あらすじ
第1巻
関東大震災や世界恐慌による社会不安から、殺人などの犯罪や人身売買が行われる昭和初期の日本。震災で両親に先立たれ、一人で必死に生きていた青年、羽田九二郎は、職を失い、下宿先も追い出されてしまったため、仕方なく兵隊を志願した。九二郎は徴兵検査で暴力沙汰を起こすものの採用を勝ち取り、第11帝国陸軍技術研究所に配属される事になった。そして九二郎は配属早々、流行りの新興宗教団体「をこのこ様」への潜入調査任務を命じられる。巧みな話術で「をこのこ様」の屋敷に潜入した九二郎は、そこで不思議な声に導かれ、大きなフラスコに入った少女、月子と出会う。だがそこで九二郎は後ろから殴られて意識を失い、牢屋に入れられてしまう。そんな中、彼は再び不思議な声を聞く。その声は月子のものであり、彼女は九二郎が脱出するのに協力するので、自分も連れて行ってほしいと申し出る。こうして九二郎は月子と共に、「をこのこ様」からの脱出を果たすのだった。
第2巻
ある朝、羽田九二郎と月子、火ノ島薫彦、阿曇さかえら四人のもとに、青鷺から新たな任務が言い渡される。その任務とは、地下仏殿で客が次々と体調不良を訴え、そのまま亡くなってしまうという事件の解明であった。この事件は、3年前に火ノ島と阿曇が対応した、地下鉄の客が次々と霊力を吸われて変死するという事件によく似ていた。二つの事件の関連性が高いと考えた四人は、地下仏殿へと侵入する。そこに3年前に火ノ島が倒したはずの蓜島正嗣が現れ、彼は月子のただならぬ霊力の強さを感じ取って月子をさらって行ってしまう。そこで月子には一定以上の能力を引き出せないよう、守りの封印が施された痕がある事を知る蓜島は、再び九二郎と火ノ島の前に姿を現した。そしてなぜか九二郎に封印の解き方を教えるよう迫るが、火ノ島に倒されてしまうのだった。一方で月子は自分に施された封印を知り、羽田九太郎の真意を知るために、一人でかつて彼と研究をしていた志堂寺のもとへ向かうのだった。
登場人物・キャラクター
羽田 九二郎 (はねだ きゅうじろう)
関東大震災で両親を失って以降、身寄りもなく生きてきた男性。年齢は20歳。職を失い、下宿も追い出されたため軍人になり、第11帝国陸軍技術研究所の洩矢のもとに配属された。相手が誰であろうと、弱い者いじめを見逃せない正義感の強い性格で、腕っぷしも強い。さらに頭の回転も速く、軍人が嫌われがちなこの世の中で、軍服を着ていながら、巧みな話術により周囲から高評価を得ている。 かつて掃除夫をしていた事もあり、掃除や洗濯、料理など家事全般が得意で、世話焼きなところがある。月子と出会った事で特殊能力が目覚め始め、ピンチに陥ると、突発的に人並み外れた身体能力を発揮するが、うまく使いこなせていない。また自分が、月子を生み出した羽田九太郎の孫という事を、青鷺から知らされるまで知らなかった。
月子 (つきこ)
第11帝国陸軍技術研究所の呪物として保護されていた少女。1年前に新興宗教団体「をこのこ様」にさらわれ、捕らわれていた。羽田九二郎によって救い出され、青鷺の指示により、現在は人として生活を送っている。いつも着物姿で、落ち着いた雰囲気を醸し出しているが、自分の事を「僕」と呼び、他人に対しては命令口調でしゃべる。 実は羽田九太郎の研究によって生まれた、唯一の成功例である人造人間で、この世で最も貴重とされる予知能力を持っている。ほかにも、人や物に触れると心や記憶を読む事ができたり、精神感応も扱える。月子自身も、自分が人造人間である事を認識している。生みの親である九太郎の事を父親のように慕っていたため、姿が似ている九二郎に対して風当たりが強い。
青鷺 (あおさぎ)
第11帝国陸軍技術研究所のメンバーで、洩矢の側近を務める男性。耳が尖っていて歯が鋭いという特徴的な外見をしており、普通の人間ではない。つねに笑顔を浮かべていて、後ろにいたはずなのに突然いなくなるなど、感情や行動が読めないところがある。だが、何かと周囲から狙われる月子を、しっかりと守ってあげるように羽田九二郎に優しく促すなど、悪人ではない様子。
洩矢 (もりや)
第11帝国陸軍技術研究所のリーダーを務める男性。階級が大佐と高いにもかかわらず、誰に対しても軽いノリでフランクに接する。正体を明かさないよう、いつも顔を隠して生活している。羽田九二郎に至っては声を聞いた事しかなく、その容姿も知らない。外にも自由に出る事ができず、たまに青鷺に「外で皆と遊びたい」とねだったりもしているらしい。
火ノ島 薫彦 (ひのしま くにひこ)
第11帝国陸軍技術研究所のメンバーの男性。札を使って土地の神々の力を借りる術を扱う家系に生まれた。火ノ島薫彦自身もその力を扱う事が可能で、主に障壁を作って防御を固めたり、敵を閉じ込めたりといった役割を果たしている。語尾に「じゃ」と付ける年寄りじみた口調でしゃべり、頑固な性格な事から本心を人に明かしたがらない。 実家は金持ちで、阿曇さかえからは「世間知らずのお坊ちゃん」とも評されている。庶民なのに軍人に採用された羽田九二郎に対して「チンピラ」と突っかかる。しかし、彼の料理の腕前だけは認めており、何だかんだで仲もいい。
阿曇 さかえ (あずみ さかえ)
第11帝国陸軍技術研究所のメンバーの人物。見た目は女性で胸もあるが、下半身は男性という姿をしている。水にまつわる神々の血を引いているため泳ぎが得意で、肺呼吸とエラ呼吸を任意に切り替える事ができる。さらに子孫を残すため性別を切り替える事も可能。いつもは女性の姿をしており、阿曇さかえは自身が両性具有であると主張している。 姉御肌で、場の空気をよく読み、周囲の変化も敏感に感じ取って仲間のフォローを欠かさない。ちなみに料理は苦手で、羽田九二郎からは料理禁止令が出されている。
羽田 九太郎 (はねだ きゅうたろう)
人造人間の月子の生みの親である男性。関東大震災で命を落とした。かつて第11帝国陸軍技術研究所に所属して人造人間の研究をしており、身寄りのない子供や特殊能力者を集め、予言装置を完成させようとしていた。当時は研究のためなら犠牲も顧みない冷酷な人物だったが、月子が生まれて以降は、徐々に彼女の幸せを願うようになっていった。 青鷺の情報だと羽田九二郎の祖父らしい。
志堂寺 (しどうじ)
かつて第11帝国陸軍技術研究所に所属していた男性。羽田九太郎と共に人造人間の研究をしていた。関東大震災において亡くなったとされていたが、研究所にいた実験体の子供、北斗に助けられ生き長らえていた。特殊能力者をはじめとする、特殊な生い立ちの人々が迫害される現在の社会を変えようと、人知れず活動している。 北斗に対しては研究所時代からよく気にかけていたため、「先生」と呼ばれて慕われている。
北斗 (ほくと)
かつて第11帝国陸軍技術研究所に引き取られていた孤児の少年。「オサキ」という狐の憑きものをあやつる事ができる特殊能力を持つ。研究所にいた時、志堂寺と仲がよく、面倒を見てもらっていた事から、彼を「先生」と呼んで慕っている。過去に羽田九太郎の実験によって姉を亡くしており、現在は志堂寺と共に、特殊能力者が迫害されない社会を目指して活動している。
蓜島 正嗣 (はいじま まさつぐ)
火ノ島薫彦の一族の縁者である男性。かつては火ノ島と同じように、札を使って土地の神々の力を借りる術を扱えた。3年前の地下鉄で人々から霊力を吸い取り、次々に変死させた事件の主犯者で、当時火ノ島薫彦に倒されたはずだった。だが、倒される寸前で霊力を喰らう生物に進化する事に成功し、地下仏殿で再び新たな力を得ようと、人知れず動いていた。
集団・組織
第11帝国陸軍技術研究所 (だいじゅういちていこくりくぐんぎじゅつけんきゅうじょ)
呪物の軍事的利用のために創設された研究所。かつて羽田九太郎と志道寺が所属していた。超常現象から超能力、妖怪、悪魔、人造人間を利用とした兵器の開発を行っており、北斗もここで実験体として生活していた。関東大震災によって研究所は崩落したため、その後は呪物の保護を目的として動いていた。だが、1年ぐらい前にいくつかの重要な呪物が盗まれてしまったため、それらを回収する事が目的で活動し始める。 現在では洩矢を筆頭とした青鷺や羽田九二郎、火ノ島薫彦、阿曇さかえが所属している。
をこのこ様 (をこのこさま)
「物探しや行方不明まで何でもよく当たる」と有名となっている宗教団体。をこのこ様とは男の子供の事を指し、少年が予言していると、町で噂されていた。だが、実際にはその予言も第11帝国陸軍技術研究所から盗まれた呪物の月子を利用し、預言札を作っていた。
その他キーワード
呪物 (じゅぶつ)
神社のご神体や怨霊が宿る巨石や井戸、刀など、自然や霊的な力が込められた物。火ノ島薫彦の扱う札や人工的に作られた人造人間の月子などがそう呼ばれている。日本は昔からこれからを使用し、天災や他国の侵略から土地を守ってきたといわれている。
人造人間 (ほむんくるす)
羽田九太郎が第11帝国陸軍技術研究所で作った人型の呪物。人為的に特殊能力を持たせるため、人間の精液をフラスコに入れて40日間密封し、人の形になったところで人間の血を与える事で製造する。さらに40週間保存する事で正式に誕生する事となり、こうして生まれたものは、生まれながらあらゆる知識や能力を宿しているといわれる。 唯一生き残った成功例が月子だが、関東大震災によってこの研究結果も失われた。
特殊能力 (とくしゅのうりょく)
限られた人間にのみ与えられた人並み外れた能力。先天的に獲得するほか、鍛錬によって身につける事もできる。火ノ島薫彦や阿曇さかえのように、先祖代々の血によって神々の力を借りる力、北斗のように、「オサキ」という狐の憑きものをあやつる力など、その効果は人によってさまざま。羽田九二郎が突発的に発揮する、極端に高い身体能力も特殊能力の一つである。 特殊能力を持つ者は少ないため、偏見の目で見られる事が多く、幼い時に捨てられてしまったり、迫害を受ける場合がほとんど。
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