な考えの持ち主。クラスでは、橘一真、風間夏希、雪本さくら、高永瞬太、大鳥百合子、黒月沙彩と同じ行動班で三班。さくらが教室の窓から落下して亡くなった時には、さくらを探すため部活棟にいて、悲鳴を聞きつけて一真と萌花のあと、瞬太と同じタイミングで現場に到着して、さくらの遺体を発見する。さくらの死後、桃園萌花を同じ行動班に入れたいという一真からの提案に理解を示し、受け入れた。
高永 瞬太 (たかなが しゅんた)
静乃宮学園1年2組に在籍する男子。美術部とサッカー部のどちらに入るかを悩んでいる。巨乳が大好きで、等身大の10代男子。クラスでは、橘一真、風間夏希、北上陽一、雪本さくら、大鳥百合子、黒月沙彩と同じ行動班で三班。さくらが教室の窓から落下して亡くなった時には、さくらを探すため体育館側にいて、悲鳴を聞きつけて一真と萌花のあと、陽一と同じタイミングで現場に到着して、さくらの遺体を発見する。のちに桃園萌花を同じ行動班に入れたいという一真からの提案に理解を示し、受け入れた。
大鳥 百合子 (おおとり ゆりこ)
静乃宮学園1年2組に在籍する女子。ストレートロングヘアにしている。演劇部に所属している。クラスでは、橘一真、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、雪本さくら、黒月沙彩と同じ行動班で三班。みんなをまとめるリーダー的な存在。さくらが亡くなった時には、グラウンドの校舎近くにおり、夏希からの声で上から落ちてきたさくらに気づくこととなった。目の前に叩きつけられたさくらの姿に動揺しながらも、携帯を持たない自分の代わりに救急車の手配を周囲に頼むなど、いち早く行動を起こす。その後、様子がおかしかったさくらをもっと気にかけ、力になってあげればよかったと自分の責任を感じている様子を見せている。静乃宮市の名家、大鳥家の娘で、同じく名家と知られる園城寺家の園城寺景子とは知り合い。さらに、その息子の園城寺渉とは、両家が決めた婚約関係にあり、将来を約束された間柄だが、自らは大鳥家にもらわれた養女のため、結婚に関しては後ろ向き。幼い頃から、大鳥家に対して自分の居場所ではないという違和感を感じており、さまざまなことが重くのしかかり、早く家を出て自由になりたいと考えている。そのため、班合宿の行き先が園城寺邸に決まったことも、何か意図的なものを感じずにはいられなかった。のちに桃園萌花を同じ行動班に入れたいという一真からの提案に理解を示し、受け入れた。左手の薬指に婚約指輪をしている。
黒月 沙彩 (くろつき さあや)
静乃宮学園1年2組に在籍する女子。部活には所属していない。クラスでは、橘一真、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子、雪本さくらと同じ行動班で三班。明るく子供っぽい性格で、高めに作った二つのお団子から長く下した特徴的なヘアスタイルをしている。ヘッドドレスを身につけ、いつもクマのぬいぐるみ「ベアぞう」を抱いている。霊的なものが見えている様子で、風水や心霊に興味があるオカルト少女キャラを意図的に作っている。さくらが教室の窓から落下して亡くなった時は、さくらを探すためプール付近にいて、夏希の悲鳴を聞きつけ現場にやって来たが、遺体を見て意識を失い倒れてしまう。さくらの死には違和感を感じており、自殺ではなく、事故なのではないかと考え、死の真相について人知れず調べている。のちに桃園萌花を同じ行動班に入れたいという一真からの提案に理解を示し、受け入れた。友達には独特な略し方であだ名を付けて呼んでいる。
桃園 萌花 (ももぞの もか)
静乃宮学園1年2組に在籍する女子。図書委員を務めている。授業時間の終わりに、自分がどこの行動班にも割り当てられていなかったと涙目で訴えた。気弱な性格で、おどおどした態度で要領がよくない。クラスメートの金子から同じ班に入れてもらえることになったが、対等な関係ではなく、どちらかといえばパシリとしていいように使われている。心が幼い子供のようで、脳内で考えていることと、口から出た言葉に境目がなく、心の声が聞こえる橘一真には筒抜けの状態。雪本さくらが放課後遅くまで図書室にいることから、いつのまにかなかよくなり、時おりいっしょに帰るようになった。そのため、最近さくらの様子がちょっとおかしいことに気づき、心配していた。さくらが教室の窓から落下して亡くなった時には、さくらを探すため一真と共に校舎内の下駄箱付近にいて、大きな悲鳴を聞きつけて現場に到着し、さくらの遺体を発見する。その後、さくらの死に疑問を抱き、同じ気持ちで屋上にいた一真と、さくらの死の真相を解明するべく行動を共にすることになる。行動班においては、さくらの死後、もともとの班内での関係が悪化していると感じた一真により、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、大鳥百合子に班の移動を提案され、担任の村岡の許可を得て一真たちの三班に移ることになった。のちに、一真から人の心の声が聞こえる特性を打ち明けられるが、特にネガティブな印象を持つこともなく、単純にすごい能力だと感激した。首にはハートのチャームが付いたリボンのチョーカーを着けている。推理小説が大好きで、作家の矢代歩の大ファン。クラスメートからは「モモ」と呼ばれている。
園城寺 景子 (えんじょうじ けいこ)
園城寺渉の母親。静乃宮市の名家、園城寺家の当主。教育ママ風の女性で、眼鏡をかけている。渉と大鳥百合子の結婚には前向きな姿勢を示している。班合宿のため、園城寺邸に訪れた百合子、橘一真、風間夏希、北上陽一、高永瞬太、黒月沙彩、桃園萌花を歓迎した。
園城寺 渉 (えんじょうじ わたる)
静乃宮市の名家、園城寺家の当主を務める園城寺景子の息子。現在は推理小説家の矢代歩として活動している。しかし、まったく売れないため、景子からはいつまでも夢追い人だと揶揄(やゆ)されている。同じく名家、大鳥家の娘である大鳥百合子とは両家が決めた婚約関係にあり、将来を約束された間柄。だが、園城寺渉自身は夢を追いたい気持ちが強いため、結婚には後ろ向き。
集団・組織
大鳥家 (おおとりけ)
静乃宮市の名家の一つ。今時、時代錯誤なほど家系を重んじる傾向にある。より優秀な血筋を残すため、無能とみなした身内を放逐し、優れた人材を受け入れることを昔から繰り返してきた。しかし、そんな旧弊なやり方を嫌った身内は出て行き、人材不足に陥った大鳥家は、次に両親を亡くした子供に目を付けるようになった。大鳥百合子が養女として迎え入れられ、同じく静乃宮市の名家といわれる園城寺家と婚姻関係になることで、大鳥家の発展を目論んでいる。
その他キーワード
行動班 (こうどうはん)
静乃宮学園の教育方針のもと、各クラスで1年間行動を共にし、各種の行事や課題をいっしょにこなしていく仲間となる班分け。そのメンバーは、くじ引きで決められ、班は男女混合で約七人程度で構成されている。1年間共に活動しなければならないため、厄介者を嫌ったり、好きな人と同じ班になりたがったりと、行動班に対しては各々がさまざまな思いを抱いている。
クレジット
- 脚本
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海原 望
- 原作
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合同会社 DMM GAMES
- 監修
-
合同会社 DMM GAMES
- キャラクター原案
-
はましま 薫夫