あらすじ
はじめての家
ドラゴン族の落ちこぼれの若者レティは、種族としての務めを果たせず宝物を冒険者に盗まれたことを理由に、群れを追放されてしまう。ただ静かに暮らしたいと願うレティは、不動産業を営む酔狂な魔王のディアリア・メル・マルソンと共に旅を始め、フォール神殿や死者の館などの物件を紹介される。しかしどれもレティは得心がいかず、結局レティのために物件を新築することになった。「レティの館」と名付けられたその物件は、ディアリアの人脈もあってつつがなく完成する。そして、レティのための返済手段として、強大なモンスターを大量に配置し、ドラゴンを退治するためにやって来る冒険者を返り討ちにして、金品を奪う計画を立てる。レティの館は新規オープンのダンジョンとしては大成功となり、多くの冒険者が押し寄せ、ガイドブックにも載るようになる。しかし、自分に付けられた「炎竜王」の虚名に耐えられなくなったレティは、ストレスから家出してしまい、再びディアリアと共に新しい物件を探す旅に出るのだった。
たたかう家
レティはディアリア・メル・マルソンの紹介により、アルブス氷地で暮らすことになった。そこでの暮らしを数日で断念したレティだったが、たまたま氷原で見つけたフレースヴェルクという大鷲の卵が孵(かえ)り、レティはその雛に「ピーちゃん」という名前を付け、いっしょに暮らすことにした。そのためには先立つものが必要だと、レティはアルバイトを開始。魔導師に召喚された演技をしたり、魔法の実験台になったりと仕事をこなすうち、ひょんなことからレティは誘拐されてしまう。その行き先は闘技場に付属する地下牢で、レティはしばらくそこで闘技場のスターとして暮らすこととなる。だが、闘技場の経営者である貴族の死去によって事態は一変し、モンスターたちの殺処分が決定されてしまう。これを重く見たレティをはじめとするモンスターたちは、闘技場からの脱走を試みる。
防衛する家
再びディアリア・メル・マルソンと共に旅に出たレティは、ディアリアが撃退した悪漢の荷物の中から、人間の女の子を見つけた。本人の名乗りは仰々しくてレティには理解できなかったが、その少女ネルは人間の王女であった。ネルは家には戻りたくないと語り、ディアリアに新居を見繕ってもらいたいと言い出す。そんな中、ディアリアはレティのために、ネルの住む城の地下に広がる地下下水道ダンジョン「国営人工迷宮イミタシオン」を紹介する。当然、そんな場所にネルが住むわけにはいかないが、どたばたしているうちにレティは誤って王宮の中に出てしまう。あやうく人間の軍隊と一戦を交える羽目に陥りそうになるレティだったが、どうにか誤解を解き、ネルを家に帰すことに成功するのだった。
黒い竜の家
レティとディアリア・メル・マルソンの雑談中、話題は幼少期のこととなり、ディアリアの幼少期が気になったレティは彼の話を聞く。幼い頃のディアリアは知識欲の権化で、周囲となじめずに問題ばかりを起こしていた。そんな彼は半ば追い出される形で、大いなる知識を持つヨルムンガンドのもとへ送り届けられる。長き時を生き、多くの知識を蓄えたヨルムンガンドを尊敬したディアリアは、彼を師として仰ぎ、いっしょに暮らすようになる。そして時が過ぎ、ディアリアが大人になった頃、彼はたまたま町で買い物をしていたところ、偶然にも新たな魔王に任命されてしまう。ディアリアは興味がないため、すぐさま辞退しようとするものの、魔王城に連れていかれ、周囲の必死の頼みで渋々魔王に就任する。なんの目的も見いだせず、数百年のあいだ名ばかりの魔王をしていたそんなある日、ディアリアのもとに一匹の黒龍バーニーが現れる。家を欲するバーニーは傍若無人で、無理やりディアリアを巻き込んで、家探しの旅を始める。しかしバーニーと旅をするうちに彼と友情を育み、本ばかりを読んでいたディアリアは旅をすることで初めて世界の広さを肌で実感する。そしてバーニーとの旅が100年たった頃、家探しをするうちに、ディアリアは不動産業に興味を持ち、数々の資格を得て、本格的に不動産業を始める決意を固める。そしてディアリアは師匠から教わった魔術を使い、バーニーのために新たな島を創造して、彼のための住処であるバーニーの城を用意するのだった。バーニーは新しい住処を気に入り、二人は旅を終わらせ、それぞれの道を進んでいく。
壊れる家
レティはバーニーの話を聞いて以降、強いドラゴンになりたいと、より思うようになった。しかしレティは今日も変わらずヘッポコドラゴンで、強くなれる日が来るのか不安になる日々を送っていた。そんな中、ネルがレティたちを追いかけてきて再会。彼女の紹介で新たな不動産屋と会うこととなる。折しもディアリア・メル・マルソンは用事で一週間留守をすることとなり、レティはネルに連れられて吸血鬼の不動産屋ヴィクターと出会う。しかし彼が連れて行ったのは、今にも壊れそうなフンババの家や、増築しすぎて迷宮となっているペルメルの館など、どこも欠陥住宅ばかり。ヴィクターの言動がうさんくさく、ディアリアがいないのもあり、ネルはレティを守るため、自分がしっかりしなければならないと奮起する。そしてネルとレティはヴィクターに言われるまま、新たな物件である霊峰イーンシダエを目指すのだった。一方、金欠に陥ったエリックたち勇者パーティーであったが、彼らは相も変わらず盗賊まがいの行動を行っては、自業自得な末路をたどっていた。そんな中、魔王でさえ倒せる「賢者の剣」が霊峰に眠っているというウワサを聞き、彼らは剣を求めて霊峰を目指すことを決めるのだった。
個性のある家
ヴィクターは実は生まれついての吸血鬼の出来損ないで、同族にもなじめず、苦労して現在の不動産業を始めた過去があった。自分が苦労してきただけに、生まれつき何でもできるドラゴン族が嫌いで、仕事中に炎竜王のウワサを聞いたことで、炎竜王に欠陥住宅を押しつけて一泡吹かせてやろうともくろんでいた。霊峰イーンシダエでレティとネルをワナに掛け正体を表すものの、今までうさんくさい言動をしてきたため、あっさり流される。そこに勇者エリックたちが乱入してきて場は混乱するが、ネルが機転をきかして勇者を懐柔し、彼らは協力してヴィクターを捕縛する。さらにディアリア・メル・マルソンが戻ってきたため、エリックたちはあっさり撃退され、あらためてヴィクターの罪が問われることとなる。ヴィクターはそこで初めて炎竜王のウワサはすべてウソで、レティが自分と同じ「出来損ない」だと知る。そして己の罪の重さを理解し、自分の境遇に共感してくれたレティの友情に報いるべく、ヴィクターは自首を決意する。またディアリアによって、自分が売りつけてきた欠陥住宅は、非人間族にとってはあまり問題ではなく、見ようによっては個性的な家であると教えられる。これらの経験によってヴィクターは前向きに考えるようになり、今まで騙した被害者に対して謝罪と贖罪(しょくざい)の道を進むと決意するのだった。
商売する家
レティたちがかつて出会った人々は、新たな暮らしを始めていた。スティーブたち闘技場から脱走した魔物たちはサーカス団を結成し、人気を博していた。そんな中、彼らは新たな拠点であるフォーリー・サーカスのテントを建設し、かつて出会ったドラゴンに思いをはせる。一方、かつてレティが建てたレティの館は、残った魔物たちに譲渡され、多くの種族が暮らすシェアハウスとなっていた。まったく別々の種族が暮らすことで多くの問題が起きるものの、彼らは炎竜王への敬意で気持ちを一つにし、試行錯誤しながらシェアハウスでなかよく暮らしていた。それぞれが新たな道を歩み始めている頃、レティたちのもとにも新たな珍客が現れる。天より降り立ったのは一匹の黒龍で、バーニーの息子であるエミールだった。エミールは炎竜王と呼ばれるレティを敵視しつつ、独り立ちのために店を開くための物件を探していた。エミールを見てバーニーの姿を思い出したディアリア・メル・マルソンは、彼の物件探しを快く受け入れ、その手助けをする。そんな中、エミールは狩人に襲われるものの、すんでのところでレティに助けられ、彼を見直す。そして実は花屋をやりたかったという本心を明かし、彼は花屋の下積みをすべく、ディアリアに紹介されたアルクス農場で働くことを決めるのだった。
作品におけるパロデイ・もじり
本作『ドラゴン、家を買う。』にはさまざまなゲームのパロディが散りばめられている。本作に登場する勇者たちの行動は、テレビゲームのRPGにおける勇者たちの行動をギャグ的に描いているものとなっている。また本作に登場する狩人のヒューイと、その相棒のアルバートは、モンスターを狩猟するテレビゲーム『モンスターハンター』のパロディで、彼らの行動も同ゲームをギャグ描写したものとなっている。
メディアミックス
テレビアニメ
2021年4月から、本作『ドラゴン、家を買う。』のテレビニメ版『ドラゴン、家を買う。』がTOKYO MX、BS-11、アニマックス、インターネット配信ほかで放送された。制作はSIGNAL.MDが担当している。テレビアニメ版は、本作と同じくゲーム風なファンタジー世界を舞台としているだけでなく、元ネタとなったテレビゲームを意識したBGMなどが使われているのが特徴。また話の大筋は同じなものの、一部のエピソードの順番が入れ替えられている。キャストは、レティを堀江瞬、ディアリア・メル・マルソンを石川界人が演じている。また、ナレーションを森本レオが担当している。
登場人物・キャラクター
レティ
オスの赤竜。最強と名高いドラゴン族出身だが、なんの取り柄もなく、臆病な性格もあって父親から勘当される。見た目だけは立派なドラゴンだが、ドラゴン族なら誰でもできる飛行すらできず、翼はただの飾り扱い。しかもドラゴン族の体は希少な素材となるため、狩人や勇者からその身をよく狙われており、安心して暮らせる家を求めて旅を始める。エルフの建築士のウワサを聞き、ディアリア・メル・マルソンのもとを訪ね、彼と共に家探しを行う。ドラゴンの乳歯などを素材として持っているので無一文ではないが、家も定職もないために住所不定無職。ディアリアの計らいで建築費を返済できる仕組み込みでレティの館を建てるが、その際のいざこざが原因で「炎竜王」の異名が轟くこととなり、静かな生活を求めて家出。ディアリアもその事を予想していたようで、再び新たな家を求めて旅を始める。旅の中、ピーちゃんやヴィクター、エミールといった新たな面々と出会っていく。臆病な自分が嫌いで、強いドラゴンになりたいと考えているが、弱いにもかかわらずピンチの際には仲間を守るため、体を張るレティのことを周囲は信頼している。ネルからも当初は「ふぬドラ(腑抜けなドラゴン)」と言われて嫌われていたが、旅の中で友情を育み、その存在を認められている。ただネルの方が圧倒的に強いため、戦闘の際にお姫様に守られるドラゴン(自分)には疑問を抱いている。また、ネルに酷評されて以降、見返すために料理を勉強し始め、料理が特技となりつつある。
ディアリア・メル・マルソン (でぃありあめるまるそん)
不動産屋「エルフハウジング」を営むエルフ族の男性。涼しげな風貌をした銀髪の美青年で、落ち着いた性格をしている。一級建築士から宅建業免許まで多くの資格を網羅しており、設計から建築まですべてをこなすことができる。実は「魔王」その人。名刺にもその旨を書いているが、レティは「不動産業界の魔王」とカンちがいしている。レティの家探しにかいがいしく付き合うが、かつてバーニーという黒竜の家探しに付き合った経験があり、その旅を思い出しながらやっているため、ドラゴン族相手には若干甘くなる。長い月日を生きた大蛇のヨルムンガンドに師事していたため、多くの魔法を使いこなし、その戦闘能力は絶大。不埒な盗賊や勇者たちを一瞬で消し炭にしたりしている。魔王になったのは完全に偶然で、街に出て、たまたま引いたくじが魔王選定のもので、うっかり当たりを引いてしまったせい。魔王になったのは人生最大のハズレだと思っており、当初は辞退しようとしたが、関係各所から土下座でお願いされて渋々引き受ける。数百年は魔王としての仕事にやる気が起きず、引きこもっていたため、人間族からは一時期魔王は伝説の存在として扱われていた。その後、押し掛けてきたバーニーに無理やり家探しの旅に付き合わされるものの、旅の中で彼と友情を育み、不動産業に興味を持つ。また彼との旅を経て、魔王として自分にできることを考えた結果、不動産業を通じて非人間族が安心して暮らせる家を造る考えに至り、不動産業を始める。実は過去に一時期、情報をかく乱するため、「賢者」として勇者パーティーにまぎれ込んで活動していた。
ピーちゃん
寒冷型の大鷲「フレースヴェルグ」の雛。成体は白頭鷲に似た姿をしているが、雛であるために白い産毛に包まれ、丸っこい体型をしている。レティがアルブス氷地で卵を拾い、親元に返そうと思っていたが孵化し、刷り込みでレティを父親だと思うようになる。レティは一時は里親を探そうと思うものの、自分を父と慕う雛に対して次第に父性を感じるようになり、自分が育てる決意を固めた。それに伴ってレティが雛に「ピヨベルト・フェルピーア・ピ・アレピーヌ・ピヨデリカ」と名前を付け、ふだんは「ピーちゃん」と呼んでいる。寒冷地で育つ鳥であるため、ふだんはレティが保冷剤の入った袋に入れて運んでいる。雛は雪を食べて育つため、ピーちゃん用の雪は取り寄せてもらっている。レティのことを父として尊敬し、すごいドラゴンなんだろうと純真に思っている。危機を感じると強烈な鳴き声を上げ、相手を気絶させることができる。また、成長に伴って強烈な冷気を発生させて相手を凍らせることもできるようになったため、すでにレティよりも強くなっている。
ネル
人間族の王女。ピンクブロンドの髪を長く伸ばした少女で、ドレスを身にまとっている。性格は非常に強気でわがままで、父親にカップケーキを食べられたことに腹を立てて家出。その最中に盗賊にさらわれたところを、レティとディアリア・メル・マルソンに助けられる。家出中であったため、家探しをする彼らの旅に同行することを決める。ドラゴン族のくせに弱いレティを最初は「ふぬドラ」と呼んで辛らつに扱っていたが、危機に真っ先に助けてもらったり、勇者に追われているところを庇ってもらったりすることで、少しずつ心を許し始める。本名は恐ろしく長いが、レティたちには自分を愛称の「ネル」と呼ぶように言っている。国営人工迷宮イミタシオンを訪れた際に、紆余曲折の末、生まれ育ったエオス城に帰還。炎竜王に攻め込まれたとカンちがいした父である国王と防衛線を繰り広げる羽目となる。その後、父の誤解を解いて、仲直りする。大騒ぎとなったため、レティたちを逃がしたあとは、後始末のために王城にとどまった。レティたちにはお互いの居場所がわかる魔石の片割れを渡して再会を約束していたが、数日後、あっさり合流。母であるマルガレーテがレティへのお礼として、ヴィクターを紹介し、彼の不動産案内に付き合う。実は護身術を習っており、メリケンサックを武器とした格闘術を得意とする。レティよりふつうに強いため、自分がレティを守らねばならないと思っているが、その何げない善意がレティのプライドを傷つけている。
ヴィクター
不動産業を営む吸血鬼(ヴァンパイア)の男性。マントを羽織った巨大なコウモリのような姿をしている。ふだんはコウモリの姿だが、変身すると絶世の美男の姿になることもできるが、1日に3分しか変身はできない。口調は丁寧で物腰は穏やかながら、さり気なくマルチ商法を行っていたり、欠陥住宅を紹介したりとかなりうさんくさい人物。住宅の欠陥を指摘されても、口癖の「仕様でございます」で誤魔化している。また、吸血鬼にもかかわらず朝日を浴びても平気だったり、銀製品を愛用していたりと、本当に吸血鬼なのか疑われる怪しい行動が多い。ネルの家出の件で、娘がレティの世話になったため、王妃が彼の助けになればと考え、レティの家探しをヴィクターに頼んだ。実は生まれつき吸血鬼としては出来損ないの部類。吸血鬼の能力がほとんど使えないため、同族とも馴染めず苦労して生きてきた。そのため、生まれながらにしてすべてを持つドラゴン族を強烈に敵視し、「炎竜王」と噂されるレティに逆恨みして、欠陥住宅を買わせるつもりだった。霊峰イーンシダエで正体を現し、実力行使するもののネルの手助けによって失敗。罪が明らかになったことで、クドラクに処分されそうになるが、ヴィクターの境遇に共感したレティに助けられる。その後、お互いに誤解を解いたことでレティに謝罪して和解する。実は欠陥住宅を売りつけていたのは、出来損ないの自分と欠陥住宅を重ねていたからで、当初は正直に売ろうとしていた。しかし売れなかったため、いつしか強引に売りつけるようになったのが真相だった。レティとの触れ合いでそれを思い出し、ディアリア・メル・マルソンに自首する。その後はディアリアの計らいで猶予をもらい、騙した被害者に謝罪と贖罪(しょくざい)をしている。
バーニー
漆黒の鱗(うろこ)を持つオスの黒竜。種族はドラゴン族で、性格と柄が悪く、関西弁でしゃべる。口より先に手が出る乱暴者だが、自分より弱い者を守るという矜持(きょうじ)を持つ。「暗黒竜」の異名を持つ凶悪なドラゴンで、勇者たちを血祭に上げているが、これはならず者の勇者を倒して、その注意を自分に向けさせることで、弱い者を守るというバーニーなりの意図があってのこと。これが功を奏して手配書が出回るほど有名となるが、そのためにどこにも定住ができなくなってしまう。年齢を重ね、所帯を持ちたいと思うも定住ができないために結婚できずにいる。その状況を打破すべく魔王のディアリア・メル・マルソンのもとを訪れ、彼と共に家探しの旅を始めた。ディアリアとは対極的な性格で、出会った当初は実力行使のケンカもしていたが、彼に本を読んだだけで世界を知った気になっていると指摘し、彼が不動産業に興味を持つきっかけを作った。ディアリアと共に100年間、家探しのため世界を巡り続けて友情を育む。旅の果てにディアリアがヨルムンガルドから古代魔術の禁術を習得し、何もない海に新しい島を造り、そこにマイホームのバーニーの城を建てて、家探しの旅は終わりを迎える。その後は白竜のルーナを妻に迎え、子供たちと共に島で静かに暮らしている。
エミール
バーニーの息子。種族はドラゴン族で、バーニーと同じ漆黒の鱗を持つオスの黒竜だが、レティより頭一つ分小さい。性格は父親譲りで、無鉄砲な乱暴者。また口調も父親同様で、関西弁でしゃべる。父親から男なら一旗あげろと言われて巣立ちをするが、国中が「炎竜王」の噂で持ち切りだったため、炎竜王に成りすまして被害を拡大させた上で、自分が炎竜王を倒すという作戦を考える。父親の友であるディアリア・メル・マルソンのことを尊敬しており、彼にその作戦を姑息(こそく)と言われたことで考え直す。ディアリアたちに説得されたことで、店を経営して一旗あげることを決心し、店を開くための家探しをディアリアにお願いする。実はがさつに見えて女子力が高く、お菓子作りや裁縫が得意。また花が大好きで、ドライフラワーや花束を作る腕前はかなりのもの。花言葉にも詳しく、内心では花屋を開きたいと考えているが、ドラゴン族らしくないからと自制している。尊敬するディアリアに付きまとうレティのことを嫌っていたが、狩人に襲われている際に、怯えながらも自分を守るため現れた彼を見直すようになる。その後は成りすましたことを謝罪し、彼に「正義の炎竜王」なって欲しいと伝える。レティに説得されたあとは、自分の心に正直になり、花屋を開くことをディアリアに伝え、アルクス農場を紹介してもらって住み込みで働き始める。
グライアイ
鬼婆の三姉妹。眼帯をしている。険しい顔立ちをした老婆で、つねに三人一組で行動している。メデューサで知られるゴルゴン姉妹の妹にあたるが、メデューサが若々しい見た目ながら、なぜかグライアイは年老いた姿をしている。大昔から老婆の姿で、なぜそんな姿をしているのか知る者はいない。ディアリア・メル・マルソンは1000年前にも出会っているが、その時も今とまったく同じ姿をしていた。非常に腕のいい職人であるのと同時に優秀なバイヤーでもあり、「アブエラの岩屋」と呼ばれる洞窟で家具のショールームを開いている。下世話で偏屈な性格の持ち主で、商品の品質は高いが、癖のある商品が多い。
ヨルムンガルド
長い年月を生きた大蛇。長寿なエルフ族ですらも、いつから生きているのか知らない大蛇で、山脈すら見下ろすほどの巨体と千里を見通す瞳を持ち、その力を使って長い年月を経て知識を蓄えている。幼いながら知識を得ることに貪欲だったディアリア・メル・マルソンを弟子に取ったため、彼からは強く慕われている。長い年月を生きただけあって広い視野を持ち、ディアリアに世界の広さを説き、彼が魔王に選ばれた際にも就任することを勧めている。ディアリアが試行錯誤の末、ヨルムンガルドの頭の上にテント型の家を作り、長いあいだそこで暮らしていた。現在も家は残り続けており、たまにディアリアが訪れている。非常に温厚な性格で、自らは戦闘には自信がないと言っているが、その鱗は堅牢鉄壁で身じろぎするだけで地震を巻き起こし、軽く動いただけで、あらゆるものが粉砕されて地形すら変わるほどの破壊を巻き起こす。アーガット海近くの極北の地に長年暮らしてきたが、ディアリアが不動産業を始めたことで、引っ越しをすることに思い至り、新たな地を求めて旅立つ。しかし自分の力を失念していたため、奇跡的に人死には出なかったが、ヨルムンガルドが移動しただけで大陸各地で天災レベルの破壊が巻き起こり、多くの人々に迷惑がられたため最終的に意気消沈して元の場所に戻った。なお、この時ヨルムンガルドが移動した際にできた破壊跡は、長い月日を掛けて大運河となり、大陸を大いに繁栄させることとなる。
ヒューイ
狩人(ハンター)を生業とする人間族の男性。険しい目つきの青年で、お供のアルバートと共に獣や魔物を狩っている。ヒューイたち狩人は仕事として魔物を狩っているだけで、勇者たちと違い好戦的ではなく常識もある。家出したばかりのレティと遭遇し、彼を新種のドラゴンと思い込んで追い始める。そんな中、レティの館にたどり着き、館の前で入ろうか悩んでいると、魔物たちの「炎竜王」の話を聞いてしまう。魔物たちが誇張して炎竜王の話をしたのを鵜呑(うの)みにし、世界が滅亡するという危機感に陥り、義務感から炎竜王の話を四方八方に広めた。炎竜王を倒すため、日々準備をしている。実は強面(こわもて)の外見に似合わずお化けが苦手。また慎重に見えて、勘だけで行動したり、抜けたところも多い。
アルバート
ヒューイの相棒のケット・シー。二足歩行する猫で、語尾に「ニャ」を付けるしゃべり方をする。狩りに積極的だが、少し楽天的なところがあり、その行動を時おりヒューイにたしなめられることもある。ヒューイと共に家出したばかりのレティと遭遇し、彼を新種のドラゴンと思い込んで追い始める。ヒューイと同じく魔物たちの言葉を鵜呑みにし、レティが世界を滅ぼす炎竜王と勘違いし、レティの噂を積極的に流している。
エリック
勇者の男性。白銀の鎧(よろい)を身にまとった黒髪の青年で、左ほおに大きな傷がある。非常に自己中心的な性格で、勝手に勇者を名乗って己の行動を正当化して盗みをしたり、非人間族に襲い掛かったりしている。家出したばかりのレティと遭遇し、彼を一方的に邪悪な存在と認定して殺そうとしたが、たまたま通りかかったディアリア・メル・マルソンに殺される。ただし勇者は教会で復活できるため、その後もたびたび現れている。その行動はならず者扱いされており、ディアリアたちからは「イタイ人」「中二病患者」と言われている。宝箱を見たら開けずにはいられない習性で、何度ワナに引っかかっても、懲りずに宝箱を開けようとする。同じパーティーのブレットとは幼なじみの関係。ブレット曰(いわ)く、エリックの親は判事をやっており、実家はかなり裕福らしいが、働きたくないという理由で家を飛び出し勇者を始めた。
ブレット
勇者、エリックのパーティーに所属する弓使いの青年。暗めの赤い髪に、緑色のバンダナを巻いている。エリックとは同じ町出身で、彼とは幼なじみの関係。エリックの行動に対して突っ込むことが多いが、思考回路は似たり寄ったりで、彼の悪事に進んで加担している。虫が苦手で、その弱点をつかれてピーちゃんに靴を一度奪われている。
フィン
勇者、エリックのパーティーに所属する白魔道士の青年。金色の髪を長く伸ばし、白いローブを身にまとっている。パーティーの回復役を務めているが、無鉄砲なエリックがよく死亡するため、その回復や蘇生を行っている。ただエリックがケチって宿屋になかなか泊まらないため、魔力を回復できず、肝心なところで魔力不足となって回復魔法が使えなくなる。
ミア
勇者、エリックのパーティーに所属する盗賊の女性。金髪をストレートロングに伸ばしている。ロングスカートを身につけ、手袋をした姿をしている。機敏な動きに加えて情報に敏感で、パーティーの情報収集を担当している。
国王 (こくおう)
ネルの父親。人間族の王を務めている。髪を長く伸ばし、ヒゲを生やした中年の偉丈夫で、良識人だが娘を溺愛している。娘と同じく本名は恐ろしく長い。わがまま放題の娘によく振り回されており、娘のおやつをうっかり食べてはケンカになっている。娘の奔放さは妻の遺伝で、妻と娘の行動にいつも頭を悩ませている。国王である前に父親として娘を大事に思っており、ネルが家出の末に炎竜王にさらわれたと知った時には激高し、大軍を率いて戦った。のちにそれが誤解だと知った時にはレティに謝罪し、彼らをこっそり逃がしている。魔王であるディアリア・メル・マルソンとは知り合い同士で、非人間族も人と変わらず、善良な者や悪辣な者もいるという認識を持っている。
マルガレーテ
ネルの母親。ドレスを身にまとった妙齢の美女で、マイペースな性格をしている。ネルの自由奔放さは母親のマルガレーテ譲りだとされるが、当のネルでさえ頭を抱えるほどフリーダムな考えの持ち主。放浪癖があり、ふだんは「視察」を名目にエオス城から抜け出し、各地を気ままに旅している。獅子が我が子を谷につき落とす話を聞いてネルで実践し、殺人未遂事件を引き起こしたことを筆頭に、尋常ではないエピソードが多い。マルガレーテ自身は善意でやっているからなおさら性(たち)が悪く、基本的に人の話を聞かないこともあり、トラブルメーカー的な存在となっている。ネルからレティの話を聞き、レティにお礼をすべく、旅先で出会った不動産屋のヴィクターを紹介するが、そのせいでネルとレティはさらなる困難に巻き込まれることとなる。
ジョルジョ・サミュエル
死者の館に住む幽鬼の男性。半分顔がガイコツ化しており、髪を長く伸ばしている。恐ろしい外見ながら気のいい人物で、幽霊の館に新しい住人が住み着くことを歓迎し、レティが内見に来た際には部下たちと共に歓迎会を開いた。ただし、レティから見ると幽霊総出の肝試しパーティーのようで、結局は家を買うことはなかった。生前は死者の館のあった地の領主だったが、盟友に裏切られて領地を追放された。怒りのあまり家臣100人を道連れに自殺して、幽鬼になったという、ふだんの気のいい人物像とは真逆の恐ろしいエピソードを持つ。実は生前、盗賊に襲われていたところを、家探しをしていたディアリア・メル・マルソンとバーニーに助けられたことがある。
カサンドラ
闘技場で働くスピンクスの女性。黒い髪を長く伸ばした人間の美女の顔を持つ上半身に、下半身は獣の特徴を色濃くした姿をしている。豪華で派手な服装を身につけ、仲間の魔物たちからも恐れられている。自由奔放な性格で、闘技場にあるカサンドラの部屋は原型を留めないほど改造され、周囲からは「王妃の間」と呼ばれるほど異質な部屋となっている。また看守と結託して、闘技場の売り上げを横領したり、必要経費を水増して請求したりして、そのお金を好き勝手に使っている。戦闘では敵になぞなぞを出して戦うが、なぜか異様に相手の弱みに詳しく、実質的になぞなぞの体を成した弱みの暴露大会となっている。闘技場の閉鎖が決まった際には仲間の魔物たちと共に脱走し、彼らとフォーリー・サーカス団を結成して旅立った。
スティーブ
闘技場で働くオロバス。二足歩行する馬のような姿をしている。陽気な性格で、捕まったレティに闘技場の説明をして、彼が闘技場に馴染(なじ)むのに一役買った。闘技場で牢屋生活をしているが、看守たちと結託しているためかなり自由に過ごしており、売上金を横領して回転型の劇場を作ろうと目論んでいる。闘技場の閉鎖が決まった際には仲間の魔物たちと共に脱走し、彼らとフォーリー・サーカス団を結成して旅立った。その後、サーカス興行は大成功を収めるが、旅から旅の日々に面倒くささを感じ、空飛ぶサーカステントを提案。タルボに依頼してフォーリー・サーカスのテントを建築する。
看守 (かんしゅ)
闘技場で働く男性。闘技場で戦わせる魔物たちを見張る役目を務めている。しかし実態はかなり馴(な)れ合いの関係で、いっしょにカードゲームで遊んだり、魔物たちが快適に過ごせるように生活環境を整えたりしている。レティもピーちゃんが排水溝にはまったのを助けてもらうなど、世話になっている。実は魔物たちと結託して横領を繰り返しており、好き勝手にやっている。闘技場を経営する辺境伯が死んで世代交代した際には、闘技場の魔物たちに殺処分が決まったことをまっさきに伝え、彼らの逃亡を手伝った。また看守の何人かは辞表を提出したあと、食糧庫のモノをごっそり盗んで魔物たちと合流した。そのまま彼らとフォーリー・サーカス団を結成して旅立つ。サーカスでは彼らが魔物を手懐(てなず)けているという設定で興行しており、かなり好評を博している。
ナシム
税務相談員として働く魔人(ジン)の男性。小麦色の肌に筋骨隆々とした体を持つ。白いヒゲを長く伸ばし、ターバンを身につけている。「ランプの魔人」で有名な魔人族だが、ナシムの本体はティーポットで、これを使ってよくお茶を淹(い)れたりしている。非人間族の税金に関する相談を受け付けており、レティに納税の義務があることを教えに訪れる。職務に忠実なまじめな性格で、レティの確定申告を手伝っているが、その際に彼に「住所不定無職」という現実を突きつけた。
タルボ
ドワーフ族の男性。小柄ながら逞(たくま)しい体つきをしている。建築士を務めており、フォール神殿や国営人工迷宮イミタシオンを設計した。かなり独創的なセンスの持ち主で、ディアリア・メル・マルソンはタルボの設計を気に入っているが、同時に一般向けではないとも思っている。コンテストに参加したが、独創的過ぎるため落選した。しかし自分の設計には自信を持っており、時代が自分に追い付いていないだけと考えるなど、変に前向きなところがある。またプロ意識は高いが、それを変な風にこじらせ、防犯装置を自分の身で確かめたりしている。その行為から周囲からは変態と思われている節があり、同族のドワーフたちからも仲間はずれにされている。
クドラク
吸血鬼の長を務める男性。ヴィクターと違い、ふだんから人間の男性の姿をしている。人間としての姿は黒い髪を長く伸ばした中年の美形で、白いマントを羽織っている。非常にプライド高く、独自の美学の持ち主で吸血鬼の名を貶(おとし)める者を決して許さない。同族にすら滅多に姿を見せない処刑人のような存在で、罪を犯したヴィクターを引き取るため、レティたちの前に姿を現す。表向きは罪を犯したヴィクターを引き取る名目だが、本音は醜聞が広がる前にヴィクターを内々に処理するつもりで、そのことを正直にレティたちに話して交渉を図るが決裂した。ディアリア・メル・マルソンにハッカ油のスプレーを吹きかけられたことで悶絶し、そのあいだにレティやヴィクターたちに逃げられた。
リリス
非人間族の女性。美女の人間をベースに、大きな角と翼の生えた悪魔のような姿をしている。占いを生業としており、ディアリア・メル・マルソンが魔王に選ばれた現場に居合わせ、彼に興味を持つが、あっさり魔王の座を蹴ろうとしたディアリアに啞然(あぜん)とした。現在もディアリアとは交友があり、レティを連れてリリスの店を訪れている。ディアリアと会った当初はショートボブの髪型だったが、現在は髪を長く伸ばしている。
ゴドフリー
魔王庁の侍従職の長官を務める男性。種族は「オセ」と呼ばれる魔物で、二足歩行する豹のような姿をしている。新たな魔王に選ばれたディアリア・メル・マルソンに仕えることに喜びを感じているが、ディアリアが魔王に興味を持っていないため、無理やり彼を魔王城に連れ込んでお披露目(ひろめ)しようとした。しかし、ディアリアが興味本位で魔王城のセキュリティを起動したため、部下共々その被害に遭い、最終的に土下座してディアリアに魔王就任をお願いして渋々受け入れさせた。なんとかディアリアに魔王の仕事に興味を持ってもらいたいと考えており、さまざまなイベントを企画して彼の興味を引こうとしている。ただディアリアからの反応は冷ややかで、毎回彼にいいようにあしらわれている。
集団・組織
ドラゴン族 (どらごんぞく)
レティの出身種族。いわゆる西洋のドラゴンの一族で、強大な力を持った高貴な者として恐れられ、また崇敬されている存在。知能も高く文明水準も進んでいて、日頃の食糧は行商人から買い求めている。魔王であるディアリア・メル・マルソンの統治下に服しており、税金も納めているなど、高度な社会体制ができあがっている。
エルフ族 (えるふぞく)
耳が長いのが特徴の長寿な種族。10万年前までは地上で繁栄を極めていたが、長寿なだけに気が長い性格で、のんびりしていたらあっという間に他種族に追い抜かれてしまう。繁栄した他種族にどう接したらいいのかわからず、自分から世界樹に隠れ里を作って引きこもっている。
ドワーフ族 (どわーふぞく)
ずんぐりむっくりした小柄な体型の種族。種族柄、金属や宝石の加工に優れており、鍛冶師や建設士といった職人になる者が多い。世界的な名建築も、彼らが作ったものが多いが、貴重な素材に目がないため非常に強欲で、ドワーフ族に仕事を頼むためには大金が必要となる。ドラゴン族は黄金に目がない個体がいる上に、その体全部が非常に貴重な素材となるためにドワーフ族とは天敵同士で、ドラゴンが近くにいるだけでドワーフは好戦的となる。
場所
フォール神殿 (ふぉーるしんでん)
ディアリア・メル・マルソンが最初にレティに紹介した建売物件。見た目は荘厳で名前も「神殿」となっているが、実は宗教施設ではなく築27年のふつうのダンジョン。地上1階建て、地下は3階まであり、侵入した冒険者を生かして帰さないと噂されている。レティは自分も罠にかかってしまうという理由で、購入を見送った。
死者の館 (ししゃのやかた)
ディアリア・メル・マルソンがレティに紹介した物件の一つ。築200年以上が経過していて、家主で幽鬼(レイス)であるサミュエル卿をはじめとして多くのアンデッドが暮らしているが、別に居住者に対して危害を加える事はない。レティがお化けは苦手だという事で、購入を見送った。
レティの館 (れてぃのやかた)
レティが高台の上に建てた館。建材からこだわって造ったため、ドラゴンのような巨大な体を持つ種族でも問題なく暮らせる家で、人間の尺度で見ると全体的に大きな館となっている。また、勇者対策として強力な魔物が常駐しており、彼らが勇者を撃退して、その装備品を売ったお金の半分は彼らに渡し、残りの半分を家の建築費返済に当てている。魔物たちがドラゴン族のレティをボスとして扱っているため、次第に「炎竜王」という異名で呼ばれるようになり、それがさらに多くの勇者を招き寄せるという悪循環に陥る。当初は数人しかいなかった魔物も評判を聞きつけてどんどん増え、結果的には難攻不落のダンジョン「炎竜王の館」として有名になってしまう。その後、その状況に耐えられなくなったレティが家出し、家は正式に最初にいた三名の魔物にゆずられることとなる。館にいた魔物は住処を追われた魔物が多かったため、拾ってくれたレティには多大な恩義を感じており、レティが去ったあとも彼を崇めている。そのため、新たな家主となった魔物たちはレティの館を「仏血義理☆炎竜王ハウス」に改名し、残った魔物たちのシェアハウスとして運営している。多くの種族が存在するために失敗もあるが、魔物たちは試行錯誤しながらなかよく暮らしている。
アルブス氷地 (あるぶすひょうち)
吹雪と氷に包まれた雪原。土地代は限りなく安いので、レティは「イグルー」と呼ばれる氷の家を建て、ここに住む事になった。文明から隔絶されており、自分で狩りをしなければ生活が成り立たないため、食べ物は商人から買うものだという環境に慣れているレティは数日で音を上げた。
闘技場 (とうぎじょう)
とある貴族が所有している、モンスターの戦いを見世物にする競技場。付属施設として地下牢があり、ふだんはモンスター達はそこで暮らしている。牢と言っても鍵がかかっているわけでもなく、モンスター達はくつろいだ雰囲気で暮らしている。見世物の戦いも基本的に八百長で、危険性はない。
ヒースヒェン洞窟 (ひーすひぇんどうくつ)
ディアリア・メル・マルソンがネルに紹介した物件。入り口を見るとただの洞窟だが、内部は4LDKになっている。しかし、浴室がただの泉であるなど、人間の王女であるネルが暮らす事のできるような環境ではなかったため、商談は成立しなかった。
国営人工迷宮イミタシオン (こくえいじんこうめいきゅういみたしおん)
ディアリア・メル・マルソンがレティに紹介した物件の一つ。王都エオスの地下に広がる国営のダンジョン。築数百年がたっているが、ドワーフ族が造ったダンジョンであるために頑丈で、今なお健在。数世紀前の王が訓練用に造り出した人工迷宮で、迷宮内には職員が敵役に扮しており、彼らと戦うと戦闘訓練を積むことができる。なお、敵役には非人間族の魔物を雇い入れ、彼らも住み込みで働いている。また、雇われている者たちは国家公務員であるため、定休日には魔物たちはふつうにオフの姿で過ごしている。訓練用の迷宮として使われているが、その実態は人間たちの思い込みと偏見で造られた「なんちゃって迷宮」で、脇道の突き当たりにこれ見よがしに宝箱が置いてあったり、壊したらアイテムが出てくる樽や木箱があったりと、不自然極まりない造りをしている。迷宮は迷いやすい造りをしているうえに、変なギミックが存在するため、壁には乱雑に愚痴やヒントが落書きされており、利用者からの評判は悪い。しかし一方で、市民に一般開放される夏休みになると、娯楽用のアトラクションとしてかなり人気が高まる。
エオス城 (えおすじょう)
人間族の王都にある王城。ネルの実家でもある。国営人工迷宮イミタシオンとは隠し通路でつながっており、レティたちが迷い込んで、うっかりエオス城にたどり着いてしまう。国王がちょうど留守だったこともあり、帰って来た国王によって周囲は包囲され、レティたちは城で防衛戦をすることとなる。周囲は水堀で囲まれ、三重の城壁で守られており、防衛拠点としては非常に優秀な造りとなっている。また、そこかしこに矢狭間(やはざま)や石落としがあり、相手を攻撃することもできる。
魔王城 (まおうじょう)
魔王の居城。初代魔王が魔術を使って建築した難攻不落の城で、城の至る場所に古代魔術による防犯装置が組み込まれている。ディアリア・メル・マルソンが魔王に就任した際、魔王庁の魔物に無理やり連れてこられたが、抜け出して勝手に見学した。防犯装置を起動したことで、魔王庁の人間を阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄に陥れた。
バーニーの城 (ばーにーのしろ)
バーニーが住む城。ディアリア・メル・マルソンが、師匠のヨルムンガルドから伝授された古代魔術の禁術を使って作り出した「新しい島」に建てた城で、ほかに住人はいない。そのため暗黒竜の異名が轟き、勇者に目の敵にされるバーニーさえも安心して暮らせる地となっている。周囲の海には特殊なワナを設置しており、船でも島には近づくことさえできない。バーニーの城はドラゴン族が住むことを前提にしているため、非常に頑強な造りとなっている。ディアリアが不動産業として扱った記念すべき第一の物件。なお、新しい島を作る魔術は非常に消耗が激しく、また周囲の環境に多大な影響をもたらすため、ディアリアは二度はできない「禁じ手」のようなものと考えており、レティの家探しには使えないと判断している。
フンババの家 (ふんばばのいえ)
巨大な魔物、フンババの背中に建てられた家。フンババが大家で、家を貸し出している。家は非常に古く、壁がひび割れて壊れていたり、天井に穴が開いていたりと、かなりガタがきている。しかも大家が希少動物を家の中で放し飼いにしているため、つねに動物たちが壁や柱を傷つけている。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つで、レティたちはあまりのボロボロさに啞然として断った。ヴィクターが改心後、ディアリア・メル・マルソンがスライムの一家にフンババの家を勧める。スライムにとっては家の多少のダメージは問題ではなく、逆にひび割れを通路として便利に使ったりしている。また、フンババが時おり散歩する際に大きな振動が起きるが、これもスライムにとってはあまり問題ではなく、場所が定期的に変わることで勇者の脅威にもさらされず、安全快適な家となっている。
ペルメルの館 (ぺるめるのやかた)
いくつもの屋敷が融合したような巨大な館。後先考えず100年以上にわたって増改築した結果、階段の先が天井で塞がれていたり、扉の先が壁で塞がれていたりと、無茶苦茶な造りをしている。広い上に複雑な構造のため、館は難攻不落の迷宮と化しており、内部には道に迷った勇者の亡骸が散乱している。もともとは勇者対策で迷宮化していったが、生活空間のことを失念していたため、道端にトイレがあったり、屋根の上に風呂があったりする。しかも増改築しすぎた結果、建ぺい率をオーバーしてオーバー分を魔法で空に浮かせてカバーするという力技で建築している。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つで、まともに生活すらできない家だったため、レティは即座に断った。ヴィクターが改心後、ディアリア・メル・マルソンが幽鬼の一家にペルメルの館を勧める。元人間であるため、館のような建築物と相性がよく、幽霊にとっては壁はあまり意味はないため、変わった作りを面白がって住み着く。幽鬼の持つ超常現象効果によって館はバージョンアップし、さらに難攻不落な迷宮と化している。
霊峰イーンシダエ (れいほういーんだしえ)
霊峰と敬われる特殊な秘境。かつて賢者が作り出し、勇者に無双の力を与えた「賢者の剣」が眠るとも、魔王が巨大な力を得るために訪れるともいわれる山で、聖なる秘境として扱われている。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つ。霊験あらたかな山であるため住宅を建てることができず、山の中を繰り抜くという荒業で居住スペースを造っている。内部は勇者を撃退するためのワナだらけで、セキュリティレベルは非常に高い。実はディアリア・メル・マルソンが賢者として振る舞っていた時代に、当時世話になっていた勇者と共に作った勇者向けのアトラクション。その勇者は非人間族を標的にせず、ならず者の勇者をターゲットに金稼ぎをしていた変わり者で、ディアリアも彼の人となりを気に入り、賢者の剣を作って協力した。賢者の剣の噂をエサにして、ならず者の勇者をおびき寄せて装備や金を巻き上げるのを目的としており、変わり者の勇者はこれによって老後の資金を得ていたとのこと。深部に保管されている賢者の剣は圧倒的な力を持つが、作った本人であるディアリアにはいっさい効かない。ヴィクターの事件後、賢者の剣はディアリアが回収し、破壊している。
フラッド地下神殿 (ふらっどちかしんでん)
新築の地下神殿。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つ。古風な迷宮のような見た目をしているが、ヴィクターはこれに関しては本当に「仕様」で、新築と言い張っている。入ってすぐにボスルームとして使う巨大な部屋が存在する。ドラゴン族のレティでも動き回れるほど広い部屋だが、実は手抜き工事で雨が降ると内部も水浸しになる構造になっている。ヴィクターが改心後、ディアリア・メル・マルソンが水属性の種族、ヴォジャノーイにフラッド地下神殿を勧める。
カロル溶岩洞窟 (かろるようがんどうくつ)
火山にある洞窟。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つで、洞窟型の戸建て賃貸物件。洞窟の地下深くにいる炎の巨人、スルトが大家で、同時にガードマンも務めているため、侵入者はスルトが撃退するためセキュリティレベルは非常に高い。洞窟の内部はマグマによる熱気で満たされている上に、スルトが時おりくしゃみをすると噴火が起こり、マグマが至る所から吹き出す危険な場所となっている。そのためレティはすぐに根を上げて、却下した。ヴィクターが改心後、ディアリア・メル・マルソンが火属性の種族、鬼火にカロル溶岩洞窟を勧める。
シルワ寺院 (しるわじいん)
植物に飲み込まれた寺院。ヴィクターが取り扱っていた欠陥住宅の一つ。「ドリュアス」と呼ばれる植物に近い種族の暮らす森に存在し、その影響で植物の生命力が強く、大きく成長した木が至る所から生えてくるのが特徴。築3年の家ながら、このペースで植物が育っていけば、5年もすれば完全に森に還(かえ)ることが保障された問題物件となっている。また生える植物は危険なものも多く、侵入者対策にはなるが同時に住居人にも危険が及ぶことがある。レティが植物に襲われ、脱出する際にうっかり死にかけたため却下される。ヴィクターが改心後、ディアリア・メル・マルソンが植物性の種族、マンドラゴラにシルワ寺院を勧める。
フォーリー・サーカスのテント
闘技場から脱走した魔物たちが結成したサーカス団のテント。当初は各地を旅して興行をしていたが、毎回、荷造りと引っ越し作業をするのが面倒くさくなり、スティーブの発案で移動拠点として建設される。勇者対策に空を飛ぶという案が採用され、空飛ぶ魔法のテントといった形をしている。設計はスティーブがタルボに依頼したが、タルボは勝手に勇者用のワナをテントに設置した。
アルクス農場 (あるくすのうじょう)
ディアリア・メル・マルソンがエミールに紹介した物件。色とりどりの花が咲き誇る農場で、「フローラ」と呼ばれる妖精族の女性が農場主。住み込みの従業員を募集していたため、エミールは花や経営を学ぶべく、フローラに頼んで雇われる。平和な農場で景観が美しいが、実は農場主のフローラはかなりの実力者らしく、不埒(ふらち)な勇者が農場に押し掛けても、すぐさま撃退され花の肥料になるといわれている。
その他キーワード
魔王 (まおう)
非人間族を統べる者。しかし現在は人間との和平条約が結ばれ、魔物たちの行政も発展しているため、魔王は名ばかりの役職となっており、ほとんどがイベントの参加やポスターに使われる程度の仕事しかない。魔王の選定方法は初代魔王が残した「選ぶんですⅧ」という魔具を使って行い、この魔具によって適性のある魔力を持つ者が選ばれる。ディアリア・メル・マルソンもこの魔具によって三代目魔王に選ばれるが、形骸化した魔王の役職に興味がなく、すぐ辞退しようとした。しかし魔王の役職は伝統から辞退する方法はなく、魔王庁の人間に最低限の書類を片付けるだけでいいからと土下座されたため、ディアリアは渋々魔王に就任する。
勇者 (ゆうしゃ)
非人間族と戦う者の通称。現代ではすでに人間族と非人間族は友好関係を築いているため、前時代的にいつまでも魔物たちに偏見を持ち好戦的な勇者は、ならず者と同等の存在として扱われている。また、ただ単に好戦的なだけではなく、時には盗みや強盗まがいのことまで行っているため、人間族からも迷惑がられている。一応、勇者の互助組織として「勇者ギルド」なるものも存在するが、基本的に似た者同士しか集まらないため、ならず者の集団扱いしかされていない。基本的に自分が正しいと思っている自己中心的な集団で、死んでも教会で復活できるため、ちょっとやそっとの罰では全然反省しない。人間族の国では勇者は死んでも反省しないため、罰の内容がどんどん過激化し、非人間族が思わずドンビキするような凄惨な刑罰が採用されている。
炎竜王 (えんりゅうおう)
レティの通称。レティの館に住む魔物たちが言い出したのがきっかけで、それを偶然、狩人のヒューイが聞いて危機感を覚えた彼が周囲に広め、レティの異名となる。噂が独り歩きするうちにどんどん尾びれが付き、レティたちの行動が脚色されたり、ほかの人物の行動がレティのせいになったりと、国すら動き出す事態となっている。また、最近では天変地異ですら炎竜王のせいだとされ、レティはそれらの事実を知るたびに心を痛めている。ヴィクターも和解後は炎竜王の噂の真実を知ったが、冗談で「炎竜王の子分」と名乗ったところ、それが真実と見なされ「炎竜王が不動産業界に進出」という噂が広がっている。
クレジット
- 原作
-
多貫 カヲ
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